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連載
さわこさんと、新メニュー その1
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
念願でしたこの世界のA5肉、タテガミライオンのお肉を仕入れることが出来ることになりました。
これで、居酒屋さわこさんの名物料理の1つとして定期的に提供することが出来ます。
さて、問題はどう調理してお出しするかですね。
お肉そのものがとても美味なお肉ですので煮込み料理などにはちょっと向かないといいますか、もったいない気がいたします。
ここはやはり、素材そのものの味を活かした調理方法でまいりましょう。
前回好評でした串焼きは当然採用いたします。
ステーキもいいですね。
軽く塩こしょうだけでも美味しいでしょうけど、おろしポン酢やわさび醤油、照り焼きソースやガーリックソースも合いそうです。
あえて付け合わせはつけないで、お肉をどーんと出しちゃいましょう。
今回はすじ肉も多めに買わせて頂いていますので、それも料理していきます。
すじ肉は肉じゃがに使用するのもいいのですが、最近計画していた新メニューに使用してみたいと思っています。
和風すうぷかれぇです。
牛すじを適当な大きさに切り分けて一度茹でた後、水洗いします。
圧力鍋に洗った牛すじ・作り置きしてある鰹出汁・すり潰したにんにく・しょうがを入れて圧力をかけながら30分程度放置します。
その間に玉ねぎをみじん切りしてフライパンで炒めます。
飴色になったらカレー粉・赤味噌・日本酒で味を調えてさらに炒めます。
すり潰したトマトを加えてペースト状になるまで煮詰めていきます
圧力鍋からお肉・にんにく・しょうがを取り出し、お肉を一口大に切り分けてから圧力鍋に戻します。
ここに先ほどフライパンで作成したトマトペーストを加えます。
ケチャップ・カレー粉・赤味噌に、ガラムマサラやクミン、バジルなどを加えていき味を調えてから煮込んでいきます。
適度に切り分けて炒めた茄子ときのこを深めの器に盛りまして、煮込み終わったスープを加えたら完成です。
早速、調理をしていると、
「ねぇねぇさわこ、まだ?」
カウンターに近所のツカーサさんが座っているではありませんか。
いつも思うのですが、どうしてツカーサさんはこうタイミングよくお店にいらっしゃるのでしょう?
しかも、何の気配も感じさせないままに、です。
「それはさぁ、もう、美味しい物を食べたいから、かなぁ?」
ツカーサさんはそう言いながら笑っておられます。
その言葉に苦笑することしか出来なかった私ですけど、せっかくですし試食をして頂こうと思います。
「さ、お試しくださいな」
程なくして出来上がった和風すうぷかれぇが入った器を、私はカウンターに並んで座ってお待ちくださっていたツカーサさん・バテアさん・エミリアの前へ置いていきました。
「へぇ、これがすうぷかれぇってやつなの、良い匂い~」
ツカーサさんは、そう言いながら器に鼻を近づけてから思いっきり息を吸い込まれました。
その横では、バテアさんとエミリアも動揺に匂いを吸い込んでいます。
そして、ほぼ同時にスープを口に運ばれました。
「へぇ……すじ肉なのにすごく柔らかいわね、しかもこのスープにとても合うわ」
「ベリーグッドね、このスープとミートが絶妙ね、あっさりしてるのに味が濃厚なのがたまらないわ」
バテアさんとエミリアは、そう言いながらすぅぷかれぇを一心不乱に口に運んでおられたのですが、その横でツカーサさんは
「さわこ、おかわり!」
と言って、空になったお皿を私に向かって差し出してこられました。
「あ、こらツカーサ! あんたお代わりなんて卑怯よ」
「へへーん、こういうのは早い物勝ちなのさぁ」
「ウェイト! そういう事なら私もすぐに……」
カウンターでそんな会話を交わされている3人ですけど……あの、試食なのでお代わりまでは想定していなかったのですけど……そう思った私なのですけど、どうしてもそう言い出せなかったものですから、結局この時作成した和風すうぷかれぇは、3人に全て平らげられてしまった次第でございます。
◇◇
とにもかくにもです。
お3方が夢中になってお食べになったことで新メニュー和風すうぷかれぇに自信を持った私は、早速今夜から居酒屋さわこさんのメニューにこれを加えることにいたしました。
営業を開始すると、やはり一番人気は串焼きです。
「おぉ! またタテガミライオンの肉が入ったのか! さわこよとりあえず串焼きをくれい!」
「はい、喜んで」
本日お店に一番乗りなさったドルーさんが満面の笑みでご注文なさいました。
本日は、黒牛の辛口純米酒をお勧めさせていただいております。
黒牛と言う名前だけありまして、とてもお肉料理に合う日本酒です。
辛口でどっしりした味でして、お肉の旨みを引き出してくれるお酒でして、切れ味も素晴らしく、飲み干すと肉の油分まで消し去って口の中をすっきり爽やかにしてくれるのです。
「この酒もまた美味いのぉ、タテガミライオンの肉にもバッチリじゃわい」
ドルーさんは、ガハハと笑いながら串焼きとお酒の入ったグラスを交互に口に運んでおられます。
気が付けば、まるでその声に釣られるようにして次から次へとお客様が店内に入ってこられています。
皆様、タテガミライオンのお肉があることを知ってこられたわけではありません。
いつものようにお店にお立ち寄りくださったら、たまたまタテガミライオンのお肉が今日もあった、と、いった具合です。
何より、それがとてもうれしいです。
皆様の生活の一部に、この居酒屋さわこさんが組み込まれているということですもの。
串焼きは、本日もお1人様2皿までの制限を設けさせて頂いております。
仕入れることが出来るようになりましたけど、やはりいいお肉は大事に味わって食べて頂きたいと思っている次第です。
「さわこよ、タテガミライオンは、串焼き以外にはないのか?」
「すじ肉を使用した物でよろしければ、和風すうぷかれぇがございますよ」
「何? わ、和風すうぷかれぇとな?……とはいえ、すじ肉じゃろう? わしゃ、あのすじ肉はどうも苦手でなぁ」
「じゃあ、僕がそれをいただきます」
首をかしげられたドルーさんのとなりで、役場のシウアさんが手をあげてくださいました。
「はい、喜んで」
私は笑顔で和風すうぷかれぇの準備をしていきました。
茄子ときのこをフライパンで炒め、それを入れた器の中に、すぅぷかれぇをよそっていきます。
「はい、お待たせしました」
シウアさんは、カウンターの席に座っておられますので、厨房の中から私が直接手渡しさせていただきました。
「へぇ、思っていたのとは違いますけど、なんだかお洒落で美味しそうだ」
シウアさんは、そう言いながら木製のれんげでお肉とスープを口に運んでいかれました。
「んん!? これがすじ肉ですか!? すっごく柔らかくて美味しいですよ!?」
シウアさんは目を丸くなさりながらそう言われると、すぅぷかれぇを一気にかき込んでいかれました。
それを横でご覧になられていたドルーさんは、一度喉を鳴らされると、
「さわこ! わ、ワシもこれ、このすぅぷなんちゃらをくれい!」
慌てた様子でそう言われました。
そんなドルーさんの横に、バテアさんが歩みよられました。
「あらドルー、あんたすじ肉は嫌いなんじゃなかったの?」
「う、あ、い、いや、その、な、なんじゃ……どうも気のせいだったような気が……」
ドルーさんは、少々うつむきながら後頭部をぽりぽりとかいておられます。
その言葉に、店内から一斉に笑い声があがりました。
そして、その笑い声に続きまして、
「さわこさん、こっちにもそのすぅぷかれぇを頼む」
「ジュ! こっちにもジュ!」
店内のあちこちから和風すうぷかれぇをお求めになる声があがりはじめました。
私は、
「はい、喜んで」
笑顔でそう声をあげると、茄子ときのこをフライパンで炒めはじめました。
ーつづく
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