異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、厨房 その2

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 翌朝になりました。

 私はいつものように一番に起き出しまして、お店の周囲をお掃除していきました。
 昨日、生まれたての子鹿のようにぷるぷるになっていた私の両足ですが、バテアさんが治療魔法を使ってくださったおかげで、今はかなり楽になっております。
「治療魔法で無理矢理治しちゃうと、体に不調が出やすいからあんまりお勧めしないんだけどね」
 バテアさんによると、魔法治療というのはそういうものなのだそうです。
 その影響なのかどうかわかりませんが私の足の感覚が少し鈍い気がしないでもありません。

 今後は、体も少し鍛える方向で善処したいと思います。

 そんな事を思いながら掃除を終えた私は、いつものように皆さんの朝ご飯を作っていきます。
 御飯とお味噌汁、それに自家製のお漬物と卵焼き、それに焼き物を一品。
 これが、バテア家食事係の私が作成いたします、バテア家の定番朝食でございます。

 お味噌汁は、豆腐とわかめで、
 焼き物は、鮭の切り身が残っていましたので、それを焼いていきます。

 今日はドルーさんが厨房の作業をするために早めにおいでになるとお聞きしていますので、ドルーさんの分も準備しております。

 朝食を作成していると、リンシンさんがあくびをしながら2階から降りてこられました。
「わさこ……おはよ……」
 寝ぼけている際にリンシンさんは、私のことを『わさこ』と呼ばれます。
 ですが、私は気にすることなく、
「おはようございます、リンシンさん」
 笑顔でお返事を返していきます。
 まだ寝ぼけ眼なリンシンさんに、私はいつものようにグレープフルーツジュースを差し出していきます。
 常温保存しておいたグレープフルーツを半分に切って、グレープフルーツ絞り器で絞ったものです。
「お待たせしました。はいどうぞ」
 私が絞りたてのグレープフルーツジュースの入ったグラスを差し出すと、リンシンさんは寝ぼけた様子のままそれを一気に飲み干されます。
 すると、
「すっぱ……おいし……」
 そんな言葉を口になさりながら目を何度もぱちくりさせていくリンシンさん。
 そうしているウチに、目が覚めていくのがいつものリンシンさんのパターンです。
 グレープフルーツには、クエン酸とビタミンが含まれています。
 クエン酸には覚醒効果が含まれていますし、ビタミンには睡眠ホルモンであるメラトニンを抑制する効果が含まれています。
 なので、朝が弱めなリンシンさんにはちょうどいいかな、と思いまして最近毎朝これをお出しさせて頂いています。

 何しろ、このあとのリンシンさんは、昨夜のうちに森に仕掛けておいた罠を見にいかれるのです。
 これは、居酒屋さわこさんの仕入れでもあるわけですから、少しでも協力させていただかないと、と思っている次第でございます。

 この一杯ですっかり目が覚めたご様子のリンシンさんは、装備を確認しながら出口へ向かわれています。
「あ、リンシンさん、握り飯はいられますか?」
 私がそういうと、リンシンさんはご自分のお腹を少しさすられまして、
「ん……今日はいい……帰ってから、さわこの御飯を食べる……」
 そう言って、にっこり笑われました。
 私の名前も『さわこ』に戻っていますので、もう大丈夫そうですね。
「わかりました。ではお戻りになられましたらお出し出来るように準備しておきますね」
「ん……」
 私の言葉に頷くと、リンシンさんは森に向かって出発なさいました。
 私は、いつものようにお店の前まで出てお見送りさせていただきました。

 リンシンさんのお姿が見えなくなるまでお見送りした私は、厨房に戻って朝食の作成を再開しました。
 朝食の作成と同時に、今夜お店でお出しする料理の下ごしらえもしていきます。
 最近すっかり定番になっている肉じゃがに加えて、今夜も焼き鳥を……と思ったのですが……
「……残念……クッカドウゥドルの肉は売り切れちゃってますね」
 魔法袋の中身を確認しながら、私は眉をひそめました。

 そうですよねぇ……昨日は注文をさばくのに精一杯でしたので気が付きませんでしたけど、相当数の焼き鳥を焼きましたから、私。
「……クッカドウゥドルのお肉って、冒険者組合で仕入れる事が出来るのかな? それともリンシンさんやクニャスさんにお願いして狩ってきてもらうしかないのかなぁ……」
 私は腕組みしながら考えこんでいきました。

 ……ただ、私が一人でいくら考えても答えが出るはずがありません。
 何しろ私はこの世界にやってきてまだ1週間少々なのですから……

「そうですね、バテアさんが起きてこられたら相談してみましょう」
 私はそう呟くと、調理を再開していきました。

 すると、いきなりお店のドアがノックされました。
「おーいさわこ、起きとるか?」
 この声はドルーさんです。
 私は、
「はい、起きてますよ」
 元気に返答しながら、お店のドアへ駆け寄っていきました。

 ……あれ?

 その時、私は首をかしげてしまいました。
 気のせいでしょうか……玄関の向こうから複数の声が聞こえる気がします。
 私が、ドアを開けてみますと、そこにはドルーさんを筆頭に5人のどわぁふ? のような方々がおられました。
「おはようさわこ。こいつらはワシの弟子でな。今日、一緒に作業させてもらうぞい」
 ドルーさんはそう言うと、ガハハと笑いながらお店に入ってこられました。
 その後方に、他の4人のどわぁふ? らしい皆さんが続いてこられます。
 すると、ドルーさんはクンクンと鼻をならされまして、
「お? 朝ご飯を作っておったのか? よかったらワシらにも食わせてもらえんかの? ちゃんと金ははらうぞい」
 ドルーさんはそう言うと、
「おいお前ら、このさわこはな、料理がすごい上手なんじゃ。その朝飯をワシのおごりで食わせてもらえるんじゃぞ、ありがたく思え」
 そう言うと、ガハハと笑われました。
 その言葉を聞いた4人の皆さんは、
「旨い朝飯!?」
「そりゃいいや!」
「師匠、ごちになります!!」
「うは! やる気出たぁ」
 そのような言葉を口になさっておられました。

 私は、そんな皆さんのお声をお聞きしながら、慌てて厨房に戻って行きました。
 私はドルーさんの朝食は準備しておりました。
 ですが、他に4人もお越しになられるとはお聞きしていませんでしたので、他の皆さんの朝食までは準備しておりません。

 ここで、私は考えを巡らせました。

 今準備している朝ご飯は、私・バテアさん・リンシンさんの、いつもの3人分に加えまして、ドルーさん用に1人前多く準備しております。
 このうち、リンシンさん用の朝ご飯は、いつも多めといいますか、実質2人分準備しておりますので、私達のご飯をドルーさんのお弟子さん達に先に食べて頂けば足りる計算になります。

 頭の中で計算を終えた私は
「では、すぐに準備いたしますね」
 皆さんに笑顔でそう言うと、お茶碗などを準備していきました。
 同時に、新たにおかずの材料を魔法袋から取り出しまして、次の調理の準備を進めていきます。
 私達の朝ご飯はすでに完成していましたので、私はそれをお茶碗などによそっていきました。
 お見かけしたところ、どわぁふの皆さんは、朝からたくさん食べられそうな感じです。
 私は、お代わりを言われても大丈夫なように、お昼に販売する握り飯用に炊いていた土鍋の御飯をお代わり用に取り置きしておきました。
 皆さんの朝食をお盆にのせて、1人1人の前にお出ししていきます。
 すると、お弟子さん達は、
「うわ、なんすかこれ!?」
「こんな料理始めてっす」
「すごい旨そう」
「食っていいっすか?」
 そんなことを口にされながらお盆にのせてある料理を食い入るように見つめておられたのですが、お一人がご飯を口に運ばれたのを皮切りに、皆さん一斉に食べ始められました。
 私は、そんな皆さんに
「ご飯とお味噌汁のお代わりでしたらございますので遠慮無く言ってくださいね」
 そう、笑顔で言いました。
 すると、4人同時に
「「「「お願いします」」」」
 そう言いながら、ご飯のお椀を差し出してこられました。

 ……なんということでしょう

 皆さん、今の間にご飯をもう食べ終えてしまわれたようです。
 そんなお弟子さん達を見つめながら、ドルーさんは、
「おいおいお前ら、お代わりの代金は自分で払えよ」
 そう言われました。
 すると、お弟子さん達は、一斉にびっくりした顔になられまして、ゆっくりお椀をさげていかれました。
 ですが、そんなお弟子さん達の様子を笑いながら見つめておられたドルーさんは
「冗談じゃ、しっかり食え。飯代ぐらいいくらでも払ってやるわい」
 そう言うと、ガハハと笑われました。
 その言葉に安堵なさったお弟子さん達は、改めて私にお椀を差し出してこられました。
「はい、喜んで」
 私は、そんな皆さんに笑顔でそうお答えしながら、お椀を受け取っていきました。

ーつづく



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