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連載
さわこさんと、異世界A5肉 その2
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
「こちらのお店ではタテガミライオンのお弁当を販売なさっているのですか?」
「はいです。一番人気なのですよ」
試食を配布されている女性は、そう言って笑っておられます。
その言葉を聞いた私とバテアさんは思わず顔を見合わせました。
「あの! そ、そのタテガミライオンのお肉を販売してもらうことは可能なのでしょうか?」
「あれ? 商会の方ですか? あ、それでしたら……」
「こちらでお話をお聞きしましょうか」
私の横に、いきなり長身の女性が現れました。
眼鏡をかけておられるその女性は、とてもクールな表情をなさっておられます。
「あ、あの……」
「あぁ、アタシはファラ。おもてなし商会ナカンコンベ店の店長をしているわ。食材の卸売りに関してはこっちで受け付けてるのよ」
そう言うと、ファラさんは私とバテアさんをコンビニおもてなしのお店の横にある脇道を通って、その奥へと案内していってくださいました。
その途中の壁には『おもてなし診療所』って看板がかかっている扉もございます。
「このお店って、診療所までやっていらっしゃるのですか?」
「えぇ、そうよ。結構何でも屋的な感じなのよね」
ファラさんはそう言いながら歩いておられます。
……しかしあれですね……
いろいろ見れば見るほど、聞けば聞くほど私の心の中で色々な考えが渦巻いています。
どうみても鰻の蒲焼き
コンビニおもてなしという、私が元いた世界にありそうな名称
診療所という、これまた私が元いた世界にありそうな名称
(……やっぱりこのお店の店長さんって、私と同じ世界の方なのでは……)
しばらく考えこんだ後、私は思い切って口を開きました。
「あ、あのファラさん」
「ん? 何かしら?」
「少しお聞きしたいのですが、このお店の店長さんはどこ出身の方なのでしょうか?」
「このお店……って、このコンビニおもてなし5号店のことかしら?」
「はいそうです」
「そうね……ここの店長のシャルンエッセンスはブラコンベの出身だったはずだけど、それがどうかしたのかしら?」
「あ、い、いえ、何でもないです、ありがとうございました」
私はファラさんに向かって深々と頭を下げました。
ブラコンベといえばこの世界の都市の名前です。
そうですよね……やっぱりそうですよね。
そんなに都合良く私と同じ世界の住人の方が、同じ異世界にやってきているなんて……そんな都合のいいことがあるはずがありませんよね。
私は、どこか安堵したような、それでいて少し残念だったような……少し複雑な思いを感じていた次第です。
「……本店の店長は、ニホンとかいう異世界から来たって言ってたけどね」
「え? ファラさん今何かおっしゃられました?」
「あぁ、気にしないで、独り言だからさ」
程なくして、私達はお店の裏手に出ました。
そこでは多くの荷馬車が行き来していました。
倉庫がいくつも立っていて、そこから荷物を運び出したり、運び込んだりと、たくさんの人があれこれ作業をなさっておられます。
「ピラミ、どう? 様子は」
「コン、今日の契約分はほぼ出荷し終わったコン」
ピラミと呼ばれた、狐人さんらしいかなり若い女の子が笑顔でファラさんに返答されました。
それを聞いたファラさんは、私とバテアさんを倉庫の1つに案内してくださいました。
「あんた達、タテガミライオンの肉が欲しいんだってね」
「は、はいそうなんです。私達の住んでいるトツノコンベではあまり取れないものですから……」
「あぁ、あの北の都市ね、あそこはタテガミライオンが生息するにはちょっと寒いのよね」
ファラさんはそう言いながら倉庫の扉を開けられました。
その倉庫の中は冷蔵魔石で冷やされていいるようでして、中からひんやりした空気が漏れてきました。
私とバテアさんは、その中を覗き込んでいったのですが……
「「うわぁ!?」」
私達は思わず声をあげてしまいました。
その中には、すごい量のお肉の塊が保存されていたのです。
「ま……まさかこれ、すべてタテガミライオンのお肉なのですか?」
「えぇ、そうよ。隣の倉庫にはデラマウントボアの加工した肉が保存してあるわよ」
ファラさんの言葉を聞きながらも、私とバテアさんの視線は、倉庫の中のお肉の山に釘付けになっていました。
「あの、ファラさん、このお肉を売って頂くことは出来るのでしょうか?」
「えぇ、大丈夫よ。ここに保存してあるお肉はすべて卸売りするためのものですもの」
そう言うと、ファラさんはおもむろにそろばんをその手に握られました。
気のせいでしょうか……目つきが急にするどくなった気がしないでもありません。
「じゃあ、値段交渉といきますか。いっとくけど、アタシ……控えめに言ってお金に超厳しいからね」
私は、そんなファラさんと相対峙していったのでございます。
◇◇
それから1時間ほど経過したでしょうか……
私は、大量のタテガミライオンのお肉を魔法袋に詰め込んでほくほくです。
お値段も、概ね私側の希望額で取引させていただけた次第です。
ファラさんは、笑顔で魔法袋を見つめている私を見つめながら、
「……あんたにゃ負けたわ」
そう言われています。
「そうなのですか?」
「そうよ……こっちの話を聞いてるような聞いていないような、それでいていいタイミングで自分の都合をぶち込んでくるし、かと思えばこっちが突っ込めば50歩ぐらい引き下がっていくし……話の腰を折ったかと思えば、いきなりトトトと結論言い始めるしで、このアタシが振り回されっぱなしで最後にはもう完全にアンタのペースになちゃってたじゃないのさ」
「そうでしたっけ? 私はただ、思ったことを口にしていただけだったのですが……」
きょとんとしている私の隣では、私とファラさんの交渉の一部始終をご覧になられていたバテアさんが大笑いなさっれおられます。
「さわこの天然勝ちだね、いやぁ、面白いものを見せてもらったわ」
「面白いだなんて……私はですね、大真面目にですね……」
「はいはいわかったわかった」
そう言うと、バテアさんは魔法陣を展開されました。
その中にトツノコンベ行きの転移ドアが出現しています。
「じゃ、ファラさんだっけ、また仕入れにこさせてもらうわよ」
「今日はお世話になりました。またよろしくお願いいたします」
頭を下げているバテアさんと私。
「えぇ、いつでもいらっしゃい。次回はドンタコスゥコみたいに真っ白な灰にしてあげるわ」
ファラさんはそう言いながらも、笑顔で私達に向かって手を振ってくださっています。
その横では、ピラミも一緒に手を振ってくれています。
私とファラさんは、そんな2人に手を振り替えしながらトツノコンベにあるバテアさんのお店へと戻っていきました。
◇◇
「さて……おもてなし商会ナカンコンベ店をマーキングしといたわ、これでいつでも仕入れに行くことが出来るわよ、さわこ」
「バテアさん、いつもありがとうございます」
バテアさんに頭をさげた私は、早速魔法袋の中からタテガミライオンのお肉の塊を1つ取り出しました。
間違いありません、昨日皆様にお出ししたあのお肉です。
しかも、このお肉はいい案配に熟成されているようです。
焼けば、昨日のお肉以上の味が楽しめること間違いありません。
ファラさんのおもてなし商会ですけど、本当にいい商品を扱われているようですね。
しかも、その保存状態も申し分ありません。
次回お邪魔した際には、お肉以外の商品の事もお聞きしてみようと思っています。
「さて、バテアさん、せっかくですので少し試食してみませんか?」
私がそう言うと
「わーい、試食試食!」
と、明後日の方向からツカーサさんの声が聞こえてきました。
「つ、ツカーサさん!? なんでお店にいらっしゃるのですか!?」
「え? なんかさ、美味しそうな気配がしたもんだから」
ツカーサさんはそう言いながら、私が厨房においたばかりのタテガミライオンのお肉のブロックを見つめていらっしゃいます。
そんなツカーサさんを見つめながらバテアさんは
「ある意味、ツカーサが一番すごいのかもね。この美味しい物を嗅ぎつけてくる能力はちょっとすごいわよ」
そう言いながら苦笑なさっておられました。
そうですね、その意見には私も同意いたします。
ーつづく
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