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さわこさんと、温泉 その2
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宿の大浴場はとっても広いです。
「うわぁ……景色もいいですねぇ」
大きな窓の向こうには、広大な峡谷の光景が広がっています。
私達が暮らしている辺境都市トツノコンベよりも、ここ辺境都市リバティコンベは南方にあるため、雪はまったく降っていません。
「うむ、妾もこの辺りに根を張れば、茶色の髪の毛にならずに住むのじゃがのぉ」
ブロロッサムの木の精霊のロッサさんが、窓にべったりと顔を付けながら周囲の山々を見回しています。
「ニャはぁ、ホントに景色がすごいニャ~」
「ホントね! 私も感動よ!」
その横に、ベルとエンジェさんも駆け寄って、一緒になって窓に顔をつけています。
「もう、みんな、そんな格好していたらみんなに笑われちゃいますよ」
苦笑しながら、そんなみんなの元へ湯船の中を移動していく私。
一応、体にタオルを巻いて、右手で押さえております。
「みゅ、みんな楽しそうみゅ!」
そんな私の隣を、パタパタと羽根を羽ばたかせながらみゅうが通り過ぎていきました。
「あ、こら! みゅうってば、駄目ですよ!」
慌ててミュウに手を延ばした私なのですが……湯船の中を移動していたものですから、思いっきりバランスを崩してしまい、
ばっしゃ~ん……
……はい……おもいっきり湯船の中ですっころんでしまいました……
「ま~ま、大丈夫?」
「あ、はい……だ、大丈夫です、はい」
みゅうに手を引かれながら立ち上がった私は、周囲のお客様達に向かって愛想笑いをしながら何度も頭を下げていました。
そんな私を見つめながら、クスクス笑っている女性が一人……
「あなたも大変ねぇ、その年で4人もおチビさんの面倒をみないといけないなんてぇ。ま、アタシの知り合いにもおチビさん2人の面倒を見ているお人好しがいるけどさぁ」
その女性……褐色の肌に、何やら入れ墨のような模様が入っておられます。
妖艶で、胸のサイズも私とは比べものにならないほど大きくて、思わず自分の貧相さを再確認してしまうといいますか……
「あ、いえ……みんな元気でいい子なんですよ。あの、お騒がせして申し訳ありません」
私が苦笑しながら頭を下げると、その女性の隣にバテアさんが歩み寄っていかれました。
「お騒がせしちゃってごめんなさい、これ、お詫びの印に」
「あらぁ? そんなに迷惑も受けてないけどぉ、でもぉ、せっかくのお酌をお断りするわけにはいかないわよねぇ」
持参してきたお酒を差し出しているバテアさんに、その女性は、自分が手酌で飲んでいたお酒のコップを差し出されました。
よく見ると、その女性が飲まれているのはこの温泉で販売しているタクラ酒のようです。
バテアさんも先ほど同じタクラ酒を購入なさっていたようですけど、同じお酒をお出しするのは、ちょっと……
「バテアさん、あの……」
私が身振り手振りで、そのことをお伝えすると、バテアさんもそのことに気がつかれたらしく、右手を一振りなさいました。
すると、手になさっていたタクラ酒の瓶が輝いたかと思うと、次の瞬間には私の世界の日本酒の瓶に変化していました。
「これ、アタシの相棒のさわこの世界のお酒でね、なかなかイケるのよ」
「あらぁ? 確かに、はじめて見るお酒ねぇ……ふふ、とっても楽しみだわぁ」
バテアさんが取り出されたのは、大吟醸原酒「越後五十嵐川」という日本酒です。
このお酒、新潟のお酒なのですが地元の温泉でも雪見酒として提供されているお酒なんです。
「あらぁ……この香り、いいわねぇ……」
バテアさんが注いだコップの匂いを艶っぽい仕草が確認しながら、嬉しそうな声を漏らす女性。
なんといいますか……少し姉御風な仕草が混じるバテアさんとは対象的に仕草の全てが妖艶と申しますか……女性の私が拝見していても思わず見惚れてしまうと申しますか……
そのまま、コップを口にあて、クイッと一口……
「……ふぅ、いいわぁ……この、ふかぁい味わいが、ホント、たまんなぁい……」
時折、吐息を漏らしながら歓喜の声を口になさっている女性。
なんでしょう……その表情を拝見していると、なんだか子供にはイケないものを見ているような気になってしまいまして、側にいたミュウの目を無意識のうちに押さえていた私でした。
その後……
「温泉での飲酒はほどほどにしてくださいね」
と、念押しした私に対して、
「まったくもぅ、バテア、あんたの相棒ってお節介ねぇ」
「あはは、それがさわこの良いところでもあるのよ、そこは大目に見てやってよ、フォルデンテ」
すっかり意気投合した様子のバテアさんとフォルデンテさんは、おチビさん達の髪の毛を洗ってあげている隙に、乾杯を繰り返していました。
……お2人とも魔法が使えるみたいですし、悪酔いする前に対処出来るでしょうけど……ほどほどにしてほしいと、心から思います。
そんな2人の様子を見ていたベル達なのですが……
「さーちゃん、ベルもばーちゃんとふぉーちゃんみたいにお風呂に入って何か飲みたいニャ!」
「さわこ、私もよ!」
「うむ、妾も所望するのじゃ!」
「ミュウも! ミュウも!」
私に向かって一斉に声を上げてきたのです。
それまでは、リンシンさんにべったり寄り添って温泉を満喫していたシロまで、
「……シロも……ほしい」
いそいそと、ベル達の元へ近寄って来ていました。
「さわこ、子供達には、これを飲ませてあげなさい」
そう言って、バテアさんが指を一振りすると、空中にジュースの瓶が現れまして、私の元まで空中を移動してきました。
その瓶には「パラナミオサイダー」と書かれたラベルが貼られています。
みんなも何度か口にしたことがある、この世界のジュースです。
「じゃあみんな、バテアさんにお礼を言ってから飲みましょうね」
みんなが手にしたコップに、ジュースを注ぎ終えた私が笑顔でそう言うと、ベル達はバテアさんに向かって笑顔を浮かべました。
「ばーちゃんありがとニャ!」
ベルの一言を皮切りに、みんなが一斉にお礼を言いながら頭を下げたのですが……
「ちょっとあなたぁ、ばーちゃんって呼ばれてるのぉ?」
「あ、あのですねぇ……辞めるように言ってるんですけどねぇ」
クスクス笑っているフォルデンテさんを前にして、苦笑しているバテアさん。
なんでしょう……とりあえず2人とも楽しそうなので、それ以上あれこれ言わないことにして、私もジュースを頂いた次第です。
◇◇
お風呂から上がって、髪の毛を乾かした私達。
そんな中……ミリーネアさんの髪の毛がぼんっ!っと広がっています。
普段は三つ編みに編み込んでいるため細く長くなっているミリーネアさんの髪の毛なのですが……天然パーマなのか、編み込んでいないとこうして大きく膨らむんですよね。
寝る前には、いつもこの姿のミリーネアさんなので、私達大人組には見慣れた光景なのですけど、ベルをはじめとした子供達は、寝たあとの出来事のため、見慣れていないものですから、
「うわぁ、ふかふかニャ!」
「みゅう~! ふかふかみゅう~!」
おチビさん達が、一斉にミリーネアさんの背後に回って、髪の毛の中に手を突っ込みながら歓声をあげはじめたんです。
気がつくと……そんなミリーネアさんの髪の毛に興味を持った他の子供達まで寄ってきていまして……ミリーネアさんの周囲にはちょっとした人垣が出来てしまっておりました。
ただ、ミリーネアさんご本人が
「……珍しい? 触っていいよ」
と、なんだか嬉しそうになさっていたので、私達も遠巻きにその光景を拝見していた次第です。
そんなミリーネアさんの周囲には、笑顔と笑い声がいっぱいでした。
ーつづく
「うわぁ……景色もいいですねぇ」
大きな窓の向こうには、広大な峡谷の光景が広がっています。
私達が暮らしている辺境都市トツノコンベよりも、ここ辺境都市リバティコンベは南方にあるため、雪はまったく降っていません。
「うむ、妾もこの辺りに根を張れば、茶色の髪の毛にならずに住むのじゃがのぉ」
ブロロッサムの木の精霊のロッサさんが、窓にべったりと顔を付けながら周囲の山々を見回しています。
「ニャはぁ、ホントに景色がすごいニャ~」
「ホントね! 私も感動よ!」
その横に、ベルとエンジェさんも駆け寄って、一緒になって窓に顔をつけています。
「もう、みんな、そんな格好していたらみんなに笑われちゃいますよ」
苦笑しながら、そんなみんなの元へ湯船の中を移動していく私。
一応、体にタオルを巻いて、右手で押さえております。
「みゅ、みんな楽しそうみゅ!」
そんな私の隣を、パタパタと羽根を羽ばたかせながらみゅうが通り過ぎていきました。
「あ、こら! みゅうってば、駄目ですよ!」
慌ててミュウに手を延ばした私なのですが……湯船の中を移動していたものですから、思いっきりバランスを崩してしまい、
ばっしゃ~ん……
……はい……おもいっきり湯船の中ですっころんでしまいました……
「ま~ま、大丈夫?」
「あ、はい……だ、大丈夫です、はい」
みゅうに手を引かれながら立ち上がった私は、周囲のお客様達に向かって愛想笑いをしながら何度も頭を下げていました。
そんな私を見つめながら、クスクス笑っている女性が一人……
「あなたも大変ねぇ、その年で4人もおチビさんの面倒をみないといけないなんてぇ。ま、アタシの知り合いにもおチビさん2人の面倒を見ているお人好しがいるけどさぁ」
その女性……褐色の肌に、何やら入れ墨のような模様が入っておられます。
妖艶で、胸のサイズも私とは比べものにならないほど大きくて、思わず自分の貧相さを再確認してしまうといいますか……
「あ、いえ……みんな元気でいい子なんですよ。あの、お騒がせして申し訳ありません」
私が苦笑しながら頭を下げると、その女性の隣にバテアさんが歩み寄っていかれました。
「お騒がせしちゃってごめんなさい、これ、お詫びの印に」
「あらぁ? そんなに迷惑も受けてないけどぉ、でもぉ、せっかくのお酌をお断りするわけにはいかないわよねぇ」
持参してきたお酒を差し出しているバテアさんに、その女性は、自分が手酌で飲んでいたお酒のコップを差し出されました。
よく見ると、その女性が飲まれているのはこの温泉で販売しているタクラ酒のようです。
バテアさんも先ほど同じタクラ酒を購入なさっていたようですけど、同じお酒をお出しするのは、ちょっと……
「バテアさん、あの……」
私が身振り手振りで、そのことをお伝えすると、バテアさんもそのことに気がつかれたらしく、右手を一振りなさいました。
すると、手になさっていたタクラ酒の瓶が輝いたかと思うと、次の瞬間には私の世界の日本酒の瓶に変化していました。
「これ、アタシの相棒のさわこの世界のお酒でね、なかなかイケるのよ」
「あらぁ? 確かに、はじめて見るお酒ねぇ……ふふ、とっても楽しみだわぁ」
バテアさんが取り出されたのは、大吟醸原酒「越後五十嵐川」という日本酒です。
このお酒、新潟のお酒なのですが地元の温泉でも雪見酒として提供されているお酒なんです。
「あらぁ……この香り、いいわねぇ……」
バテアさんが注いだコップの匂いを艶っぽい仕草が確認しながら、嬉しそうな声を漏らす女性。
なんといいますか……少し姉御風な仕草が混じるバテアさんとは対象的に仕草の全てが妖艶と申しますか……女性の私が拝見していても思わず見惚れてしまうと申しますか……
そのまま、コップを口にあて、クイッと一口……
「……ふぅ、いいわぁ……この、ふかぁい味わいが、ホント、たまんなぁい……」
時折、吐息を漏らしながら歓喜の声を口になさっている女性。
なんでしょう……その表情を拝見していると、なんだか子供にはイケないものを見ているような気になってしまいまして、側にいたミュウの目を無意識のうちに押さえていた私でした。
その後……
「温泉での飲酒はほどほどにしてくださいね」
と、念押しした私に対して、
「まったくもぅ、バテア、あんたの相棒ってお節介ねぇ」
「あはは、それがさわこの良いところでもあるのよ、そこは大目に見てやってよ、フォルデンテ」
すっかり意気投合した様子のバテアさんとフォルデンテさんは、おチビさん達の髪の毛を洗ってあげている隙に、乾杯を繰り返していました。
……お2人とも魔法が使えるみたいですし、悪酔いする前に対処出来るでしょうけど……ほどほどにしてほしいと、心から思います。
そんな2人の様子を見ていたベル達なのですが……
「さーちゃん、ベルもばーちゃんとふぉーちゃんみたいにお風呂に入って何か飲みたいニャ!」
「さわこ、私もよ!」
「うむ、妾も所望するのじゃ!」
「ミュウも! ミュウも!」
私に向かって一斉に声を上げてきたのです。
それまでは、リンシンさんにべったり寄り添って温泉を満喫していたシロまで、
「……シロも……ほしい」
いそいそと、ベル達の元へ近寄って来ていました。
「さわこ、子供達には、これを飲ませてあげなさい」
そう言って、バテアさんが指を一振りすると、空中にジュースの瓶が現れまして、私の元まで空中を移動してきました。
その瓶には「パラナミオサイダー」と書かれたラベルが貼られています。
みんなも何度か口にしたことがある、この世界のジュースです。
「じゃあみんな、バテアさんにお礼を言ってから飲みましょうね」
みんなが手にしたコップに、ジュースを注ぎ終えた私が笑顔でそう言うと、ベル達はバテアさんに向かって笑顔を浮かべました。
「ばーちゃんありがとニャ!」
ベルの一言を皮切りに、みんなが一斉にお礼を言いながら頭を下げたのですが……
「ちょっとあなたぁ、ばーちゃんって呼ばれてるのぉ?」
「あ、あのですねぇ……辞めるように言ってるんですけどねぇ」
クスクス笑っているフォルデンテさんを前にして、苦笑しているバテアさん。
なんでしょう……とりあえず2人とも楽しそうなので、それ以上あれこれ言わないことにして、私もジュースを頂いた次第です。
◇◇
お風呂から上がって、髪の毛を乾かした私達。
そんな中……ミリーネアさんの髪の毛がぼんっ!っと広がっています。
普段は三つ編みに編み込んでいるため細く長くなっているミリーネアさんの髪の毛なのですが……天然パーマなのか、編み込んでいないとこうして大きく膨らむんですよね。
寝る前には、いつもこの姿のミリーネアさんなので、私達大人組には見慣れた光景なのですけど、ベルをはじめとした子供達は、寝たあとの出来事のため、見慣れていないものですから、
「うわぁ、ふかふかニャ!」
「みゅう~! ふかふかみゅう~!」
おチビさん達が、一斉にミリーネアさんの背後に回って、髪の毛の中に手を突っ込みながら歓声をあげはじめたんです。
気がつくと……そんなミリーネアさんの髪の毛に興味を持った他の子供達まで寄ってきていまして……ミリーネアさんの周囲にはちょっとした人垣が出来てしまっておりました。
ただ、ミリーネアさんご本人が
「……珍しい? 触っていいよ」
と、なんだか嬉しそうになさっていたので、私達も遠巻きにその光景を拝見していた次第です。
そんなミリーネアさんの周囲には、笑顔と笑い声がいっぱいでした。
ーつづく
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