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連載
さわこさんと、お祭の前に その1
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今日の私は、お店がまだやっていない時間を利用してトツノコンベ商店街の中程にあります集会所にやってきていました。
月に1度、中流酒場組合に所属なさっている酒場の皆様を相手に料理教室を開かせて頂いていまして、今日はその教室の日だったんです。
メニューは私の世界のものが中心ですが、材料はこちらの世界で入手出来る物を使用するように心がけています。
そうすれば、皆さんはお店に戻って再現するのも容易ですので。
とはいえ、今、中級酒場組合に加盟なさっている酒場の皆様は、バテア青空市で青物を購入なさっておられますので、そんなに心配する必要はないんですけどね。
バテア青空市で扱っている野菜は、すべてアミリアさんの農場で収穫されているお野菜です。
その多くは、私の世界から持って来た野菜の種等を元にして、アミリアさんがこちらの世界のお野菜と交配させて品種改良したものばかりですので、こちらの世界の野菜というよりも私の世界のお野菜を扱っているといっても過言ではありませんので。
「今日もありがとね、さわこ。早速今夜の営業からやってみるよ」
中級酒場組合の組合長をなさっているジュチさんが笑顔で私の元に歩み寄ってこられました。
その左右には、ジュチさんのお店で働いておられる女性の店員さんが寄り添っておられます。
今日は3人で料理教室を受講なさっていたジュチさんなのですが、
「ちょっとジュチ様に近づきすぎでしょ?」
「そっちこそもう少し離れなさいよ」
と、まぁ、終始そんな感じでですね、ジュチさんを中心にして左右のお2人がけん制しあっておられたといいますか……相変わらず、お店の店員さんと仲が良すぎるジュチさんといいますか……
「ジュチさんも、くれぐれもほどほどに」
「あはは……まぁ、ねぇ……」
私の言葉に苦笑なさっているジュチさんですけど、左右のお2人は今もけん制をしあっておられまして……なんといいますか、ちょっと笑えない感じです、はい。
「あ、そうそう。さわこ、また今年もトツノコンベ商店街で夏祭りをするんだけどさ、さわこも中級酒場組合(うち)の祭りに参加してくれるってことでいいのかな?」
「えぇ、よろしくお願いいたします」
ジュチさんの言葉に、私は笑顔で頭を下げました。
ここ辺境都市トツノコンベで実施される夏祭りは、中級酒場組合と上級酒場組合でそれぞれ別れて実施されます。
そんな中、私が経営している居酒屋さわこさんは、商店街組合には登録しているのですが酒場組合には登録していないんです。
もともとこの酒場組合は任意団体とのことでしたので、登録は遠慮させていただいている次第です。
とはいえ、こうして中級酒場組合の皆さんから依頼があれば料理教室も実施しますし、お祭にも参加させていただきます。
ジュチさんはいい方ですし、所属してもいいのですが……私が元いた世界の組合が、少々もめ事が多かったものですから、その印象が今も根深いものですから、参加しなくてもいいのなら参加しない方向で……そう思ってしまう次第なんです。
「ありがとねさわこ。さわこが参加してくれるとなれば、今年も中級酒場組合のお祭は大盛況間違いなしだよ」
「そんな、私1人でどうにかなるなんてありえませんから……大盛況になったのでしたら、それは皆さんが頑張られたからですよ」
「いやいや、さわこがここのみんなの料理の腕を鍛えに鍛えてくれたからこそだって。なぁ、みんな」
「そのとおりです!」
「さわこさんがいなかったら、ここまでお店が人気になりませんでした」
「上級酒場組合のやつらにいいようにあしらわれてたはずだもん」
「ほんと、さわこさんありがとうございます」
ジュチさんの言葉を受けて、帰り支度をはじめていた皆様が口々に私に感謝の言葉をあげながら拍手をしてくださいました。
なんでしょう……思わず胸が熱くなってしまいます。
「皆さん……本当にありがとうございます」
涙がこぼれそうになるのを堪えながら、私は何度も頭をさげていきました。
◇◇
片付けを終えて、帰り支度を整えると、
「さわこ、もう帰れる?」
ちょうどいいタイミングで、バテアさんが教室の中に入ってこられました。
その頭の上にはミュウがのっかっています。
「みゅ! みゅう!」
ミュウは、私の顔を見るとパタパタと羽ばたいて私の胸にむかって飛び込んできました。
料理教室でしたので、バテアさんに面倒をみてもらっていたんです。
「はい、もう帰れます。ミュウもお待たせしました」
「みゅう! ふみゅう~」
私に抱っこされて、嬉しそうに頬ずりしているミュウ。
そんな私とミュウを見ていたバテアさんは、
「んじゃ、帰りましょうか」
そう言うと、私を先導するようにして教室を後にしていきました。
私は、教室を出る前に、教室に向かって一礼してから扉を閉めました。
……今日もお世話になりました
そんな気持ちをしっかりこめて。
「……でも、バテアさん。そろそろ護衛は大丈夫ですよ。もう上級酒場組合の方々も何もしてこられないと思いますし」
そうなんです。
バテアさんは、私のボディガードとして付き添ってくださっているんです。
以前、上級酒場組合の一部の方々に私が拉致されたことがあったものですから、それ以来街中に出かける際にはバテアさんかリンシンさんが警護についてくださっているんです。
とはいえ、すでに実行犯だった方々は都市の衛兵の皆様のおかげで逮捕されていますので、もう心配はないのですが……
「いえいえ、さわこのことだから何に巻き込まれるかわかったもんじゃないじゃない? やっぱり警護は必要だと思うのよ」
「そんなに巻き込まれたりしませんよ、もう私も子供じゃないんですから」
ぷぅ、っと頬を膨らませる私。
そんな私を見つめながら、バテアさんは楽しそうに笑っています。
そんな中、私が頬を膨らませたからでしょう、ミュウがバテアさんに向かって抗議するかのように、
「みゅみゅみゅ!」
少し鋭い鳴き声をあげながら翼をバタバタさせています。
「あはは、悪い悪い。でもね、ミュウ。これもあなたが大好きなご主人様を守るためなんだからさ、大目に見てよ、ね」
バテアさんがそう言ってミュウの頭を撫でると、
「ふむ~」
ミュウは『そういうことなら』とでも言わんばかりに、大きく頷いていました。
そんなミュウの仕草に、思わず笑顔になる私とバテアさん。
その時でした。
「……あ、あのぉ……さ、さわこさん……ですよね?」
「はい、そうですけど?」
声をかけられた私が振り向くと、そこには3人の女性が立っていました。
えっと……どなたでしょう?……お店にいらしたことがあるお客様ではありませんね、見覚えがまったくございません。
すると、バテアさんが私の前に立ちはだかりました。
3人の女性と、私の間に割り込んでこられた感じです。
その際に、バテアさんが小声で私に話しかけてこられたんです。
「……さわこ、こいつら上級酒場組合の酒場のヤツらよ」
その言葉をお聞きした私は、思わず目を丸くしていました。
ーつづく
月に1度、中流酒場組合に所属なさっている酒場の皆様を相手に料理教室を開かせて頂いていまして、今日はその教室の日だったんです。
メニューは私の世界のものが中心ですが、材料はこちらの世界で入手出来る物を使用するように心がけています。
そうすれば、皆さんはお店に戻って再現するのも容易ですので。
とはいえ、今、中級酒場組合に加盟なさっている酒場の皆様は、バテア青空市で青物を購入なさっておられますので、そんなに心配する必要はないんですけどね。
バテア青空市で扱っている野菜は、すべてアミリアさんの農場で収穫されているお野菜です。
その多くは、私の世界から持って来た野菜の種等を元にして、アミリアさんがこちらの世界のお野菜と交配させて品種改良したものばかりですので、こちらの世界の野菜というよりも私の世界のお野菜を扱っているといっても過言ではありませんので。
「今日もありがとね、さわこ。早速今夜の営業からやってみるよ」
中級酒場組合の組合長をなさっているジュチさんが笑顔で私の元に歩み寄ってこられました。
その左右には、ジュチさんのお店で働いておられる女性の店員さんが寄り添っておられます。
今日は3人で料理教室を受講なさっていたジュチさんなのですが、
「ちょっとジュチ様に近づきすぎでしょ?」
「そっちこそもう少し離れなさいよ」
と、まぁ、終始そんな感じでですね、ジュチさんを中心にして左右のお2人がけん制しあっておられたといいますか……相変わらず、お店の店員さんと仲が良すぎるジュチさんといいますか……
「ジュチさんも、くれぐれもほどほどに」
「あはは……まぁ、ねぇ……」
私の言葉に苦笑なさっているジュチさんですけど、左右のお2人は今もけん制をしあっておられまして……なんといいますか、ちょっと笑えない感じです、はい。
「あ、そうそう。さわこ、また今年もトツノコンベ商店街で夏祭りをするんだけどさ、さわこも中級酒場組合(うち)の祭りに参加してくれるってことでいいのかな?」
「えぇ、よろしくお願いいたします」
ジュチさんの言葉に、私は笑顔で頭を下げました。
ここ辺境都市トツノコンベで実施される夏祭りは、中級酒場組合と上級酒場組合でそれぞれ別れて実施されます。
そんな中、私が経営している居酒屋さわこさんは、商店街組合には登録しているのですが酒場組合には登録していないんです。
もともとこの酒場組合は任意団体とのことでしたので、登録は遠慮させていただいている次第です。
とはいえ、こうして中級酒場組合の皆さんから依頼があれば料理教室も実施しますし、お祭にも参加させていただきます。
ジュチさんはいい方ですし、所属してもいいのですが……私が元いた世界の組合が、少々もめ事が多かったものですから、その印象が今も根深いものですから、参加しなくてもいいのなら参加しない方向で……そう思ってしまう次第なんです。
「ありがとねさわこ。さわこが参加してくれるとなれば、今年も中級酒場組合のお祭は大盛況間違いなしだよ」
「そんな、私1人でどうにかなるなんてありえませんから……大盛況になったのでしたら、それは皆さんが頑張られたからですよ」
「いやいや、さわこがここのみんなの料理の腕を鍛えに鍛えてくれたからこそだって。なぁ、みんな」
「そのとおりです!」
「さわこさんがいなかったら、ここまでお店が人気になりませんでした」
「上級酒場組合のやつらにいいようにあしらわれてたはずだもん」
「ほんと、さわこさんありがとうございます」
ジュチさんの言葉を受けて、帰り支度をはじめていた皆様が口々に私に感謝の言葉をあげながら拍手をしてくださいました。
なんでしょう……思わず胸が熱くなってしまいます。
「皆さん……本当にありがとうございます」
涙がこぼれそうになるのを堪えながら、私は何度も頭をさげていきました。
◇◇
片付けを終えて、帰り支度を整えると、
「さわこ、もう帰れる?」
ちょうどいいタイミングで、バテアさんが教室の中に入ってこられました。
その頭の上にはミュウがのっかっています。
「みゅ! みゅう!」
ミュウは、私の顔を見るとパタパタと羽ばたいて私の胸にむかって飛び込んできました。
料理教室でしたので、バテアさんに面倒をみてもらっていたんです。
「はい、もう帰れます。ミュウもお待たせしました」
「みゅう! ふみゅう~」
私に抱っこされて、嬉しそうに頬ずりしているミュウ。
そんな私とミュウを見ていたバテアさんは、
「んじゃ、帰りましょうか」
そう言うと、私を先導するようにして教室を後にしていきました。
私は、教室を出る前に、教室に向かって一礼してから扉を閉めました。
……今日もお世話になりました
そんな気持ちをしっかりこめて。
「……でも、バテアさん。そろそろ護衛は大丈夫ですよ。もう上級酒場組合の方々も何もしてこられないと思いますし」
そうなんです。
バテアさんは、私のボディガードとして付き添ってくださっているんです。
以前、上級酒場組合の一部の方々に私が拉致されたことがあったものですから、それ以来街中に出かける際にはバテアさんかリンシンさんが警護についてくださっているんです。
とはいえ、すでに実行犯だった方々は都市の衛兵の皆様のおかげで逮捕されていますので、もう心配はないのですが……
「いえいえ、さわこのことだから何に巻き込まれるかわかったもんじゃないじゃない? やっぱり警護は必要だと思うのよ」
「そんなに巻き込まれたりしませんよ、もう私も子供じゃないんですから」
ぷぅ、っと頬を膨らませる私。
そんな私を見つめながら、バテアさんは楽しそうに笑っています。
そんな中、私が頬を膨らませたからでしょう、ミュウがバテアさんに向かって抗議するかのように、
「みゅみゅみゅ!」
少し鋭い鳴き声をあげながら翼をバタバタさせています。
「あはは、悪い悪い。でもね、ミュウ。これもあなたが大好きなご主人様を守るためなんだからさ、大目に見てよ、ね」
バテアさんがそう言ってミュウの頭を撫でると、
「ふむ~」
ミュウは『そういうことなら』とでも言わんばかりに、大きく頷いていました。
そんなミュウの仕草に、思わず笑顔になる私とバテアさん。
その時でした。
「……あ、あのぉ……さ、さわこさん……ですよね?」
「はい、そうですけど?」
声をかけられた私が振り向くと、そこには3人の女性が立っていました。
えっと……どなたでしょう?……お店にいらしたことがあるお客様ではありませんね、見覚えがまったくございません。
すると、バテアさんが私の前に立ちはだかりました。
3人の女性と、私の間に割り込んでこられた感じです。
その際に、バテアさんが小声で私に話しかけてこられたんです。
「……さわこ、こいつら上級酒場組合の酒場のヤツらよ」
その言葉をお聞きした私は、思わず目を丸くしていました。
ーつづく
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