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さわこさんと、怪しい2人 その1

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イラスト:NOGI先生

 居酒屋さわこさんは、本日も満員御礼でございます。

 バテアさんのお店部分にまで机や椅子を並べさせて頂いた上で、そのほぼ全ての席が埋まっているという大盛況でございます。
 拉致事件の影響でしばらく営業出来なかった時期もございましたけど、そういった時間を経てなおこの大盛況なわけでございますゆえに、私も本当ありがたく思っている次第でございます。

 タテガミライオンのお肉を定期的に仕入れることが出来るようになったおかげで、そのお肉を使用した料理が大人気になっておりまして、

 タテガミライオンのお肉の串焼きと、タテガミライオンのすじ肉を使用いたしました和風すぅぷかれぇ、この2種類を限定販売しているのですが、準備している数量が毎日早々に売り切れている次第でございます。

 これに、新たに加わったのが、タテガミライオンのお肉のステーキでございます。
 これには2種類の味付けを準備しております。

 まずは、ステーキソースです。
 玉ねぎ・無臭にんにく・しょうゆ・お酒・水飴・みりんを、クッカドウゥドルのガラを煮詰めたスープに水と共に加えてくつくち煮詰めて作成したソースを、ステーキに添えてお出しいたします。

 次に和風おろしポン酢味です。
 かつお節の出し汁をベースに、醤油・昆布・スライスしたレモン・みりん・お酢をつけ込んで作成いたしました自家製のポン酢を、大根によく似たお野菜ダルイコンをおろした物をかけたステーキに添えてお出しいたします。
 
 どちらもバテアさんとリンシンさんに試食していただいたのですが、
「どっちも美味しいわよ、さわこ」
「……うん!……とっても美味しい……」
 2人とも満面の笑顔でそう言ってくださったものですから、思い切ってどちらもメニューに加えた次第でございます。

 なお、この試食の際に、
「さわこ! 私の試食はまだ?」
 近所のツカーサさんがいつの間にかバテアさんの隣に座られていた次第でございます。
 そんなツカーサさんを見つめながら、バテアさんは目を丸くなさいまして、
「ツカーサ、あんた、転移魔法でも使えるのかしら?」
 思わずそんなことを口になさっておられた次第です。
「え? なんか美味しそうな気配がしたからお邪魔しただけだよ」
 そう言って、楽しそうに笑っているツカーサさんを見つめながら、私・バテアさん・リンシンさんの3人は思わず笑い声をあげていった次第でございます。

 このステーキは、私の世界で購入してきましたステーキ皿にのせてお出ししています。
 魔石コンロで熱したステーキ皿の上で直接お肉を調理したしまして、その上で切り分けてからお出しいたします。ステーキ皿の上で焼ける分も考慮して、焼き具合を調整している次第です。
 付け合わせには、にんじんによく似た野菜ニルンジンのグラッセと素揚げしたジャルガイモを添えています。

 1日各20皿で提供させていただいておりますステーキは、串焼きより少々お高めな値段設定にさせていただいているのですが、毎日早々に売り切れている次第でございます。

 お酒は、パルマ酒と、七本鎗の純米酒をお勧めさせていただいております。
 パルマ酒はどんな料理にも合うようにお米の味を活かした造りになっています。
 七本槍は、軽い味わいでありながら、ズシッとお米の味わいが一本通ったお酒でして、お肉と一緒に頂くとその味を際立たせてくれる逸品でございます。

 お客様にお酒をお勧めくださっているバテアさんは、複数のお酒の瓶を魔法でご自分の周囲に浮かせながら店内を回っておられます。
 日本酒の瓶達は、軽くステップでも踏んでいるかのように上下しながらバテアさんの周囲をゆっくり回っているのですが、その光景がどこか晴れやかといいますか、そのおかげでバテアさんが出向かれた周囲は気のせいか少々賑やかになっていく……そんな気がいたします。

◇◇

 今夜は、ゾフィナさんがご来店なさってお出でです。

 ゾフィナさんは神界の使徒をなさっておられるそうでして、その本当の姿は半身が幼い女の子で、もう半身が骸骨のお姿をなさっておいでです。
 そのお姿のままご来店頂きますとお客様がびっくりなさってしまいかねません。

 ですが、ゾフィナさんはその点に関しましてはご配慮くださっておられまして、ちゃんとこちらの世界の女性の姿をしてご来店くださっておられます。

 ゾフィナさんのご注文は決まっています。
 はい、ぜんざいと甘酒でございます。
 いつもゾフィナさんは、お帰りになられるまでぜんざいと甘酒を延々口に運ばれます、

「ちょっとゾフィナ、たまには串焼きとか食べたらどうなの? 日本酒も美味しいわよ」
 バテアさんが笑顔でいくらお勧めなさっても
「いや、私はこれで」
 頑なにそうおっしゃるのがいつものパターンでございます。

 その際のゾフィナさんの態度や口調は、例えますとクールビューティーそのものでございます。
 どこか近寄りがたいオーラを全身からお発しなさっておられまして、周囲の皆様に対して少々近寄りがたい雰囲気を醸し出されておいでです。

 そんなゾフィナさんなのですが、ぜんざいを一口すすられますと、
「あんまぁい……」
 それまでのクールな表情を一気にお崩しになられまして、満面の笑みをお浮かべになられるのです。
 そうなりますと、それまでのクールビューティーなお姿は一気に消え去ってしまいます。
 近寄りがたいオーラもすべて消え去っている次第でして、ご来店なさっておられる他のお客様達も気さくに声をかけはじめられるのでございます。

「ほう、お嬢さん、それはそんなに美味しいのですか?」
 役場のヒーロさんがそうお声をおかけになられますと、
「えぇ、これはもう至高のお味でございますとも!」
 ゾフィナさんはヒーロさんに向かって、お手に持たれているぜんざいをお見せになられながら、
「いいですか、このぜんざいはですね……」
 と、熱く語っていかれておられます。
 ヒーロさんも、
「ほう、それはすごいですね」
 感心しきりといったご様子で、ゾフィナさんの説明に相づちをうちながら、真剣なご様子でお聞きなさっておられます。

 そんなヒーロさんのご様子に満足なさったのか、ゾフィナさんは、
「うむ! 貴殿はなかなか話がおわかりになられますな、さわこ殿、こちらの御仁にぜんざいと甘酒をお出ししてください。無論、私のおごりです」
 笑顔を浮かべられながらそうおっしゃられた次第です。
 ヒーロさんも、
「せっかくの申し出ですので、ありがたく頂戴いたしましょう」
 笑顔でそうおっしゃられています。

 ですが……私の記憶が確かですと……ヒーロさんは、あまり甘い物はお好きではなかったはずなのですが……ゾフィナさんのお気持ちを尊重なさっておられるのでしょうね。

 私は、
「はい、よろこんで」
 そう言いながら、あずきをやや少なめにしたお椀をヒーロさんにお渡ししていきました。

 それを受け取ったヒーロさんは、私の配慮に気が付かれたご様子でして、
『ありがとうございます』
 とばかりに目配せをしてこられました。
 もちろん、ゾフィナさんには気付かれないようになさっておいでです。

◇◇

 その日の営業終了後、私・バテアさん・リンシンさんの3人は、いつものようにバテアさんさんのご自宅の2階にございますリビングで晩酌をしていました。
 
 バテアさんのお宅に住んでいる女3人で晩酌するのがすっかり定番化している次第です。

 私は、お漬物を肴に、
 バテアさんはバニラアイスを肴に
 リンシンさんは、ビーフジャーキーを肴に

 お互いにお酒を注ぎあいながら楽しく会話を交わしてまいります。

「そういえば、ヒーロさんも大変みたいでしたね。今日はゾフィナさんにぜんざいと甘酒をお勧めされてしまって」
 思い出し笑いをしながら私がそう言いますと、バテアさんさんがそんな私へ視線を向けてこられました。
「案外困ってなかったかもしれないわよ」
「え? そうなんです?」
「何しろヒーロってば、ゾフィナが来店すると必ずその隣に移動してるし……ひょっとしたら」
「え!? なんですか、なんですか!」
 含み笑いをなさっているバテアさんなのですが、そんなバテアさんの元に私は椅子ごと近寄っていきました。
 
 世界はかわれど、こういった話題についくいついてしまうのは女の性とでももうしましょうか。
 その証拠に、リンシンさんも椅子をお尻にあてがいながらバテアさんさんの側へ近寄ってこられています。

 その夜の私達は、ヒーロさんの話題で盛り上がった次第でございます。

ーつづく
 


 
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