異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、居酒屋さわこさん再開 その3

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イラスト:NOGI先生

 このタテガミライオンのお肉ですけど……さすが、この世界で最高級と言われるだけのことはあります。
 脂分は適度に霜降り状態になっていまして、色合いがとても素晴らしいです。
 肉そのものの色合いや光沢も申し分ありません。
 程よくしまっており、非常にきめ細かくなっています。
 野生の動物にもかかわらず、ここまで上質なお肉を私は見た事がありません。
 私の世界で、和牛A5のお肉を何度か扱ったことがございますけど、このタテガミライオンのお肉は野生の動物だけに脂肪分がやや少なめかな、ということが気になったくらいでしょうか。それ以外はまったく遜色がございません。

 せっかくの良いお肉です。
 まずは素材の味そのものを味わう方向で調理いたしましょう。

 私はタテガミライオンのお肉を串焼きの要領で一口大の大きさに切り分けていきました。
 それを串に刺し、炭火コンロで焼いていきます。
 この匂い……すごいですね。
 炭火コンロにのせて数秒しか経っていないというのに、お店中に香ばしい匂いが立ちこめていきました。

「ふわぁ!? 何々この匂い!? すっごい」
 ツカーサさんが満面の笑みをそのお顔に浮かべながら立ち上がっておられます。
 その横では、いつも無表情なエミリアまでもが顔を輝かせているではありませんか。

 そんな2人の笑顔を時折拝見しながら、私はタテガミライオンの串焼きを焼いていきました。

 十分火が通ったところで、軽く塩こしょうを振りまして……よし、こんなもんでしょう。

「はい、おまたせいたしました。まずはこれでいただいてみましょう」
 私は、タテガミライオンの串焼きをのせたお皿を片手にカウンターへと移動していきました。

 その時です。

「……良い匂い……」
 そこに、クンクン鼻を鳴らしながら2階からリンシンさんが降りてこられたではありませんか。

 串焼きはきりよく10本焼いておりますので、エミリア・ツカーサさん・私の3人が2本ずつ頂きまして、リンシンさんに4本食べて頂けばいいかな、と頭の中で計算いたしました。
 何しろ、このタテガミライオンはリンシンさんが仕留めてくださったのですものね。
 
 4人になったことで、私達はテーブルへと移動いたしました。
 その中央に皿を置きまして、みんなで早速頂いて参ります。
「ん~……ホントこの匂い、たまんないわ~」 
 ツカーサさんは串焼きを鼻の近くへ持っていかれまして、その匂いを目一杯お吸いになられました。
 そして
「では、いっただっきま~っす!」
 そう言うと、串焼きを口に……

 っと、その手の中にあった串焼きが、横から伸びてきた手によって奪い去られてしまいました。
 ツカーサさんは、豪快に口を閉じられたのですが、そこには当然お肉はありません。
 
 がちぃ

 という、歯と歯が壮絶にぶつかり合う音が、私の耳にまではっきり聞こえてまいりました。
「ちょ!? あ、アタシのお肉!?」
 ツカーサさんは慌てて周囲を見回していかれました。
 すると、ツカーサさんのすぐ横に、バテアさんが立っているではありませんか。

 どうやら、薬草の採取からお戻りになられたようですね。

「ちょっと何よ、この串焼きすっごく美味しいじゃない!」
 バテアさんは、ツカーサさんの手から奪った串焼きをすでに平らげられておられました。
 口をもぐもぐ動かされながら、目を輝かせているバテアさんは、すかさず皿に手を伸ばしていかれます。
「あ、こら! 私の分を取るんじゃない!」
 慌ててその手を押さえようとなさるツカーサさん。
「ケチケチしなくてもいいじゃない、あと1本くらいさ」
「何を言ってんのよ! 1人2本なのよ! この馬鹿バテア」
 気が付くと、まるでプロレスの力比べのように両手のひらを組み合わせて押し合いを始めてしまったバテアさんとツカーサさん。
 そんなお2人の様子を見つめながら、私とエミリアは2本、リンシンさんは4本、それぞれ自分の分の串焼きを手に確保いたしておりまして、それぞれそれを口に運んでおりました。

 な、なんということでしょう……
 
 味付けは軽く塩こしょうをしただけですのに、たまらない味でございます。
 一口噛みしめるだけで、溢れんばかりの肉汁が口の中に広がってまいります。
 しかも、その肉汁は脂っこすぎず、それでいて舌の上に強烈な自己主張を残していくのです。
 その味を早く味わいたいがために、すぐ2口目を……さらに3口目を……
 その連鎖が止まらないのです。

 私・エミリア・リンシンさんの3人は、感想をいう間すら惜しみながらお肉を口に運び続けていました。

 そんな私達の横では、バテアさんに追い込まれたツカーサさんが、ブリッジをしながら耐えているところでした。
「さぁ、参ったしなさい! お肉はアタシのものよ!」
「やだやだ! 絶対に参ったしないもんね!」
 そんな声が、しばらく店内に響いておりました。

 どうやら、もう少し串焼きを調理した方がよさそうですね。

◇◇

 その夜、タテガミライオンの串焼きを数量限定メニューとしてお店にお出しいたしました。
 
 最初はステーキや、照り焼きなども試してみたいな、と思っていたのですけど、何しろ1頭分しかお肉がございません。
 ですので、1人でも多くの皆様に提供出来る串焼きの形を選択した次第でございます。

「え!? タテガミライオンの串焼きがあるんですか!?」
 本日お店に一番のりなさった役場のシウアさんが、店内の張り紙をご覧になって目を丸くなさっています。
「はい、たまたま入荷いたしましたので数量限定でお出ししております」
「じゃ、じゃあそれください!えっと、何皿まで頼んでいいのですか?」
「はい、少しでも多くの皆様に食べて頂きたいので、1人2皿……」
「2皿! 2皿お願いします!」
 いつも落ち着いた様子でお話をなさるシウアさんが、すごく焦ったご様子で、しかもカウンターから身を乗り出しながら私に注文してこられました。

 でも、確かにそのお気持ちはわかります。
 お昼に試食いたしました、私達も、顔をほころばせながらお肉を味わうことに没頭していきましたもの。
 あの味を少しでも知っておられるのでしたら、間違いなく今のシウアさんのような行動になると思います。

「シウアさんはタテガミライオンのお肉をお食べになったことがおありなのですか?」
「はい、以前ナカンコンベっていう都市に視察に行った際に、タテガミライオンの肉を使ったお弁当を販売している店があったんです。あのとき食べた味が、いまも忘れられなくて……」
 シウアさんは、そう言われながら顔を上気なさっておられます。
 私は、そんなシウアさんのお顔を拝見しながら串焼きを焼いていきました。

 すると、すごい勢いでドルーさんが店内に入ってこられました。
「さ、さ、さ、さわこよ!? こ、こ、この匂いは、まさかタテガミライオンか!?」
「はい、そうですよ。お肉が入手出来ましたので数量限定でお出ししております」
 私が笑顔でそうお答えすると、
「いよっしゃ食うぞ! じゃんじゃん持ってきてくれ!」
 ドルーさんは小躍りなさりながらそうおっしゃっています。
「じゃんじゃんと言われましても……量が少ないのでお一人様2皿までなのです」
「そうケチくさいことを言うでない、皆が来る前にこそっとじゃな……」
「ダメですよドルーさん、不正行為は看過出来ませんね」
「まったく、役場の人間はどうしてこう頭が固いんじゃ、はげるぞシウアよ」
 ドルーさんは、カウンター席にお座りになると、隣に座っておられるシウアさんとそのような会話を交わし始めました。
 そんなお2人の様子を拝見なさりながら、私はドルーさんの分のタテガミライオンの串焼きを新たに炭火コンロの上に並べていきました。

 今夜はどうやら賑やかになりそうですね。

ーつづく
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