異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

文字の大きさ
上 下
297 / 343
連載

さわこさんと、七夕前 その3

しおりを挟む
 居酒屋さわこさんの入り口前の柱にくくりつけられている竹ですが、今では3本に増えています。
 それと言うのもですね……

「さーちゃん、今日もみんなで短冊つけていいかニャ?」

 お店の中に飛び込んで来たベル。
 その後方には、エンジェさんをはじめとしたおチビさんチームに加えて、みんながいつも一緒に遊んでいるトツノコンベの猫集会に参加しているみんながたくさん続いています。
 はい、そうなんです。
 ベルから短冊のことを聞いた、猫集会のお友達のみんなもですね、

『私も短冊書きたい!』
『ウチもニャワ!』
『アタシも~!』

 そう言い出しまして、連日こうして短冊を書きに開店前のお店にやって来ているんです。
 そのため、いつもは開店時間がくるまで店内にしまってある竹なのですが、最近はお昼すぎにはお店の外に出しているんです。

「はいはい、今日も好きなだけ書いていってくださいね」

 私が笑顔でそう言うと、ベルやみんなは

「「「ありがと~」」」

 一斉にお礼を言いながら、ぺこりと頭を下げました。
 ちなみにこの猫集会なのですが、昔はこの街で暮らしていた亜人種族の猫人さんだけが集まって遊んでいたことからその名前がついているそうなのですが、いつのまにか猫人さん以外の子供達も参加するようになって今にいたっているそうなんです。

「今日は何書くニャ?」
「今日は何にしようかニャあ」

 そんな会話を交わしながら、短冊を前にして考えを巡らせている子供達。
 なんでしょう、そんなみんなの姿を見ているとなんだかこちらまで楽しくなってしまいますね。
 
 ……そんな中ですが……

 一部の子供達が時折私の方へチラチラと視線を向けてきています。

 ……ふふ、どうやらいつものアレを期待しているようですね。

 いえね、せっかくお店にやってきて短冊を書いているんですから、いつもお菓子を出してあげているんです。
 どうやら、それが出てくるのを期待して待っているみたいですね。

 そんな子供達ににっこり微笑むと、私は厨房へと移動して行きました。
 すでに下ごしらえはしてあります。

 甘酒と、私の世界のイチゴによく似ているイルチーゴを一緒にしてミキサーで攪拌したものを、軽く一煮立ちさせてアルコール分を飛ばしてからカップに取り分けて冷やしてあります。
 ゼラチンも混ぜていますので、良い感じに固まっています。
 
「さて、では……」

 ボールの中に生クリームと水飴を合わせて、手持ち式の電動ハンドミキサーで攪拌していきます。
 途端に、水飴の甘い匂いが周囲に広がっていきます。

「うわぁ……」
「甘い匂いニャ……」
「さわこのお菓子作りね」

 その匂いに気がついた子供達が一斉にカウンターの方へと集まってきます。
 もう、短冊どころではないようですね。

「はいはい、もう少し待ってくださいね」

 みんなに笑顔を向ける私。
 その間も、ミキサーで攪拌を続けています。
 途中でイルチーゴの絞り汁も加えて、さらに攪拌。
 いい感じになったところで、出来上がった生クリームを絞り器に入れまして、容器1つ1つに飾り付けしながら生クリームをのせていきます。
 最後に、三等分にしたイルチーゴを盛り付けて……

「さ、甘酒とイルチーゴのゼリーが出来ましたよ」

 私は、盛り付けが終わった容器をカウンターの上に並べていきました。

「うわぁ、イルチーゴ色にゃ!」
「容器が冷たいのね!」
「うわぁ、イルチーゴのデザート! すごいニャ!」

 子供達は歓声をあげながら容器を手にしています。
 そんなみんなに、スプーンを配っていく私。

「さ、みんなに行き渡ったかしら?」
「「「は~い!」」」
 
 私の声に、みんな笑顔で元気に返事を返してくれました。
 
「じゃあ、みんな手を合わせて……いただきます」
「「「いただきま~す!」」」

 私が手を胸の前で手を合わせると、子供達も同じように手を合わせまして、元気な声でいただきますの声をあげていきました。
 挨拶が終わると、みんな待ちかねたようにスプーンでゼリーをすくって口に運んでいきました。

「んん! 甘~い!」
「すっごく美味しい!」
「冷たくて甘いニャ!」

 子供達は、嬉しそうに笑い合いながらゼリーを口に運んでいました。
 一口、口に入れては歓声をあげる子供。
 一心不乱に食べ続けている子供。
 みんなそれぞれの食べ方で、ゼリーを堪能してくれています。

「……あれ?」

 その時、私はちょっとした違和感を感じていました。
 こうして、新商品をお店に出していると、どこからともなく出現してくるあの方の姿が見えません。
 そう言えば、昨日も一昨日も現れなかったんですよね……お隣のツカーサさん……

「さーちゃん、どうかしたのかニャ?」

 周囲を見回している私に気がついたベルが、小首をかしげながら尋ねてきました。

「あ、いえ、なんでもないんですよ」

 そんなベルに、少し苦笑しながら返事を返した私。
 とにもかくにも、今は子供達が喜んでくれていることでよしとしましょう。

◇◇

 その夜、居酒屋さわこさんの営業時間。

「そりゃそうだよ~、子供達があんなにいっぱい集まっているところに入っていくほど空気読めない私じゃないわよ~」

 お店にお客としていらしたツカーサさんは、そう言いながら笑っておられました。

「じゃあ、気がついてはおられたんですね?」
「そりゃそうよぉ、昨日の和風ドーナツも美味しそうだったしぃ、今日のゼリーもすっごく美味しそうだったじゃないのぉ」

 そう言いながら、クッカドウゥドルの串焼きを口に運んでいくツカーサさん。
 
「へぇ、ツカーサでも気を使うことがあるんだ」
「そりゃそうだよぉ、いつも新作料理を食べさせてもらった時だってちゃんと代金払わせてもらってるじゃない~」

 バテアさんの言葉に、笑いながら答えるツカーサさん。

「昨日のドーナツはもうありませんけど、今日のゼリーでしたら1つ残っていますので食べられますか?」
「わ! ほ、ホントさわこ! 食べる食べる、もう絶対食べるぅ!」

 私の言葉に、立ちあがって歓喜の声をあげたツカーサさん……なのですが……

「……あ~……や、やっぱり遠慮しようかなぁ~」

 そう言いながら、席に座ってしまいました。

「え、ど、どうなさったのです? ツカーサさん?」
「いやぁ……だってさぁ……」

 そう言って私の後方を指さすツカーサさん。
 その指の先、私の後方へ視線を向けてみますと……そこには、すぐにお出し出来るようにと、魔石冷蔵庫から取り出しておいたゼリーの容器が置かれていたのですが……

「みゅ、みゅ、みゅ……むぐむぐ……」

 トルキのミュウが、幼い鳥の姿のまま容器の側に立っていまして、そのくちばしでゼリーを一心不乱に食べているではありませんか。
 そういえば、さっきまで肩にのっかっていたミュウが、いつの間にかいなくなっているなぁ、とは思っていたのですが……カウンターの上のソファに戻ったんじゃなかったんですね。

「まぁ、ミュウが美味しそうに食べている姿を肴にして、さわこの美味しい料理を頂くことにするわぁ……とほほぉ」

 苦笑しながら、残っていた焼き鳥の串を口に運んでいくツカーサさん。

「あの、明日また作っておきますから」
「うん、すっごく期待しているね~」

 そんな会話を交わしている私とツカーサさん。
 
 私の後方では、ミュウが美味しそうにゼリーを食べ続けていました。

ーつづく
しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。