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さわこさんと、仕入れと その3

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 昨日のお休みを利用して私の世界へ仕入れに行ったわけですが、今日はこちらの世界で仕入れに行く日です。
 ただ、今日は平日ですので出かける前に準備をしておかないといけません。
 夜の営業の仕込みと、バテアさんの魔法道具のお店でお昼に販売する握り飯弁当です。

 クツクツクツ……

 魔石コンロにかけているお鍋からいい音が聞こえてきています。
 お玉でひとすくいして、小皿にお汁をとりわけて、それを口に含んでいきます。

「……うん、いい味です」

 会心の出来に、思わず笑顔が浮かんでしまいます。
 さて、夜の営業の仕込みは順調ですから、握り飯弁当の方を仕上げてしまいましょう。

 こちらの世界ではじめて販売した際の握り飯弁当は、塩味の握り飯を2つと自家製の沢庵を2切れという内容でした。
 もちろん、この握り飯弁当は今も定番メニューとして販売しているのですが、

 焼きジャッケのハラミ
 焼きたらこ
 佃煮
 
 そういった具入りの握り飯のお弁当も準備しておりまして、どれも好評なんです。
 その分、私の手間もかかってしまいますが、それ以上に皆さんから

『ジャッケのおにぎり、あれまた買うからさ!』
『このタラコとか言うの、なんか病みつきになるね』

 そんな言葉をかけていただけるものですから、まったく苦にはなりません。
 
 ……私の世界で、父さんから引き継いだお店を閉店して1年と数ヶ月……そんな私が、まさか異世界でお店を再開出来たなんて、当時の私にはまったく想像が出来ませんでした……いえ、そんな方法で再開出来ると思う方がどうかしていますよね、実際……

 そんな事を考えていると、ついつい笑顔を浮かべてしまう私。
 笑顔を浮かべながら、最後の焼きジャッケのハラミの握り飯を詰め終えると、

「さわこ、準備は出来たのかしら?」

 タイミングよく、バテアさんが階段を降りてこられました。
 今日は、こちらの世界での仕入れですので、いつもの魔法使いの衣装を着ておられるバテアさん。
 肩を露わになさっていて、胸の谷間も……えぇ、あれくらいとはいいませんけど、あの半分くらいは私もですね……

「……ちょっとどうしたのよ、さわこ? 急に下を向いて黙りこくっちゃって……」
「あ、い、いえいえ何でもないんです、なんでも……」

 怪訝そうな表情を浮かべながら私の顔をのぞき込んできたバテアさん。
 そんなバテアさんに、慌てて笑顔を浮かべながら首を左右に振っていく私。

「あ、すぐに後片付けをしてしまいますので、もう少しだけお待ちください」

 そう言うと、私は出来上がったばかりの握り飯弁当をバテアさんの魔法道具のお店へと運んでいきました。
 そこには、バイトのショコラが店番として出勤していて、カウンターの拭き掃除をしてくれています。

「じゃあショコラ、これが今日の握り飯弁当ですので、よろしくお願いしますね。あ、こっちの10包みはドルーさんの予約分ですので」
「はい、わかりました。じゃあ、ドルーさんにはこれをお売りすればよろしいのですね」

 ショコラと、簡単な打ち合わせを終えた私は、改めて二階へあがって行きました。
 バテアさんの魔法道具のお店のカウンターの後ろにある階段が、居住区へつながっているんです。

「さわこ、もう準備はいいのかしら?」

 先ほど私を呼びに来てくださったバテアさんが、すでに魔法陣を準備して待ってくださっています。
 その横には、本日同行する、リンシンさんとシロの姿があります。

「はい、お待たせして申し訳ありません」
「じゃ、早速行きましょうか」

 私の返事を確認すると、バテアさんは詠唱をはじめました。
 すると、光り輝いている魔法陣の中から転移ドアが出現していきます。

「……さ、準備出来たわよ」

 時間にして1分もかかっていません。
 その扉をバテアさんが開けると……その扉の向こうは、辺境都市ナカンコンベです。
 私達が暮らしている、ここ辺境都市トツノコンベからは荷馬車で何週間もかかる場所にある、このナカンコンベですが、バテアさんが得意になさっている転移魔法を使用すれば、一瞬にして移動出来るんです。
 いつもバテアさんが、簡単に転移魔法を使用なさるものですから、感覚が麻痺してしまいそうになるのですが……以前、バテアさんからお聞きしたお話だと、転移魔法を使用出来る魔法使いの方はそんなに多くはいないそうなんです。
 魔法を使用出来る方によって、適している魔法・適していない魔法があるそうでして、転移系の魔法に適した魔法使いの方というのは滅多にいないそうなんです。

「……まぁ、確かに珍しいとは思うけどさ、アタシの場合はその代わりに、攻撃系の魔法はからっきしだからねぇ」

 そう言うと、クスクス笑うバテアさん。

「いえ……それでも転移魔法を使用出来るのですから、本当にすごいと思います」
「……うん、私もそう思う」

 私の言葉に、リンシンさんも相づちをうっておられます。
 リンシンさんに抱きついているシロも、コクコクと頷いていました。
 すっかりリンシンさんに懐いているシロ。
 大好きなリンシンさんと一緒にお出かけ出来るとあって、その尻尾が嬉しそうに左右に揺れ続けています。

「まぁ、お褒め頂けて光栄だけど……さ、早く行きましょう」
「はい、そうですね」
「……ん」

 バテアさんに続いて、私、リンシンさんとシロの順番で転移ドアをくぐっていきました。

 いつもの見慣れた街道。
 『ドンタコスゥコ商会』と書かれている看板のお店の向かいにある路地を入っていった場所にあるおもてなし商会が私の仕入先です。

「リンシンはどうするの? 先に……その、なんとか工房に行く?」
「……ん。せっかくだし……さわこの仕入れが済んでから、一緒に行く」
「そうね、あの工房の向かいに美味しい食堂もあるし、リンシンの用事が済んだらそこで何か食べて帰ってもいいかもね」
「……うん、そうしよう」

 バテアさんの言葉に、にっこり微笑むリンシンさん。
 そんなリンシンさんの笑顔を見上げながら、シロも笑顔を浮かべています。

 今日、リンシンさんが同行されたのはですね……ここ、ナカンコンベにいい武具を売っているお店があると、知り合いの冒険者の方からお聞きしたとのことで、
『……その店に行ってみたい』
 と、申し出てこられた次第なんです。

 さて、そんなリンシンさんのためにも、仕入を早めに終わらせませんと……

 路地を通っていくと、何台もの荷馬車が止まっている一角へとでました。
 ここが、私の目的地『おもてなし商会』です。

「げ……小娘……そろそろ来る頃だと思ってたけど、やっぱり来たわね!」
「あ、ファラさん、今日もお世話になりますね」

 私を見つけるなり、気のせいか眉間にシワを寄せておられる長身の女性……この方が、おもてなし商会の会長をなさっているファラさんです。
 龍人とのことでして、頭に二本の角が生えていて、お尻からかなり太い尻尾が伸びています。

「いいこと、小娘……今まではいいように値切られたけど、今日こそは思い通りにはさせないからね」
「はい、お手柔らかにお願いします」

 少し、物騒な言葉を使用なさっているファラさんなのですが……実はとっても優しいんです。
 いつも色々言われるのですが、最後にはいつも私の希望額で食材を販売してくださるんですもの。

 ……1時間後

「今日も、色々ありがとうございました」

 満面の笑顔の私。
 ほらね、今日も私の欲しかったタテガミライオンのお肉などをとってもお手頃価格で販売してくださいました。

「あぁ、もう……なんでいっつも最後はこうなるのかしらねぇ……ドンタコスゥコをはじめとした商会のヤツらには一度も負けたことがないってのに……なんでこの小娘には……」

 ファラさんは少し涙目になっている気がしないでもないのですが……きっと気のせいですよね。

「では、また次回もよろしくお願いいたします」
「じ、次回は絶対に負けないんだからね! 覚えて起きなさい!」

 ファラさんにお辞儀をする私。
 そんな私に、それでも手を振ってくださっているファラさん。

 そんな私とファラさんを、バテアさんが目を丸くしながら交互に見つめておられました。

「……相変わらずすごいわね、さわこってば……あの百戦錬磨の商売人のファラを相手に、自分の希望額で仕入れをしちゃうんだから……」
「いえいえ、いつもファラさんが手を抜いてくださっているだけですよ、きっと」
「そ、そうなのかしらねぇ……」

 しきりに首をひねっているバテアさん。
 そんなバテアさんの手を、シロが引っ張りました。

「……早く次……リンシンの用事のお店に、行こう」
「あぁ、そうね。じゃ、早速行きましょうか」
「うん!」

 バテアさんの言葉に、笑顔を浮かべるシロ。
 シロは、嬉しそうにリンシンさんの手を引っ張りながら、街道へ向かっていきます。
 そんなシロを先頭にして、私達は街道を進んでいきました。

ーつづく


 
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