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さわこさんと、ワノンさん その4

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イラスト:くくみす先生

 きょとんとしている、私・みはる・和音(わのん)の3人の前でバテアさんは
「うん、そうよ。だからさ、あんたのとこで1人……そうそう、あんたのやり方とは違うと思うけど酒造りの経験がある女の子でね、うん……そう、わかったわ」
 しばらくそんな独り言を続けておられました。
「……ねぇさわこ、バテアさんってば何してるの?」
「ごめんなさい……私もなんと言っていいのか……」
 私とみはるが互いに顔を見舞わせながら首をひねっていると、
「よし、話がついたわ。さ、そこのちびっ子、ついてらっしゃい。さわこも行くわよ」
「え? あ、ちょ、ちょっと待ってください!? まだ、用事が……」
 いきなり立ち上がったバテアさんが和音の手を引っ張って店を出て行こうとしたものですから、私は慌ててみはるから今日までの売り上げを受け取り、パワーストーンとして販売してもらう魔石を交換いたしました。
「また来てね~! 次回はもっとお話しましょう」
「うん、わかった! また来週来るね」
「みはるちゃん、今日はごめんね、急に押しかけちゃって」
 私・和音・バテアさんの三人は、みはると手を振って別れました。

 その後、
「さわこ、ここは譲れないわ、ここは寄っていくわよ」
 バテアさんのたっての要望で、ショッピングモールの1階に出店しているサンジュウイチアイスクリームを購入しました。
 バテアさんってば、すっかりこの世界のアイスにはまってしまったご様子です。

 その後、私達はバスに乗り、いつもの繁華街へと戻りました。


「ここ、さわこちゃんが前にお店をやってたとこの近くだよね……そこのビルの先って行き止まりじゃなかったかしら?……ねぇ?」
 怪訝そうな表情を浮かべている和音ですが、すでに慣れている私とバテアさんは普通にビルの間に入っていきます。
「とりあえず、和音はバテアお姉様が着いてこいと言われるのでしたらどこまででも着いていきますけど……えへへ」
 和音はバテアさんのホットパンツの後ろポケットあたりに指を入れながら、頬を染めています。

 ……そうでした。
 和音ってば、昔からすっごいお姉ちゃん子だったんです。
 そのせいか、お姉さんの面影を持っている女性にすぐ惹かれてしまうといいますか……女性を恋愛対象にしているというわけではないのですけどね……多分。

「さ、行くわよ」
「はい、バテアお姉様……エヘヘ」
 バテアさんに腕を引かれながら、和音は転移ドアをくぐっていきました。
 私もその後に続きます。
「バテアさん、和音を向こうの世界につれていっていいのですか?……確か、こちらの世界の人間をあちらの世界につれていくのはあまりよろしくなかったのではありませんでしたっけ?」
 私の言葉に、バテアさんは少し考えを巡らせた後、
「まぁ、もう1人ぐらい大丈夫じゃないかしら。それにさ……さわこの友人が困っているんだし、なんとかしてあげたいじゃない?」
 そう言いながら、悪戯っぽくウインクなさいました。
 その男前な横顔に、私まで一瞬ドキッとしてしまいました。
 ……なんといいますか、いろんな意味で反則ですよね、バテアさんってば。

 転移ドアを抜けると、バテアさんの世界にあるバテアさんのお店の中です。
 
 ですが


 バテアさんを見ながらニコニコしている和音は、自分の周囲の光景が激しく変化したことにまったく気付いていないようです。
 その様子を見ながら私は、和音がよく今まで危険な目にあわなかったものですね、と、思うのと同時に、和音のお姉さんが過剰なまでに和音のことを気にかけていた理由がよくわかった気がしました。


 その後バテアさんの案内で、私達はお店を出て街道を進んでいきました。
 途中で森へ向かう道に入り、その奥へと向かっていきます。
 ほどなくして、その先に大きな木の壁のような物が見えてきました。
 その壁に近づきますと、それは大きな建物の壁だったのです。
 その玄関らしき場所の前に立った時でした。
 ようやく我に返った和音がですね、周囲が見知らぬ森の中になっていることにやっと気付いたらしく、
「な、なんじゃこりゃあ!?」
 目を丸くしながら大声をあげました。
 すると、
「うるさいんだわ! 誰よ、アタシの酒造工房の前で大声上げてるのわ?」
 そう言いながら、ワノンさんが玄関らしき扉から姿を現しました。
「え? さ、酒造工房!?」
 その言葉に敏感に反応した和音が、ワノンさんへ視線を向けました。
 ワノンさんは、そんな和音をジッと見つめていたのですが、その視線をバテアさんへ向けると、
「バテア、さっき思念波で話してきたアタシの工房で雇って欲しいっていう女は、こいつだわ?」
 そう言いました。
「えぇ、そうよ。酒造りの経験はあるらしいわ……もっとも、ワノンのやり方とは違うと思うわよ。この和音、この世界の人間じゃないからね」
 バテアさんは、そう言いながらクスクス笑っています。

「あの……バテアさん」
 私はそんなバテアさんの腕を少しつつきました。
「なぁに、さわこ?」
「あの……先ほどからお2人が言われています『思念波』って、なんですか?」
「あぁ、そっか、さわこはわからないわね。思念波っていうのはね、頭から思念波っていう魔法を飛ばして遠くにいる相手と脳内でお話しをする魔法のことよ。まぁ、相手も思念波魔法が使えないと会話出来ないんだけどね」
「はぁ……そうなのですか?」
 私は、バテアさんの説明をお聞きしながら首をひねり続けていました。
 魔法とかふぁんたじぃ? といった物にいままでほとんど触れたことがないまま今を迎えている私では、そんなお話をお聞きいたしましてもさっぱり理解することが出来ません……
「まぁ、そんなもんってくらいに思っておきなさいな」
 バテアさんさはそう言って笑っておられますけれど、もう少しくらい理解出来るようになりたいものです……

 と、とりあえずですね、先ほどみはるのお店にいた際に、バテアさんがこの思念波? を使用なさってお酒を造っておられるワノンさんとお話をしてくださり、お酒を造れる場所で働きたがっている和音のことを紹介してくださったわけです、はい。

 そんな私とバテアさんの横には、ワノンさんと和音がいるのですが……
「あんた、酒を造れるんだわ!?」
「は、はい! そ、それよりもここ、お酒を造ってる工房なんですか……うわぁ!?」
「あ、あぁ、そうなんだけど……どうかなあんた、ここで働いてみないだわ?……いや、ぜひ働いてほしいだわ。それでお前のお酒の造り方を教えてくれないだわ?」
「ふえぇ!? い、いいんですかぁ!? ここで私働かせてもらっても、いいんですかぁ!? こ、こちらこそぜひぜひお願いしたいです! ……はいぃ」
 なんか、ワノンさんと和音は、そんな会話を交わしながらお互いに何度も何度も頭を下げ合っていました。
「と、とりあえず……話がうまうまとまったようですね」
「そうね、とりあえずこれで一件落着……ってやつかしら?」
 そう言うと、バテアさんは私の肩をポンと叩かれました。
 そんなバテアさんに、私は微笑みかけていきました。

◇◇

 夜になりました。

 私は居酒屋さわこさんの厨房に立っています。
「さわこさん、焼き鳥とお酒もらえるクマか」
「はい、マクタウロさん喜んで」
 常連の冒険者の熊人、マクタウロさんに笑顔で返事を返した私は、早速焼き鳥を炭火コンロの上に並べていきました。
 マクタウロさんは食事を始められると連続して5人前くらい焼き鳥をご追加注文なさいますので、おまたせしないように事前に焼き始めておきます。
 お酒は、今日は久保田の千寿をおすすめさせていただきました。
 さらりとした舌触りで、一口含むと口の中いっぱいに穏やかな香りが漂っていく辛口のお酒です。
 いくら飲んでも飽きがこないお酒でもありますので、いつもたくさん飲まれるマクタウロさんにはぴったりかな、と思った次第です。

 ワノンさんと和音もお店に顔を出す約束になっているのですが、まだ姿は見えません。

「なんかさ、あの2人ってばちょっと似てたよね」
 お酒をお酌して回っているバテアさんが笑いながらそう言われました。
「2人ともさ、お酒を造るのが楽しくて仕方ないって感じだったし、多分今もお酒造りの話に熱中し過ぎてて、ここにくる約束のことも忘れているんじゃないかしら?」
「ふふ……言われてみれば、そうかもしれませんね」
 バテアさんの言葉に、私も思わず頷きました。

 結局、2人がお店に駆け込んできたのは、閉店まであと少しという時間になってでした。
 そんな2人を、私達は笑顔で迎えました。

 お店は閉めましたけど、その後私達は遅くまで楽しくお酒を飲みました。

ーつづく
 

 




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