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連載
さわこさんと、ナカンコンベ その1
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
ここしばらくの間に、新しい常連さんが増え始めている居酒屋さわこさんでございます。
夏祭りに出店した影響でお客様の数が一気に増加いたしまして、その皆様の多くが定期的にお通いくださっているおかげで、最近の居酒屋さわこさんはバテアさんの魔法道具のお店のスペースをすべて使用させていただいて営業している次第です。
そうやって、増席しているわけなのですが、そのすべての席がほぼ毎日埋まっております。
本当にありがたいことでございます。
日本酒も、思いのほかこちらの世界の皆様に受け入れて頂けております。
お料理ごとに、その料理に合わせた日本酒をお勧めさせていただいているのが良いのかもしれませんね。
そのお料理にいたしましても、看板メニューとなりました
タテガミライオンの串焼き
クッカドウゥドルの焼き鳥
肉じゃが
この3種類の料理以外にも、
和風すぅぷかれぇ
マウントボアの串焼き
アミリア米の焼きおにぎり
こういった料理が大変人気となっております。
ゾフィナさんが毎日のように大量にお召し上がりになっておられますぜんざいなどのように、お客様お好みの料理もあれこれ出て来始めている次第でございます。
とはいえ、こういった現状に甘んじることなく、日々精進しながら頑張っていかないといけませんね。
◇◇
本日の私は、辺境都市ナカンコンベへと出向いています。
この都市にございますオモテナシ商会でタテガミライオンのお肉を仕入れに参った次第です。
「毎度どうも」
オモテナシ商会の代表をなさっておられますファラさんが笑顔で私を出迎えてくれました。
本日は、バテアさんと一緒にエミリアもやってきております。
バテア青空市を任されているエミリアです。
「いろいろな商会を見てみたいわ。今日は、トゥゲザーさせて」
そのように、とても前向きにあれこれ頑張ってくれているエミリアですので、私やバテアさんもとても頼もしくおもっている次第でございます。
私達3人が出向いた時間帯は、オモテナシ商会はちょうど朝の取引が一段落した頃合いだったようでして、人の数こそ多いもののどこかまったりした雰囲気があたりに充満している感じでございます。
「今日もタテガミライオンね」
「はい、それを中心によろしくお願いいたします」
ファラさんのお言葉に、私は笑顔で頷きました。
ファラさんは私に頷き返されますと、私達をいつもの倉庫の方へ向かって連れていってくださいました。
その間、エミリアは周囲をキョロキョロ見回しています。
「へぇ……これがナカンコンベの大手商会なのね、スタディになるわ」
エミリアが見ているのは、どうやら荷馬車の発着場のようですね。
トツノコンベにございますバテア青空市は、お店の脇道を通ってジュチさん達中級酒場組合の皆様が荷車や荷馬車を引っ張ってお見えになっているのですが、発着に関しては皆様にお任せしております。
そのため、混雑してしまうことが少なくありません。
ところがこちらのオモテナシ商会の発着場は、入場口と退場口がしっかり設けられておりましてそこを通過するようにオモテナシ商会の職員らしい兎人の女の子が
「こっちをお通りくださいぴょん! お帰りはあちらぴょん!」
身振り手振りを交えながら案内しているものですから、そのおかで、訪れている取引の方々の数が多いにも関わらず、そんなに混雑することなく往来出来ている次第でございます。
こういったところは、私達も見習わないといけませんね。
倉庫の中には、すでに居酒屋さわこさん用のタテガミライオンのお肉が準備されていました。
ファラさんが、他のお肉とは別にして保存してくださっていた次第です。
「量はこれぐらいでよかったかしら? 一応前回並にしておいたけど」
「はい、問題ありません」
ファラさんのお言葉に私は笑顔で頷きました。
その後、ファラさんにお願いいたしまして果物や野菜を拝見させていただきました。
すでに、今日の主だった取引が終わった後だけありまして量は少なかったのですが、トツノコンベではあまり見た事がない野菜や果物を見かけた次第です。
「よかったら、このお野菜や果物も購入させていただいてもよろしいですか?」
「えぇ、構わないわよ」
ファラさんとそんな会話を交わした私は、ファラさんに指示していただいた野菜や果物を魔法袋へ詰め込んでいきました。
「さて、今日の仕入れはこんなとこかしら?」
「そうですね……はい、ありがとうございます」
荷物袋の中身を確認した私は、ファラさんのお言葉に笑顔で頷きました。
すると、ファラさんはおもむろにそろばんを取り出されまして、
「じゃ、今日の値段交渉といこうか。今日は前回までのようにはいかないからね」
「お手柔らかにお願いいたします」
気合い満々なご様子のファラさんに、私はにっこり微笑みながら頭をさげさせて頂きました。
◇◇
「……ホントに、あんたって女は……」
本日の支払いを終えた私は、ファラさんのお言葉を小首をかしげながらお聞きしていました。
「あの……私、何かまずいことでもいたしましたでしょうか?」
そんな私の後方では、
「……アンビリーバブル……さわこ、ちょっとすごかったわ」
エミリアが、目を丸くしながらそのように言っておりますし、
「ホント、今回もすっごかったわねさわこの値切りってば」
バテアさんはといえば、そうおっしゃられながらお腹を抱えて笑っておいでです。
変ですね。
私は、ただ自分の仕入れしたいお値段をご提示させていただいただけなのですが???
きょとんとしている私の前で、ファラさんは苦笑を続けておいででした。
「まったく……このアタシがここまで言いくるめられるなんて始めてだよ……でも、よく覚えておきな、次こそはこうはいかないんだからね!」
「はい、次回もよろしくお願いいたします」
「だから、次回は今日のようによろしくお願いしたくないんだってば!」
ファラさんは、にっこり微笑んでいる私に、苦笑しながらそうおっしゃいました。
その様子を、エミリアもバテアさんも笑いながら見つめていた次第でございます。
おかしいですね?
私はただ普通に交渉をさせていただいただけなのですけど……
◇◇
そんなわけで、少々理解出来かねる案件もございましたものの、オモテナシ商会での仕入れも無事終了いたしました。
「せっかくだし、お昼でも食べていく?」
バテアさんがそうおっしゃいました。
……そう、おっしゃっておいでなのですが……バテアさんの手にはバニラ最中が握られていまして、すでに半分近く食べすすめられている次第でございます。
「そうね、私も街中をルックして回ってみたいわ」
エミリアも、バテアさんの言葉に頷いています。
そんなわけで、私達はこのナカンコンベを見て回りながら、ついでにお昼を食べて帰ることにいたしました。
その時です。
不意に、私達の上空が暗くなりました。
変ですね?
先ほどまで快晴だったはずですが……
不思議に思いながら私が頭上を見上げますと……そこには巨大な船が浮かんでいました。
そう、船です。
船が空を飛んでいるのです。
「へぇ……魔導船じゃない」
「まどうせん……ですか?」
「えぇ、魔導船よ。魔石の力を利用して空を飛ぶ船なんだけど……ナカンコンベに就航してたのね」
バテアさんのご説明をお聞きしながら、私はぽかーんと口を開けたまま空を見上げ続けていました。
そんな私の視線の先で、その魔導船はオモテナシ商会の入っている建物の上部に突き出しています、塔のような場所に接岸していきました。
その光景を、私達は見つめていた次第でございます。
-つづく
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