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連載
さわこさんと、グルメシュラン その3
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
グルメシュランに居酒屋さわこさんが掲載されてからの1週間は本当に大変でございました。
連日すごい数のお客様が来店くださいまして、満席状態が続いた次第でございます。
急遽、バテア青空市として使用しているコーナーにまでテーブルを出して対応いたした次第です。
こうなりますと、さすがに人手も足りなくなってしまいます。
「いいよ~、まかせて~」
そんなわけで、お店の常連客であり、ご近所にお住まいのツカーサさんと、
「はい、頑張りますニャ!」
朝、バテア青空市で働いてくれていますショコラさんの2人にバイトとしてお店のお手伝いをお願いさせて頂いた次第でございます。
「さわこ、いっそのことお店を大きくしてもいいのよ?」
バテアさんがそう言ってくださったり、
「中級酒場組合(うち)が管理してる空き店舗でよければ紹介するぜ」
ジュチさんがそう言ってくださったりしたのですが、
「いえ、今のお店で頑張って行こうと思います。それに、このお客様の数も、いつまでも続くとは思いませんので」
私は、笑顔でそうお答えさせていただいた次第でございます。
そんな私の言葉通りといいますか……
1週間も経ちますと、お客さんの数が徐々に減少していった次第です。
居酒屋さわこさんが飽きられたと言うわけでは無く、ご来店くださる皆様が分散し始めたといった感じでございます。
この1週間、グルメシュランに掲載されたことでトツノコンベの皆様が一斉に押し寄せてきた感じだったのですが、その熱が若干冷めたといいますか……
そもそも、居酒屋に毎晩通う方というのは、そんなに多くはございません。
中には毎晩通ってくださる方もおられますが、だいたいのお方は週に2,3回程度といった感じでございます。
新しくお見えになられましたお客様も、クッカドウゥドルの焼き鳥や肉じゃが、和風すぅぷかれぇの味に満足くださり、常連になってくださった方も多数おられるのですが、そのお客様達が良い感じに分散した、と、そんな感じでございます。
お休み前などにはかなり多くのお客様がご来店くださるのですが、それでも最盛期だった初日・2日目ほどではございません。
「やれやれ、ようやく落ち着いて酒が飲める感じになったの」
ドルーさんも、カウンター席で満足そうに頷かれています。
「先週は色々ご迷惑をおかけいたしました」
ドルーさんや、他の常連の皆様は、少しでも新規のお客様が座れるようにと気をつかってくださいまして、この1週間は早めにお帰りくださっていたのです。
そのご配慮に気が付いておりました私は、深々と頭を下げさせていただいた次第でございます。
そんな私に、ドルーさんは、
「何を言うか、ワシらが贔屓にしとる店が賑わっとるんじゃ。協力するのは当然じゃろう」
そう言うと、いつものように豪快に笑ってくださいました。
そのお言葉に、他の常連の皆様も同じように、私に笑いかけてくださっています。
そんな皆様に向かいまして、私は再度深々と頭を下げさせていただきました。
◇◇
居酒屋さわこさんの混雑ぶりが若干和らいだのにはもうひとつ理由がございました。
ジュチさん達中級酒場組合の皆様が運営されています酒場にですね、
『居酒屋さわこさん監修クッカドウゥドルの焼き鳥あります』
『居酒屋さわこさん監修肉じゃがあります』
そんな看板がが出始めた次第なんです。
これは、事前にジュチさんからも打診頂きまして、快く了承させていただいております。
以前から実施しております料理教室で、中級酒場組合の皆様には私が料理をお教えさせて頂いておりまして、クッカドウゥドルの焼き鳥や肉じゃがの作成の仕方をしっかりお教えさせて頂いておりますので、この看板を掲げて頂くのにも、問題ないと判断した次第でございます。
居酒屋さわこさんまで距離があるお客様も少なくなかったのですが、そういったお客様が看板の出ているお近くの中級酒場組合のお店に通われるようになった、といったケースが多々あったようでございます。
味に関しましては、居酒屋さわこさんとまったく同じではございません。
料理教室の際にも、
『皆様のお店でお出しする際には一工夫加えるように頑張ってみてください』
そう、皆様にお話していたのですが、どのお店の皆様もがんばってあれこれ工夫をなさっておいでです。
お肉を変えてみたり
お野菜を追加してみたり
味付けを工夫してみたり
料理教室の際に、試作品をお持ちになっては、私の意見をお聞きくださり、さらに改良を加えて……そんな作業を繰り返した末に出来上がった逸品ばかりです。
どのお店の料理もおいしくないわけがございません。
さらに、中級酒場組合の皆様がご使用なさっておられますお肉やお野菜も、居酒屋さわこさんで使用している物とほぼ同じでございますからね。
バテア青空市でのみ取引しておりますアミリアさんのお野菜やお米、リンシンさん達契約冒険者の皆様が狩ってきてくださっています魔獣のお肉。それらを使用していますので、材料に関しましてもまったく問題ございません。
そういったご近所の中級酒場組合の酒場に足を運びつつも、居酒屋さわこさんまで時折足を伸ばしてくださる、そんなお客様がとても増えた感じでございます。
本当にありがたいことです。
……ただ、少々心苦しいといいますか……
この状況によりまして、上級酒場組合に加盟なさっておられます皆様の酒場のお客様が軒並み減少しているとのことでございました。
ヒーロさんの同僚の方々が、今も時折通っておられるそうなのですが、
「最盛期の半分もお客さんが入ってないそうだよ。そのせいでか、お店の雰囲気も悪くなってるみたいでねぇ」
そう言いながらヒーロさんはぜんざいを口になさっておいでです。
その横では、今日もゾフィナさんが美味しそうにぜんざいをお食べになっておいでです。
お2人がどのようなご関係にまで進展されたのかは不明ですが、とりあえず一緒にご来店なさるほどの仲にまでは進展なさったようでございます。
ヒーロさんのお話をお聞きした私は、少々複雑な心境です。
確かに、ジュチさん達中級酒場組合の皆様に昔からあれこれ嫌がらせをなさっていた上級酒場組合の皆様ですし、この状況に関しましても自業自得なところが無きにしも非ず、と、思わなくもないのですが……
……なんでしょう……少し心にモヤモヤした気持ちが生まれている次第でございます。
そんな私の心境を察してくださったのか、バテアさんが私の肩を軽く叩いてくださいました。
「さわこは何にも気にしなくていいのよ。あんたはこの店を一生懸命頑張って、ここまでにしたんだからね。胸を張ってればいいのよ」
「……ありがとうございます」
バテアさんさの言葉に、私はようやく笑顔を浮かべることが出来た次第でございます。
ちなみに、今回のグルメシュランなのですが、魔女魔法出版のダンダリンダさんを通しまして、バテアさんの魔法道具のお店でも取り扱うことになった次第でございます。
その際に、ダンダリンダさんにですね、
「この調査って、どなたがなさったのですか?」
そうお聞きしましたところ、
「さ、さぁて、誰かしらねぇ……ウチの調査は基本秘密だからお答え出来かねるわねぇ」
そう言いながら、どこかソワソワなさっておいででしたので……そうですね、ほぼ実行犯は特定出来た次第でございますけれども、あえて深くは突っ込まないことにいたしました。
ーつづく
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