異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、営業再開後

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イラスト:くくみす先生

 ジュチさんをはじめといたします中級酒場組合のみなさんの酒場が再開して1週間が経ちました。
 
 中級酒場組合のみなさんの酒場が閉店している間、上級酒場組合の酒場に通っておられた常連のお客様もおられたようですが、ほぼ全てのお客様が戻ってこられたそうです。

 お客様の皆様のお話によりますと、元々中級酒場組合のみなさんの酒場に通われていた皆さんのことを、上級酒場組合のみなさんの酒場はあまり歓迎なさらなかったそうなのです。
 と、いいますのも、もともと上級酒場組合のみなさんの酒場には、この街に暮らしておられる人族の騎士の方や役人の方、大手の商会の経営者の方などの、この街で言いますところの上流階級の皆様が通われているのだそうです。
 ちなみに、ラニィさんのお店は上流階級の皆様のお店の中でも最高とされる至高の4店の1つに数えられているそうですね。ちなみに、この至高の4店という呼称は、この世界の貴族階級の呼称を流用しているそうです。

 ちょうどいい機会でしたのでバテアさんにこの街の事を詳しく教えて頂きました。
「この街はね、辺境都市トツノコンベって言ってね、王都の北方に位置してる商業都市なのよ。北に辺境都市ギアナコンベを中心にした北方辺境連合、東に辺境都市オレタコンベがあってね、それらの都市の中間にあるもんだから王都に本店を構えている商会の多くが、それらの都市へ商売をしに行く中継点として支店を構えていてね結構賑わっているのよ」
 私は、この街ではバテアさんと一緒に市場へ行くか、中級酒場組合のみなさんの集会所まで料理教室を行いに行く以外はほとんど出歩いておりませんでしたので、
「はぁ、そうだったのですねぇ」
 と、今更のようにこの街の状況を知り、頷いた次第です。

 そんなトツノコンベの街中で元気に営業を再開なさった中級酒場組合のみなさんの酒場はこの1週間連日大盛況になっています。
 お出しするお料理とお酒が一新されたのが、やはり一番大きいようですね。
 料理に関してましては、僭越ながら私がお教えさせていただきました肉じゃがや炒め物などが大変好評のようです。数件のお店では焼き鳥の販売も開始されておりますし、アミリア米を使用した焼きおにぎりやお茶漬けなどもメニューに加わり、どれも大変人気になっているそうです。
 私は料理教室の際には
「料理には創意工夫も大切です、皆様のお店の特徴を出せるような、そんなメニューの開発もお忘れなきように」
 との一言を添えさせて頂いております。
 もちろん、味の相談にはいつでものらせていただくことをお伝えさせていただいております。
 皆さん、その言葉を守ってくださっていまして、日々味の研究にも余念がないご様子です。
 日中、仕込み中の居酒屋さわこさんへ、味の相談にいらっしゃる中級酒場組合の皆様がとても多くなっております。
 ……もっとも、ジュチさんだけは、料理の相談の有無に関わらず毎日お店に顔を出してくださっているのですが……どうにも私と話をするためだけにいらっしゃっている気がしないでもありません……


 そして、新たに中級酒場組合のみなさんの酒場に出回ったパルマ酒なのですが、これが大変好評です。
 味といたしましては、ワー子こと和音が杜氏として造っただけありまして、彼女が愛してやまない上善如水のように水のような口当たりの後、芳醇な香りと柔らかい辛みが広がっていき、飲み干すと酸味が口の中を洗い流し、すっきりとしてくれる……そんな味わいを楽しめる出来映えになっています。
 これからこのパルマ酒がどのように進化していくのか、私もとても楽しみにしている次第です。
 このお酒がお料理にもとても合うと大好評でして、ワノンさんの元にも大量の追加注文が入っているそうです。

 ちなみに……バテアさんが召喚されたゴーレムと一緒にお酒を運んで来られたワノンさんは、和音とおそろいの「パルマ酒」と手書きされたシャツを着ておられました。
 ……ワノンさん……そっちの方面は和音に付き合わなくてもよろしいのですが、と、思ってしまったのですが……これはお伝えした方がいいのでしょうか……


◇◇

 とりあえずシャツの件は置いておくことにいたしまして……居酒屋さわこさんも、みなさんのお店に負けじと元気に営業を行っております。
 居酒屋さわこさんの名物料理として定着しております肉じゃがと焼き鳥なのですが、連日閉店前には仕込み分がなくなってしまいそうになるという、うれしい悲鳴をあげております。
 お酒も、居酒屋さわこさんでもパルマ酒を取り扱いさせていただいておりまして、とても好評なのですが、
「バテアよ、ワシはいつもの……」
「はいはい久保田よね、はい」
「そうそう、パルマ酒や他の酒もうまいんじゃが、ワシはこの酒が気に入ってのぉ」
 そう言ってバテアさんから久保田をお酌されているドルーさんのように、以前からお出ししている日本酒を銘柄を指定なさった上でご注文くださる常連の皆様も少なくありません。

 お店は、お酒をお酌したり、お客様と楽しく会話してくださっているバテアさん。
 主に料理を配膳してくださっているリンシンさん。
 お客様のお出迎えとお見送り、お会計を受け持ってくれているエミリア。
 そして、料理を担当している私の4人で切り盛りしております。

 以前、私の世界で営業しておりました居酒屋酒話……お店を畳むことを決めた頃には、誰も来店なさらない店内に一人だけという日も少なくありませんでした。

 それだけに、私は、今のこの時をとても嬉しく思うのと同時に、こうしてご来店くださっている皆様のために精一杯の笑顔と、精一杯のお料理をお出しさせて頂こうと思っております。

「そういえばさわこよ、面白い話を聞いたぞい」
「面白い話……ですか?」
 私はドルーさんへ視線を向けました。
 ドルーさんは、楽しそうに笑っておられます。
「いやな、上級酒場組合の連中と組んで市場の野菜を買い占めしておったポルテントチップ商会じゃがな、野菜をジュチ達中級酒場組合の連中に高値で売りつけるつもりじゃったのが当てが外れたもんじゃからの、仕方なく家畜の餌として二束三文で買い取ってもらっとるそうじゃ」
「まぁ……そうなのですか」
「うむ。あのまま保管しておいても腐って売り物にならなくなるのが関の山じゃしな」
 そう言って、ドルーさんはガハハとお笑いになられました。
 一般都市民相手に野菜を販売なさっている青物店もあるのですが、このトツノコンベでは酒場などの営業用の市場と青物店用の市場が別々に存在しているため、青物店の大半は今回の一件が発生しても仕入れにに困っておられませんでした。それに青物店のほとんどが今回の上級酒場組合とポルテントチップ商会が起こした事件のことをご存じのため
「お宅の商会からは絶対に買わないよ」
 と、はっきり言われる青物店も少なくないのだそうです。

 さらに、ポルテントチップ商会の方々はワノンさんからパルマ酒を買い取ろうとなさっているそうなのですが、こちらの世界にあるワノンさんの酒造工房は、在庫をポルテントチップ商会の方々に全部販売して以降は活動なさっておられないといいますか、そもそも住んでおられませんので、ポルテントチップ商会の方々は必死になってその行方を捜しておられるそうです。
 いくらお探しになられましても、ワノンさんも和音もこちらの世界にはおられませんので、見つかることはないと思うのですけどね。

 また、ポルテントチップ商会の方々は中級酒場組合のみなさまの野菜などの仕入れ元を突き止めようとその後を尾行なさり、その結果たどりついたバテアさんの魔法道具の店の周囲をうろうろなさっておられるのですが、店の裏にあるバテア青空市は隠蔽魔法がかけられているものですから、皆様
「おい、あの中級酒場組合の連中、どこから出て来た?」
「この店の裏の方からだと思ったんだが……」
「でもよ、裏には何にもないぞ?」
 そのような会話を店の近くでなさっておられました。
 
「ポルテントチップ商会の奴らってば、また店の周りをウロウロしてるねぇ」
 バテアさんが楽しそうに笑っておられました。
「そうなのですか?」
 私はその言葉に、そうお返事してから少しだけ笑いました。
 ポルテントチップ商会の皆様には少し可愛そうなことをしてしまったかな、と思うところもございます……ですけど、それ以上のことをジュチさん達中級酒場組合の皆さんになさったのですものね……
「それよりも、私達は居酒屋さわこさんの営業をがんばりましょう」
 私は、少し首を振ってからそう言いました。
 すると、バテアさんはそんな私の心情を察してくださったらしく、厨房で仕込みをしている私の肩を軽く叩いてくださいました。

 それだけで、少し救われた気がいたします。
 
「そういえば、もうすぐトツノコンベの夏祭りねぇ」
「夏祭り、ですか?」
「えぇ、結構賑やかなのよ」
 バテアさんはそう言いながらにっこり微笑みました。

ーつづく
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