異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、お祭りの準備

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イラスト:NOGI先生

 ここ辺境都市トツノコンベは、私の世界ほどではありませんけど暑いです。
 日中に、日陰に打ち水をしてもすぐに乾いてしまいます。
 お店の中は、バテアさんの冷却魔石? という魔法道具のおかげで快適なのですが、外から店内に入ってこられるお客様は、皆様とっても暑そうです。

 そのお姿を拝見したり、戸が開け閉めされる度に伝わってくる暑さを感じておりますと冷たい物を食べたくなってしまいます。

 私は、2階にあがり私の部屋へと移動していきました。
 バテアさんの家は地上3階、地下1階となっております。
 3階はバテアさんの研究室になっています。
 2階は居住空間になっておりまして、1階がバテアさんの魔法道具のお店と私の居酒屋さわこさんの店舗。
 地下室は倉庫になっております。

 その2階の居住空間ですが、寝室とリビングダイニングキッチンと小部屋が2つございます。
 その小部屋を、私とリンシンさんが使用させていただいております。
 小部屋といいましても戸がありませんのでリビングから丸見えなのですが、もともとこの家はバテアさんがお一人で暮らすために設計されておりますので仕方ありません。
 部屋の中は6畳ほどのやや丸みを帯びた空間になっております。
 その中に、私が引っ越しの荷物として持参して参りました箪笥や机、木箱などが置いてあります。
 着物を入れている箪笥は、今はみんながこの着物を着ていますのでリビングの脇に置かせていただいております。
 
 自室に入った私は、雑貨類を詰め込んでいる木箱を開けていきました。
 その中に……ありましたありました。

◇◇

「ホワット? さわこ……それは何?」
 エミリアが、私が2階から持って降りてきた機械を見つめながら首をかしげています。
「これはねエミリア、かき氷機っていうの」
「カキ……ゴオリキ?」
「論より証拠ですね、さ、見ていてくださいな」
 不思議そうな表情でかき氷機を見つめているエミリアの前で、私は魔石冷蔵庫の中から取りだした氷を、かき氷機の上部の蓋を開けて、その中へと入れていきました。
 蓋を閉め、蓋のうえにあるハンドルを回すと、程なくして機械の下部からスライスされた氷が飛び出しはじめました。
 氷は、下に置いておいておいたお皿の中にドンドンたまっていきます。
「ワォ!? 何これ、おもしろい!」
 その光景を、エミリアは目を輝かせながら見つめています。
 氷が山盛りになったお皿を取り出すと、私はその上に魔石冷蔵庫から新たに取り出したシロップをかけていきました。

 このシロップは事前に作成しておいた物です。
 材料は、
 
 酒粕
 牛乳
 オリーブオイル
 生クリーム
 水飴
 塩

 以上になります。
 
 まず、酒粕と牛乳をミキサーで攪拌します。
 ミキサーの電源は充電式のバッテリーを使用しておりまして。バッテリーの充電はみはるにお願いしております。
 攪拌した物を鍋に入れ中火で数分温めます。
 焦げ付かないようにゆっくりかき混ぜながら、オリーブオイルを加えていきましてとろみを出します。
 最後に、生クリームと水飴で味を調え、塩をひとつまみ加えれば完成です。

 今かき氷にかけたのは、この酒粕のシロップでございます。
 その上に、自家製の練乳をかけまして……さぁ、完成です。
「さ、エミリア、食べてみてください」
「お、OK……」
 エミリアは、はじめてみるらしいかき氷に興味津々の様子です。
 ゆっくりとスプーンで氷をすくい、それを口に入れていきました。
「……ワォ……冷たくて甘いし……このお酒の味が甘いクリームにとっても合うわね!」
 感動した様子で声をあげたエミリアは、かき氷をどんどん口に運んでいきます。
「あ、エミリア、一気に口に入れると……」
 私は、慌てて声をかけたのですが……少し遅かったようです……
 エミリアはこめかみのあたりを押さえながら目を閉じています。
「オゥ……何、さわこ、この……頭がキーンとなってるのは……」
 そう言うエミリアを、私は少し困った表情を浮かべながら見つめていました。

◇◇

 この酒粕のシロップのかき氷はですね、近日実施されますトツノコンベの夏祭りで販売しようと考えている一品なんです。
 夜とはいいましてもそれなりに暑いですので、こういった冷たい物が喜ばれるのではないかと思っている次第です。
 大人用のシロップといたしましては、この酒粕のシロップと梅酒のシロップを準備しております。

 梅酒のシロップは梅酒に水飴を少々加えて味を調えておりまして、氷にかける際に梅干しのつけ汁も一かけいたします。
 そうすると梅酒の味が引き締まりますし、色合いも綺麗になるんです。


 もちろん、子供のお客様用に普通のシロップも準備する予定にしております。
 
 あとは、お店でお出ししている焼き鳥のお肉や、マウントボアのお肉を少し大ぶりにした串焼きも準備する予定です。
 もちろんパルマ酒を中心としたお酒も販売する予定でございます。

「グッド! さわこ! このカキゴオリは売れるわ、うん、間違いないわ」
 エミリアは、この酒粕のシロップのかき氷をすっかり気に入ってくれたみたいでして、3杯目を食べ終えまして4杯目の準備を自分ではじめているところです。
 私の作業を見ていて、もうすっかりやり方を覚えてしまったようなのです。
 私とエミリアは、こうしてしばらくかき氷を楽しんでいたのですが、お昼前になりますといつも握り飯のお弁当を買いに来てくださる木こりのリョウガさんがお見えになりました。
「おや、なんだいその冷たくて美味しそうなのは?」
「かき氷ですよ。よかったらお一ついかがですか?」
「え、いいのかい? あ、いつもの握り飯も5つ頼むね」
「はい、喜んで」
 私は、先に酒粕のシロップのかき氷をリョウガさんに手渡しました。
 横では、エミリアがレジの横に置いてあります握り飯を袋に詰めています。
 立ったままかき氷を口になさったリョウガさんは、
「うわ、酒の味がするのに甘いんだ。それに冷たくて美味しいね」
 嬉しそうにそう言われると、すごい勢いで……
「あ、り、りょうがさん、一気に食べられますと……」
 私は、慌てて声をかけたのですが……少し遅かったようです……
 リョウガさんは、先ほどのエミリア同様に、こめかみのあたりを押さえながら目を閉じています。
「さ、さわこさん、何、この……頭がキーンとなるのは……」
 そう言うリョウガさんを、私とエミリアは2人して少し困った表情を浮かべながら見つめていました。

◇◇

 その後、お店に握り飯を買いに来てくださったドルーさんやナベアタマさんにもお試し頂いたところ、お2人とも
「ほう、こりゃいい! 酒の味のする冷たい菓子か!」
「うん、上品で美味しいですね、これはいい」
 とても気に入ってくださったご様子でした。
 その様子を、私は笑顔で見つめていました。

 夕方近くになりまして、エミリアはバテアさんの魔法道具のお店の閉店準備を、私は居酒屋さわこさんの開店準備を始めました。
 狩りから戻られたリンシンさんも着物に着替えて暖簾と提灯を店の前に出してくださっています。
 すると、リンシンさんの横を通って一人の女性が店内に入ってきました。
「あ、さわこさん、もう入っててもいいかな? えへへ」
 そう言って笑われているのは、最近よくお店に来てくださっている虎人のツカーサさんです。
 いつも開店直後にいらっしゃって、お酒よりもお料理を食べていかれるんですよね。
「はい、もう大丈夫ですよ」
 私が笑顔でそう言うと、エミリアがツカーサさんをカウンターの席に案内していきます。
「やれやれ、ツカーサが相手じゃお酌出来ないわね。お酒ほとんど飲まないし」
「えへへ、ごめんね~、あ、さわこさん、焼き鳥と肉じゃがをお願い~」
 苦笑しているバテアさんに申し訳なさそうに頭をさげたツカーサさんは、私に向かってご注文をくださいました。
 私は、そんなツカーサさんに笑顔で、
「はい、喜んで」
 そうお答えしまして、すぐに焼き鳥を炭火焼き場にのせていきました。

 その時です。
 ……気のせいでしょうか、何やら街道の方が少し騒がしいような……

 ーつづく
 
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