84 / 343
連載
さわこさんと、魔女魔法信用金庫 その2
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
魔女魔法信用金庫のポリロナさんから出来上がった通帳をいただきました。
通帳には可愛い妖精さんのイラストが描かれています。
なんだか少し嬉しくなりますね。
「あ、通帳のデザインはこちらで選ばせて頂いたのですが」
「ご希望でしたらこちらに変更も可能でございます」
そう言ってマリライアさんが取り出された通帳には、
超リアルなドラゴン風の魔獣さん
超リアルな悪魔風な男性の方
……といった感じでございまして、どれもとにかく、とってもリアルでございまして、見つめておりますとその絵がそのまま動き出すのではないかと思えてしまうほどでございます。
私は、にっこり笑顔を浮かべました。
「あ、はい。今のままで十分でございます」
はい……見る度に本物と勘違いしてびっくりするよりは、この可愛い妖精さんで癒やされたいですので……
◇◇
その後、ポリロナさんとマリライアさんから魔女魔法信用金庫の利用方法についてあれこれお聞きいたしました。
魔女魔法信用金庫は店舗がないそうです。
この世界のとある場所に魔女魔法信用金庫の建物があるそうでして、その場所は非公開なのだとか。
「では、入金したり出金するときはどうしたらよろしいのですか?」
「あ、はい、こちらの名刺に向かってですね『来てください!』と念じていただけば」
「居酒屋さわこさん担当の私達が即参上いたします」
そう言って、ポリロナさんとマリライアさんは再びポージングをなさっておいでです。
……でも、先ほどは特に念じなくても来てくださったような気が……
そう思った私ですが、そのことは聞いてはいけないような気がいたしまして、あえて私は言葉を飲み込んだ次第でございます。
ちなみに24時間対応可能なのだとか。
営業の方が3交代で待機なさっているそうです。
ですと、私が以前利用していた貸金庫のようなサービスをお借りする必要もなさそうですね。
◇◇
一通りの説明を終えたお2人は
「ではこれで」
そう言いながらお帰りになられかけたのですが……なんでしょう、巨人族のマリライアさんが何やらキョロキョロなさっておられます
「あ、あの~つかぬことをお伺いいたしますが」
「はい、なんでしょう?」
「このお店って飲み屋のようですけど~……お昼の営業とかはなさっておられないのですか~?」
「お昼ですか?……あいにく、お昼は営業していないのですが……あ、そうだ」
私は、魔法道具のお店のレジにおいておりました握り飯弁当を持ってまいりました。
「よかったらこれをお持ちくださいな」
「これはお弁当ですか~? おいくらでしょう~?」
「今日のお代は結構ですよ。またお暇な折にでもお店においでくだされば」
「え? いえいえ、そういうわけには~……」
「まぁまぁいいではありませんか。今日は口座を開設させていただいて、しかもすぐに通帳をお届け頂いたのですもの。これぐらいさせてくださいな」
「で、ですけど~……」
その後、押し問答を繰り広げた私とマリライアさんなのですが、その際に他の方からの呼び出しがかかったとのことで、
「で、では~、今回だけはお言葉に甘えさせていただきます~」
マリライアさんは、ようやく握り飯弁当を手にとり、そのまま転移ドアの向こうへと消えていかれました。
「さわこってば、あいつらも仕事でやってるんだからそこまですることはないのにさ」
バテアさんがそう言いながら苦笑なさっています。
「……ま、そこまでしちゃうのがさわこらしいっていえば、らしいんだけどさ」
「ありがとうございます」
バテアさんにむかって、私は苦笑しながら頭をさげさせていただきました。
そうですね……確かにポリロナさんとマリライアさんはお仕事として来てくださっただけでございます。
ですが、そうして足を運んでくださったことに対する、お礼の気持ちを忘れたくない……私はそう思っております。
そういう私の気持ちをご理解くださっているバテアさんにも、感謝しきりでございます。
◇◇
お昼を過ぎますと、エミリアがお店にやってまいりました。
「ソーリーさわこ。おそくなったわね」
「いえいえエミリア。全然大丈夫ですよ」
今日は、バテアさんもおられましたので魔法道具のお店は特に人手は必要なかったのですが、生真面目なエミリアはバテアさんと一緒にレジ番をこなしてくれた次第です。
夕刻になり、バテアさんの魔法道具のお店が終了する時間になりました。
それはつまり居酒屋さわこさんの開店時間の到来というわけでございます。
「じゃ……提灯と暖簾、出してくる……」
狩りからお戻りになられたリンシンさんが、着物姿でお店の外へ出て行かれました。
ほどなくして、扉の向こうに魔法灯の灯りが灯ったのが見えました。
それを確認してから炭火コンロの炭に火を入れるのが、私の最近のお決まりの動作でございます。
カウンターの上に大皿料理を並べ終えた私は、
「さて、今日も頑張りますか」
そういいながら顔を上げました。
すると……ちょうど私の真正面、カウンター席に2人の女性の姿がありました。
間違いありません。
魔女魔法信用金庫のポリロナさんとマリライアさんです。
日中の、お揃いのスーツぽい姿ではなく、今はざっくりとした服装をなさっておられます。
おそらく、私服なのでしょうね。
「魔女魔法信用金庫の単眼族ポリロナ」
「同じく巨人族マリライア」
「「お仕事が終わったので即参上」」
椅子に座りながらも、上半身だけでポーズをとられたお2人です。
「あのお弁当、とっても美味しかったの~」
マリライアさんはそう言いながら嬉しそうに微笑んでおられます。
「マリライアってば、私の横で美味しそうにお弁当を食べてまして、『1個ちょうだい』って言っても絶対にくれなかったんですよ」
ポリロナさんはそう言いながら頬を膨らませていらっしゃいます。
「そんなわけで、ちょうど今日は珍しく定時に仕事をあがれたので」
「晩ご飯を食べにきちゃいました~」
お2人は私に向かってそう言ってくださいました。
私は、そのお言葉に笑顔を返しながら
「ありがとうございます。せっかくですので楽しんでいってくださいね」
そう言いながら、本日のお通しをお出ししていきました。
今日のお通しはあんかけ豆腐でございます。
お2人はそれを手になさると、
ポリロナさんは、ふぅふぅとよく冷ましてから
マリライアさんは、熱いのにも関わらず一息で
それぞれ口になさっていかれました。
そして
「「うん、おいしい!」」
互いに貌を見合わせながら頷かれておいでです。
「お料理はどうしましょうか? お勧めはタテガミライオンの串焼き、クッカドウゥドルの焼き鳥……」
「とりあえず全部!」
私の言葉を、マリライアさんの元気なお言葉が遮りました。
私は右手を挙手なさっているマリライアさんに笑顔を向けますと、
「はい、ではとりあえずお勧めを適当にお出しさせていただきますね」
そう言いながら、まずはタテガミライオンの串焼きと、クッカドウゥドルの焼き鳥を炭火コンロへのせていきました。
お2人は、私の手元を楽しそうに覗き込んでおられます。
「おや? 今日はもう先客がいたんだの」
お店のドアをくぐって、ドルーさんが店内に入ってこられました。
今日はお弟子の皆様もご一緒です。
「ウェルカム、さ、こちらの席へ」
エミリアが、ドルーさん達を案内してくれています。
それを見て、かけつけ三杯とばかりに、早速バテアさんが人数分のグラスと日本酒の瓶をお持ちになってドルーさん達の席へ向かって駆け出しておられます。
「先に……肉じゃが食べる?」
「あ、はい!ぜひ~」
私の手元を見つめながら、涎を流さんばかりの表情をなさっておられたマリライアさんは、リンシンさんのお言葉に何度も頷かれました。
そのお言葉をお聞きになったリンシンさんは、大皿の中から肉じゃがをよそわれています。
気が付けば、お店の中には役場のシウアさんや冒険者のジューイさんといった常連客の皆さんがどんどん席につかれています。
こうして、居酒屋さわこさんは新しいお客様をお迎えしつつ、いつものように賑やかに営業を開始した次第です。
ーつづく
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3,675
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。