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さわこさんとみの虫の…… 序
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バテアさんの家の屋上からの展望はとても素敵です。
ブロロッサムという巨木の上部を切断した格好になっているこの屋上は、周囲の建物よりも若干高くなっていまして、トツノコンベの街並みを一望出来るだけでなく、はるか遠方にそびえている北方の山脈の雄大な景色まで眺めることが出来るんです。
特に、今日みたいに好天の日ですと、抜けるような青空を存分に満喫出来るものですから、洗濯物を干すのも楽しく行えてしまいます。
「お店でお出ししているお手拭きですからね、しっかり干して、しっかり乾かさないと」
洗濯かごの中から洗い立てのお手拭きを取り出し、物干し竿に干していきます。
ちなみに、この屋上は、巨木を真横に切断した格好になっていますが、端の方に幹の一部が残っていまして、そこから空に向かって枝を伸ばしていまして、その周囲に緑のカーテンを作ってくれています。
「さわこぉ」
葉っぱを見上げていた私の足元に、小柄な女の子が駆け寄ってきました。
この女の子ですが、名前をロッサさんと言って、このブロロッサムの木の精霊さんなんです。
ロッサさんの髪の毛は、綺麗な緑色をしているのですが、彼女の髪の毛はブロロッサムの木の葉の色に呼応していまして、秋の紅葉の時期になると赤くなり、冬の枯れ木の時期になると枝葉に積もった雪の白色になってしまうんです。
「ロッサさん、どうかしたのですか?」
お手拭きを干しながらロッサさんへ笑顔を向ける私。
そんな私に、ロッサさんは駆け寄ってきたのですが……気のせいか、ちょっと困り顔をしているように見えます。
「それがの……今朝起きたら、妾の体に妙な物がぶらさがっておったのじゃ……」
「妙な物……ですか?」
私は、マジマジとロッサさんの体を見回していきました。
いつもの白いキャミソール風の服を着ているロッサさん……見た感じ、特に妙な物がぶら下がっているようには見えないのですが……
「違う違う! 精霊の体ではない! 妾の本体の……ほれ、あそこじゃ!」
そう言いながら、上空を指さすロッサさん。
そういえば、ロッサさんはブロロッサムの木の精霊ですので、その本体といえば、この樹木ってことになるんでしたね。
ロッサさんの言葉に納得した私は、その指の先へ視線を向けました。
その先には……
「……みの虫?」
そんな言葉を発してしまう私。
そうなんです……ロッサさんが指さしている先には、大きなみの虫がぶら下がっているんです。
「あれはみの虫というのか?」
「あ、はい……私の世界では、あのような出で立ちの生物はみの虫と言っていましたけど……」
「う~む、そうなのか……」
私の言葉に、腕組みをしながら首をひねるロッサさん。
どうやら、この世界にはみの虫はいないようですね。
……とはいうものの……
ロッサさんの木の枝からぶら下がっているそのみの虫は、どこか変でした。
私が知っているみの虫に比べて相当大きいんです。
その本体をぶら下げている糸もとても太くて……まるで縄のような気がしないでもありません。
本体の周囲には、木の枝がたくさんくっついていますので、やはりみの虫のような気がするのですが……それにしても、違和感があるといいますか……
私とロッサさんは、二人で同時に首をひねりながら大きなみの虫を見上げていました。
「……みの虫に似ていますけど、やっぱり違和感がありますね」
「では、やはりあれはみの虫ではないのか? じゃあ、何なのじゃ?」
「何なの……といわれましても……私はこの世界の住人ではありませんので……そういうのにあまり詳しくありませんので……食材にはかなり詳しくなりましたけど……」
みの虫を見上げながら、そんな会話を交わしていた……その時でした。
「……うるさいなぁ……」
そんな声が聞こえてきました。
その声ですが……バテアさんの声ではありません。
リンシンさんは、シロと一緒に森に行っていて留守です。
ベルは、まだ2階で寝ているはずですし、エンジェさんはクリスマスツリーの飾りに戻っていますし……
そもそも、今の声はどこから聞こえてきたのでしょう?
私とロッサさんが、怪訝な表情をしながら周囲を見回していると、
「……あれ? 人がいる?」
先ほどの声が再び聞こえてきました。
「うむ、上じゃ!」
声をあげながら、ロッサさんが再び上空を指さしました。
私も、慌てて上空へ視線を向けました。
その指の先には、先ほどのみの虫がぶら下がっているのですが……
「……って、あ、あれ?」
そのみの虫を見上げた私の視線が、どなたかの視線とぶつかったのです。
その視線は、みの虫の上部から注がれていたのです。
よく見ると、みの虫の上部から顔の上半分だけが覗いているではありませんか。
その方と、ばっちり目が合ってしまった私は、
「あ、あの……おはようございます」
そう言うと、しっかりとお辞儀をしていました。
「ちょ!? さ、さわこよ、不審者を前に、何を馬鹿丁寧に挨拶などしておるのじゃ!?」
ロッサさんに、おもいっきりお尻を叩かれた私は、
「あ痛ぁ!? ……って、あ、そ、それもそうでしたね」
お尻をさすりながら、みの虫から顔をのぞかせている方へ改めて視線を向けました。
「あ、あのぉ、本日はお日柄もよく……」
「だから、違うと言っておろうが!」
ロッサさんが、私のお尻を再び叩いた音が、トツノコンベ中に響いたような気がいたしました。
ブロロッサムという巨木の上部を切断した格好になっているこの屋上は、周囲の建物よりも若干高くなっていまして、トツノコンベの街並みを一望出来るだけでなく、はるか遠方にそびえている北方の山脈の雄大な景色まで眺めることが出来るんです。
特に、今日みたいに好天の日ですと、抜けるような青空を存分に満喫出来るものですから、洗濯物を干すのも楽しく行えてしまいます。
「お店でお出ししているお手拭きですからね、しっかり干して、しっかり乾かさないと」
洗濯かごの中から洗い立てのお手拭きを取り出し、物干し竿に干していきます。
ちなみに、この屋上は、巨木を真横に切断した格好になっていますが、端の方に幹の一部が残っていまして、そこから空に向かって枝を伸ばしていまして、その周囲に緑のカーテンを作ってくれています。
「さわこぉ」
葉っぱを見上げていた私の足元に、小柄な女の子が駆け寄ってきました。
この女の子ですが、名前をロッサさんと言って、このブロロッサムの木の精霊さんなんです。
ロッサさんの髪の毛は、綺麗な緑色をしているのですが、彼女の髪の毛はブロロッサムの木の葉の色に呼応していまして、秋の紅葉の時期になると赤くなり、冬の枯れ木の時期になると枝葉に積もった雪の白色になってしまうんです。
「ロッサさん、どうかしたのですか?」
お手拭きを干しながらロッサさんへ笑顔を向ける私。
そんな私に、ロッサさんは駆け寄ってきたのですが……気のせいか、ちょっと困り顔をしているように見えます。
「それがの……今朝起きたら、妾の体に妙な物がぶらさがっておったのじゃ……」
「妙な物……ですか?」
私は、マジマジとロッサさんの体を見回していきました。
いつもの白いキャミソール風の服を着ているロッサさん……見た感じ、特に妙な物がぶら下がっているようには見えないのですが……
「違う違う! 精霊の体ではない! 妾の本体の……ほれ、あそこじゃ!」
そう言いながら、上空を指さすロッサさん。
そういえば、ロッサさんはブロロッサムの木の精霊ですので、その本体といえば、この樹木ってことになるんでしたね。
ロッサさんの言葉に納得した私は、その指の先へ視線を向けました。
その先には……
「……みの虫?」
そんな言葉を発してしまう私。
そうなんです……ロッサさんが指さしている先には、大きなみの虫がぶら下がっているんです。
「あれはみの虫というのか?」
「あ、はい……私の世界では、あのような出で立ちの生物はみの虫と言っていましたけど……」
「う~む、そうなのか……」
私の言葉に、腕組みをしながら首をひねるロッサさん。
どうやら、この世界にはみの虫はいないようですね。
……とはいうものの……
ロッサさんの木の枝からぶら下がっているそのみの虫は、どこか変でした。
私が知っているみの虫に比べて相当大きいんです。
その本体をぶら下げている糸もとても太くて……まるで縄のような気がしないでもありません。
本体の周囲には、木の枝がたくさんくっついていますので、やはりみの虫のような気がするのですが……それにしても、違和感があるといいますか……
私とロッサさんは、二人で同時に首をひねりながら大きなみの虫を見上げていました。
「……みの虫に似ていますけど、やっぱり違和感がありますね」
「では、やはりあれはみの虫ではないのか? じゃあ、何なのじゃ?」
「何なの……といわれましても……私はこの世界の住人ではありませんので……そういうのにあまり詳しくありませんので……食材にはかなり詳しくなりましたけど……」
みの虫を見上げながら、そんな会話を交わしていた……その時でした。
「……うるさいなぁ……」
そんな声が聞こえてきました。
その声ですが……バテアさんの声ではありません。
リンシンさんは、シロと一緒に森に行っていて留守です。
ベルは、まだ2階で寝ているはずですし、エンジェさんはクリスマスツリーの飾りに戻っていますし……
そもそも、今の声はどこから聞こえてきたのでしょう?
私とロッサさんが、怪訝な表情をしながら周囲を見回していると、
「……あれ? 人がいる?」
先ほどの声が再び聞こえてきました。
「うむ、上じゃ!」
声をあげながら、ロッサさんが再び上空を指さしました。
私も、慌てて上空へ視線を向けました。
その指の先には、先ほどのみの虫がぶら下がっているのですが……
「……って、あ、あれ?」
そのみの虫を見上げた私の視線が、どなたかの視線とぶつかったのです。
その視線は、みの虫の上部から注がれていたのです。
よく見ると、みの虫の上部から顔の上半分だけが覗いているではありませんか。
その方と、ばっちり目が合ってしまった私は、
「あ、あの……おはようございます」
そう言うと、しっかりとお辞儀をしていました。
「ちょ!? さ、さわこよ、不審者を前に、何を馬鹿丁寧に挨拶などしておるのじゃ!?」
ロッサさんに、おもいっきりお尻を叩かれた私は、
「あ痛ぁ!? ……って、あ、そ、それもそうでしたね」
お尻をさすりながら、みの虫から顔をのぞかせている方へ改めて視線を向けました。
「あ、あのぉ、本日はお日柄もよく……」
「だから、違うと言っておろうが!」
ロッサさんが、私のお尻を再び叩いた音が、トツノコンベ中に響いたような気がいたしました。
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