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連載
さわこさんと、温泉 その1
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「まーま! まーま!」
いつも早起きな私なのですが……最近は、そんな私よりも早く起きて、私を起こしてくれる人がいます。
「……う、ん……」
「まーま! あさみゅ!」
やっとの思いで目をあけた私に抱きついて来たのは、みゅうでした。
小さな女の子の姿をしているみゅうは、笑顔で私の首に抱きつきながら、頬ずりをしています。
以前から2,3才くらいの少女の子の姿に変化することが出来ていたみゅうなのですが、今のみゅうは小学校低学年くらいの姿をしています。
トルキ族の子供は、成長するために何度か寝て過ごす時期があるそうでして、この3ヶ月くらいみゅうはご飯を食べる時とトイレに行く時以外はほとんど寝て過ごしていたのですが……つい先日、『まーま!』と、元気な声をあげながら私を起こしてくれたみゅうは、今までとは別人のように成長していたのでございます。
それまでは小鳥の姿で、私の頭の上にのっかっていることが多かったみゅうですが、今のみゅうが頭の上にのっかってきたら、私の首が折れてしまいそうです。
「おはようございます、みゅう。今朝も起こしてくれてありがとう」
「みゅ! まーまのためなら、どんとこいみゅ!」
みゅうは、嬉しそうに笑顔を浮かべているのですが……
「でもね、みゅう……今日はお店はお休みで、みんなで温泉に行くから、起こすのはゆっくりでいいですよ、って寝る前に言わなかったかしら?」
「みゅ?」
私の言葉を聞きながら、首をひねっているみゅう。
なんといいますか……鳥は3歩歩いたら忘れるといったことわざもございますけれども、まさかそれを実際に体感する日がこようとは夢にも思っておりませんでした。
でも、みゅう的には、私の役に立ちたくて頑張ってくれているのですから、あまりきつく言うことは……
「こぉらぁ、みゅう! 今日はゆっくり寝させろって、言ったでしょうにぃ!」
「みゅう!? ばーちゃん、ごめんみゅ」
「だー! なんで、そういう覚えなくていい呼び方は覚えるのかしらねぇ、この子ったら!」
みゅうの元気な声で目を覚ましてしまったバテアさんは、苦笑しながらみゅうのほっぺたをむにっとつまんでいます。
痛くしているわけではありません。
その証拠に、みゅうもほっぺたをつままれながら嬉しそうに笑っています。
ベルがバテアさんの事を『ばーちゃん』と呼んでいるのを真似しているみゅう。
今では、シロまで時々、そう呼んでいるんですよね。
……でも、みんな楽しそうですし、
「……よくないからね? さわこ」
「あ、はい」
バテアさんに、クギを刺されて、思わず苦笑してしまう私でした。
◇◇
そんなわけで……今日の私達は、週末のお休みを利用して、温泉に出かけることにしています。
「年末の忘年会と、年始の新年会で、とっても忙しかったですものね。今日、明日は皆さん温泉でのんびりしてくださいね」
笑顔の私。
そんな私の前には、
魔法使いのバテアさん
冒険者のリンシンさん
吟遊詩人のミリーネアさん
古代怪獣族の子供のベル
クリスマスツリーの付喪神のエンジェさん
ブロロッサムの樹の精霊のロッサさん
白銀狐の子供のシロ
トルキ族の子供のみゅう
そして、お店のバイトで頑張ってくださった、
エミリア
ショコラ
以上の、合計10名が荷物を手に、立っています。
和音は、新年の新酒造り。
お隣のツカーサさんは近くにある実家へ里帰り。
お向かいのマリーさんはこのお休みもお店を営業。
元上級酒場組合のラニィさん達はさわこの森での農作業。
バイトで手伝って頂いた皆様は、それぞれ用事があって参加出来なかいものですから、あちらで何かお土産を購入してこようと思っております。
「さて、みんな準備出来たみたいだし、早速行きましょうか」
そう言うと、バテアさんは右手を前にかざしました。
すると、その手の先に魔法陣が展開していき、その中から扉が出現しました。
最初の頃はびっくりしたものですが、最近では私もすっかり慣れたものでございます。
「さ、じゃあ、行きましょう」
バテアさんが扉を開けると、その向こうには温泉宿がそびえていました。
「いつ来ても、ここ辺境都市リバティコンベの温泉宿は立派ですねぇ」
木造3階建ての建物を感心しながら見上げている私。
この土地に住まれているドワーフの方々の建築なのだそうですが、私の世界の老舗旅館にも引けを取らない立派な造りになっています。
……和音って、こういった風情のある温泉につかりながらお酒を飲むのが大好きだったから、なんとかして連れて来てあげたかったんだけどなぁ
嬉々として新酒造りに勤しんでいた和音の姿を思い出した私は、
……仕方ありませんね、和音の分まで私がしっかり満喫してあげないと……
そう、心に固く誓ったのでございます……もちろん、前後不覚になって、服を脱いでしまわない程度に……
◇◇
「みゅ……とっても大きいみゅ……」
私と手をつないでいるみゅうは、物珍しそうに周囲を見回しています。
「ニャ! 温泉の料理は好きニャけど……お風呂は……」
そんなみゅうの隣で、ベルが困惑した表情を浮かべています。
「あら? 温泉は暖かくて気持ちいいじゃない」
「そうなのじゃ、しおれた髪の毛が生き返るのじゃ」
ベルに笑顔で話しかけているエンジェさんとロッサさん。
ちなみに、今のロッサさんの髪の毛は冬らしく茶色のショートカットになっています。
春はピンクのロングヘア。
夏はグリーンのロングヘアと、季節によって髪の毛の色と長さが変化するロッサさんなんです。
シロは、大好きなリンシンさんと手をつないでいます。
こうしてみると、本当の姉妹にしか見えません。
ミリーネアさんは、窓の外を眺めながら鼻歌を歌っておられます。
どうやら、また新曲を考えておられるみたいですね。
そういえば、私の世界では、昔の歌手の方の映画が流行っているみたいですので、今度仕入で出向いた際にでも、一緒に観てみようかな、と思っています。
「さぁ、手続きが済んだわよ」
受付で、手続きを行っていたバテアさんに付き従い、私達は建物の二階にある大広間へと移動していきました。
今日は人数が多いので、ここを貸切にさせて頂いた次第です。
「わ~!広いニャ!」
「ほんと!とっても広いわ!」
「わは! 妾が一番のりなのじゃ!」
部屋に入るなり、勢いよく駆けだしたベル・エンジェさん・ロッサさんの3人。
「みゅ! みゅうも! みゅうも!」
その後を、みゅうが慌てて追いかけていきます。
なんと言いますか……こっちはこっちで賑やかな子供達といった感じですね。
「みんな、部屋の中でなら良いですけど、他のお客様がいるところではあまりはしゃいではいけませんよ」
「さーちゃん、わかったニャ!」
私の言葉に、大きく頷くベル。
それに続いて、他のみんなも笑顔で頷いてくれました。
「さて、この大広間にも家族風呂があるみたいだけど、どうする?」
「そうですね……せっかく温泉宿に来たのですから、やっぱり大浴場を利用したいなぁ、と、思うのですが」
「イエス! 私もさわこの意見に賛成」
私の言葉に、エミリアも笑顔で挙手してくれました。
そんなわけで、部屋に荷物を置いた私達は、着替えを取り出すとそのまま一階にある大浴場へ向かっていきました。
「まーま! おんせん楽しみみゅ!」
「そうですね、みゅうはその姿になってからははじめてですもんね」
私と手をつないで歩いているみゅうは、笑顔を浮かべています。
そんな中、温泉の前にある売店に向かったバテアさんは……
「これこれ、これがないとね」
手に、お酒の入った瓶を数本抱えていました。
「それって、タクラ酒とスアビールですか?」
「そう、この宿はこの2つのお酒を満喫出来るからね、温泉につかりながら一杯いきましょう」
そう言い、笑顔のバテアさん。
このタクラ酒とスアビールって、パルマ世界で製造されているお酒なんですけど……
タクラ酒は、私の世界の吟醸酒によく似たお酒。
スアビールは、ラガービールによく似たビール。
と、どこか私の世界のお酒を思わせる味なんですよね。
その味を思い出しながら、私も思わず笑顔を浮かべておりました。
ーつづく
いつも早起きな私なのですが……最近は、そんな私よりも早く起きて、私を起こしてくれる人がいます。
「……う、ん……」
「まーま! あさみゅ!」
やっとの思いで目をあけた私に抱きついて来たのは、みゅうでした。
小さな女の子の姿をしているみゅうは、笑顔で私の首に抱きつきながら、頬ずりをしています。
以前から2,3才くらいの少女の子の姿に変化することが出来ていたみゅうなのですが、今のみゅうは小学校低学年くらいの姿をしています。
トルキ族の子供は、成長するために何度か寝て過ごす時期があるそうでして、この3ヶ月くらいみゅうはご飯を食べる時とトイレに行く時以外はほとんど寝て過ごしていたのですが……つい先日、『まーま!』と、元気な声をあげながら私を起こしてくれたみゅうは、今までとは別人のように成長していたのでございます。
それまでは小鳥の姿で、私の頭の上にのっかっていることが多かったみゅうですが、今のみゅうが頭の上にのっかってきたら、私の首が折れてしまいそうです。
「おはようございます、みゅう。今朝も起こしてくれてありがとう」
「みゅ! まーまのためなら、どんとこいみゅ!」
みゅうは、嬉しそうに笑顔を浮かべているのですが……
「でもね、みゅう……今日はお店はお休みで、みんなで温泉に行くから、起こすのはゆっくりでいいですよ、って寝る前に言わなかったかしら?」
「みゅ?」
私の言葉を聞きながら、首をひねっているみゅう。
なんといいますか……鳥は3歩歩いたら忘れるといったことわざもございますけれども、まさかそれを実際に体感する日がこようとは夢にも思っておりませんでした。
でも、みゅう的には、私の役に立ちたくて頑張ってくれているのですから、あまりきつく言うことは……
「こぉらぁ、みゅう! 今日はゆっくり寝させろって、言ったでしょうにぃ!」
「みゅう!? ばーちゃん、ごめんみゅ」
「だー! なんで、そういう覚えなくていい呼び方は覚えるのかしらねぇ、この子ったら!」
みゅうの元気な声で目を覚ましてしまったバテアさんは、苦笑しながらみゅうのほっぺたをむにっとつまんでいます。
痛くしているわけではありません。
その証拠に、みゅうもほっぺたをつままれながら嬉しそうに笑っています。
ベルがバテアさんの事を『ばーちゃん』と呼んでいるのを真似しているみゅう。
今では、シロまで時々、そう呼んでいるんですよね。
……でも、みんな楽しそうですし、
「……よくないからね? さわこ」
「あ、はい」
バテアさんに、クギを刺されて、思わず苦笑してしまう私でした。
◇◇
そんなわけで……今日の私達は、週末のお休みを利用して、温泉に出かけることにしています。
「年末の忘年会と、年始の新年会で、とっても忙しかったですものね。今日、明日は皆さん温泉でのんびりしてくださいね」
笑顔の私。
そんな私の前には、
魔法使いのバテアさん
冒険者のリンシンさん
吟遊詩人のミリーネアさん
古代怪獣族の子供のベル
クリスマスツリーの付喪神のエンジェさん
ブロロッサムの樹の精霊のロッサさん
白銀狐の子供のシロ
トルキ族の子供のみゅう
そして、お店のバイトで頑張ってくださった、
エミリア
ショコラ
以上の、合計10名が荷物を手に、立っています。
和音は、新年の新酒造り。
お隣のツカーサさんは近くにある実家へ里帰り。
お向かいのマリーさんはこのお休みもお店を営業。
元上級酒場組合のラニィさん達はさわこの森での農作業。
バイトで手伝って頂いた皆様は、それぞれ用事があって参加出来なかいものですから、あちらで何かお土産を購入してこようと思っております。
「さて、みんな準備出来たみたいだし、早速行きましょうか」
そう言うと、バテアさんは右手を前にかざしました。
すると、その手の先に魔法陣が展開していき、その中から扉が出現しました。
最初の頃はびっくりしたものですが、最近では私もすっかり慣れたものでございます。
「さ、じゃあ、行きましょう」
バテアさんが扉を開けると、その向こうには温泉宿がそびえていました。
「いつ来ても、ここ辺境都市リバティコンベの温泉宿は立派ですねぇ」
木造3階建ての建物を感心しながら見上げている私。
この土地に住まれているドワーフの方々の建築なのだそうですが、私の世界の老舗旅館にも引けを取らない立派な造りになっています。
……和音って、こういった風情のある温泉につかりながらお酒を飲むのが大好きだったから、なんとかして連れて来てあげたかったんだけどなぁ
嬉々として新酒造りに勤しんでいた和音の姿を思い出した私は、
……仕方ありませんね、和音の分まで私がしっかり満喫してあげないと……
そう、心に固く誓ったのでございます……もちろん、前後不覚になって、服を脱いでしまわない程度に……
◇◇
「みゅ……とっても大きいみゅ……」
私と手をつないでいるみゅうは、物珍しそうに周囲を見回しています。
「ニャ! 温泉の料理は好きニャけど……お風呂は……」
そんなみゅうの隣で、ベルが困惑した表情を浮かべています。
「あら? 温泉は暖かくて気持ちいいじゃない」
「そうなのじゃ、しおれた髪の毛が生き返るのじゃ」
ベルに笑顔で話しかけているエンジェさんとロッサさん。
ちなみに、今のロッサさんの髪の毛は冬らしく茶色のショートカットになっています。
春はピンクのロングヘア。
夏はグリーンのロングヘアと、季節によって髪の毛の色と長さが変化するロッサさんなんです。
シロは、大好きなリンシンさんと手をつないでいます。
こうしてみると、本当の姉妹にしか見えません。
ミリーネアさんは、窓の外を眺めながら鼻歌を歌っておられます。
どうやら、また新曲を考えておられるみたいですね。
そういえば、私の世界では、昔の歌手の方の映画が流行っているみたいですので、今度仕入で出向いた際にでも、一緒に観てみようかな、と思っています。
「さぁ、手続きが済んだわよ」
受付で、手続きを行っていたバテアさんに付き従い、私達は建物の二階にある大広間へと移動していきました。
今日は人数が多いので、ここを貸切にさせて頂いた次第です。
「わ~!広いニャ!」
「ほんと!とっても広いわ!」
「わは! 妾が一番のりなのじゃ!」
部屋に入るなり、勢いよく駆けだしたベル・エンジェさん・ロッサさんの3人。
「みゅ! みゅうも! みゅうも!」
その後を、みゅうが慌てて追いかけていきます。
なんと言いますか……こっちはこっちで賑やかな子供達といった感じですね。
「みんな、部屋の中でなら良いですけど、他のお客様がいるところではあまりはしゃいではいけませんよ」
「さーちゃん、わかったニャ!」
私の言葉に、大きく頷くベル。
それに続いて、他のみんなも笑顔で頷いてくれました。
「さて、この大広間にも家族風呂があるみたいだけど、どうする?」
「そうですね……せっかく温泉宿に来たのですから、やっぱり大浴場を利用したいなぁ、と、思うのですが」
「イエス! 私もさわこの意見に賛成」
私の言葉に、エミリアも笑顔で挙手してくれました。
そんなわけで、部屋に荷物を置いた私達は、着替えを取り出すとそのまま一階にある大浴場へ向かっていきました。
「まーま! おんせん楽しみみゅ!」
「そうですね、みゅうはその姿になってからははじめてですもんね」
私と手をつないで歩いているみゅうは、笑顔を浮かべています。
そんな中、温泉の前にある売店に向かったバテアさんは……
「これこれ、これがないとね」
手に、お酒の入った瓶を数本抱えていました。
「それって、タクラ酒とスアビールですか?」
「そう、この宿はこの2つのお酒を満喫出来るからね、温泉につかりながら一杯いきましょう」
そう言い、笑顔のバテアさん。
このタクラ酒とスアビールって、パルマ世界で製造されているお酒なんですけど……
タクラ酒は、私の世界の吟醸酒によく似たお酒。
スアビールは、ラガービールによく似たビール。
と、どこか私の世界のお酒を思わせる味なんですよね。
その味を思い出しながら、私も思わず笑顔を浮かべておりました。
ーつづく
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