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連載
さわこさんと、ペット その2
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
目下の私の状態です。
ジャッケの口を切り取ろうとしておりましたところ、背後に古代怪獣族のティラノが……
……なんでしょう……私の脳裏には、映画館のスクリーン一杯に
『完』
の文字が広がっている光景が浮かんでおりました。
同時に、今までの出来事……それも楽しかったことばかりがスライド写真のように流れておりました。
これが、いわゆる走馬灯というやつなのでしょうか……
その時でした。
「……あ、あれ?」
私はあることに気が付きました。
私の目の前に顔を突きつけていますティラノなのですが……すでに何か食べているようです。
口を微妙に上下させていたのでございます。
私は、そんなティラノに向かって両手を伸ばしました。
「あ、あの……ティラノさん? わ、わた、わたくしはですね、その……とても痩せていますし、そんなに美味しくはございませんといいますかですね……と、とにかく話し合いましょう。話せばわかりますから」
しどろもどろになりながら、そんな言葉をティラノに向かって一生懸命かけていきました。
もうですね、何かしないとあの口の中の生き物のように私も食べられてしまうという恐怖観念に突き動かされて、必死になっていた次第でございます。
その時です。
私の目の前で、ティラノの口が大きく開いたのでございます。
あぁ……私、食べられてしまうのですね……
そんな事を考えた私。
頭の中を走馬灯が急ピッチで流れております。
「……へ?」
ですが……その口の中に視線を移した私は、思わず目が点になってしまいました。
ティラノの口の中に、一匹の猫のような生き物がいたのでございます。
その猫のような生き物は、某日曜夕方のアニメに登場する白猫が果物の中から出現いたしまして、その果物の上半分を掲げている、あのポーズとほぼ同じポーズをしております。
唯一違いますのは、あの白猫とは違い、楽しげにお尻を左右に振っていないことでしょうか……
その顔に必死の形相を浮かべながら、ティラノの口を持ち上げているその猫のような生き物。
ティラノはティラノで、その生き物を再び口の中に納めてしまおうとしているのでしょう、口が徐々に閉じ始めました。
猫のような生き物は、必死の形相で体を上下に伸ばしてティラノの口が閉じないように頑張っています。
ここで、私はハッと我に返りました。
「ば、バテアさん! リンシンさん! みなさん!」
振り返り、大声をあげた私です。
皆さん、魔法効果を付与されている耳栓をなさっておいでですので、私の声は聞こえておりません。
一心不乱に、ジャッケの口を切り取っておられます。
今、私の前にいますティラノが、先日出くわしたティラノ並に巨大でしたら、皆様もすでにお気づきになられていたと思うのですが、このティラノはあのティラノの半分ほどの大きさしかございません。
そのため、地響きのような足音も聞こえてこなかったのだと思われます。
気配を消すのも上手なのかもしれません。私、その接近にまったく気が付きませんでしたし、そもそも警戒魔法を展開なさっているバテアさんが全く気付いておられないというのがおかしいですもの。
ですが……今の私には、そのことを冷静に判断している猶予は残されておりません。
再び、皆さんに向かって声を張り上げようといたしました。
すると、
「ちょ!? さわこ!」
私に向かって、ただ一人振り向いてくださったバテアさんの口が、そう動いた気がいたしました。
すると、バテアさんは、川に向けていた両手を私の方……いえ、私の後方にいるティラノへ向けられたのでございます。
「アタシのさわこに、何してんのよ!」
そんな感じに、バテアさんの口が動いた気がいたしました。
次の瞬間……バテアさんの両手の前に巨大な魔法陣が展開したかと思いますと、その中からすさまじい大きさの光の球が打ち出されたのでございます。
その光の球は、私の真横をかすめまして、そのままティラノの顔面にぶち当たっていったのでございます。
ぐぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
私達の周囲に、ティラノの咆哮が響き渡りました。
その音は、周囲一帯へと響きわたっていきます。
この咆哮で、リンシンさん達もようやくこのティラノに気が付いたようでございます。
手に手に武器をお持ちになって私に向かって駆け寄ってくださっています。
ですが、
そんな私の後方でが、バテアさんの光の弾の直撃を受けたティラノが、森に向かって駆け込んでいく姿があったのです。
どうやら、バテアさんによります強大な魔法攻撃を受けて逃げ出したようでございます。
「た……助かった……」
私は、心の底から安堵のため息を漏らしながら、その場にへたり込んでしましました。
体中が脱力しておりまして、このまま倒れこんでしまいそうです。
そんな私の視線の先に、1匹の猫のような生き物の姿がございました。
「あれ、この猫さんって……」
そうです……間違いございません。
先ほど、ティラノの口の中で食べられまいと必死に頑張っていた、あの猫さんでございます。
おそらく、先ほどバテアさんの光の弾の直撃を受けたティラノが、その衝撃で吐き出してしまったのでしょう。
◇◇
その後、私は、駆け寄ってこられましたバテアさんやリンシンさん、ジューイさん達冒険者の皆様に囲まれまして、無事を確認していただきました。
私は、笑顔で
「はい、大丈夫です、ありがとうございます」
そう繰り返しておりました。
バテアさんによりますと、
「まさかあんな小型の古代怪獣族が忍び寄って来てたなんて……迂闊だったわ」
とのことでして……やはり、あの古代怪獣族はティラノとは別の、小型の肉食古代怪獣族だったようでございます。
今後は、バテアさんが警戒魔法の精度を上げられるとのことでしたので、このような未知との遭遇は二度と起きないことと思います。
そんな中、私はあの猫のような生き物を抱き上げて介抱いたしました。
おそらくこの猫さんは、自分が食べられまいとして必死だったんだと思います。
その体には、あの小型古代怪獣族の唾液がべっとりとまとわりついておりまして、は牙でつけられたと思われます傷が無数にございました。
その体を川で綺麗に洗い、傷をバテアさんの治癒魔法で治して頂きました。
思わぬ遭遇があったため、狩りをここで切り上げた私達は、ここまでの間に狩ることが出来たジャッケを魔法袋に詰めてから帰路につきました。
私は、列の真ん中に位置させていただきまして、皆様に守られながら帰宅していった次第でございます。
そんな私は、あの猫さんを抱いておりました。
◇◇
猫さんは、憔悴こそしておりましたけれども、命に別状はございませんでした。
「へぇ……珍しいわね。この子ってば牙猫(サーベルキャット)よ」
そう言いながら、バテアさんは、私の腕の中で眠り続けている猫さんの口の端を持ち上げられました。
バテアさんのお言葉をお聞きして、改めて見てみますと……確かに、その犬歯が他の歯よりも長くなっている気がいたします。
「大人になるとね、この牙が顎の下あたりまで伸びていくのよ」
「へぇ、そうなんですね」
私は、バテアさんのお言葉をお聞きしながら、その牙をマジマジと見つめておりました。
ちなみに、この牙猫さんも、古代怪獣族なのだそうです。
正確には、古代怪獣族の進化種とのことです。
「あの小型の肉食古代怪獣族ってば、自分の気配を消すのが上手かったからねぇ。そのせいで、この牙猫も不意を突かれて食べられちゃったのかもね」
バテアさんは、そう言いながら牙猫さんを見つめておられました。
牙が短いですので、この牙猫さんは子供のようですね。
ひょっとしたらこの牙猫さんも、ジャッケを狩りに川へやってきていたのかもしれませんね。
いまだに眠っている牙猫さん。
そんな牙猫さんを見ていますと、私まで少し睡魔に襲われてしまいました。
何しろ、私自身も命の危機にさらされまして、走馬灯まで見てしまったわけですし、思った以上に精神的に疲弊しているのだと思います。
そこで、私は少しベッドで休ませていただくことにいたしました。
牙猫さんも目覚める気配がございませんので、一緒に眠ることにいたしました。
ーつづく
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