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連載
さわこさんと、居酒屋さわこさん再開 その1
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
私の世界のお祭りの翌日のことです。
役場のヒーロさんが嬉しいお知らせを届けてくださいました。
例の、話し合いが無事に解決したそうなのです。
誰が私を誘拐したのか、は、まだ判明してはいないとのことなのですが、
「さわこさんの身辺警護は、今後は役場とさわこさんが協議をした上で最善の方法をとるから」
との役場の案を、上級酒場組と市場の皆様がようやく承諾してくださり、派遣してくださっていた護衛の方々を引き上げてくださることになったとのことでした。
日中、バテアさんの魔法道具のお店の店番をしてくれていたエミリアは、
「両陣営の警護のやつらってばさ、
『さわこはいないから警護はいらないわ、OK?』
って、いくら言っても
『俺達ぁ、ここの警護役で雇われてんだ。金をもらってる以上引き上げるわけにはいかねぇんだ』
って言って聞かなかったのよ。おかげで魔法道具のお店のお客さんにまで迷惑がかかってたわ、シット!」
当時の事を思い出しながら非常ににご立腹な様子でした。
「それは……お客様やエミリアにまで嫌な思いをさせてしまって、申し訳なかったです……」
私が深々と頭を下げると、エミリアは大慌てしながら私の両肩を掴みました。
「ノーノーノー! さわこは何にも悪くないのよ。悪いのはあの馬鹿達なんだから」
「ですが……エミリアにはその間のお店番をお願いしていたわけですし……」
「ノープロブレムよ、ラニィもいたし、それに、ジューイ達はさわこがいないっていったら、察してくれて警護を解いてくれたしね」
「そうでしたか。それはジューイさん達にも御礼を申し上げませんと」
「だから、みんな好きでやってるんだから! さわこはちょっと気にしすぎよ もっとリラックスしなさい」
「ですが……」
私は、エミリアとそんな会話を延々と続けていたのでした。
エミリアが言ってくださっていることもわかります……ですが、やはり気になってしまいますので……
ジューイさん達には、お店を再開した後、ご来店くださった際に改めてお礼をさせていただこうと思っております。
◇◇
そういうわけで、今夜から居酒屋さわこさんを約1週間ぶりに再開することになりました。
私は、ウキウキした気持ちで仕込みを行っていました。
バテアさんとお祭りに行くのもとても楽しかったのですが、やはりこうしていつものお店で営業出来るというのは嬉しいものですね。
さわこの森の皆さんの朝ご飯の後片付けを終えた私は、お昼に販売するための握り飯を作っていきました。
今日は久しぶりに、ご希望の方には店内で食べていただこうと思っております。
あれこれ仕込みを終えた私は、一度さわこの森へと顔を出しました。
昨日、善治郎さんから新しい野菜の種や苗を頂きましたので、それをアミリアさんにお届けがてら、農場やクッカドウゥドルの飼育の状態を見に行こうと思った次第です。
前回訪れてから1週間少々しか経っていないはずなのですが、農場はすごいことになっていました。
元上級酒場組合に所属していたラニィさんのお店の店員だった皆様が手伝ってくださっているおかげでしょう、広さが以前拝見さいた時の1.5倍近くになっていたのです。
アミリア米を栽培している田んぼも非常に広くなっています。
それらを眺めていると、畑で鍬をふるっておられたアミリアさんが、私に気付いて歩み寄って来てくださいました。
「おはようさわこ。ひょっとして新しい種を持ってきてくれたのかしら?」
「はい、そうなんです。あと苗もございます」
私はそう言いながら魔法袋の中から種や苗を取りだしていきました。
「わぁ、これはうれしいわね。しかもこの種も苗も始めて見るものばかりね」
「はい、こちらの世界では見かけたことがなかったオクラやゴーヤなどをお持ちいたしました」
「オーケー! どんな感じに出来るのか楽しみね。早速研究させてもらうわ」
アミリアさんは満面に笑顔を浮かべながら、私が取り出した種や苗を手に取って確認なさっておられました。
その足で、私はクッカドウゥドルの飼育場へ移動していきました。
ここには、リンシンさん達居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者の皆様が毎日のように捕獲してきてくださっているクッカドウゥドルを柵で囲ってある飼育場の中に放って放牧しております。
リンシンさんのお話では、飼育場の敷地内で卵が収穫出来るようになり始めているそうです。
まだ無精卵が多いそうなのですが、徐々にですが有精卵の割合が増え始めているそうでして飼育場の中で生まれたクッカドウゥドルの数が増え始めているとのことでした。
今はまだ微々たる数みたいですけど、このまま順調にいけばクッカドウゥドルを捕縛してこなくても、この飼育場の中だけでクッカドウゥドルをまかなえるようになるかもしれませんね。
飼育場の中を元気に駆け回っているクッカドウゥドルの姿を確認した私は、笑顔を浮かべながらお店に戻っていきました。
◇◇
お昼が近づいてきますと、魔法道具のお客様に混じってリョウガさんがお見えになられました。
リョウガさんは、魔法道具のお店で販売している握り飯弁当を毎日買いに来てくださっている常連さんです。
「おや、今日はさわこさんがいるんだね。なんだか久しぶりだ」
「リョウガさん、ご無沙汰してしまいまして申し訳ありませんでした。今日から戻りましたのでまたよろしくお願いいたしますね」
「あぁ、こちらこそ」
リョウガさんは笑顔でそう言ってくださると、いつものように握り飯弁当を5つ購入してくださいました。
リョウガさんは、私が不在だった際も毎日握り飯弁当を買いにきてくださっていたそうです。
本当にありがたいです。
リョウガさんをお見送りしてしばらくいたしますと、今度はドルーさんが店内に姿を見せてくださいました。
ドルーさんは私の顔を見るなり、満開の笑顔を浮かべてくださいました。
「おぉさわこ! 今日から上級酒場組合共の警護がなくなると聞いておったが、それでさわこもこっちに復帰というわけじゃな」
「はい、そうなんです。改めましてこれからもよろしくお願いいたしますね」
「そりゃこっちの台詞じゃわい。こちらこそよろしくな、さわこ」
そう言うと、ドルーさんは居酒屋さわこさんのスペースへと移動なさいまして、そのままカウンターの席にお座りになりました。
先ほど購入なさったばかりの握り飯弁当をすでにお開きになられています。
「どれ、久しぶりにここで飯をいただくとしようかの。さわこよ、肉じゃがはあるかの?」
「はい、ございますわ」
「じゃあ、それを一皿もらおうかの。あと、飲み物もじゃな……」
「あら、ドルー。昼からもまだ大工仕事があるんでしょ? 当然飲み物はお水よね?」
「うぐ……バテアよ、そう冷たいことを言うでない……さわこの復帰祝いではないか……の、一杯だけ」
ちょうど薬草採取から戻ってこられたバテアさんに一言言われたドルーさんは、肩をすぼめながらバテアさんを拝んでおられます。
そんなドルーさんを、バテアさんは苦笑しながら見つめておられました。
「さわこ、こんなこと言ってるけどさ……どうする?」
「そうですね……どうしましょうか?」
バテアさんの言葉に、私も苦笑せざるを得ませんでした。
ドルーさんは、そんな私とバテアさんを交互に見つめておられます。
「おいおい、さわこもバテアも、ワシをいじめるでない……な、一杯だけ日本酒を……な」
必死に手を合わせながら懇願なさるドルーさんなのですが、そんなドルーさんの前に、エミリアがお冷やの入ったグラスを差し出しました。
「はい、ウォーターよ」
「な、なんじゃ!? エミリアまでワシの敵か!?」
「ホワット? 私は常識的な対応をしたまでよ」
「うぐ……そ、そりゃそうじゃが……」
エミリアの言葉に、ドルーさんは思わず口ごもられました。
そんなドルーさんの様子を見つめながら、私・バテアさん・エミリアの3人は思わず声を漏らしながら笑っていたのでした。
ーつづく
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