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さわこさんと、農場 その3
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イルタドーリ温泉でしばらくのんびりした私達は、ほどなくして温泉からあがりました。
もう少しのんびりしたいのですけれど、あくまでも開店前に少しのんびり……そういったコンセプトですからね。
それでも時間にして30分近くは湯船に入ったり半身浴にしたりしながら、私達は会話を満喫しつつお酒を堪能いたしました。
バテアさんの転移魔法でお店に戻った私達は
「さぁ、着替えて開店の準備をいたしましょう」
私の声を合図に、みんなで2階にあがっていきました。
ここで、全員着物に着替えていきます。
本来でしたら着物も定期的にクリーニングに出さないと行けないのですが、バテアさんの洗浄魔法? をご使用いただいておりまして……なんでも、この魔法を使用すると着物についている汗や染み、汚れなどがすべて除去出来てしまうというのです。
最初は半信半疑だった私なのですが、実際に私の着物についていた染みが一瞬で綺麗になったのを拝見してびっくりいたしました。
そんなバテアさんのおかげで、桐箪笥にしまってある着物はすべていつも綺麗な状態で保管出来ています。
……そういえば、この桐箪笥……あの引っ越し屋さんが、あのバス停留所において帰っちゃった品物の一つなのですよね……ホントに、あのときバテアさんとお会い出来ていなかったら私はどうなっていたのでしょうか……
私は、着物を身につけておられる最中のバテアさんを思わず拝んでしまいました……神様仏様バテア様……
◇◇
居酒屋さわこさんが間借りしていますバテアさんの魔法道具のお店は、この街の街道沿いにあります。
街の中央に役場があるのですが、その役場から少し離れた場所にありますので人通りは正直少なめでございます。
そんな立地ではございますが、居酒屋さわこさんには今日も開店と同時にお客様がご来店くださっています。
すっかり常連のドルーさんはお弟子さんを連れて毎晩のように顔を出してくださっています。
「ここで晩飯と酒を飲むようになったら、もう余所には行けんぞ」
ドルーさんはそう言って、いつものようにガハハと楽しく笑ってくださっています。
頭が鍋の形をなさっている亜人さんや、龍の角が生えている亜人さん達もすっかり常連さんです。
冒険者のクニャスさんも、この街に滞在なさっているときにはいつも顔をだしてくださっています。
「アタシもさぁ、さわこのお店と専属契約してあげたいんだけど、他の店のと契約がもうちょっと残っているのよ」
「いえいえ、お心遣いだけでとてもうれしいですわ」
久しぶりにご来店くださったクニャスさんに、私は笑顔で応対させていただきました。
お店では、相変わらずクッカドウゥドルの焼き鳥が大人気です。
定番といたしましては胸肉とねぎまなのですが、数量限定でぽんじりやハツ、砂肝やレバーなどもお出ししています。
手羽先は、名古屋に嫁いだ友人のなちこの影響で唐揚げにしています。
この名古屋には美味しい手羽先の唐揚げのお店がありまして
「さわこ、これ美味しいのよ」
といって、なちこがことあるごとにそのお店の手羽先を送ってくれていたものですから、今では私の大好物の1つになっています。
それで、その味を研究いたしまして居酒屋さわこさん風の味付けで唐揚げにしたものをお出ししています。
手羽先に塩・こしょうをすり込みまして片栗粉をまぶします。
これを、まずは低温の油でじっくり揚げていきます。
中までしっかり火が通ったのを確認してから次に高温の油に移して揚げていきます。
カラっと揚げ上がりましたらこれにタレを絡めます。
タレは醤油・みりん・料理酒・白ごま・水飴を混ぜ合わせております。
絡め終わったものに、擦った黒こしょうを気持ちふりかけて完成です。
焼き鳥にはいつも加賀美人をお出ししているのですが、手羽先の唐揚げを頼まれたお客様には別のお酒も試していただいております。
東洋美人の純米吟醸酒です。
白ワインを思わせるような透明感が、唐揚げの味で満たされている口の中を心地よく洗い流してくれる、そんな爽快感を堪能させてくれるお酒です。
冷やしていただくと、本当にもうたまりません。
この手羽先はドルーさんもお気に入りになってくださっていまして、
「うまいうまい! さわこ、めんどくさいからこの手羽先、20個くらい大皿にのせてもってきてくれ!」
そう言いながら、お酒を飲んでおられます。
私は苦笑しながらも
「はい、喜んで!」
そう言いながら、手羽先の唐揚げを大皿に盛り付けていたのですが、
「ほう、それ旨そうだね」
「こっちにも頼むよ」
と、いった感じで大皿での注文が入り始めた次第です。
おかげで、手羽先はあっという間に完売してしまいました。
でも、みなさんが嬉しそうに、美味しそうに食べてくださっていますので、私もなんだか嬉しいです。
そんな感じで営業を続けておりますと、
「はーいさわこぉ」
そう言いながらアミリアさんとエミリアがお店に入ってきました。
アミリアさんはご機嫌な様子で私に挨拶をしてくださったのですが……すでにほろ酔いな感じですね。
「すいません、アミリア姉さんっていつも飲みながら研究しているものですから……それでも研究中はしっかりしているんですけど……もう」
エミリアに抱えられるようにしてカウンターの席に座ったアミリアさんは、即座に机の上につっぷしてしまいました。
「あらあら、何よ。もうすっかり潰れてるじゃないの」
お通しの枝豆を持って行ってくださったバテアさんは、呆れたような表情をなさっています。
私はも少し苦笑しながら
「エミリア、そこまで無理をして来て頂かなくても、明日でもよろしかったのに」
そう申し上げたのですが。
「私もそう言ったのよ。バット、アミリア姉さんがさ、『さぁ行くわよ!』って飛び出したのよ……途中までは良かったんだけど、ただでさえ運動不足なのに走ったりするもんだから、息はあがるし、お酒はまわるしで……ブリンク・オブ・アン・アイ こうなっちゃってさ……もう」
アミリアさんの横の席に座ったエミリアはそう言ってため息をついていきました。
◇◇
「……で、さわこ、さっきの野菜の種なんだけど、もう一回見せてもらえないかな?」
焼き鳥とお酒の注文をしたエミリアは、早速そう言いました。
「はいはいちょっと待ってくださいね」
私は、エミリアの注文分の焼き鳥を炭火にかけてから棚に移動していきました。
その中から準備していた野菜の種を取り出した私は、それをエミリアに渡そうと、手を伸ばして行きました。
すると
私の手の先にあった種の袋を、カウンターにつっぷしているアミリアさんが、手を伸ばして掴んでしまわれました。
で、それを手にしたアミリアさんは、むくりと起き出すと、胸ポケットから眼鏡をとりだされまして、それで食い入るように見つめ始めました。
「……ふ~ん、なるほどねぇ……エミリアが目の色を変えたのがわかるわ。この絵のように大きな実がほんとに実るのならすごいことだものね」
そう言いながらアミリアさんは種の袋をマジマジと見つめていたのですが、そのまま自然な感じで手を伸ばすと、リンシンさんがエミリアさんの前においたばかりのお酒のグラスを手にとって、そのまま一気に飲み干してしまいました。
「ちょ!? お、お姉ちゃん、それ私のお酒!?」
エミリアは目を丸くしながらとびあがっています。
その後方で、なぜかリンシンさんまで同じように飛び上がっています。
びっくりが伝播したのでしょうか?
そんなみんなの視線を集めながら、アミリアさんは種の袋を見つめ続けていました。
ーつづく
もう少しのんびりしたいのですけれど、あくまでも開店前に少しのんびり……そういったコンセプトですからね。
それでも時間にして30分近くは湯船に入ったり半身浴にしたりしながら、私達は会話を満喫しつつお酒を堪能いたしました。
バテアさんの転移魔法でお店に戻った私達は
「さぁ、着替えて開店の準備をいたしましょう」
私の声を合図に、みんなで2階にあがっていきました。
ここで、全員着物に着替えていきます。
本来でしたら着物も定期的にクリーニングに出さないと行けないのですが、バテアさんの洗浄魔法? をご使用いただいておりまして……なんでも、この魔法を使用すると着物についている汗や染み、汚れなどがすべて除去出来てしまうというのです。
最初は半信半疑だった私なのですが、実際に私の着物についていた染みが一瞬で綺麗になったのを拝見してびっくりいたしました。
そんなバテアさんのおかげで、桐箪笥にしまってある着物はすべていつも綺麗な状態で保管出来ています。
……そういえば、この桐箪笥……あの引っ越し屋さんが、あのバス停留所において帰っちゃった品物の一つなのですよね……ホントに、あのときバテアさんとお会い出来ていなかったら私はどうなっていたのでしょうか……
私は、着物を身につけておられる最中のバテアさんを思わず拝んでしまいました……神様仏様バテア様……
◇◇
居酒屋さわこさんが間借りしていますバテアさんの魔法道具のお店は、この街の街道沿いにあります。
街の中央に役場があるのですが、その役場から少し離れた場所にありますので人通りは正直少なめでございます。
そんな立地ではございますが、居酒屋さわこさんには今日も開店と同時にお客様がご来店くださっています。
すっかり常連のドルーさんはお弟子さんを連れて毎晩のように顔を出してくださっています。
「ここで晩飯と酒を飲むようになったら、もう余所には行けんぞ」
ドルーさんはそう言って、いつものようにガハハと楽しく笑ってくださっています。
頭が鍋の形をなさっている亜人さんや、龍の角が生えている亜人さん達もすっかり常連さんです。
冒険者のクニャスさんも、この街に滞在なさっているときにはいつも顔をだしてくださっています。
「アタシもさぁ、さわこのお店と専属契約してあげたいんだけど、他の店のと契約がもうちょっと残っているのよ」
「いえいえ、お心遣いだけでとてもうれしいですわ」
久しぶりにご来店くださったクニャスさんに、私は笑顔で応対させていただきました。
お店では、相変わらずクッカドウゥドルの焼き鳥が大人気です。
定番といたしましては胸肉とねぎまなのですが、数量限定でぽんじりやハツ、砂肝やレバーなどもお出ししています。
手羽先は、名古屋に嫁いだ友人のなちこの影響で唐揚げにしています。
この名古屋には美味しい手羽先の唐揚げのお店がありまして
「さわこ、これ美味しいのよ」
といって、なちこがことあるごとにそのお店の手羽先を送ってくれていたものですから、今では私の大好物の1つになっています。
それで、その味を研究いたしまして居酒屋さわこさん風の味付けで唐揚げにしたものをお出ししています。
手羽先に塩・こしょうをすり込みまして片栗粉をまぶします。
これを、まずは低温の油でじっくり揚げていきます。
中までしっかり火が通ったのを確認してから次に高温の油に移して揚げていきます。
カラっと揚げ上がりましたらこれにタレを絡めます。
タレは醤油・みりん・料理酒・白ごま・水飴を混ぜ合わせております。
絡め終わったものに、擦った黒こしょうを気持ちふりかけて完成です。
焼き鳥にはいつも加賀美人をお出ししているのですが、手羽先の唐揚げを頼まれたお客様には別のお酒も試していただいております。
東洋美人の純米吟醸酒です。
白ワインを思わせるような透明感が、唐揚げの味で満たされている口の中を心地よく洗い流してくれる、そんな爽快感を堪能させてくれるお酒です。
冷やしていただくと、本当にもうたまりません。
この手羽先はドルーさんもお気に入りになってくださっていまして、
「うまいうまい! さわこ、めんどくさいからこの手羽先、20個くらい大皿にのせてもってきてくれ!」
そう言いながら、お酒を飲んでおられます。
私は苦笑しながらも
「はい、喜んで!」
そう言いながら、手羽先の唐揚げを大皿に盛り付けていたのですが、
「ほう、それ旨そうだね」
「こっちにも頼むよ」
と、いった感じで大皿での注文が入り始めた次第です。
おかげで、手羽先はあっという間に完売してしまいました。
でも、みなさんが嬉しそうに、美味しそうに食べてくださっていますので、私もなんだか嬉しいです。
そんな感じで営業を続けておりますと、
「はーいさわこぉ」
そう言いながらアミリアさんとエミリアがお店に入ってきました。
アミリアさんはご機嫌な様子で私に挨拶をしてくださったのですが……すでにほろ酔いな感じですね。
「すいません、アミリア姉さんっていつも飲みながら研究しているものですから……それでも研究中はしっかりしているんですけど……もう」
エミリアに抱えられるようにしてカウンターの席に座ったアミリアさんは、即座に机の上につっぷしてしまいました。
「あらあら、何よ。もうすっかり潰れてるじゃないの」
お通しの枝豆を持って行ってくださったバテアさんは、呆れたような表情をなさっています。
私はも少し苦笑しながら
「エミリア、そこまで無理をして来て頂かなくても、明日でもよろしかったのに」
そう申し上げたのですが。
「私もそう言ったのよ。バット、アミリア姉さんがさ、『さぁ行くわよ!』って飛び出したのよ……途中までは良かったんだけど、ただでさえ運動不足なのに走ったりするもんだから、息はあがるし、お酒はまわるしで……ブリンク・オブ・アン・アイ こうなっちゃってさ……もう」
アミリアさんの横の席に座ったエミリアはそう言ってため息をついていきました。
◇◇
「……で、さわこ、さっきの野菜の種なんだけど、もう一回見せてもらえないかな?」
焼き鳥とお酒の注文をしたエミリアは、早速そう言いました。
「はいはいちょっと待ってくださいね」
私は、エミリアの注文分の焼き鳥を炭火にかけてから棚に移動していきました。
その中から準備していた野菜の種を取り出した私は、それをエミリアに渡そうと、手を伸ばして行きました。
すると
私の手の先にあった種の袋を、カウンターにつっぷしているアミリアさんが、手を伸ばして掴んでしまわれました。
で、それを手にしたアミリアさんは、むくりと起き出すと、胸ポケットから眼鏡をとりだされまして、それで食い入るように見つめ始めました。
「……ふ~ん、なるほどねぇ……エミリアが目の色を変えたのがわかるわ。この絵のように大きな実がほんとに実るのならすごいことだものね」
そう言いながらアミリアさんは種の袋をマジマジと見つめていたのですが、そのまま自然な感じで手を伸ばすと、リンシンさんがエミリアさんの前においたばかりのお酒のグラスを手にとって、そのまま一気に飲み干してしまいました。
「ちょ!? お、お姉ちゃん、それ私のお酒!?」
エミリアは目を丸くしながらとびあがっています。
その後方で、なぜかリンシンさんまで同じように飛び上がっています。
びっくりが伝播したのでしょうか?
そんなみんなの視線を集めながら、アミリアさんは種の袋を見つめ続けていました。
ーつづく
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