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連載
さわこさんと、お使いの方 その2
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
私は、バテアさんのベッドで目を覚ましました。
「あぁ、気が付いたみたいね」
そんな私の顔を、バテアさんが覗き込んでこられました。
「どう、さわこ……おかしいところはない? 意識はしっかりしてる?」
バテアさんは、いつもと違いましてすごく真剣な表情で、布団の上から私の体をあちこち触りながら、声をかけてくださっています。
「あ、はい……特に問題はないかと」
そう言いながら私が起き上がろうとすると、
「あぁ、無理しなくていいから。もう少し休んでおきなさい」
バテアさんは私の両肩に手をあてて、再びベッドへと押し返していきました。
「あ、いえ、ホントに大丈夫ですから」
私は、笑顔でそう言いながらバテアさんの手に自分の手をかけまして、再びゆっくりと起き上がりました。
「……どうやら無事なようだな」
そんな私の耳に、女性の声が聞こえて参りました。
そちらへ視線を向けますと、そこにはゾフィナさんの姿がありました。
ゾフィナさんは、寝室の壁にもたれかかりながら私の方へ視線を向けておられます。
「あ、はい。おかげさまで無事です」
私は、そう言いながら頭を下げました。
こういう時って、ついつい『おかげさまで』ってつけてしまいがちなんですよね……
ゾフィナさんのお言葉から察しますと、ゾフィナさんは私の無事を確認するために待っていてくださったということなのでしょう。
私の考えを後押しするかのように、ゾフィナさんは、
「さわこの無事が確認出来たし、私は帰るとしよう」
そう言いながら、右手を伸ばされました。
おそらく、バテアさんのように魔法陣を展開なさろうとされているのでしょう。
「あ、お待ちください」
私は、ゾフィナさんにそうお声をおかけいたしました。
「せっかくいらしたのです。何か食べていかれませんか?」
「いや……別に私は……」
固辞なさるゾフィナさんですけど、私はベッドを出て、ゾフィナさんの元へ歩み寄っていきまして
「いえ、ご迷惑をおかけしたのですもの、せめてそれくらいはさせてくださいな」
そう言いながら、ゾフィナさんの腕を握りました。
すると、ゾフィナさんはしばらく考えを巡らせると、
「……まぁ、そこまで言うのであれば、頂くとしようか」
そう言ってくださいました。
その言葉に、私は笑顔を浮かべた次第です。
そうと決まれば、早速食事の準備を……
そう思った私は、居酒屋さわこさんの厨房へ向かうために階段へと足を向けました。
「あ、さわこよ」
そんな私を、ゾフィナさんが呼び止めました。
「調理をするのであれば、せめて服を着ていったほうがよくないか?」
「はい?」
ゾフィナさんの言葉の意味がよくわからなかった私は、首をかしげながら自分の体へと視線を向けていきました。
……あれ?……なんで私、下着しか身につけていないのでしょう?……しかもブラもしていないです……
「あ、あぁ、さわこ……気絶してる間、苦しいかと思って……アタシが全部脱がせたのよ」
後方から、バテアさんが慌てた様子で私の衣服を持って来てくださっています。
……で、ではなんですか?……わ、わたしは今、こんなはしたない格好でゾフィナさんとお話を……
私は、顔を真っ赤にしながら胸を両腕で隠すと、そのまま床の上にへたり込んでしまいました。
◇◇
お嫁に行けなくなってしまいかねないような大失態を演じてしまった私ですが……
改めて衣類を身につけると、逃げるようにして一階の厨房へと駆け込んでいきました。
すでにお昼近くのようですね。
バテアさんの魔法道具のお店にはそれなりの数のお客様がお見えになっておられまして、エミリアが忙しそうに接客をこなしていました。
「あ、さわこ、もう大丈夫? ノープロブレム?」
「あ、はい、もう大丈夫ですよエミリア」
エミリアに笑顔で返答した私は、居酒屋さわこさんの厨房へと入っていきました。
とにもかくにも、今はゾフィナさんに食べて頂く物を作ることに集中しませんと……
ちなみにですが、さわこの森で作業なさっている皆様には、最近はお昼に握り飯弁当を食べて頂いています。
さわこの森の皆様は数人ごとのグループになって作業をなさっておられるものですから、昼食を取られる時間がどうしてもまちまちになってしまうのです。
そんな皆さんが、ご自分達の都合のよい時間にお昼を食べることが出来るように、と、配慮させていただいた次第です。
なので、今の私はゾフィナさん食べて頂く料理作りに専念することが出来る次第でございます。
とりあえず土鍋ご飯の準備をしていると、バテアさんに続いてゾフィナさんが降りてこられました。
その姿は、先ほどまでの半身が幼い女の子の姿でもう半身が骸骨の姿ではなく、普通の女性の姿をしていらっしゃいます。
「あ、ゾフィナさん、食べられないものとかございますか?」
「いや……特にはないが」
「では、お好きな物とかはございますか?」
するとゾフィナさんは少し口ごもられてしまいました。
はて? いったいどうなさったのでしょうか?
すると、バテアさんが横でクスクスと笑いはじめられました。
「ゾフィナってばね、甘い物に目がないのよ」
「ちょ!? ば、バテア、貴様、何を……」
ゾフィナさんが、珍しく少し慌てていらっしゃいます。
どうやら、バテアさんのお言葉は正解のようですね。
「別にいいじゃないの、アタシだってバニラアイスが大好きだしさ」
「お前は特別だ。二百才を越えて甘味が好きなのを公言出来るなぞ……なぜ恥ずかしくない?」
「あら、自分の好きな物を好きと言えない方が、なんかおかしくなぁい?」
お2人はそんな会話を交わしておられます。
そうですか……甘い物……
そんなお2人の横で少し考えを巡らせた私は、土鍋ご飯の準備を取りやめまして、魔法袋の中から食材を取りだしていきました。
乾燥あずき
砂糖
塩
切り餅
青じその実
「さて、やりましょう」
材料を確認した私は、魔石コンロの火に鍋をかけ、洗ったあずきを入れていきます。
煮立ったところでもう1カップ水を加えます。
再び煮立ちましたらお湯を捨てまして、もう一度水を加えて煮ていきます。
再び煮立ちましたら魔石コンロを弱火にしまして、豆が完全に柔らかくなるまで煮ていきます。
水が蒸発して、あずきの頭が水面から出そうになりましたら、適度に湯を足していきます。
この作業は、本来でしたら1時間近くかかってしまうのですが、バテアさんの魔法で時間を短縮していただきました。
鍋に砂糖を加えて20分少々煮ます。
再び砂糖と、塩を少々加えまして5分少々煮てから火を止めます。
この間に、炭火コンロで切り餅を焼いておきます。
いい感じにふくらんだお餅をお椀によそいまして、その上から出来上がったお汁をよそっていきます。
そこに青じその実を添えますと……はい、ぜんざいの完成でございます。
ゾフィナさんは甘い物がお好きとのことですので、作り置きしてありました甘酒を添えてお出しいたしました。
「ふむ? なんだこのつぶつぶの汁は?」
ゾフィナさんは、ぜんざいを始めてご覧になるようですね。
マジマジとお椀の中身をご覧になっておられます。
「まぁ、お試しくださいな」
私が笑顔でそう言いますと、ゾフィナさんはおずおずといった感じでお椀に口をおつけになり、お汁をずずっと吸われました。
「うん!?」
そう声をあげられると、ゾフィナさんは一気にぜんざいのお汁だけを飲み干してしまわれました。
「い、いかん……あまりにも上手かったのでつい……」
ゾフィナさんは、お椀の中に残ってしまったお餅に箸を伸ばされたのですが、お汁をすべて飲み干してしまわれていますので、
「ゾフィナさん、お汁をよそいますのでお椀をお貸しくださいな」
私は笑顔でそう言いました。
すると、ゾフィナさんは
「……か、かたじけない」
そう言われながら、私にお椀を手渡してくださいました。
改めてお汁をよそったお椀を手になさったゾフィナさんは、今度はまずおもちから口になさいました。
「うん……いいな、この甘いつぶつぶと一緒に口にすると、このもちという物がうまくなる」
ゾフィナさんはそう言われながら、すごい勢いでおもちを食べ終えると、再び汁を一気に飲み干してしまわれました。
「その……なんだ……」
ゾフィナさんは、空になったお椀と私を交互に見つめておられます。
そんなゾフィナさんに、私は笑顔でいいました。
「お代わり、いかがですか?」
私の言葉をお聞きになったゾフィナさんは、
「……よろしく、頼む」
そう言いながら、再度お椀を私の方へと差し出してこられました。
ーつづく
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