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連載
さわこさんと、みはるさんのお店 その2
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大型ショッピングモールの2階にありますパワーストーンのお店『プレシャスストーン』は、平日の日中のためかお客様は少なめのようですね。
「さわこ、バテアさん、いらっしゃい」
お客さんに、品物の袋を手渡したみはるが、笑顔で私達のところへ歩み寄ってきてくれました。
私の幼なじみで親友の長門みはるです。
私が陸奥さわこですので、学生時代の戦艦好きな社会の先生からよく『長門型コンビ』と言われていたのが懐かしく思い出されます。
背はスラッと高くて、綺麗な長髪の黒髪です。キリッとした表情の美人さんでして、学生時代は男子からよく告白されていたのですが、当時校内で一番の人気だった3年生の先輩を筆頭にすべての告白をお断りしたことで男子からは「鋼鉄の女」と言われたりもしていました。そのまま、私同様に彼氏いない歴イコール年齢の同志でございます。
みはるは、私達をお店の奥にある接客セットに案内してくれました。
「2人にはさ、ホントお礼言わないといけないのよ」
私達に紅茶の入ったティーカップを差し出してくれたみはるは、嬉しそうな笑顔とともにそう言ってくれました。
「お礼?」
「そう、お礼。それもとびっきりの」
そう言うと、みはるは、私に封筒を手渡してくれました。
その中身を覗いた私は、目を丸くいたしました。
その中には、どうみても一万円札と思われるお札が入っていたのです。
しかも、10枚はあります。
「ど……どうしたの、この大金!?」
私が目を丸くしていますと、みはるは、
「ほら、この間置いていってくれたパワーストーン、あれが売れたのよ。これ、約束の手数料よ。遠慮無くとっといて」
そう言いながら、微笑み続けています。
そ、そうは言われましても……
前回みはると再会した際にお試し販売用として渡したのは、小さすぎて内蔵魔力が小さすぎるという理由で、バテアさんのお店では魔石としては売り物にならないためアクセサリーの一部としてネックレスや指輪に埋め込まれて販売されていた品物ばかりなのですよ……しかも全部で5つしかなかったのに、そ、それがこんなお金になるなんて……
「なんかね、占いをやってる人らしいんだけどさ、店頭にお試しで飾ってたネックレスや指輪をみるなり『これ欲しぃ! これ絶対ほしぃ!』って大騒ぎしだしてさぁ。いやぁ、わかる人にはわかるんだね」
みはるはそう言いながら嬉しそうに笑い続けています。
そんなみはるの前で、バテアさんも
「あんな屑でそんなに喜ぶとなると……これを見せたらどんな反応をするのかしらねぇ」
そう言いながら、腰の魔法袋から1つの魔石を取り出しました。
それは、バテアさんがいつもお店で販売している品物です。
確かこれは『防御壁の魔石』というやつのはずです。
魔法を使える人が身につけて、防御壁の呪文を唱えるとその周囲に防御壁が展開される……はずです。
相変わらず、魔法に関してはちんぷんかんぷんな私は、バテアさんからの聞きかじりの知識しかございません。
みはるにしても、魔法が使えるわけではありませんし、魔石の知識なんて持っていないはずです。
ですが、みはるは昔から不思議な力を感じることが出来る……そんなことを言っていたんですよね。
その能力を生かして、このパワーストーンのお店も始めたわけです。
しかも、このお店はあっという間に大繁盛していったんです。
やっぱり、みはるの力が本物だったということなんだと思います。
みはるにしろ、バテアさんにしろ、私は2人がお話してくれる内容はさっぱりわかりませんが、2人がお話してくださる言葉に嘘がないということだけはわかっております。
そんなみはるは。バテアさんが差し出した魔石を手に取ると、目を丸くしていました。
「……す、すごいわこれ……この間のパワーストーンとは比べものにならないぐらい、すごいパワーを感じる……」
そう言いながら、ジッと魔石を見つめ続けています。
その横で、バテアさんが私へ視線を向けました。
「さわこ、じゃ、商談をしちゃいましょうよ」
「あ、はい、そうですね」
バテアさんに即された私は、自分が腰に付けている魔法袋から魔石を取り出していきました。
これはすべて、私が居酒屋さわこさんの売り上げで、バテアさんのお店で購入させていただいた魔石です。
「みはる。今日はこの魔石……じゃなかった、パワーストーンをお店で扱ってほしいんだけど」
私がそう言うと、みはるは私が取り出した魔石を見つめながら、再び目を丸くしていました。
「……すごい……こんなにパワーを感じる石がこんなにいっぱい……」
しばらく魔石を見つめていたみはるは、おもむろに私へ視線を向けると、
「まかせてさわこ! しっかり売って、しっかりお金支払ってあげるからね」
そう言いながら、私の両手をギュッと握りしめてくれました。
「ありがとうみはる。期待してるね」
私は、そんなみはるににっこり笑顔をかえしました。
みはるとの取り決めで、魔石は1週間に1回、こうして私がこのお店に持参することになっています。
そして翌週、1週間の間に売れた魔石の代金の五分の四を私がもらうことになっています。
最初は折半でいいと言ったのですが
『あんたもお店がなくなって困ってるんでしょ。無理しなくていいから』
そう言って強引に決められてしまった次第です。
一応、お店を再開したと言ってはいるのですが……どうもみはるは、私が心配をかけないように方便を言っていると思っているようです。
……確かに、あまり強行に
「ホントにお店をやってるのよ!」
と言って
「じゃあ、連れてってよ」
と、言われましても、困りますものね。
バテアさんからも、
「確かにさわこはアタシの世界に連れてきたけどさ……あんまり他の世界の住人を別世界に移動させるのはね……怒られかねないから」
そんなことを言われていましたので、あまり迂闊なことは言えないと思っている次第です。
……でも、怒られるって……一体誰に怒られるんでしょうね?
その後、お客さんが増え始めたこともありまして、私とバテアさんはみはるのお店を後にしていきました。
「さわこ、また来週ね。絶対に来てね。絶対だよ!」
みはるは、そう言ってくれたのですが、さらに
「ちゃんと歯を磨くのよ、お風呂も入るのよ、あと、お酒を飲み過ぎて裸になら……」
「わーわーわーわー」
そんなことまで言い出した物ですから、ショッピングモールのまっただ中だというのに私は真っ赤になりながら大きな声を出してしまったじゃありませんか……まったくもう……
その後、私とバテアさんはショッピングモールの中にあるフードコートで軽く食事をしました。
「そうね、甘い物が食べたいわね」
バテアさんがそう言われましたので、全国展開しているドーナツチェーン店を利用したのですが、
「何これ!? 緑や黒や白や……わぁ、これ全部甘いの? ねぇねぇ?」
始めてドーナツを見たバテアさんは、まるで子供のように大はしゃぎなさりながら、どんどんどんどんトレーの中にドーナツをのせていかれました。
……結局、その場でお互いに10個近く食べまして。残りは持ち帰ることにしました。
その持ち帰ることにしたドーナツが全部で50個近くありまして……ま、まぁ、リンシンさんのお土産にもなりますし、大丈夫ですよね。
フードコートのテーブルでドーナツを食べていると、
「ねぇさわこ、このドーナツにあうお酒ってないの?」
バテアさんはそんな事を言い出されました。
どうやらカフェオレでは満足出来なかったようです。
……そうですね……ドーナツにあう日本酒ですか……
甘い物に辛口なお酒はちょっとあいそうにありませんね、やはり甘口の……それも少々濃いめのお酒ということになるのでしょうか……
しばらく考えを巡らせた私は、先ほど業務用スーパーの日本酒コーナーで購入したお酒の1つを選びました。
……っと
そのまま魔法袋から取り出そうとしたのですが……危ない危ない……私達の周囲はお客様でごった返しています。
こんな状況で日本酒の瓶を取り出したら
「なんだあの姉ちゃん、こんな真っ昼間っから……」
なんて思われてしまいかねません。
そこで私は、バテアさんに私達の気配を魔法で消してもらってから、その日本酒を取り出しました。
雪の茅舍さんの「美酒の設計」です。
独特の甘みが特徴のお酒です。
私とバテアさんは、それを早速紙コップに注いでいきました。
口に入れますと、口の中に甘い感覚が広がっていきます。
ですが、その甘みを味わおうとするとすーっと引いていく、そんな不思議な感じを堪能出来ます。
その甘さをもう一度味わいたくて、また口に運び……甘口な物ですから、そうしてついつい杯を重ねてしまいそうになってしまいます。
バテアさんも
「いいわぁ、ドーナツと一緒に飲むとさ、甘くなった口の中を全部もってってくれる感じね。うん、美味しい」
嬉しそうにそう言いながら、私にお代わりとばかりに紙コップを差し出してこられました。
こうして、人が行き交うフードコートの中で、私とバテアさんが誰にも気づかれることなく、のんびりとした時間を堪能していきました。
たまにはこういう時間もいいものですね。
ーつづく
「さわこ、バテアさん、いらっしゃい」
お客さんに、品物の袋を手渡したみはるが、笑顔で私達のところへ歩み寄ってきてくれました。
私の幼なじみで親友の長門みはるです。
私が陸奥さわこですので、学生時代の戦艦好きな社会の先生からよく『長門型コンビ』と言われていたのが懐かしく思い出されます。
背はスラッと高くて、綺麗な長髪の黒髪です。キリッとした表情の美人さんでして、学生時代は男子からよく告白されていたのですが、当時校内で一番の人気だった3年生の先輩を筆頭にすべての告白をお断りしたことで男子からは「鋼鉄の女」と言われたりもしていました。そのまま、私同様に彼氏いない歴イコール年齢の同志でございます。
みはるは、私達をお店の奥にある接客セットに案内してくれました。
「2人にはさ、ホントお礼言わないといけないのよ」
私達に紅茶の入ったティーカップを差し出してくれたみはるは、嬉しそうな笑顔とともにそう言ってくれました。
「お礼?」
「そう、お礼。それもとびっきりの」
そう言うと、みはるは、私に封筒を手渡してくれました。
その中身を覗いた私は、目を丸くいたしました。
その中には、どうみても一万円札と思われるお札が入っていたのです。
しかも、10枚はあります。
「ど……どうしたの、この大金!?」
私が目を丸くしていますと、みはるは、
「ほら、この間置いていってくれたパワーストーン、あれが売れたのよ。これ、約束の手数料よ。遠慮無くとっといて」
そう言いながら、微笑み続けています。
そ、そうは言われましても……
前回みはると再会した際にお試し販売用として渡したのは、小さすぎて内蔵魔力が小さすぎるという理由で、バテアさんのお店では魔石としては売り物にならないためアクセサリーの一部としてネックレスや指輪に埋め込まれて販売されていた品物ばかりなのですよ……しかも全部で5つしかなかったのに、そ、それがこんなお金になるなんて……
「なんかね、占いをやってる人らしいんだけどさ、店頭にお試しで飾ってたネックレスや指輪をみるなり『これ欲しぃ! これ絶対ほしぃ!』って大騒ぎしだしてさぁ。いやぁ、わかる人にはわかるんだね」
みはるはそう言いながら嬉しそうに笑い続けています。
そんなみはるの前で、バテアさんも
「あんな屑でそんなに喜ぶとなると……これを見せたらどんな反応をするのかしらねぇ」
そう言いながら、腰の魔法袋から1つの魔石を取り出しました。
それは、バテアさんがいつもお店で販売している品物です。
確かこれは『防御壁の魔石』というやつのはずです。
魔法を使える人が身につけて、防御壁の呪文を唱えるとその周囲に防御壁が展開される……はずです。
相変わらず、魔法に関してはちんぷんかんぷんな私は、バテアさんからの聞きかじりの知識しかございません。
みはるにしても、魔法が使えるわけではありませんし、魔石の知識なんて持っていないはずです。
ですが、みはるは昔から不思議な力を感じることが出来る……そんなことを言っていたんですよね。
その能力を生かして、このパワーストーンのお店も始めたわけです。
しかも、このお店はあっという間に大繁盛していったんです。
やっぱり、みはるの力が本物だったということなんだと思います。
みはるにしろ、バテアさんにしろ、私は2人がお話してくれる内容はさっぱりわかりませんが、2人がお話してくださる言葉に嘘がないということだけはわかっております。
そんなみはるは。バテアさんが差し出した魔石を手に取ると、目を丸くしていました。
「……す、すごいわこれ……この間のパワーストーンとは比べものにならないぐらい、すごいパワーを感じる……」
そう言いながら、ジッと魔石を見つめ続けています。
その横で、バテアさんが私へ視線を向けました。
「さわこ、じゃ、商談をしちゃいましょうよ」
「あ、はい、そうですね」
バテアさんに即された私は、自分が腰に付けている魔法袋から魔石を取り出していきました。
これはすべて、私が居酒屋さわこさんの売り上げで、バテアさんのお店で購入させていただいた魔石です。
「みはる。今日はこの魔石……じゃなかった、パワーストーンをお店で扱ってほしいんだけど」
私がそう言うと、みはるは私が取り出した魔石を見つめながら、再び目を丸くしていました。
「……すごい……こんなにパワーを感じる石がこんなにいっぱい……」
しばらく魔石を見つめていたみはるは、おもむろに私へ視線を向けると、
「まかせてさわこ! しっかり売って、しっかりお金支払ってあげるからね」
そう言いながら、私の両手をギュッと握りしめてくれました。
「ありがとうみはる。期待してるね」
私は、そんなみはるににっこり笑顔をかえしました。
みはるとの取り決めで、魔石は1週間に1回、こうして私がこのお店に持参することになっています。
そして翌週、1週間の間に売れた魔石の代金の五分の四を私がもらうことになっています。
最初は折半でいいと言ったのですが
『あんたもお店がなくなって困ってるんでしょ。無理しなくていいから』
そう言って強引に決められてしまった次第です。
一応、お店を再開したと言ってはいるのですが……どうもみはるは、私が心配をかけないように方便を言っていると思っているようです。
……確かに、あまり強行に
「ホントにお店をやってるのよ!」
と言って
「じゃあ、連れてってよ」
と、言われましても、困りますものね。
バテアさんからも、
「確かにさわこはアタシの世界に連れてきたけどさ……あんまり他の世界の住人を別世界に移動させるのはね……怒られかねないから」
そんなことを言われていましたので、あまり迂闊なことは言えないと思っている次第です。
……でも、怒られるって……一体誰に怒られるんでしょうね?
その後、お客さんが増え始めたこともありまして、私とバテアさんはみはるのお店を後にしていきました。
「さわこ、また来週ね。絶対に来てね。絶対だよ!」
みはるは、そう言ってくれたのですが、さらに
「ちゃんと歯を磨くのよ、お風呂も入るのよ、あと、お酒を飲み過ぎて裸になら……」
「わーわーわーわー」
そんなことまで言い出した物ですから、ショッピングモールのまっただ中だというのに私は真っ赤になりながら大きな声を出してしまったじゃありませんか……まったくもう……
その後、私とバテアさんはショッピングモールの中にあるフードコートで軽く食事をしました。
「そうね、甘い物が食べたいわね」
バテアさんがそう言われましたので、全国展開しているドーナツチェーン店を利用したのですが、
「何これ!? 緑や黒や白や……わぁ、これ全部甘いの? ねぇねぇ?」
始めてドーナツを見たバテアさんは、まるで子供のように大はしゃぎなさりながら、どんどんどんどんトレーの中にドーナツをのせていかれました。
……結局、その場でお互いに10個近く食べまして。残りは持ち帰ることにしました。
その持ち帰ることにしたドーナツが全部で50個近くありまして……ま、まぁ、リンシンさんのお土産にもなりますし、大丈夫ですよね。
フードコートのテーブルでドーナツを食べていると、
「ねぇさわこ、このドーナツにあうお酒ってないの?」
バテアさんはそんな事を言い出されました。
どうやらカフェオレでは満足出来なかったようです。
……そうですね……ドーナツにあう日本酒ですか……
甘い物に辛口なお酒はちょっとあいそうにありませんね、やはり甘口の……それも少々濃いめのお酒ということになるのでしょうか……
しばらく考えを巡らせた私は、先ほど業務用スーパーの日本酒コーナーで購入したお酒の1つを選びました。
……っと
そのまま魔法袋から取り出そうとしたのですが……危ない危ない……私達の周囲はお客様でごった返しています。
こんな状況で日本酒の瓶を取り出したら
「なんだあの姉ちゃん、こんな真っ昼間っから……」
なんて思われてしまいかねません。
そこで私は、バテアさんに私達の気配を魔法で消してもらってから、その日本酒を取り出しました。
雪の茅舍さんの「美酒の設計」です。
独特の甘みが特徴のお酒です。
私とバテアさんは、それを早速紙コップに注いでいきました。
口に入れますと、口の中に甘い感覚が広がっていきます。
ですが、その甘みを味わおうとするとすーっと引いていく、そんな不思議な感じを堪能出来ます。
その甘さをもう一度味わいたくて、また口に運び……甘口な物ですから、そうしてついつい杯を重ねてしまいそうになってしまいます。
バテアさんも
「いいわぁ、ドーナツと一緒に飲むとさ、甘くなった口の中を全部もってってくれる感じね。うん、美味しい」
嬉しそうにそう言いながら、私にお代わりとばかりに紙コップを差し出してこられました。
こうして、人が行き交うフードコートの中で、私とバテアさんが誰にも気づかれることなく、のんびりとした時間を堪能していきました。
たまにはこういう時間もいいものですね。
ーつづく
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