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さわこさんと、厄災と その4

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 ここ、スピアナ山の中腹にある門の遺跡。
 その番人のソルデンテさんが、次元の狭間の向こう側に落っこちそうになっていたせいで、こちらの世界に他の世界の魔獣が頻繁にやってきていたことがわかったわけですが……

「うんうん、こんな美味いもんはじめて食ったよ」

 そのソルデンテさんは、私が持参したレジャーシートの上で胡座をかいて、お重の中からおにぎりをどんどん口に運んでおられます。

「ニャ! ソーちゃん1人3個までニャ!」
「あン? ベルってばそう固いことを言うなって」
「ううん、私も駄目だと思うわ!」
「……シロも」
「妾もそう思うのじゃ!」
「うげ……エンジェに、シロに、ロッサもかよ……ったく、しゃあねぇなぁ」

 女性ながら豪快な性格のソルデンテさんですが、おチビさんチームの総攻撃をくらっては為す術がないらしく、お重にのばしていた手を渋々と引っ込めておられました。

 おにぎりは、私が作成したものです。

 豆ご飯のおにぎり
 きゃらぶき入りのおにぎり
 焼きおにぎり

 おチビさんチームのみんなのために、オムライス風のおにぎりなんかも準備してあります。

 私の横で、お皿の上にのっかっているミュウはコーンのおにぎりがお気に入りでして、コーンをくちばしでほじくりだしては、嬉しそうに食べています。
 そうやってコーンを多めに食べるのがわかっていますので、ミュウのおにぎりはコーンの方が多くなっています。

「ミュウ、美味しいですか?」
「みゅう! みゅ、みゅう!」

 私の言葉に、嬉しそうに羽根をパタパタさせながら答えるミュウ。
 その姿がとっても可愛らしいです。

「しかしあれだな、こっちのツカーサが作った飯も旨いんだが、こっちのさわこが作った飯は格別だな、おい。すっげぇ美味いわ」
「そりゃそうだよ、さわこは居酒屋をやってるんだから。私もさわこの料理が大好きなのよ」
「いや、そりゃすごいと思うんだが……なんでツカーサが自分のことのようにえらそうにしてるんだ?」

 胸をはってエッヘンといった表情を浮かべているツカーサさんを前にして首をひねるソルデンテさん。
 
「しかしあれだな、とにかく美味い! おかげでぶら下がり続けていたせいでヘロヘロになっていた体がみるみる回復していくよ」

 そう言って豪快に笑っておられるソルデンテさんなのですが……女性とは思えないほど筋骨隆々なそのお姿を拝見していると……し、失礼ながら
『どこがお疲れなのでしょうか?』
 そんなことを思ってしまうといいますか……

「まぁ、とにかく。これからはよろしく頼むわよ。あんな魔獣がちょくちょく出てこられたら敵わないんだからね」
「あぁ、任せてくれ。次ぎに次元のひずみが生じたら、俺が力ずくで閉じてやっから」

 お互いに笑い合っているバテアさんとソルデンテさん。
 お2人はすっかり意気投合していて、先ほどから何度もお酒を酌み交わし続けています。

 ららら~ 森の狭間に木漏れ日が~♪

  照らす門の遺跡~♪

 吟遊詩人のミリーネアさんも、気分がいいのかそんな歌を口ずさんでいらっしゃいます。

 森の中に、ぽつんと建っている石の柱。
 それがかつて、異世界とこの世界をつなぐ門だったなんて、そう説明されなければ想像出来ません。
 そんな遺跡の前で、みんなでお弁当を食べるというのも、なんだか不思議な感じがしてしまいます。

 その後、ご飯を食べ終わったおチビさんチームのみんなは、ソルデンテさんと追いかけっこをして遊んでもらっていました。
 ミュウも、その話に加わって、

「ミュミュウ!」

 楽しそうに羽ばたいていました。

 最初は、門の遺跡の調査をしにやってきた私達ですが……なんでしょう、結局楽しいハイキングを満喫した感じになってしまっていたわけでございます。
 でも、まぁ、それも私達らしくていいかな、とも思ったり……実際問題といたしまして、厄災の魔獣問題も結果オーライで解決出来たわけですしね。

 その後、門の遺跡を後にした私達。

「また遊びに来ますね」
「あぁ、楽しみに待ってるよ」

 私の言葉に、笑顔で手を振っているソルデンテさん。
 おチビさんチームのみんなも、遊んでもらったことですっかり打ち解けたらしく、

「ソーちゃんまた来るニャ!」
「私もまた来るわ!」
「シロも……」
「妾も、また来てやってもよいのじゃ」

 そんな言葉を口にしながらソルデンテさんに抱きついていました。

「あはは、みんなありがとな。楽しみに待ってっからよ」

 ソルデンテさんも笑顔で、そんなみんなを抱きしめてくださっています。
 そんなソルデンテさんに見送られながら、私達はバテアさんの転移ドアでトツノコンベにあるバテアさんの自宅へと戻っていきました。

◇◇

 その夜のこと……

 今日は祝日ですので、居酒屋さわこさんはお休み……の、はずなのですが……
 お店の中には魔法灯の灯りが灯っています。

「あっはっは、悪いねぇ。まさか今日が定休日だとは思わなくてさぁ」

 カウンター席で、そう言って笑っているのは……誰あろうソルデンテさんでした。

「なんかさぁ……みんなが帰った後に『さわこのお店かぁ……さぞ、料理が美味いんだろうなぁ』って考えてたらさ、いてもたってもいられなくなってさぁ、浮遊して来ちゃったってわけなんだわ」

 ……とまぁ、ご本人が語られていますように、ソルデンテさんってば門の遺跡から、居酒屋さわこさんまで空を飛んでこられたんです。
 まぁ、思念体という、私の世界の幽霊のような存在のソルデンテさんですので、そういった行動もお手の物なんでしょうけど、

「びっくりしましたよ、屋上で洗濯物を取り込んでいたら、いきなり頭の上から声をかけられたんですから」

 厨房の中で、思わず苦笑する私。

 そうなんです。
 門の遺跡から帰った私は、おチビさんチームのみんなにも手伝ってもらいながら、屋上に干していたお手拭きを取り込んでいたのですが、

『あぁ、いたいた』

 って、頭の上から話しかけられたもんですから、思わず腰を抜かしそうになってしまったんですよ。

「あっはっは、悪い悪い。でも、さわこが屋上にいてくれて助かったよ。何しろ50年ぶりだったからねぇ、ここトツノコンベも。街の様子があまりにも変わりすぎてたのと、前に来たときの記憶が曖昧過ぎてさぁ」

 そう言って、豪快にお酒を飲み干していくソルデンテさん。

「そりゃそうよ、50年前っていったらアタシもまだこの街に来てなかったわよ」
「ありゃ? そうだっけ?」
「そうなのよ」
「まぁ、細かいことはいいじゃねぇか、とにかく酒だ酒だ!」
「はいはい……まったく、調子がいいんだから」

 苦笑しながらも、ソルデンテさんのコップにお酒を注いでいくバテアさん。
 元々お休みでしたので、店内のお客さんはソルデンテさんお一人だけです。
 でも、その豪快なお声のせいで、まるで店内が満席のように錯覚してしまうから、本当に不思議です。

 こうして、元気印の門の守護者ソルデンテさんが、居酒屋さわこさんのお客様に加わられました。
 
ーつづく
 
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