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さわこさんと、夏祭りパルマ紀行 その3

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イラスト:NOGI先生

 ティーケー海岸でこの1日屋台を出した私とバテアさんは、その夜はトツノコンベの家に戻って一泊いたしました。今日はラニィさんも一緒です。
 ラニィさんは、日中エミリアと一緒にバテアさんの魔法道具の店番をしてくださりながら、居酒屋さわこさんの店舗部分を綺麗に掃除してくださっています。
「昼間に役場のツチーナさんがお店にこられましたわ。なんでも事態の収拾にはもうしばらくかかるとの伝言を承りましたの」
「そうですか、わかりました。ラニィさんありがとうございます」
 ラニィさんに頭を下げた私は、視線をバテアさんに向けました。
「……バテアさん、まだお店を再開出来そうにないですね……」
「そうね……じゃあ、明日は気分を変えてどこか別の場所の夏祭りに出向くとしますか」
 
 行き先はバテアさんにお任せいたしまして、私達はティーケー海岸のお祭の話題を肴にしながらお酒を飲んでおりました。
 私とバテアさんが寝室のベッドに腰掛けておりまして、リンシンさんとラニィさんが床に敷いてあるお布団の上に座っておられます。
 私、こうして皆さんとお話する時間が大好きなんです。
 昔から、みはるや和音、なちこといった学生時代の親友達ともよくこうやって語り明かしたものです。

 本日の晩酌には酒一筋の夏純米 をいただいております。
 キリッと引き締まった味が涼を運んで来てくれるお酒です。

 も、もちろん今日は節度を持って頂きますよ……今朝やらかしてしまったばかりですので……

◇◇

 翌朝、無事普通に目覚めた私は居酒屋さわこさんの厨房でみなさんの朝ご飯と、屋台で販売する料理を調理いたしました。
 二十数名分の食事を準備するのは大変ですけど、元の世界で居酒屋を経営していた頃から考えればすでに十年近くそういった調理を行い続けていますので、あまり苦には感じません。

 その後、さわこの森に戻っていかれたワノンさん達と、狩りに出向かれるリンシンさん達契約冒険者の皆様、そして、今日もちゃっかり朝ご飯に加わっておられたツカーサさんを、それぞれお見送りした私は、魔法袋に料理や調味料、お酒を詰めていきました。
「さわこ、準備はいいかしら?」
「はい、バテアさん。準備出来ました」
 そう、言葉を交わした私達は、バテアさんが作成なさった転移ドアをくぐっていきました。

 ドアの向こうは……森の中、でしょうか……
 木々に覆われている一帯に私達は出現いたしました。
「バテアさん、この森のどこかにお祭をしている集落があるのですか?」
 私は周囲を見回しながらそう言いました。
 するとバテアさんは
「何を言ってるのよさわこ、ここがそのお祭会場のど真ん中よ」
 クスクス笑いながらそう言われました。
「はい?」
 そう言われて、私は改めて周囲を見回しました……ですが、周囲にはやはり家らしき建物どころか、人っ子一人おられません。
 やたら鳥のさえずりは聞こえていますけど……
 首をかしげた私なのですが、その時でした。
「あなた達もお祭に来たっぴ?」
 不意に女の子の声が聞こえてまいりました。
 その声は……屋台の上の方から聞こえてきた気がいたします。
 私がその声の方角へ視線を向けますと……屋台の屋根の上に1羽の大きな鳥が……い、いえ、違います。
 両手が羽になっている女の子がそこにとまっていたのです。

 その女の子は、両手が羽になっているだけでなく、その膝から下も鳥の足になっておられます。
 ヘソ出しタンクトップとミニスカートをお召しなものですから手足の形状がよくわかります。
 これは、あれでしょうか、亜人の鳥人さんということなのでしょうか?

 私が、始めてお目にかかる鳥人の女の子を見つめながら少々困惑しておりますと、バテアさんが笑顔でその女の子に手を振られました。
「夏祭りに参加しに来たんだけどさ、グルマポッポはどこかしら?」
「グルマポッポ様ならこっちだぴ。ついてくるっぴ」
 そう言うと、その女の子は羽を羽ばたかせながら木の上に向かって舞い上がりました。
 私は、その女の子を視線で追いかけていったのですが……そこでびっくりする光景に出くわしました。
 木の上に、無数の建造物があったのです。
 その建造物は渡し板でつながれています。
 そこを、先ほどの鳥人の女の子のように羽をお持ちの方々が、飛んだり、板の上を歩いたりしながら楽しそうに往来なさっていたのです。

 先ほどから聞こえていた鳥のさえずり……あれは、鳥人の皆様の話し声だったのですね。

 ……しかし、先ほどの女の子は「ついてくるっぴ」と言ってくださったのですが……そのお姿はすでに木の上でございます。
 羽などない私は、どうやってあそこまでいけばいいのでしょうか……
 私が困惑していると、バテアさんがそんな私の腰のあたりに腕を回されました。
「え?」
「さ、さわこ、アタシ達もいくわよ」
「え? えぇ!?」
 困惑している私を横抱きになさったバテアさんは、その場で飛び上がられました……いえ、正確には宙に浮遊なさったのでございます。
 これも魔法なのでしょうね……そんなバテアさんに横抱きにされたまま私は、鳥人の女の子を追いかけていくバテアさんに横抱きにされたままの格好で、じっとしていた次第でございます。

 木々の上に出ると、森の木々の一角に、ひときわ高い木がございました。
 鳥の女の子はそこを目指して飛んでいます。
 私を横抱きになさっているバテアさんもその後を追いかけていかれました。

 ほどなくして、その木のてっぺん近くに建設されている小屋の中へと誘(いざな)われました。

 その小屋の中には数人の鳥人の方々に囲まれるようにして、ひときわ大きな体の鳥人さんが座っておられました。
 そのお方は、他の鳥人の方々よりも二回りくらい体が大きくて、七色の髪の毛と同じく七色の羽を持っていらっしゃいます。お年を召されている女性でして、ふくよかなお姿ですね。
 女の子と違って、お顔以外のすべての部分が鳥のお姿です。
 そのお方は、バテアさんと私に気が付かれると人なつこそうな笑顔を浮かべながら私達の方へと歩み寄って来てくださいました。
 そのお方の前に、私達をここまで案内してくれた女の子が立っています。
「グルマポッポ様、お祭の参加希望者を連れて来たっぴ」
「はいはい、お疲れ様でしたねピルピナ…ぷひぃ」
 その方は、女の子~ピルピナと言われるのですね、そのお方を七色の羽で優しく撫でられました。
 そして、その視線を私達に向けてこられたのです。
 その視線がバテアさんへ向けられた時のことですが……同時に、その方は目を見開かれました。
「おやおや、誰かと思ったらバテアではないですか、久しぶりですね……ぷひぃ」
「グルマポッポも元気そうで何よりだわ」
 バテアさんはそう言われると、その方~この方がグルマポッポさんだったのですね、その方に抱きついていかれました。
 グルマポッポさんのお腹の羽毛にうもれていくバテアさん。
「ほら、さわこも来てごらんなさい。グルマポッポのここ、すっごく気持ちいいのよ」
「え? で、でも私は初対面ですし……」
「いいからいいから」
「え、あぁ!?」
 バテアさんは、私の手を引っ張ってグルマポッポさんの羽毛の中に私を引っ張られました。
 ボフンと、その中に埋まってしまった私なのですが……た、確かにここはすごいです。
 あったかで、柔らかで……思わず頬が緩んでしまう感じでございます。

 私は、しばらくその感触を我を忘れて満喫していた次第でございます。

◇◇

 その後、初対面で大変失礼なことをしでかしてしまったことをお詫びした私ですが、グルマポッポさんは、
「いえいえ、むしろ嬉しいですので、またいつでもしてくださってよろしいのですよ……ぷひぃ」
 笑顔でそうおっしゃってくださいました。

 その後、バテアさんが屋台を出すことの許可を取り付けてくださいました。
 それを受けまして、私達はグルマポッポさんにお礼を言った後に、屋台の場所へと戻りました。
「じゃ、屋台(こいつ)を木の上に上げましょうか」
 バテアさんはそうおっしゃられますと、右手を屋台に向けられました。
 その手の先に魔法陣が展開し始めました、それと同時に屋台が宙に浮き始めたのです。

 魔法がさっぱりな私ですけど、さすがにもうこれぐらいでは驚かなくなっていますわ。

 そのまま、屋台の上の一角に屋台を固定してくださったバテアさん。
 再びバテアさんに横抱きにしていただいて、屋台の場所まで移動させてもらった私は、早速屋台の準備を始めました。

 ……あ、でも……焼き鳥は自粛した方がいいのでしょうか……お客様の大半は鳥人さんみたいですし……

ーつづく
 
 

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