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さわこさんと、秋の森の収穫 その2
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クツクツクツ……
営業中の居酒屋さわこさん。
厨房の炭火コンロの上では土瓶がいい音を立てています。
同時に、香ばしい香りも立ち上っていまして店内になんとも言えない匂いを充満させています。
海老とハモ、鶏肉によく似ているクッカドウゥドルのお肉、それに私の世界の松茸に良く似ているマルツタケと、銀杏によく似ているギルンナンの実をお出汁と一緒に土瓶の中で蒸している最中なんです。
海老とハモは私の世界で仕入れてきています。
ハモって7月頃によく食べられるんですけど、この時期のハモも脂がのっていてとっても美味しいんですよ。
「……うん、そろそろかな」
いい具合になった土瓶蒸しをコンロから降ろして土瓶とセットのお皿にのせていきます。
それをお盆にのせて、リンシンさんへ。
「はい、マルツタケの土瓶蒸しあがりました。よろしくお願いします」
「……うん、わかった」
私からお盆を受け取ったリンシンさんは、それをテーブル席へと運んでいきます。
「……お待たせ」
「お、来た来た! この匂いがたまらなかったんだよ」
役場のヒーロさんが嬉しそうな声をあげながら、リンシンさんがテーブルにおいた土瓶から立ち上っている匂いを嗅がれています。
「ほんとですね!」
「ホントにいい匂いです!」
同席しているヒーロさんの部下のツチーナさんとシウアさんも、ヒーロさん同様に土瓶から立ち上っている香りを吸い込んで、嬉しそうな表情をなさっています。
「マルツタケにこんな上品な調理方法があったなんて、びっくりですよ。さすがさわこさんですね」
「いえいえ、私の国ではこういった食べ方が一般的だっただけですから」
ヒーロさんに笑顔で応える私。
マルツタケは土瓶蒸しをはじめ、マルツタケご飯やホイル焼き、天ぷらなどでも提供させていただいているのですが、香ばしい匂いに加えて見た目が珍しいのもあってでしょうか、この土瓶蒸しが一番人気だったりします。
土瓶蒸しは、マルツタケの香りを最大限に活かした調理方法だと思いますし、当然といえば当然かもしれません。
「では、早速中のマルツタケを頂くとしようか」
ヒーロさんが土瓶の蓋に手をかけました。
すると、そこに接客を担当しているエミリアがすごい勢いで駆け寄っていきます。
「ストップ! いきなり中の具材を食べるのはナンセンスよ」
「え、駄目なのかい?」
「イエス、この土瓶蒸しを堪能するためには、いきなり具材を食べてるのはノーよ。まずは添えられているお猪口に土瓶のお出汁を注いで、それをドリンクね」
「ほう……このお猪口に……」
ヒーロさんは、エミリアの説明通りに、土瓶を持ち上げて中のお出汁をお猪口に注いでいきます。
そして、その匂いを吸い込んだ後に、お出汁を口に運んでいかれました。
「……うん、美味い。まずは出汁の味を堪能するのもいいね」
「確かに!」
「うん、美味しいですね」
ヒーロさんの真似をして、お猪口に注いだお出汁を飲み干したツチーナさんとシウアさん。
3人は一斉に笑顔を浮かべておられます。
ちなみに……土瓶蒸しの食べ方は、私がエミリアに事前に教えておいたのですが、
「あの、皆さんのお好きなように召し上がってくださっていいんですからね」
厨房から私が声をかけると、ヒーロさんが顔を左右に振られました。
「いえいえ、せっかくの美味しい物です。美味しくいただく方法があるのであれば、まずはそれを実践させて頂きませんと」
ヒーロさんの言葉に、ツチーナさんとシウアさんも頷いておられます。
そんなわけで……その後も、ヒーロさん達はエミリアにレクチャーされながら土瓶蒸しを食べられました。
「そう、蓋をオープンしたら、添えられている緑のスダチをスクイーズするのよ」
「えっと、この半分に切られている果実みたいなのを絞るんだね……」
「そう、そしてもう一回蓋をして、しばらくスチームするの。それからもう一回お出汁を味わうのよ」
「スダチを搾って、少し蒸すのか……うん、わかった」
エミリアの指示に従って土瓶の中にスダチを搾ると、一度蓋をし、しばらく蒸していくヒーロさん達。
それから、再度お猪口にお出汁を入れて、それを口に運んでいきます。
「へぇ……確かにこれはいい。お出汁だけの時よりも味がさっぱりした感じがするね」
お出汁の味の変化を満喫すると、土瓶の中の具材を取り皿に取り分けていくヒーロさん達。
それを口に運んでいくと、
「うん! これはいい! マルツタケがこんなに美味しく食べられるなんて!」
「ですね! 煮こみ料理の具材くらいにしか思っていませんでしたけど
「調理の仕方で、こんなにいい香りがしてこんなに上品な味になるんですねぇ」
ヒーロさん達は満足そうに頷きながら、具材をどんどん口に運んでいかれます。
その様子を見ているエミリアも、無事美味しい食べ方を教えることが出来たからでしょう、満足そうな表情を浮かべながら頷いています。
すると、ヒーロさん達のテーブルに今度はバテアさんが歩み寄っていきました。
いつものように、肩をはだけさせた着物姿のバテアさんは、ヒーロさん達に向かって一升瓶をかかげています。
「さぁ、美味しい料理には美味しいお酒がいるんじゃない? さわこお勧めの、獺祭(だっさい)はいかがかしら?」
バテアさんが言われているように、この獺祭を準備したのも私です。
マルツタケの土瓶蒸しには、フルーティーな味わいが楽しめるこのお酒が一番合うと思っています。
本当はお燗した方がより楽しめるのですが、今日は日中暑かったですので冷やで提供してもらっています。
バテアさんから早速お酌してもらったヒーロさんは、早速それを口に含まれました。
「確かにこれは合うね! すごく良い感じだ」
そう言うと、土瓶蒸しの具材とお酒を交互に口に運びはじめました。
「ほんとだ! このお酒合いますね!」
「うん、どっちもすごく美味しいです!」
ツチーナさんとシウアさんも、ヒーロさんに続いて具材とお酒を交互に口に運んでは、笑顔を浮かべておいでです。
すると、その光景を見ていた周囲のお客様から、
「ホントに美味しそうだな……」
「さわこさん、こっちにもマルツタケの土瓶蒸しを頼むよ」
「あと、バテア、そのお酒も頼むな」
そんな声が一斉にあがっていきました。
皆様の声を受けて私は、
「はい、喜んで!」
満面の笑顔でお返事を返していきました。
バテアさんも、忙しそうに皆さんの元を駆け回っておられます。
リンシンさんは、大皿料理の筑前煮をお客様にお勧めしています。
この筑前煮が、土瓶蒸しと一緒に食べるとまた合うんですよ。
そんなわけで、今夜の居酒屋さわこさんの店内はマルツタケの香りが充満していたのですが……
「さわこ、ぜんざいのお代わりを頼む」
カウンターに座っておられるゾフィーナさんは、そう言うと空になったぜんざいのお椀を私に向かって差し出されました。
「ちょっとゾフィナ、みんなマルツタケを満喫してるんだしさ、あんたも今夜くらいマルツタケ料理を注文したらどうなのよ」
「お気遣い感謝する。だがなバテア、私はこの店のぜんざいを食べに来ているのだ。他の料理がまずいとは言わないが、私にとってはぜんざいこそ至高なのだ。だからぜんざいを心ゆくまで満喫させてほしい」
「はいはい、そこまで言われたらこっちもこれ以上は言わないわよ」
ドヤ顔でぜんざい愛を語られたゾフィナさん。
そんなゾフィナさんを苦笑しながら見つめているバテアさん。
私は、そんなお2人の様子に苦笑しながら新しいお餅を炭火コンロで焼きはじめました。
ーつづく
営業中の居酒屋さわこさん。
厨房の炭火コンロの上では土瓶がいい音を立てています。
同時に、香ばしい香りも立ち上っていまして店内になんとも言えない匂いを充満させています。
海老とハモ、鶏肉によく似ているクッカドウゥドルのお肉、それに私の世界の松茸に良く似ているマルツタケと、銀杏によく似ているギルンナンの実をお出汁と一緒に土瓶の中で蒸している最中なんです。
海老とハモは私の世界で仕入れてきています。
ハモって7月頃によく食べられるんですけど、この時期のハモも脂がのっていてとっても美味しいんですよ。
「……うん、そろそろかな」
いい具合になった土瓶蒸しをコンロから降ろして土瓶とセットのお皿にのせていきます。
それをお盆にのせて、リンシンさんへ。
「はい、マルツタケの土瓶蒸しあがりました。よろしくお願いします」
「……うん、わかった」
私からお盆を受け取ったリンシンさんは、それをテーブル席へと運んでいきます。
「……お待たせ」
「お、来た来た! この匂いがたまらなかったんだよ」
役場のヒーロさんが嬉しそうな声をあげながら、リンシンさんがテーブルにおいた土瓶から立ち上っている匂いを嗅がれています。
「ほんとですね!」
「ホントにいい匂いです!」
同席しているヒーロさんの部下のツチーナさんとシウアさんも、ヒーロさん同様に土瓶から立ち上っている香りを吸い込んで、嬉しそうな表情をなさっています。
「マルツタケにこんな上品な調理方法があったなんて、びっくりですよ。さすがさわこさんですね」
「いえいえ、私の国ではこういった食べ方が一般的だっただけですから」
ヒーロさんに笑顔で応える私。
マルツタケは土瓶蒸しをはじめ、マルツタケご飯やホイル焼き、天ぷらなどでも提供させていただいているのですが、香ばしい匂いに加えて見た目が珍しいのもあってでしょうか、この土瓶蒸しが一番人気だったりします。
土瓶蒸しは、マルツタケの香りを最大限に活かした調理方法だと思いますし、当然といえば当然かもしれません。
「では、早速中のマルツタケを頂くとしようか」
ヒーロさんが土瓶の蓋に手をかけました。
すると、そこに接客を担当しているエミリアがすごい勢いで駆け寄っていきます。
「ストップ! いきなり中の具材を食べるのはナンセンスよ」
「え、駄目なのかい?」
「イエス、この土瓶蒸しを堪能するためには、いきなり具材を食べてるのはノーよ。まずは添えられているお猪口に土瓶のお出汁を注いで、それをドリンクね」
「ほう……このお猪口に……」
ヒーロさんは、エミリアの説明通りに、土瓶を持ち上げて中のお出汁をお猪口に注いでいきます。
そして、その匂いを吸い込んだ後に、お出汁を口に運んでいかれました。
「……うん、美味い。まずは出汁の味を堪能するのもいいね」
「確かに!」
「うん、美味しいですね」
ヒーロさんの真似をして、お猪口に注いだお出汁を飲み干したツチーナさんとシウアさん。
3人は一斉に笑顔を浮かべておられます。
ちなみに……土瓶蒸しの食べ方は、私がエミリアに事前に教えておいたのですが、
「あの、皆さんのお好きなように召し上がってくださっていいんですからね」
厨房から私が声をかけると、ヒーロさんが顔を左右に振られました。
「いえいえ、せっかくの美味しい物です。美味しくいただく方法があるのであれば、まずはそれを実践させて頂きませんと」
ヒーロさんの言葉に、ツチーナさんとシウアさんも頷いておられます。
そんなわけで……その後も、ヒーロさん達はエミリアにレクチャーされながら土瓶蒸しを食べられました。
「そう、蓋をオープンしたら、添えられている緑のスダチをスクイーズするのよ」
「えっと、この半分に切られている果実みたいなのを絞るんだね……」
「そう、そしてもう一回蓋をして、しばらくスチームするの。それからもう一回お出汁を味わうのよ」
「スダチを搾って、少し蒸すのか……うん、わかった」
エミリアの指示に従って土瓶の中にスダチを搾ると、一度蓋をし、しばらく蒸していくヒーロさん達。
それから、再度お猪口にお出汁を入れて、それを口に運んでいきます。
「へぇ……確かにこれはいい。お出汁だけの時よりも味がさっぱりした感じがするね」
お出汁の味の変化を満喫すると、土瓶の中の具材を取り皿に取り分けていくヒーロさん達。
それを口に運んでいくと、
「うん! これはいい! マルツタケがこんなに美味しく食べられるなんて!」
「ですね! 煮こみ料理の具材くらいにしか思っていませんでしたけど
「調理の仕方で、こんなにいい香りがしてこんなに上品な味になるんですねぇ」
ヒーロさん達は満足そうに頷きながら、具材をどんどん口に運んでいかれます。
その様子を見ているエミリアも、無事美味しい食べ方を教えることが出来たからでしょう、満足そうな表情を浮かべながら頷いています。
すると、ヒーロさん達のテーブルに今度はバテアさんが歩み寄っていきました。
いつものように、肩をはだけさせた着物姿のバテアさんは、ヒーロさん達に向かって一升瓶をかかげています。
「さぁ、美味しい料理には美味しいお酒がいるんじゃない? さわこお勧めの、獺祭(だっさい)はいかがかしら?」
バテアさんが言われているように、この獺祭を準備したのも私です。
マルツタケの土瓶蒸しには、フルーティーな味わいが楽しめるこのお酒が一番合うと思っています。
本当はお燗した方がより楽しめるのですが、今日は日中暑かったですので冷やで提供してもらっています。
バテアさんから早速お酌してもらったヒーロさんは、早速それを口に含まれました。
「確かにこれは合うね! すごく良い感じだ」
そう言うと、土瓶蒸しの具材とお酒を交互に口に運びはじめました。
「ほんとだ! このお酒合いますね!」
「うん、どっちもすごく美味しいです!」
ツチーナさんとシウアさんも、ヒーロさんに続いて具材とお酒を交互に口に運んでは、笑顔を浮かべておいでです。
すると、その光景を見ていた周囲のお客様から、
「ホントに美味しそうだな……」
「さわこさん、こっちにもマルツタケの土瓶蒸しを頼むよ」
「あと、バテア、そのお酒も頼むな」
そんな声が一斉にあがっていきました。
皆様の声を受けて私は、
「はい、喜んで!」
満面の笑顔でお返事を返していきました。
バテアさんも、忙しそうに皆さんの元を駆け回っておられます。
リンシンさんは、大皿料理の筑前煮をお客様にお勧めしています。
この筑前煮が、土瓶蒸しと一緒に食べるとまた合うんですよ。
そんなわけで、今夜の居酒屋さわこさんの店内はマルツタケの香りが充満していたのですが……
「さわこ、ぜんざいのお代わりを頼む」
カウンターに座っておられるゾフィーナさんは、そう言うと空になったぜんざいのお椀を私に向かって差し出されました。
「ちょっとゾフィナ、みんなマルツタケを満喫してるんだしさ、あんたも今夜くらいマルツタケ料理を注文したらどうなのよ」
「お気遣い感謝する。だがなバテア、私はこの店のぜんざいを食べに来ているのだ。他の料理がまずいとは言わないが、私にとってはぜんざいこそ至高なのだ。だからぜんざいを心ゆくまで満喫させてほしい」
「はいはい、そこまで言われたらこっちもこれ以上は言わないわよ」
ドヤ顔でぜんざい愛を語られたゾフィナさん。
そんなゾフィナさんを苦笑しながら見つめているバテアさん。
私は、そんなお2人の様子に苦笑しながら新しいお餅を炭火コンロで焼きはじめました。
ーつづく
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