異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、ワノンさん その1

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イラスト:くくみす先生

 ジュチさん達、中級酒場組合に加盟なさっている酒場の皆様に料理をお教えさせて頂き始めて2週間が経ちました。

 料理教室は週に2回開催させていただいておりますので、これまでに4品のお料理をお教えさせていただいたことになります。

 最初の肉じゃがに始まりまして、

 千切りにしたジャルガイモや細かく刻んだ野菜を卵でとじたジャルガイモオムレツ
 土鍋で炊いた御飯を使った焼きおにぎり
 白菜風・きゅうり風の野菜を使った浅漬け
 
 そういったなるべく簡単で、それでいて美味しい料理を皆さんにお教えさせていただいています。
 焼き鳥もお教えさせていただこうとしたのですが、クッカドウゥドルをさばくところから作業を行わせていただこうとしましたところ、皆さん、お肉の部位をうまく見分けることが出来なかったんです。
 慣れればそんなに難しくはないと思うのですが、やはり慣れていないと、どれがどの部位になるのかいまいち判断がつきかねるご様子でした。
 焼き鳥に関しましては、希望者の方には全体のお料理の指導が終わった後、個別にお教えさせていただくことにさせていただいております。
 今のところ、ジュチさんをはじめ7人の方が熱心に参加なさってくださっています。

 ちなみに、土鍋で御飯を炊いたことで、その味を体感なさった皆さんは
「うわ? コメがこんなにうまいなんて!?」
「これは是非ともウチの店でも扱いたい!」
 口々にそうおっしゃってくださいました。
 そこで私は、アミリア米を紹介させていただきまして、
「この味は、このお米でないとだせないのです。ご希望の方には、アミリアさんにお願いしてアミリア米を斡旋してもらいますわ」
 そう皆さんにお伝えさせて頂きましたところ、
「「「ぜひお願いします!」」」
 と、参加者の皆様全員がそうおっしゃってくださいました。

 アミリアさんは、今はバテアさんが偶然見つけられた再生中の異世界、通称「さわこの森」に移住なさっておられまして、そこで野菜などの研究をなさっています。
 研究所としてご使用なさっていた家を魔法のカプセルに入れて引っ越ししてこられたアミリアさんは、その際に試験的に野菜などを育てておられる田んぼや畑も一緒に移動なさっておられました。
 アミリアさんは、その田んぼでアミリア米の生産をなさっておられるのです。

 そんなアミリアさんに、ジュチさん達中級酒場組合の皆さんへアミリア米を斡旋してほしいとのお願いをさせていただきましたところ、
「もちろん大歓迎よ、さわこ! いくらでも売ってあげるわぁ!」
 大変感動なさったご様子でそうおっしゃられながら、私を抱きしめてくださいました。
 その……かなり豊満なお胸で私の顔が挟まれてしまいまして、あやうく私、窒息してしまうのではないかと思ってしまった次第でございます。

 こうして、アミリア米の販売先が一気に増えました。

 アミリアさんは、この研究所で野菜の研究も続けられています。
 先日私が、私の世界から買って持ち帰ってきました野菜の種を使ってあれこれ実験をなさっておられます。
 この世界には、私の世界の野菜とよく似た野菜がたくさんあるのですが、その多くが私の世界の物よりも小さかったり痩せ細っているのです。
「まかせてさわこ、種があるんだもん、楽勝よ! こっちの世界の野菜を、きっとあなたの世界の野菜並に育てて見せるわ」
 アミリアさんは、そう言いながらはりきっておられます。
 なんといいますか、本当に頼もしい限りでございます。

◇◇

 
 今日も居酒屋さわこさんの営業時間がやってまいりました。
 着物にたすき掛けをした私は、玄関前に、桶に入れた水をひしゃくでまいていきます。
 そんな私の姿を、提灯と暖簾を出してくださっているリンシンさんが怪訝そうな表情を浮かべながら見ておられます。
「さわこ……何で水を、外に捨ててる?……」
「いえ、これは捨てているのではないのですよ。打ち水といいまして、玄関前を涼しくするとともに清めまして、ご来店くださるお客様を気持ちよくお迎えさせていただこうとしているのです」
「ふ~ん……」
 リンシンさんは私の説明をどこかよくわからないといった様子でお聞きになっておられます。
 そうですね、こればっかりは文化の違いといいますか……実際、私の世界でも海外の方にこの打ち水をご説明させていただいても、今のリンシンさんと同じ反応をなさっておられましたもの。こちらの世界の住人であるリンシンさんに理解してくださいと言う方が、それは困難だろうと思った次第でございます。

 そんなリンシンさんと店内に戻りまして、あれこれ作業を行っておりますとお店の玄関が開きました。
「さわこ~、こんちわ!」
 今日の一番のりは冒険者のクニャスさんでした。
 クニャスさんはいつもの元気な声と笑顔でお店に入ってこられました。
「いらっしゃいませ、クニャスさん」
 私は、そんなクニャスさんを笑顔でお迎えいたしました。
「最初はいつものでよろしいですか?」
「うん、それでお願いね。あとお酒もいつもので」
「はい、よろこんで」
 クニャスさんのお言葉を受けまして、私は早速クニャスさんの「いつもの」を準備していきました。

 クニャスさんのいつもの
 それは、クッカドウゥドルの手羽先の唐揚げです。
 そしていつものお酒は上善水如でございます。

 上善水如が大のお気に入りのクニャスさんは、居酒屋さわこさんで始めての瓶キープをなさったほどなのです。

 本日最初のお客様ですので、私が直接手羽先の唐揚げが山盛りになったお皿をクニャスさんの元へお運びいたしました。
「はい、お待たせしました。手羽先の唐揚げです」
「はいはい、お待ちしてましたよぉ。今日は絶対ここでこれを食べるんだ!って決めてたんだ」
 クニャスさんはそう言うが早いか、手羽先の唐揚げをフォークで突き刺して口に運ばれました。
 フォークをご使用なさるのはいつも最初だけ。
 すぐに両手で手羽先を掴んで美味しそうにむしゃぶりついていかれます。
 私は、そんなクニャスさんの横にお手拭きを置いておきました。

 この世界では、このお手拭きを準備するのも大変なお仕事です。
 私の世界のように、お手拭きの配送・回収サービスなんてありませんので、全てを手洗いし、干し、水で湿らせて丸くまとめていかなければなりません。
 これもお客様のためです。
 私はこの作業を毎日おこなっております。

「さわこ、お酒の方はアタシが相手するよ」
 そう言いながら、上善水如の瓶とグラスを手にしたバテアさんがクニャスさんの隣に座られました。
 グラスは、当然のように2つあります。
「ちょっとバテア、あんたまたアタシのお酒を拝借するつもりでしょう?」
「まぁいいじゃない、こんないい女が隣で酌をしてやろうってんだよ?」
 クニャスさんとバテアさんは、楽しそうに笑い合いながらお酒の入ったグラスを重ねておられます。
 このお2人は、かなり長いお付き合いだそうでして、とても仲良しなんですよね。
 そんなお2人の様子を笑顔で見つめていると、再びお店の扉が開きました。
「いらっしゃいませ」
 私は、笑顔で声をあげていきました。

◇◇

 今日も、開店してすぐにお店の中はほぼ満席になりました。
 その多くが常連の皆様です。
 こうして、足繁く通って頂けて本当に感謝の気持ちでいっぱいでございます。

 そんな中……

 はじめてのお客様がご来店なさいました。
 接客に出てくれたエミリアが、そのお客様を空いていたカウンターの席へお通ししてくれました。

 外套を目深に被っておられますが、綺麗な銀髪がのぞいておられます。
 女性の方のようですが、そのお方は席につくなり私の後方に並べられているお酒の瓶を眺めておられます。
「……これ、全部お酒だわの?……見た事が無いものばかりだわねぇ」
 そう言うと、そのお方は外套を外されました。
 なんでしょう……見た感じ、ドルーさんやそのお弟子さん達とどこか似た雰囲気を感じます。
「あの……」
「はい、なんでしょう?」
「そこの酒を、適当に1杯ずついただけるわだの? ちょっと味を見てみたいだわ」
「はい、それは構いませんが……お客様、お好みはございますか?」
「好み?」
「はい、辛めがお好きとか、甘めがお好きとか……」
 私がそう言うと、その女性は目を丸くしながら改めてお酒の瓶へ視線を向けられました。
「何? このお酒は全部味が違うだわの?」
「はい、そうですわ」
 私が笑顔でお答えすると、その女性は私の顔を見つめながら更に目を丸くなさっておられました。

ーつづく
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