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連載
さわこさんと、芋煮会 その2
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「ファラさん、ご無沙汰しておりますうぐうううう」
「ちょっといいから、こっちに来なさい小娘」
頭を下げた私なのですが、ファラさんはそんな私の首に腕を絡ませると、そのまま私を持ち上げるようにして事務所の中へと移動していきました。
かなり長身のファラさんに持ち上げられた私は、一瞬喉がつまってしまいそうになったのですが、事務所に入ると同時に降ろしてもらえましたので、どうにか持ちこたえられました。
……しかし、さすがは龍人さんですね、ファラさん……私を片手で軽々持ち上げてしまいましたので……あ、いえ、あれなんですよ……最近秋の新メニューの試食をよくしていたから、ちょっと体重が気になるとかそういうことじゃなくてですね……
私が内心で焦っていると、ファラさんがそんな私の顔をのぞき込んでこられました。
「今日はどうしたのよ小娘。あんたが仕入れにくるのは来週のはずでしょう?」
「あ、はい。そうなんですが……」
そこで私は、事情を説明していきました。
「……と、いうわけで、たくさん手に入ったサルトイモを使った料理をお店で振る舞わせて頂こうと思いまして、それに使用するお肉を仕入れにこさせていただいた次第なんです」
「ふぅん……事情はわかったけど……ちょっとタイミングが悪かったわねぇ」
私の説明を聞き終えたファラさんは、そう言いながらため息をつかれました。
「え!? そ、そうなんですか?」
「えぇ……あんたも見たでしょ? 街道の人混みをさ。今はね、ここらの辺境都市一帯が共同でお祭りをやってるんだよ。そのせいで新規のお客さんがわんさかやってきててさ。今、そいつらと交渉してる真っ最中だったんだ……アタシも予定外に取引が増えててね、予備の在庫まで全部売り切ったとこなのよ……」
「あ~……そ、そうだったんですね」
言われてみれば、確かに……街道の人混みはいつもの比でありませんでしたし、ここおもてなし商会ナカンコンベ店の中もいままで見た事がないくらい大量のお客様でごった返していましたもの……
「……そうですか、わかりました。無理を承知で来たわけですし、他所をあたってみますね」
残念ですが仕方ありません……そう言うと私は頭を下げました。
すると、そんな私に向かってファラさんが右手を伸ばしました。
「ちょっと待ちなさい……確かに、ここでは肉を売ってあげられないけど……ここに行ってみなさいな」
そう言いながら、何かをメモした紙を私に渡してくださるファラさん。
「これは?」
「その地図の場所にある辺境都市ガタコンベって都市の近くの森の中でね、鬼人のイエロって女が狩りをしてるはずだから、その女のところに行ってその紙を見せなさい。そうすれば小娘が必要な魔獣くらい追加ですぐに狩ってくれるから」
「ほ、ほんとうですか!?」
「えぇ、常連さんが困って訪ねて来たってのに、そのまま手ぶらで帰すほど野暮じゃありませんから」
そう言うと、にっこり笑みを浮かべるファラさん。
「ありがとうございます」
そんなファラさんに向かって、私は深々と頭を下げました。
その横に立っていたバテアさんは、私が手にしていたメモを確認すると、
「やっぱここか。ここならすぐに行けるわ」
そう言うとすぐに魔法陣を展開していき、転移ドアを出現させてくださいました。
バテアさんに促されて、転移ドアに走って行く私。
そこで、もう一度ファラさんへ向き直ると、
「何から何まで、本当にありがとうございます」
「いいってことよ。後で代金は支払ってもらうんだしね」
「はい、もちろんです。では!」
手を振ってくださっているファラさん。
そんなファラさんにもう一度頭を下げてから、私は転移ドアをくぐっていきました。
◇◇
転移ドアの向こうは森の中でした。
「……えっと、この森のどこに……イエロさんが……」
そんなことを呟きながら周囲を見回していた私なのですが……その目はすぐにある一点で停止してしまいました。
私の視線が停止したその先には、何かが小山のように盛り上げられていたんです。
「……どうやら、あれみたいよさわこ。あれ、狩られた魔獣を積み上げてるみたい」
「あ、あれ……全部ですか……」
バテアさんの言葉に目を丸くする私。
そりゃそうですよ……その狩られた魔獣の山ですけど……どうみても4,50頭もの大型の魔獣が積み重ねられ出来上がっていたんですから……
「……しかもこれ、凶暴な魔獣ばっかりじゃない……」
「ホントですねぇ……」
その山を見上げながら、目を丸くしている私とバテアさん。
ここに山積みにされている魔獣ってどれも1頭狩るのにも数人の冒険者の方が束になってかからないと勝ち目がないと言われているってお聞きしているんですけど……そんなことを考えていると……
「それは拙者の獲物でござるが……何かようでござるか?」
背後から女性の声が聞こえてきました。
振り向くと……そこには、右手に刀、左手で狩ったばかりらしいタテガミライオンを引っ張っている、黄色い髪の毛の女性の姿がありました。
よく見ると、額の少し上から角が生えているようですね……
「あぁ、イエロってやっぱりあんたか」
「そういう貴殿は、スア様のご友人のバテア殿ではござらぬか」
私の横で、互いに肩をたたき合いながら握手を交わしていく2人。
後でお聞きしたのですが、イエロさんは、バテアさんの師匠であられますスア師匠さんの家の隣に住んでいるそうなんです。
そのおかげで面識があったそうなんです。
私も、どこかでお見かけしたことがあるような気がするのですが……はっきりとは思い出せないといいますか……お店にご来店くださっていれば、忘れることはないのですが……
「で、さわこ殿。どれだけ肉がご入り用なのでござるかな?」
「あ、はい……えっと、とりあえずビッグブルタン3頭分もあれば……」
ビッグブルタンというのは、私の世界の豚に良く似た魔獣なんです。
私の世界の豚よりも二回り以上大きくて、まるで猪のように突進してくる結構危険な魔獣でして……狩るのも結構大変なはずなのですが……
「あぁ、ビッグブルタンならそっちに積んでいるでござる。そこから好きなのを持っていってくだされ。3頭くらい後ですぐに補充するでござるゆえ」
「ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございます」
思いがけずに、あっさり了承していただけて、私は目を丸くしながら何度も頭を下げました。
「問題ないでござるよ。最近繁殖期になってるせいで、いくらでも出てくるでござるゆえ」
そう言って豪快に笑うイエロさん。
……あとでお聞きしたのですが……イエロさんって今日はお一人で狩りをなさっているそうでして、この獲物の山を一人で狩られたそうなんです……
1頭倒すのに数人の冒険者の方々が……の、はずですよね……
と、とにもかくにも……イエロさんに、
「まぁ、遠慮しないでいいでござる」
2頭おまけってことにして、合計5頭を譲っていただきました。
しかも、刀を使って大まかにさばく作業までしいてくださったんです。
私が包丁でさばいていたら、1頭あたり1時間はかかったかもしれませんが、イエロさんは
『せいや!』
と、両手で構えた二本の刀を振り回すだけで、その作業を終えてしまわれまして……はい、一瞬でした。
すでに血抜きや、魔石を使用して魔獣の体温を冷やす作業も終えられていたものですから……本当に至れり尽くせりとはこのことです、ホント……
「ありがとうございます。本当に助かります」
イエロさんがさばいてくださった5頭分のビッグブルタンのお肉を魔法袋に収納した私。
その横では、バテアさんが帰りの転移ドアを召喚してくださっています。
「イエロさん、本当にありがとうございました。このお礼はいつか必ず」
「そう気にしないでいいでござるよ。それよりも、これからもおもてなし商会をよろしくでござる」
「はい、それはもう」
イエロさんに何度も頭を下げながら、私はバテアさんと一緒に転移ドアをくぐっていきました。
私とバテアさんが辺境都市トツノコンベにあります、バテアさんの家の二階へ到着すると、すぐにベル達が駆け寄ってきました。
「サーちゃん! ばーちゃん! 洗うの終わったニャ!」
満面の笑顔で私に抱きついてくるベル。
「……はぁ、もう訂正するのも疲れてきたわよ」
そんなベルを見つめながら、ため息を漏らしているバテアさん。
そんなバテアさんの様子に苦笑しながら、私はベルやみんなの頭を撫でていました。
「みんなありがとうございました。では、早速調理していきましょう」
ーつづく
********************************
9/21 アルファポリス様より書籍版発売になりました
皆様よろしくお願いいたします
「ちょっといいから、こっちに来なさい小娘」
頭を下げた私なのですが、ファラさんはそんな私の首に腕を絡ませると、そのまま私を持ち上げるようにして事務所の中へと移動していきました。
かなり長身のファラさんに持ち上げられた私は、一瞬喉がつまってしまいそうになったのですが、事務所に入ると同時に降ろしてもらえましたので、どうにか持ちこたえられました。
……しかし、さすがは龍人さんですね、ファラさん……私を片手で軽々持ち上げてしまいましたので……あ、いえ、あれなんですよ……最近秋の新メニューの試食をよくしていたから、ちょっと体重が気になるとかそういうことじゃなくてですね……
私が内心で焦っていると、ファラさんがそんな私の顔をのぞき込んでこられました。
「今日はどうしたのよ小娘。あんたが仕入れにくるのは来週のはずでしょう?」
「あ、はい。そうなんですが……」
そこで私は、事情を説明していきました。
「……と、いうわけで、たくさん手に入ったサルトイモを使った料理をお店で振る舞わせて頂こうと思いまして、それに使用するお肉を仕入れにこさせていただいた次第なんです」
「ふぅん……事情はわかったけど……ちょっとタイミングが悪かったわねぇ」
私の説明を聞き終えたファラさんは、そう言いながらため息をつかれました。
「え!? そ、そうなんですか?」
「えぇ……あんたも見たでしょ? 街道の人混みをさ。今はね、ここらの辺境都市一帯が共同でお祭りをやってるんだよ。そのせいで新規のお客さんがわんさかやってきててさ。今、そいつらと交渉してる真っ最中だったんだ……アタシも予定外に取引が増えててね、予備の在庫まで全部売り切ったとこなのよ……」
「あ~……そ、そうだったんですね」
言われてみれば、確かに……街道の人混みはいつもの比でありませんでしたし、ここおもてなし商会ナカンコンベ店の中もいままで見た事がないくらい大量のお客様でごった返していましたもの……
「……そうですか、わかりました。無理を承知で来たわけですし、他所をあたってみますね」
残念ですが仕方ありません……そう言うと私は頭を下げました。
すると、そんな私に向かってファラさんが右手を伸ばしました。
「ちょっと待ちなさい……確かに、ここでは肉を売ってあげられないけど……ここに行ってみなさいな」
そう言いながら、何かをメモした紙を私に渡してくださるファラさん。
「これは?」
「その地図の場所にある辺境都市ガタコンベって都市の近くの森の中でね、鬼人のイエロって女が狩りをしてるはずだから、その女のところに行ってその紙を見せなさい。そうすれば小娘が必要な魔獣くらい追加ですぐに狩ってくれるから」
「ほ、ほんとうですか!?」
「えぇ、常連さんが困って訪ねて来たってのに、そのまま手ぶらで帰すほど野暮じゃありませんから」
そう言うと、にっこり笑みを浮かべるファラさん。
「ありがとうございます」
そんなファラさんに向かって、私は深々と頭を下げました。
その横に立っていたバテアさんは、私が手にしていたメモを確認すると、
「やっぱここか。ここならすぐに行けるわ」
そう言うとすぐに魔法陣を展開していき、転移ドアを出現させてくださいました。
バテアさんに促されて、転移ドアに走って行く私。
そこで、もう一度ファラさんへ向き直ると、
「何から何まで、本当にありがとうございます」
「いいってことよ。後で代金は支払ってもらうんだしね」
「はい、もちろんです。では!」
手を振ってくださっているファラさん。
そんなファラさんにもう一度頭を下げてから、私は転移ドアをくぐっていきました。
◇◇
転移ドアの向こうは森の中でした。
「……えっと、この森のどこに……イエロさんが……」
そんなことを呟きながら周囲を見回していた私なのですが……その目はすぐにある一点で停止してしまいました。
私の視線が停止したその先には、何かが小山のように盛り上げられていたんです。
「……どうやら、あれみたいよさわこ。あれ、狩られた魔獣を積み上げてるみたい」
「あ、あれ……全部ですか……」
バテアさんの言葉に目を丸くする私。
そりゃそうですよ……その狩られた魔獣の山ですけど……どうみても4,50頭もの大型の魔獣が積み重ねられ出来上がっていたんですから……
「……しかもこれ、凶暴な魔獣ばっかりじゃない……」
「ホントですねぇ……」
その山を見上げながら、目を丸くしている私とバテアさん。
ここに山積みにされている魔獣ってどれも1頭狩るのにも数人の冒険者の方が束になってかからないと勝ち目がないと言われているってお聞きしているんですけど……そんなことを考えていると……
「それは拙者の獲物でござるが……何かようでござるか?」
背後から女性の声が聞こえてきました。
振り向くと……そこには、右手に刀、左手で狩ったばかりらしいタテガミライオンを引っ張っている、黄色い髪の毛の女性の姿がありました。
よく見ると、額の少し上から角が生えているようですね……
「あぁ、イエロってやっぱりあんたか」
「そういう貴殿は、スア様のご友人のバテア殿ではござらぬか」
私の横で、互いに肩をたたき合いながら握手を交わしていく2人。
後でお聞きしたのですが、イエロさんは、バテアさんの師匠であられますスア師匠さんの家の隣に住んでいるそうなんです。
そのおかげで面識があったそうなんです。
私も、どこかでお見かけしたことがあるような気がするのですが……はっきりとは思い出せないといいますか……お店にご来店くださっていれば、忘れることはないのですが……
「で、さわこ殿。どれだけ肉がご入り用なのでござるかな?」
「あ、はい……えっと、とりあえずビッグブルタン3頭分もあれば……」
ビッグブルタンというのは、私の世界の豚に良く似た魔獣なんです。
私の世界の豚よりも二回り以上大きくて、まるで猪のように突進してくる結構危険な魔獣でして……狩るのも結構大変なはずなのですが……
「あぁ、ビッグブルタンならそっちに積んでいるでござる。そこから好きなのを持っていってくだされ。3頭くらい後ですぐに補充するでござるゆえ」
「ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございます」
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「問題ないでござるよ。最近繁殖期になってるせいで、いくらでも出てくるでござるゆえ」
そう言って豪快に笑うイエロさん。
……あとでお聞きしたのですが……イエロさんって今日はお一人で狩りをなさっているそうでして、この獲物の山を一人で狩られたそうなんです……
1頭倒すのに数人の冒険者の方々が……の、はずですよね……
と、とにもかくにも……イエロさんに、
「まぁ、遠慮しないでいいでござる」
2頭おまけってことにして、合計5頭を譲っていただきました。
しかも、刀を使って大まかにさばく作業までしいてくださったんです。
私が包丁でさばいていたら、1頭あたり1時間はかかったかもしれませんが、イエロさんは
『せいや!』
と、両手で構えた二本の刀を振り回すだけで、その作業を終えてしまわれまして……はい、一瞬でした。
すでに血抜きや、魔石を使用して魔獣の体温を冷やす作業も終えられていたものですから……本当に至れり尽くせりとはこのことです、ホント……
「ありがとうございます。本当に助かります」
イエロさんがさばいてくださった5頭分のビッグブルタンのお肉を魔法袋に収納した私。
その横では、バテアさんが帰りの転移ドアを召喚してくださっています。
「イエロさん、本当にありがとうございました。このお礼はいつか必ず」
「そう気にしないでいいでござるよ。それよりも、これからもおもてなし商会をよろしくでござる」
「はい、それはもう」
イエロさんに何度も頭を下げながら、私はバテアさんと一緒に転移ドアをくぐっていきました。
私とバテアさんが辺境都市トツノコンベにあります、バテアさんの家の二階へ到着すると、すぐにベル達が駆け寄ってきました。
「サーちゃん! ばーちゃん! 洗うの終わったニャ!」
満面の笑顔で私に抱きついてくるベル。
「……はぁ、もう訂正するのも疲れてきたわよ」
そんなベルを見つめながら、ため息を漏らしているバテアさん。
そんなバテアさんの様子に苦笑しながら、私はベルやみんなの頭を撫でていました。
「みんなありがとうございました。では、早速調理していきましょう」
ーつづく
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9/21 アルファポリス様より書籍版発売になりました
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