異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、ジャッケ その1

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イラスト:NOGI先生

 グルメシュランのおかげで来店なさるお客様が大変増えた居酒屋さわこさんでございます。

 以前は週末のみ、バテアさんの魔法道具のお店のスペースをお借りしていたのですが、最近はほぼ毎日そのスペースをお借りしてお店を営業させていただいている次第でございます。

 ……なんともうしますか……

 私が元いた世界で居酒屋酒話を営業しておりました頃には、こんなにお客様がお見えになられることはほとんどございませんでした。

 それが、この異世界にやってまいりまして、心機一転居酒屋さわこさんを開店いたしまして一生懸命頑張って参りました結果、こうしてお客様がたくさんいらしていただけるお店にすることが出来た次第でございます。
 これは、もちろん私一人の力ではございません。
 バテアさんやリンシンさん、アミリアさんとエミリアの姉妹や、みはるや和音、ワノンさん、ジュチさん達中級酒場組合の皆様といった多くの皆様のお力添えがあったからこそでございます。

 とは申しましても、飲食店の営業は水物とも申します。
 少しでも気をゆるめたり、手を抜いたりいたしますと、あっという間にお客様が離れてしまいかねません。

「……気を引き締めて、今日も頑張ってまいりましょう」
 朝、厨房へ移動した私は、神棚に向かって手を合わせてから大きく頷きました。
 
 朝はまず、さわこの森で働いてくださっています皆様と、リンシンさんと一緒に狩りに向かわれます居酒屋さわこさんと契約してくださっておられます冒険者の皆様の朝食作りから始まります。

 今朝の献立は、

 西京焼き
 ロールキャベツのお野菜添え
 出汁巻き卵焼き―ほうれん草加え―
 けんちん汁
 浅漬けと辛子和え
 栗ご飯

 毎朝、一汁三菜にお漬物を少々お出しすることを心がけております。
 加えて、飲み物といたしましてほうじ茶を準備いたしております。
 
 飲み物に関しましてはドルーさんなどが、
「のうさわこよ、ちょっとでいいから、いかんか? な?」
 そう言って、お酒を所望なさることが多いのですが、これはきっぱりお断りさせていただいております。

 これからお仕事に向かわれる方にお酒を提供させていただきまして、もし、万が一ということがございましたら、私といたしてもいたたまれませんので……

 いつもお寝坊だったバテアさんなのですが、みなさんに朝食をお配りするのをお手伝い願うようになってからというもの、かなり早く起きてくださるようになりました。
「わさこ~おあよ~」
 相変わらず、寝ぼけておられる際には私のことを「さわこ」ではなく「わさこ」とお呼びになられるのもすっかりお馴染みといいますか慣れてしまった感じでございますが……
「バテアさん、おはようございます……とりあえす、一度寝室に戻って服を着てくださいね」
 ……はい、毎度毎度素っ裸で降りてこられるのだけは、どうにも慣れないといいますか……

 バテアさんと私は一緒のベッドで寝ておりまして、寝始めにはいつも寝間着を身につけていらっしゃるバテアさんなのですが、朝になるといつも素っ裸になっておられるんですよね……
 時に寝ぼけて、寝ている私に抱きついてこられることもあるのですが、そういうときに限って私は顔にスイカを押しつけられたり、ビーチボールを押しつけられたり……そんな悪夢を見る次第でございます。

 ……バテアさんのどの箇所が私の顔に押しつけられていたかは、ご想像にお任せいたします……
 
 バテアさんがようやく普段着に着替えて降りてこられるのと同時に、リンシンさんも一緒に降りてこられます。

 最近は、ラニィさんがお泊まりになることも多くなっております。
 ラニィさんにも、朝の食事の配膳などをお手伝いしていただいているのですが、さわこの森でのラニィさん達元上級酒場組合の皆様は、1部屋に複数名づつ暮らす共同生活を行われておられます。
 ラニィさんは、みなさんより少し早く起きてこちらに来て頂かないといけないわけですが、そうしますと一緒の部屋で眠っていられます皆様が起きてしまうことがしばしばあったそうなのです。
 そのため、私達と一緒に寝るようになったラニィさんなのでございます。

 予備の布団が無いため、リンシンさんのお布団で一緒に寝て頂いているのですが、毎朝寝ぼけたリンシンさんに鯖折りよろしく猛烈に抱きしめられた格好になっているラニィさん……そのため、
「新しいお布団を準備いたしますよ」
 そう申し上げているのですが、
「いえいえ、お邪魔させていただいているのですもの、これぐらいなんともございませんわ」
 ラニィさんは、腰をさすりながらそう言われるばかりでございまして……
 リンシンさんも、
「ラニィ、ごめんね……大丈夫?」
 毎朝心配そうにそう声をかけているのですが、
「いえいえ、お気になさらないでくださいまし、リンシン様」
 ラニィさんは笑顔でそう言っておいででございます。

 当事者のラニィさんが大丈夫と言われておられますのであれですけど……また折りを見て相談させて頂こうかな、と、バテアさんともお話させて頂いている次第でございます。

◇◇

 配膳の準備が整いまして、少し休憩しておりますと、バテアさんの転移ドアをくぐってさわこの森で働かれている皆様がやってまいりました。
「おはよーさわこー!」
 その中には、私の同級生で親友の和音の姿もございます。

 この世界で酒造りをなさっておられますワノンさんの酒蔵に就職した和音ですが、元々酒造りに人生の全てを捧げていたような彼女にとって、ワノンさんの酒蔵はまさに天職だったようでございまして、毎日生き生きとした笑顔で朝食にやってきております。

 ちなみに、今朝和音が身につけているシャツには「月見で一杯」と手書きされていまして、その後に続いておられますワノンさんも同じシャツを着ておられます。
 なんといいますか、ここまで息がぴったりなご様子を拝見しておりますと、私までなんだか嬉しくなってきてしまいます。

「和音おはよう。今日も頑張ってね」
「まっかせてー!頑張るよー」
 私から栗ご飯のお茶碗を受け取った和音は元気な笑顔で答えてくれました。

 その後方に、当然のように近所のツカーサさんが並んでおられるのも、すでに恒例となっております、はい。

 ほどなくして、皆様が席につかれたところで、私達も自分の分をトレーにのせてカウンター席へと移動していきます。

 そんな中、ジューイさんがおもむろにこちらを振り向かれました。

「ジュ、バテア、そういえば北の川にジャッケが出たジュ」
「うへぇ……もうそんな時期なのねぇ」
「ジャッケ……鮭ではないのですか?」
 バテアさんさんとジューイさんの言葉に、私は首をかしげました。
「あぁ、さわこの世界では鮭って言うんだったわね」
 バテアさんさんはそう言いながら頷いておられます。

 鮭は、皆様の朝食としてお出しするために、私の世界で1匹丸々購入していますので、バテアさんもその形状はよくご存じです。
 そんなバテアさんの口ぶりですと、どうやらそのジャッケという生き物は、鮭に似ているようですね。

 ……と、いうことは、鮭の代わりとして使用出来るのではないでしょうか?

「あ~……どうなんだろ……食べる以前に、駆除してるからねぇ」
「駆除するのですか?」

 はて?……不思議なお話ですね……
 私の世界の鮭と言えば、産卵のために川を遡上してくるのが風物詩といいますか、別に駆除する必要性は感じないといいますか……

「あいつらねぇ、うるさいのよ……それにやっかいな奴らを呼び寄せるしね。そのままにしてはおけないんだわ」
「うるさい……ですか?」
 私は、バテアさんのお言葉をお聞きしながら、さらに首をひねった次第でございまず。

ーつづく
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