異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、居酒屋さわこさん再開 その2

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イラスト:NOGI先生

 お昼を過ぎ、さわこの森の皆さんに昼食を振る舞った私は、すでに居酒屋さわこさんの仕込みも一段落しておりますのでエミリアとラニィさんと一緒にバテアさんの魔法道具のお店の手伝いを行う事にいたしました。
 入れ替わりで、ラニィさんがさわこの森へ移動なさいまして、向こうの作業のお手伝いをなさいます。
 
 以前からやっていたことなのですが、1週間近く間があいた物ですから少々新鮮な感じがいたします。

 そうこうしていると、リンシンさん達居酒屋さわこさんと契約をしてくださっている冒険者の皆様が狩りからお戻りになられました。
「さわこ……今日もいっぱい……」
 笑顔でそう言ってくださるリンシンさんの背中の籠の中には多数のクッカドウゥドルが生け捕りにされていました。リンシンさん同様に、クニャスさん達も背中の籠の中に多数のクッカドウゥドルを生け捕りになさっておられます。
 居酒屋さわこさんの看板メニューになっています焼き鳥の貴重な材料でございます。
「リンシンさん、それに皆様、いつも本当にありがとうございます」
 私は皆様に向かって深々と頭をお下げいたしました。

 このクッカドウゥドルは、私の世界の鶏よりも少々大きいものですから1羽からとれるお肉の量も多いです。

 私が皆様にお礼を申し上げておりますと、横から紙とペンを持ったエミリアが早足で歩み寄って来ました。
「はい、では獲物の集計をしますので全員そのままドントムーブね」
「なんていうのかなぁ、エミリアってば優秀なんだけどもう少し可愛げがあっても良いんじゃないかしら?」
「ホワット? クニャス、なんですか、可愛げって?」
「ほらぁ、さわこみたいにさ『ありがとうございます』って笑顔で言ってくれてもいいんじゃない? いっつ事務的な顔で事務的な応対に終始してるじゃない?」
「感謝はしてますよ。だからこそ皆様の労働の対価をきっちりお支払いさせていただこうと思っているのです。ですからこうして間違いなく記録をとろうとしているのではありませんか。それがバッドだと?」
「あ、いや、悪いってんじゃなくてさ……ん~、なんて言えばいいんだ、これ」
 そう言いながら、クニャスさんは楽しそうに笑っておられます。

 確かにエミリアは超がつくほど事務的です。
 ただ、それは彼女の性格でもあります。
 生真面目で曲がったことが大嫌い、合理的で余計なことをするのも大嫌い。
 ただ、だからといって冷たいわけではありません。
 その証拠に、居酒屋さわこさんのテーブルの上にはお水と握り飯がおかれています。
 これは、エミリアが自分で準備してくれたものです。
 集計が終わり、クッカドウゥドルをさわこの森の飼育場へ放って来た人から、ここで一服出来るように配慮してくれているのです。
 みんなそれがわかっているからこそ、軽口を言いながらもエミリアの指示にきっちり従ってくださっているのです。

 エミリアは集計を終えると、その集計表を私に見せてくれました。
「昨日までのデイリーの報告はベッドに置いておいたので見てくれているわよね? これが今日の分よ。成果はやや下がり気味かしら……そろそろクッカドウゥドルの群れが移動を開始し始めているのかもね」
「あぁ、それなら大丈夫ジュ」
 少し表情を曇らせたエミリアに、鼠人のジューイさんが声をおかけなさいました。
「今の群れは確かに移動を開始したジュ、でも北から新しい群れが南下してきてるのを確認してるジュ」
「オー! それは朗報ね!」
 ジューイさんの言葉を聞いたエミリアと私は、満面の笑顔を浮かべました。
 ジューイさんを始め、さわこの森からお戻りになった皆様は握り飯を口にお運びになられながら、お水を飲まれていました。
「ま、そういう訳だから、まだまだ頑張るよ。他の魔獣も狩ってくるから期待しててよね」
「罠も仕掛けた……期待……」
 クニャスさんとリンシンさんが笑顔でそうおっしゃいました。
 そのお言葉に、私は、
「はい、よろしくお願いいたします」
 そう言うと、再度頭をさげた次第でございます。

◇◇

 握り飯を食べ終えた冒険者の皆様は、

 ジューイさんは街に買い物に
 クニャスさんは宿に戻って一眠り
 ルカさんは新しい武具を買うために武器屋へ

 そんな感じで、ここで一度解散なさってそれぞれの思惑で行動を開始なさいます。
 そして、居酒屋さわこさんの営業が始まる頃合いに、まるで示し合わせたかのように再集合なさるのです。

 リンシンさんは、
「新しい罠……作ってくる……」
 そう言うと、2階にあるご自分の部屋へと移動なさいました。
 そこで、明日仕掛けるための罠の準備を行われるのでしょう。

 ちなみに、今朝の罠にはタテガミライオンという、このあたりでは珍しい魔獣がかかっていたのです。
 このタテガミライオンはもっと大陸の東部、ブラコンベという辺境都市がある一帯に多く生息している魔獣なのだそうですが、この魔獣のお肉は非常に美味なのだそうでして、この国の中心の王都というところでも大変高値で取引されているのだそうです。
「さわこ、タテガミライオンはどうするの? 卸売市場に売りつける? それなら私が思いっきりふっかけてやるわよ。アハン?」
「そうですね……確かにそれもいいかもしれませんけど……せっかくのいいお肉なのですし、常連客の皆様に味わって頂きましょう」
 私は、リンシンさんが切り分けて持ってきてくださったお肉の塊を見ながらそう言いました。
 そんな私にエミリアは
「OK、ま、さわこならそう言うと思ったわ」
 そう言ったのですが……どうしたのでしょう? 
 エミリアは、なぜか急にキョロキョロし始めました。
 そして、周囲に人がいないのを確認すると、私の耳元に口を寄せてきたのです。
「……さわこ……あの……もしよかったら、少しそのタテガミライオンのミート……味見させてくれないかしら?」
「あらあら」
 エミリアの申し出に、私は思わず笑顔になってしまいました。

 いつも生真面目なエミリア。
 そのエミリアが、頬を赤くしながらいわゆるおねだり的なことを言っているのです。

「……その……た、タテガミライオンのお肉って、美味しいって聞いたことはあるのだけれど、今まで一度もイートしたことがないの……それで、とても気になってしまっているのよ」
「そうですね、私もこのお肉は始めてですので興味があります。では、一緒に試食しましょうか」
 私とエミリアは笑顔で頷き合いました。

 その時です。

「アタシもアタシも~!」
 そんな私達に真横で、近所のツカーサさんが笑顔で右手を挙げてこられたのです。
「ホワット!? つ、ツカーサ!? い、いつのまに!?」
「さ、さっきまでどなたもおられませんでしたのに!?」
 エミリアと私はびっくり顔でございます。
「え? なんかさ、美味しそうな気配を察知した……みたいな?」
 ツカーサさんは、そんな私達の視線の先でえへへと笑っておられます。
 その笑顔に、私とエミリアも苦笑することしか出来ませんでした。
「…では、試食は3人でいたしましょうか」
 私は、そう言いながら包丁を手にしていきました。

 さて、このお肉……どうやって調理いたしましょう。
 腕がなります。

ーつづく



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