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連載
さわこさんと、冬来たりなば その2
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今朝も、バテア青空市は朝早くから多くのお客さんで賑わいました。
ここバテア青空市は、バテアさんが偶然発見した異世界『さわこの森』で、植物学者のアミリアさんが運営している農場で採れたアミリア米や野菜などを卸売りしているんです。
基本的には中級酒場組合に加盟されている酒場の皆様に販売させていただいているのですが、最近ではご近所の皆様にも販売させて頂いております。
そんな皆様に少しでも暖まって頂こうと、冬の間はだるまストーブを出しまして、その上で暖かいものを作って振る舞わせて頂いている次第です。
「はぁ、今日もいいお買い物が出来たわ」
お鍋をお玉でかき混ぜていると、ツカーサさんが笑顔で駆け寄ってこられました。
手下げ鞄はお野菜でいっぱいになっています。
だるまストーブに両手を向け、
「はぁ、ほんとこのだるまストーブって暖かくていいわねぇ」
「喜んで頂けて光栄です」
笑顔のツカーサさんににっこり笑顔を返した私は、お椀に酒粕入りの豚汁をよそっていきました。
「さ、これで体の中も暖かくなさってくださいな」
「わぁ、ありがと~さわこ。お野菜のお買い物もだけど、こうして美味しい物を食べさせてもらえるのもとっても楽しみなのよねぇ」
満面の笑みを浮かべながら、お椀を手に取るツカーサさん。
そんなツカーサさんの背後から、中級酒場組合の組合長ジュチさんが歩み寄ってこられました。
「ちょっと、ツカーサはさわこの店で新製品の試作が出来る度に食べに行っているって聞いているわよ。こんな時くらいアタシ達に優先権を譲りなさいって」
「べー。それはそれ、これはこれなのよ!」
豚汁の入ったお椀を背後に隠しながら、あっかんべぇ、と舌を出すツカーサさん。
そんなツカーサさんを、ジュチさんは苦笑しながら見つめていました。
「まったく、ほんとツカーサには困ったもんだなぁ……まぁ、そんなわけで、さわこ、アタシにも豚汁を一杯くれるかい?」
私の元ににじり寄ってこようとなさったジュチさんなのですが……私とジュチさんの間に、エミリアがズイッと割り込んできました。
「何が『そんなわけで』なのか理解出来ませんが……はい、豚汁です。プリーズ」
「あぁ……いや、その……アタシはさわこから直接受け取りたかったんだけどぉ……」
「バテアさんから、ジュチさんがさわこにちょっかいを出さないようにしっかりガードするよう仰せつかっておりますので、そこは譲れません」
いつものように、冷静沈着な表情のエミリア。
その姿に、完全に気圧されてしまったジュチさんは、
「……あ、そ、そうですか……は、はい……」
しゅんとなりながら、エミリアから豚汁を受け取っておられました。
◇◇
あっという間に、だるまストーブの周囲は買い物を終えた中級酒場組合の皆さんでいっぱいになりました。
「あぁ、ホントにこのだるまストーブはあったかいわぁ」
「それに、この豚汁も美味しい!」
皆さん、そんな事を口になさりながら笑顔を浮かべておられます。
この料理はあくまでもサービス品ということを、皆様わかってくださっているものですから、お替わりを言ってこられる方はおられません。
私的には、追加をまたつくれば、と思っているのですが、
『さわこさんがアタシ達のためにサービスで提供してくれているんだもの、お替わりまでしちゃあ罰が当たるわよ』
皆さん、笑顔でそう言ってくださるんです。
「さわこさん、この豚汁って夜のお店にも出るの?」
「はい、お出しいたします」
「わぁ、じゃあ夜また食べさせてもらうわね。すっごく楽しみ!」
「はい、私も楽しみにお待ちしております」
だるまストーブの周囲に集まっておられる皆様と、そんな会話を交わしながら豚汁を配っていると、
「ただいまぁ~……あ~つっかれたぁ」
バテアさんが、首を傾けながら姿を現しました。
「あ、バテアさん、雪溶かし作業お疲れ様でした」
私が笑顔で頭を下げると、私の周囲に集まっておられた皆様も、一斉にバテアさんの周囲へ移動していかれました。
「バテアお疲れさま」
「いつもありがとう、バテア」
「肩でも揉もうか?」
「なら、アタシは腕でも」
皆さん、笑顔でバテアさんを労っておられます。
バテアさんのおかげで、雪に困らない生活を送れていることをわかっておられるからこそです。
バテアさんは、そんな皆さんを手で押しとどめると、
「気持ちはありがたいけどさぁ……労ってくれるんなら、さわこの豚汁を食べさせてくれないかしらぁ?」
疲れた笑顔を浮かべながら、私がかき混ぜているお鍋を指さすバテアさん。
そんなバテアさんに笑顔を返した私は、
「はい、喜んで」
お椀に、豚汁をよそっていきました。
他も皆様より、少し大目にさせていただいたのですが……これくらいは許してもらえますよね。
「これこれ、これがあるから頑張れるのよ」
そう言うと、バテアさんは私から受け取った豚汁をすごい勢いで食べ始めました。
すると、その様子を見ていたウバシノンノさんが、
「うむ、となるとこれは、バテアだけでなく、さわこにも雪溶かし手当を支給してもらうように役場のヒーロ殿へしっかりと働きかけておかねばならないな、うん」
うんうん、と何度も頷きながらそんなことを口になさいました。
「えぇ、そのとおりね」
「さわこがだるまストーブで料理をしてくれなかったら、バテアが雪溶かし作業をしてくれなくなるかもしれないとなると、トツノコンベにとって死活問題だし」
「こりゃ、しっかり言っておかないと」
皆さん、口々にそんな事を言いながら笑い声をあげておられます。
ですが、肝心なバテアさんはと言いますと……
「そんなことを言って……あんた達がさわこの料理を食べ続けたいから便乗してるんじゃないの?」
「うぐ、ばれてる……」
「あ、いや……一応バテアのことも考えてはいるんだよ……」
「もちろん、アタシ達もご相伴にあずかりたいのは当然だけどさ……」
少し意地悪な笑顔を浮かべているバテアさん。
そんなバテアさんを前にして、近くの皆さんはバツが悪そうな笑顔を浮かべておられました。
今朝も、雪がいっぱいの辺境都市トツノコンベですが、街中の雪はすっかり消え去っていました。
そんな中、皆さんの笑い声が響いていました。
◇◇
その夜……
今夜も居酒屋さわこさんは元気に営業を開始しております。
「……また雪が舞い始めた」
お店の前に、暖簾と提灯を出してきてくださったリンシンさんが、手をこすり合わせながらだるまストーブに手を向けておられます。
朝、バテア青空市で活躍してくれたこのだるまストーブですが、夜はお店の中を暖かくするのに活躍してくれているんです。
室温調整魔石のおかげで、お店の中は温かくなってはいるのですが……お客さんが出入りなさいますとどうしても冷気が一度店内に入ってしまいます。
その冷気を緩和する役目を、このだるまストーブは担ってくれているんです。
それと、もうひとつ……
だるまストーブの上にタライが置いてありまして、その中にお酒の入った徳利が並んでいます。
これ、来店くださったお客様に、
『寒い中、お越しくださってありがとうございます』
の気持ちをこめて、一杯サービスさせていただいているんです。
これ、私の亡くなった父がやっていたのを真似させてもらっているのですが、とっても好評なんですよ。
そんな店内に、お客さんが入ってこられました。
「ウェルカム、ヒーロ。さ、まずはお酒をサービスするわ」
接客係のエミリアが、着物姿で店内に案内してくれたのは役場のヒーロさんでした。
「ありがとうエミリア。このサービスは本当にありがたいよ」
体を震わせながらだるまストーブに両手を向けているヒーロさん。
そんなヒーロさんに、エミリアが熱燗を入れたコップを差し出しました。
「おっと、飲む前に……」
そう言うと、ヒーロさんは私へ視線を向けてこられました。
「さわこさん、これを受け取ってもらえるかな?」
「はい、なんでしょうか?」
ヒーロさんが差し出されたのは、封筒のようでした。
中に、何か入っているようですが……
「いえね、バテアが雪溶かし作業をしてくれている、その手助けをさわこさんがしてくれているって聞いてね、少なくて悪いけど報酬を……」
「は、はい!?」
これって……あ、朝の、あの雑談の件ですよね。
「いえいえいえ困ります。あれは市場を利用しいてくださっている皆さんのためにさせていただいているだけですし、バテアさんの分を準備するのもそんなに苦にはなっていませんし……」
「まぁ、そう言わないで……受け取ってもらえないと、街のみんなから僕が悪くいわれるからさ」
そう言っておられるヒーロさんは、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべておられますので、本気で悪く言われるわけではないとは思うのですが……
「と、とにかくこういうのは困りますから」
「まぁ、気持ちと思ってさ」
「気持ちでも困る物は困ります」
いつの間にか、そんな押し問答をはじめてしまった私とヒーロさん。
このやり取りは、次のお客様がこられるまで続いてしましました。
お気持ちはありがたいのですが……こういうのはお気持ちだけで……
ーつづく
ここバテア青空市は、バテアさんが偶然発見した異世界『さわこの森』で、植物学者のアミリアさんが運営している農場で採れたアミリア米や野菜などを卸売りしているんです。
基本的には中級酒場組合に加盟されている酒場の皆様に販売させていただいているのですが、最近ではご近所の皆様にも販売させて頂いております。
そんな皆様に少しでも暖まって頂こうと、冬の間はだるまストーブを出しまして、その上で暖かいものを作って振る舞わせて頂いている次第です。
「はぁ、今日もいいお買い物が出来たわ」
お鍋をお玉でかき混ぜていると、ツカーサさんが笑顔で駆け寄ってこられました。
手下げ鞄はお野菜でいっぱいになっています。
だるまストーブに両手を向け、
「はぁ、ほんとこのだるまストーブって暖かくていいわねぇ」
「喜んで頂けて光栄です」
笑顔のツカーサさんににっこり笑顔を返した私は、お椀に酒粕入りの豚汁をよそっていきました。
「さ、これで体の中も暖かくなさってくださいな」
「わぁ、ありがと~さわこ。お野菜のお買い物もだけど、こうして美味しい物を食べさせてもらえるのもとっても楽しみなのよねぇ」
満面の笑みを浮かべながら、お椀を手に取るツカーサさん。
そんなツカーサさんの背後から、中級酒場組合の組合長ジュチさんが歩み寄ってこられました。
「ちょっと、ツカーサはさわこの店で新製品の試作が出来る度に食べに行っているって聞いているわよ。こんな時くらいアタシ達に優先権を譲りなさいって」
「べー。それはそれ、これはこれなのよ!」
豚汁の入ったお椀を背後に隠しながら、あっかんべぇ、と舌を出すツカーサさん。
そんなツカーサさんを、ジュチさんは苦笑しながら見つめていました。
「まったく、ほんとツカーサには困ったもんだなぁ……まぁ、そんなわけで、さわこ、アタシにも豚汁を一杯くれるかい?」
私の元ににじり寄ってこようとなさったジュチさんなのですが……私とジュチさんの間に、エミリアがズイッと割り込んできました。
「何が『そんなわけで』なのか理解出来ませんが……はい、豚汁です。プリーズ」
「あぁ……いや、その……アタシはさわこから直接受け取りたかったんだけどぉ……」
「バテアさんから、ジュチさんがさわこにちょっかいを出さないようにしっかりガードするよう仰せつかっておりますので、そこは譲れません」
いつものように、冷静沈着な表情のエミリア。
その姿に、完全に気圧されてしまったジュチさんは、
「……あ、そ、そうですか……は、はい……」
しゅんとなりながら、エミリアから豚汁を受け取っておられました。
◇◇
あっという間に、だるまストーブの周囲は買い物を終えた中級酒場組合の皆さんでいっぱいになりました。
「あぁ、ホントにこのだるまストーブはあったかいわぁ」
「それに、この豚汁も美味しい!」
皆さん、そんな事を口になさりながら笑顔を浮かべておられます。
この料理はあくまでもサービス品ということを、皆様わかってくださっているものですから、お替わりを言ってこられる方はおられません。
私的には、追加をまたつくれば、と思っているのですが、
『さわこさんがアタシ達のためにサービスで提供してくれているんだもの、お替わりまでしちゃあ罰が当たるわよ』
皆さん、笑顔でそう言ってくださるんです。
「さわこさん、この豚汁って夜のお店にも出るの?」
「はい、お出しいたします」
「わぁ、じゃあ夜また食べさせてもらうわね。すっごく楽しみ!」
「はい、私も楽しみにお待ちしております」
だるまストーブの周囲に集まっておられる皆様と、そんな会話を交わしながら豚汁を配っていると、
「ただいまぁ~……あ~つっかれたぁ」
バテアさんが、首を傾けながら姿を現しました。
「あ、バテアさん、雪溶かし作業お疲れ様でした」
私が笑顔で頭を下げると、私の周囲に集まっておられた皆様も、一斉にバテアさんの周囲へ移動していかれました。
「バテアお疲れさま」
「いつもありがとう、バテア」
「肩でも揉もうか?」
「なら、アタシは腕でも」
皆さん、笑顔でバテアさんを労っておられます。
バテアさんのおかげで、雪に困らない生活を送れていることをわかっておられるからこそです。
バテアさんは、そんな皆さんを手で押しとどめると、
「気持ちはありがたいけどさぁ……労ってくれるんなら、さわこの豚汁を食べさせてくれないかしらぁ?」
疲れた笑顔を浮かべながら、私がかき混ぜているお鍋を指さすバテアさん。
そんなバテアさんに笑顔を返した私は、
「はい、喜んで」
お椀に、豚汁をよそっていきました。
他も皆様より、少し大目にさせていただいたのですが……これくらいは許してもらえますよね。
「これこれ、これがあるから頑張れるのよ」
そう言うと、バテアさんは私から受け取った豚汁をすごい勢いで食べ始めました。
すると、その様子を見ていたウバシノンノさんが、
「うむ、となるとこれは、バテアだけでなく、さわこにも雪溶かし手当を支給してもらうように役場のヒーロ殿へしっかりと働きかけておかねばならないな、うん」
うんうん、と何度も頷きながらそんなことを口になさいました。
「えぇ、そのとおりね」
「さわこがだるまストーブで料理をしてくれなかったら、バテアが雪溶かし作業をしてくれなくなるかもしれないとなると、トツノコンベにとって死活問題だし」
「こりゃ、しっかり言っておかないと」
皆さん、口々にそんな事を言いながら笑い声をあげておられます。
ですが、肝心なバテアさんはと言いますと……
「そんなことを言って……あんた達がさわこの料理を食べ続けたいから便乗してるんじゃないの?」
「うぐ、ばれてる……」
「あ、いや……一応バテアのことも考えてはいるんだよ……」
「もちろん、アタシ達もご相伴にあずかりたいのは当然だけどさ……」
少し意地悪な笑顔を浮かべているバテアさん。
そんなバテアさんを前にして、近くの皆さんはバツが悪そうな笑顔を浮かべておられました。
今朝も、雪がいっぱいの辺境都市トツノコンベですが、街中の雪はすっかり消え去っていました。
そんな中、皆さんの笑い声が響いていました。
◇◇
その夜……
今夜も居酒屋さわこさんは元気に営業を開始しております。
「……また雪が舞い始めた」
お店の前に、暖簾と提灯を出してきてくださったリンシンさんが、手をこすり合わせながらだるまストーブに手を向けておられます。
朝、バテア青空市で活躍してくれたこのだるまストーブですが、夜はお店の中を暖かくするのに活躍してくれているんです。
室温調整魔石のおかげで、お店の中は温かくなってはいるのですが……お客さんが出入りなさいますとどうしても冷気が一度店内に入ってしまいます。
その冷気を緩和する役目を、このだるまストーブは担ってくれているんです。
それと、もうひとつ……
だるまストーブの上にタライが置いてありまして、その中にお酒の入った徳利が並んでいます。
これ、来店くださったお客様に、
『寒い中、お越しくださってありがとうございます』
の気持ちをこめて、一杯サービスさせていただいているんです。
これ、私の亡くなった父がやっていたのを真似させてもらっているのですが、とっても好評なんですよ。
そんな店内に、お客さんが入ってこられました。
「ウェルカム、ヒーロ。さ、まずはお酒をサービスするわ」
接客係のエミリアが、着物姿で店内に案内してくれたのは役場のヒーロさんでした。
「ありがとうエミリア。このサービスは本当にありがたいよ」
体を震わせながらだるまストーブに両手を向けているヒーロさん。
そんなヒーロさんに、エミリアが熱燗を入れたコップを差し出しました。
「おっと、飲む前に……」
そう言うと、ヒーロさんは私へ視線を向けてこられました。
「さわこさん、これを受け取ってもらえるかな?」
「はい、なんでしょうか?」
ヒーロさんが差し出されたのは、封筒のようでした。
中に、何か入っているようですが……
「いえね、バテアが雪溶かし作業をしてくれている、その手助けをさわこさんがしてくれているって聞いてね、少なくて悪いけど報酬を……」
「は、はい!?」
これって……あ、朝の、あの雑談の件ですよね。
「いえいえいえ困ります。あれは市場を利用しいてくださっている皆さんのためにさせていただいているだけですし、バテアさんの分を準備するのもそんなに苦にはなっていませんし……」
「まぁ、そう言わないで……受け取ってもらえないと、街のみんなから僕が悪くいわれるからさ」
そう言っておられるヒーロさんは、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべておられますので、本気で悪く言われるわけではないとは思うのですが……
「と、とにかくこういうのは困りますから」
「まぁ、気持ちと思ってさ」
「気持ちでも困る物は困ります」
いつの間にか、そんな押し問答をはじめてしまった私とヒーロさん。
このやり取りは、次のお客様がこられるまで続いてしましました。
お気持ちはありがたいのですが……こういうのはお気持ちだけで……
ーつづく
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