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さわこさんと、秋のジャッケ その2

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 翌朝。

 私は、辺境都市トツノコンベの近くを流れている川を降っておりました。
 少し大きな荷車に乗っている私達。
 その荷車を白銀狐の皆さんが引っ張ってくれています。

「まぁ、私の軽減魔法をでずいぶん軽くなってるからね、白銀狐達でも楽に引っ張れるってわけよ」

 私の横に座っているバテアさんが、ドヤ顔を浮かべています。
 確かに、白銀狐の皆さんは、馬のように人が乗っている馬車を引っ張る程の馬力はありません。
 ですが、バテアさんの魔法のおかげで、草原を駆け回っている時と同じくらいの速度で荷車を引っ張りなが走ることが出来ているんです。

「……白銀狐のみんななら小回りも効くし、川縁を下るのにも適してる」

 リンシンさんも、満足そうに頷いています。

 荷車の中には、私・バテアさん・リンシンさん・ミリーネアさんに加えて、クニャスさんとマクタウロさんの合計5人が乗っています。

 そして、ベルとシロが荷車に並んで走っています。

「ニャ! 駆けっこ楽しいニャ!」
「……うん、みんなで走るの、楽しい」

 結構な速度で走っている荷車に、平気な顔で遅れることなく駆けている2人。
 古代怪獣族の中の牙猫族のベルと、白銀狐のシロだけあって、本当に走るのが速いです。

 そんな2人の後方を、エンジェさんとロッサさんが追いかけています。
 クリスマスツリーの付喪神なエンジェさんと、ブロロッサムの木の精霊のロッサさんの2人は空を飛んでベルとシロを追いかけています。

「思いっきり空を飛ぶのって、とっても楽しいわ!」
「妾もそう思うのじゃ。何より皆でこうして一緒に行くのがよいのぉ」

 そんな会話を交わしながら、4人は楽しそうに荷車についてきています。

「みんな、あんまり荷車からはなれたら駄目よ。あんまり離れたら防音結界の効果がなくなっちゃうからね」
「……ジャッケ、どこにいるかわからないから」

 バテアさんとリンシンさんが4人に声をかけると、4人は一斉に頷いていたのですが……

「うん! わかった、ばーちゃん!」
「だから、私のことは『ばーちゃん』じゃなくて、『あーちゃん』って呼びなさいっていつも言ってるでしょう!」
「わかった! ばーあーちゃん!」
「ば、ばーあーちゃんって……」

 ベルとそんな会話を交わしながらため息をついているバテアさんを見ていると……なんだか、微笑ましいなぁ、って思ってしまう私です。

◇◇

 その後、1時間近く川を下ったところで、私達は少し休憩することにしました。

「ん~……原因っぽいものは特に見当たらないわねぇ」

 石の上に腰を下ろしたバテアさんは、首を回しながら伸びをしておられます。
 その近くに座っているリンシンさんとミリーネアさんも、頷いておられます。

「……数匹は見かけたけど……小さいジャッケばかり」
「この時期に、ジャッケが遡上してこないって、やっぱり不思議だと思う……うん、なんだか歌の題材の予感……」

 顎に手を当てて考えを巡らせているリンシンさん。
 その横で、ワクワクしている様子のミリーネアさん。

 私は、そんな皆様の前へと移動していきました。

「さ、これでも食べて疲れをとってくださいな」
「さわこ、これは?」
「はい、レーモンのシロップジュースと水飴漬けです」

 レーモンというのは、私の世界のレモンによく似た果物です。
 レモンよりも酸味が若干強いのですが、その分クエン酸によく似た成分がたくさん含まれているみたいなんです。
 ですので、薄くスライスしたレーモンを、砂糖と水飴に1週間漬けてシロップにしたり、水飴と砂糖と一緒に煮詰めてから冷やして水飴漬けにすると、甘みが際だつ上に疲労回復効果も見込めるかなと思って、持って来た次第なんです。

「へぇ、これがあのレーモン? ……酸っぱくないの?」

 味を想像しただけで口の中に唾液が出て来たらしいバテアさんは、口をもごもごなさりながら躊躇なさっています。
 そんなバテアさんの横で、ベルがレーモンの水飴漬けをパクッと口に入れました

「んにゃあ! 甘いニャ! 甘くて美味しいニャ!」

 歓喜の声をあげると、ベルはすごい勢いでタッパーに入れているレーモンの水飴漬けを口に運びはじめました。

「ずるいわ、ベル、私も食べたい!」
「……シロも!」
「妾もなのじゃ!」

 エンジェさん、シロ、ロッサさんも、おチビさん用のタッパーに集まって、手を伸ばしています。
 それを見て、バテアさんもようやくレーモンを口に運ばれたのですが、

「へぇ、確かに甘いわね……っていうか、これ、本当にレーモンなの!? こんなに甘いレーモンなんて、ちょっと信じられないんだけど!?」

 目を丸くしながら私へ視線を向けてこられました。
 すいかに塩を少しかけると、塩辛さのおかげですいかの甘みが増したように感じるように、レーモンの酸味が水飴の甘さを増しているのではないかと思っております。
 もっとも、塩もかけ過ぎると塩っ辛さしか感じなくなってしまうように、水飴の分量なども適量を見極めないといけません。そこが私の腕の見せ所というわけですね。
 何度か試行錯誤して完成させたレーモンの水飴漬けですが、みんなの食べっぷりを見ていると、どうやら成功だったみたいです。

 木陰で休憩している白銀狐の皆さんにも、器に入れたレーモンのシロップをあげています。
 それを、白銀狐の皆さんが飲んでおられるのですが……気がつくと、皆さん競うようにしてシロップを飲んでおられまして……あっという間に容器の中がからっぽになってしまいました。

 きゅ~ん……

 一斉に私へ視線を向けて、切なそうな鳴き声をあげる白銀狐の皆さん。

「だ、大丈夫ですよ、お替わりもありますから」

 そんな皆さんに、魔法袋から取り出したレーモンシロップの容器を手に駆け寄っていく私。
 1週間漬け込んだレーモンシロップを、お水でいい具合に薄めているのですが、こちらもいい感じに仕上がっていたみたいです。

 容器にレーモンシロップを補充すると、白銀狐の皆さんは再び夢中になってそれを飲みはじめました。

「さーちゃん、ベルもそれ飲みたいにゃ!」

 私の元に駆け寄ってきたベルが、私の顔を見上げながらズボンを引っ張っています。
 
「はいはい、すぐにコップを準備しますね」

 笑顔でそういった私は、魔法袋から紙コップを出していきました。
 そんな感じで、みんなで和気藹々と休憩していたのですが……

「……うん?」

 そんな中、ミリーネアさんが川下を見つめながら首をひねっていました。

「ミリーネアさん、どうかなさったのですか?」
「……うん、川の水の音に混じって……なんか、不快な音が聞こえる気がして……」
「不快な音……ですか?」

 ミリーネアさんの言葉に首をひねりながら、私も川下へ視線を向けました。
 休憩中なので、今はバテアさんの防音結界は張り巡らされておりません。
 鳥の鳴き声や木々のすり合う音、川のせせらぎ……

 ……あら?

 耳を澄ませていると、そんな音に混じって何かが聞こえてきました。
 かすかなのですが……なんでしょう……なんか、無茶苦茶にトランペットを吹き鳴らしまくっているような、妙な音が……

 ーつづく




 

 
 
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