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連載
さわこさんと、ラニィさん その3
しおりを挟むイラスト:くくみす先生
なんと言いますか……どうやら私は市場を利用出来なくなってしまったようです。
「『なってしまったようです』って……さわこえらく落ち着いてないか?」
市場からの帰り道。
バテアさんは私を見つめながらそうおっしゃいました。
「そうですね……市場が利用出来ないのはちょっと困りますよね。こちらの世界のお野菜を使用したお料理にも慣れてきておりましたので」
「だったらさ、もっと文句言えばよかったじゃない。市場のやつらだってさ、上級酒場組合の奴らに脅されて仕方なくやってたのって明らかだったじゃない。今からでももう一回文句を言いに……」
「いえ、いいんですよバテアさん」
引き返しかけたバテアさんの腕を、私は掴みました。
「私達が抗議して困られるのは市場の皆様ではありませんか。市場の皆様が板挟みになってしまってお困りになってしまいますし……」
私がそう言いますと、バテアさんは目を丸くなさいました。
「……さわこ……自分が何を言ってるかわかってんの? あんたが一番被害を被ってんのよ、わかってる?」
「はい、そういうことになりますね……ですから」
私は、少し考えた後、バテアさんに
「今後どうやってこの事態を乗り越えるか、考えましょう」
そう言って笑いました。
そんな私の様子に、バテアさんは思わず苦笑なさいました。
「なんというか……さわこらしいと言えば、さわこらしいわね」
「そうなのですか? 自分ではよくわからないのですが」
そうお答えした私なのですが、バテアさんはそんな私の肩を抱きながら笑い続けておられました。
地産地消といたしまして、この世界で収穫されたお野菜を使用出来なくなってしまうのは少し残念ですが、いたしかたありません。
しばらくの間、お野菜は私の世界で購入してくることにしようと思います。
それと、今日のお料理教室で使用するお野菜……私が準備しますと皆さんにお知らせしておりますので、それも私が魔法袋に保存している在庫の中から捻出しないといけませんね。
そんなことをあれこれ考えながら、料理教室の会場へと移動した私なのですが……
「……あ、さわこ~……」
会場に一番乗りされていたジュチさん……なのですが、ちょっと様子がおかしいです。
椅子にお座りになって、精根尽き果てたご様子と言いますか……
ジュチさんは、私の姿を見るなりよろよろと私の元に歩み寄ってこられまして、そのまま私に抱きついてこられました。
「ひゃあ!? ど、どうなさったのですか、ジュチさん!?」
びっくりしている私。
その横では、バテアさんが
「こらジュチ! さわこに何してんのよ!」
声を荒げながらジュチさんを引き剥がそうとなさっていました。
その後、中級酒場組合の酒場の皆さんが徐々に会場に姿を現されてきたのですが……皆様、ジュチさん同様にどこかお疲れのご様子なのです。
「皆様、いったいどうなされたのですか?」
私は思わずそうお聞きしたのですが、
「それがさぁ……」
私の言葉を聞いたジュチさんがおもむろに口を開かれました。
ジュチさんのお話によりますと……
なんでも、市場の野菜がある商会によって全て買い占められていたんだそうです。
そしてその商会がすっごく高い値段で中級酒場組合のお店に売りつけようとなさっているんだとか……
「いったい、なんでそんなことを……」
私が首をひねっていると、ジュチさんは
「……それがさぁ……原因はさわこなんだよなぁ」
「はい? わたし?」
「あぁ……なんでもさ、アタシら中級酒場組合がさわこと縁を切るなら、通常価格で販売してやるって言って来てるんだ……」
「はぁ!?」
ジュチさんの言葉に、私は思わず声を荒げてしまいました。
正直、怒っています。
えぇ、大変怒っております、私。
「ジュチさん、その商会はどういう名前のお店なのですか?」
「え? あぁ、確かポルテン……なんとかって言ったっけ。なんかここらじゃ聞かない商会なんだけど……」
「お店はどこにありますか?」
「商店街のはずれにあった空き店舗に入居してるみたいだけど」
そこまでお聞きした私は、その足で出口に向かって早足で進んで行きました。
「ちょ!? さわこ!? どこ行くの」
「ちょっとそのポルテンなんとか商会様のお店に出向きまして抗議してまいります」
「は、お、おい、ちょっと待ってって、さわこ!」
「いいえ、待ちません! 私個人に嫌がらせをするのでしたらまだしも、私の大切な友人の方々に嫌がらせをするなんて言語道断です! どうせ上級酒場組合の方々の嫌がらせなのでしょう? ちょっと行って一言申し上げてまいります!」
ジュチさんが必死に私の手を握って止めようとなさっています。
ですが、私はお構いなしとばかりに前進していきます。
昔からそうなんです……
私、自分のことで怒ることはあまりないのですが、友人のこととなると見境がなくなるといいますか……
その後、私は5人がかりで制止されつつ、バテアさんに
「さわこ、頼むから落ち着いて!」
耳元で何度もそう言われてようやく我に返った次第です。
「……お恥ずかしい」
皆さんの前で椅子に座っている私は、顔を真っ赤にしたままうつむいていました。
ホントに……後先考えないで先走ってしまいまして……穴があったら入りたい心境です……
そんな私を見つめながら、ジュチさん達は笑ってくださっていました。
「いやいや、むしろ嬉しかったよ。アタシ達のことでここまで怒ってくれてさ」
「え?」
「だってさ、アタシ達のことであそこまで怒ってくれたんだろ、さわこってば」
「え、えぇ……まぁ」
「やっぱ、嬉しいじゃないか。それってば上級酒場組合じゃなくてアタシ達を選んでくれてるってことだろ? それにさ、『私の大切な人』って言ってくれたし……」
ジュチさんはそう言いながら顔を赤くなさっていますが
「いえ、そこは違います。私は『私の大切な友人の方々』と言いましたし、そう思っています。ジュチさんを特別扱いした言い方はしておりませんので」
思わず真顔でそう言ってしまいました。
ジュチさんってば、油断も隙もありません、ホント……
私とジュチさんがそんなやりとりをしていると、何やらバテアさんが考えこんでおられました。
「バテアさん、どうかなさったのですか?」
「ん? あぁ……ちょっと気になることがあってさ……」
そう言うとバテアさんは視線をジュチさんへ向けました。
「ジュチ、さっきアンタ『ポルテンなんとか商会』とか言ったけどさ……それってひょっとして『ポルテントチップ商会』って言うんじゃない?」
「あぁ! それそれ! その名前だった!」
「ふ~ん……そっか」
そう言うと、バテアさんは再び腕組みしながら考えこみ始められました。
「あの……バテアさん、そのポルテントチップ商会というお店、ご存じなのですか?」
「いえね……アタシの師匠からさ……そんな名前の悪徳商会があったってのを聞いたことがあったなぁ、って思い出してね」
「バテアさんのお師匠様ですか?」
「えぇ、師匠とは数年に1回会ってお茶会してるんだけどね、こないだ仲間のシルルクって魔法使いが旦那をもらったとかでお祝いのお茶会があってさ、その時に聞いたんだよ」
「じゃあ……その悪徳商会が上級酒場組合と結託しているということですか?」
「……まったく、王都にあった上級魔法使いのお茶会倶楽部もろくなグループじゃなかったけど、上級酒場組合もたいがいだね、そんなクソみたいな商会と手を組むなんて」
バテアさんが忌々しそうにそう言われていると、不意に部屋の戸が開きました。
そこに姿を現したのはワノンさんでした。
「あぁ、さわこにジュチ達、ここにいたんだわね」
ワノンさんはそう言いながら私達の方に歩み寄ってこられました。
「ワノンさん、何かあったのですか?」
「何があったもなにも……さっきさ、ポルテントチップ商会とかいう店の奴らがやってきてアタシが作ってる酒を全部買い取らせろって言って来たんだわ」
その言葉に、部屋の中にいた全員が目を丸くしてしまいました。
ーつづく
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