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連載
さわこさんと、3人でおでかけ その2
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
「ここが……さわこの世界……」
転移ドアをくぐったリンシンさんは、立ち止まって周囲を見回しておられます。
私とバテアさんが買って参りましたXLサイズのシャツの上にデニム地のオーバーオールを身につけておられるバテアさん。
意外といいますか、予想以上にその服装がお似合いです。
こちらの世界でもまったく違和感を感じません。
「ほらリンシン、行くわよ」
バテアさんに背中を押されて、リンシンさんはようやく歩みだされました。
その時です。
キキキィ!
私達の近くで車の急ブレーキ音が聞こえてきました。
慌てて振り向くと、そこには車道に飛び出した女の子の姿がございました。
どうやら、風に飛ばされた帽子を取ろうとして、つい飛び出してしまったようです。
バテアさんがすでに右手を伸ばしておられます。
魔法を使用しようとなさっておられるのでしょう。
……これであの女の子は大丈夫
そう思った私は、思わず安堵のため息をもらしました。
……その時でした。
私は、とんでもないものを目にしたのです。
そのふくよかなお体からは想像出来ないほど俊敏な動きで飛び出したリンシンさんが、その女の子を抱き上げたのです。
……ちょ、ちょっと思った結末とは違ったけど、とにかく女の子は助かっ
私は、そう思いながら安堵の息を漏らしかけたのです。
そんな私の目の前で、リンシンさんは
車に向かって肩から突進していかれたのです。
私は、漏らしかけた息をそのまま飲み込んでしまいました。
「ったく! やってんのよ!」
バテアさんがここで魔法を使ってくださいました。
すごい勢いで車に向かって突進していたリンシンさんのお体は、その途端に私達の目の前へ、と、移動してきました。
「……あれ?……鋼鉄のマウントボアは?……」
リンシンさんはきょとんとしながら周囲を見回しておられます。
そんなリンシンさんに、バテアさんが肩をいからせながら駆け寄っていかれます
「リンシン! あれはマウントボアじゃないの! 鋼鉄の乗り物よ!」
「乗り物?……ふうん……」
リンシンさんは首をかしげながら道路へ視線を向けられました。
その視線の先には、道路を行き交っている多数の車がございます。
「……じゃあ、あれ全部?」
「そう、あれ全部乗り物よ、仕留めにいっちゃダメよ」
「……うん、わかった」
リンシンさんは、微笑みながら頷いてくださったのですが……とにかくお怪我がなくて幸いでした。
車も急停止出来、リンシンさんに抱き上げられた女の子も無事でした。
「おっきなお姉ちゃん、ありがとう!」
女の子は、笑顔で去っていきました。
車の近くで、その女の子のお母さんらしい女性が、急停止なさった運転手の方に平謝りなさっておられます。
女の子も無事で、車もなんともなかったおかげでしょうか、運転手の方も
「雪花の車も無事だったしな、女の子も無事だったようだし何よりだ」
笑顔でそう言われておられました。
その様子を拝見いたしまして、今度こそ安堵のため息をもらすことが出来た私です。
◇◇
その後、バスにのった際のリンシンさんは、
「……うわぁ……この鋼鉄の乗り物、早い早い」
まるで子供のように、窓にべったり顔をおつけになって外の様子を見つめられたり、
行き交う人々の服を見ては
「……なんかひらひらしてるね……へぇ」
そう言いながら、近くに立ってスマホで話をなさっていた女性のスカートを持ち上げてマジマジと……あわわ!?
「……ホント、ここに到着するまでに寿命が100年ばかし縮まった気がしたわよ」
ようやく、みはるのパワーストーンのお店に到着したバテアさんは、応接セットに座ってバニラモナカを頬張っておられます。
そのお顔は疲労困憊です。
かく言う私も、隙あらば
『……あれ何?』
『……これ何?』
興味を示した物のところへ向かってふらふらっと移動しようとなさるリンシンさんを引き留めるのに必死だったものですから、腕と足が棒のようになっております……リンシンさんは普通に歩いておられる感じなのですが、その突進力が半端ないものですから、お止めするのが一苦労でした……こう言うと、お止め出来ていたように聞こえると思うのですが、その全ての際で、私はただただ引きづられることしか出来なかったといいますか、バテアさんに魔法で止めていただくまでのつなぎにもなっていなかった次第です……
そんなリンシンさんは、みはるが準備してくれたクリームソーダを珍しそうに眺めながら、少しずつ少しずつ口に運んでおられます。
「まったく、さわこの新しい友人っておもしろい人が多いわねぇ」
リンシンさんを見つめながら、みはるも少し呆れた口調です。
……そうもなりますよね
リンシンさんってば、みはるのお店に入るなり
「……わぁ、綺麗」
って言いながら、店頭に並べてあったパワーストーンを埋め込んであるネックレスを鷲づかみにして、顔を輝かせ始めたのですもの……
「……このお店、綺麗……好き」
「そう? ありがと」
子供のように笑っておられるリンシンさんに、みはるは苦笑を返していました。
その後、いつものように委託販売してもらったパワーストーン、正確にはバテアさんから私が購入させていただいた魔石ですね、その代金を受け取り、新しい魔石をみはるに手渡しました。
「さわこが持ってくるパワーストーンってば、すっごい人気なのよ。もっと量を増やしてくれてもいいからね。むしろ増やしてよ」
みはるが身を乗り出しながらそう行ってくれましたし、次回からはもう少し多めに魔石を購入して持ってこようと思います。
その後、クリームソーダを飲み干した後のリンシンさんが、あまりにも魔石のネックレスに興味を示し続けていたものですから、
「いいわ、それ1個プレゼントしてあげる。さわこがいつもお世話になってるみたいだしね」
みはるからパワーストーン入りのネックレスをもらったリンシンさんは、無邪気に微笑みながら、
「……ありがと、ミハル!」
すごい勢いでみはるを抱きしめていったのですが……どう見てもそれは、お相撲で言う鯖折り、プロレスで言うベアハッグになっています。
みはるも、真っ青な顔をしながら高速でタップしています。
ですが、
歓喜の絶頂のリンシンさんは、みはるに頬ずりしながら抱きしめ続けていた次第です。
◇◇
「みはる、あばら骨が折れてたわよ……」
帰りのバスの中で、バテアさんは苦笑なさっておられました。
バテアさんが魔法で治療してくださいましたので、みはるも最後には笑顔でしたけど……私は今も心臓が少々ばくばくしております……
バテアさんは、ショッピングモールの中にあるアイスクリームのお店で買ったバニラ・ポッピングシャワー・マンゴタンゴのトリプル重ねをスプーンですくいながら食べておられます。
リンシンさんは、みはるからプレゼントされたネックレスを、目を輝かせながら見つめ続けています。
リンシンさんってば、よっぽどそのネックレスが気に入ったのですね。
片時もネックレスから目を離そうとなさいません。
そんなリンシンさんのお姿に、私とバテアさんは、どこか微笑みにも似た笑顔を浮かべていた次第です。
ーつづく
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