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さわこさんと、厄災と その1
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今日も居酒屋さわこさんを開店した私なのですが……
「……なんだか、雲行きが怪しいですね」
空を見上げながら首をひねっておりました。
なんでしょう……山の方がどんより黒くて重たい雲で覆われているように見えます。
「これは……久々に厄災の魔獣が出てくるかもねぇ」
「厄災の魔獣?」
私の後ろから空を見つめていたバテアさん。
その言葉に、私はきょとんとしてしまいました。
「厄災の魔獣……って、何なのですか?」
「あぁ、そうね。さわこは知らないわね。去年は出現しなかったし」
「はぁ……そうですね、確かに去年はそんな名前を聞いた覚えがございませんので」
「厄災の魔獣っていうのはね、この世界とは別の世界に棲息している魔獣なんだけど、あの山のあたりに生じる次元の裂け目を通ってこっちの世界にやってきては災いをもたらす……まぁ、たちの悪い害獣ね」
「災いといいますと……都市を破壊したりするのですか」
「そうねぇ……次元の裂け目を通ってくる厄災の魔獣によって、もたらされる被害はまちまちなのよね。龍なら大雨に雷、鯰なら地震、怪鳥なら大嵐……」
そんな説明をしてくださっているバテアさんなのですが、
「ややや厄災の魔獣怖いニャ~……」
「……厄災……やだ……」
「わわわ妾も根っこごと吹き飛ばされたことがあるだけに……」
その話を聞きながら、ベル・シロ・ロッサさんの3人が、私にしがみついてガタガタ震えはじめたんです。
どうやら……3人は厄災の魔獣がもたらす被害を経験したことがあるみたいですね。
一方、私と一緒にこちらの世界にやってきたエンジェさんと、産まれて間もないミュウは、当然厄災の魔獣など知りませんので、
「厄災の魔獣ってそんなに怖いの? よくわからないわ」
「ミュウ~……」
お互いに顔を見合わせながら首をひねっていました。
そうですね、どちらかと言うと、私もこちらの組のような感じです。
とはいえ……
「バテア、さわこさん、今夜はお店を早めにしめて戸締まりをしっかりしておいてください」
役場のヒーロさんが慌てた様子でお店に顔をだされると、やはり大変なんだなと思ってしまうわけでして……
「厄災の魔獣が出てきそうなの?」
「山の中腹で、次元の裂け目が確認されたからね、そう思っておいた方がよさそうだ」
「まったく……あそこの門(ゲート)にも困りものよねぇ……こう、頻繁に暴走されたらかなわないってのよ」
そんな会話を交わしているバテアさんとヒーロさん。
厄災の魔獣にしろ、門にしろ、今まで知らない言葉を聞く度に、ここが異世界なんだということを改めて実感してしまいます。
「とにかくさわこ、今日はお店は閉めましょう。リンシン、提灯を片付けて」
「……ん、わかった」
バテアさんの言葉を受けて、リンシンさんがお店の入り口に歩いていきました。
その足元には、シロがしっかりと抱きついています。
お店の外からは、都市の人達があれこれ忙しく動き回っておられる声も聞こえてきます。
どうやら、都市全体が大騒ぎになっているみたいですね。
「そういえば、白銀狐の皆さんも非難させた方がいいのでは?」
「そうね……とりあえずさわこの森に移動させましょうか」
私の言葉を受けて、市場の方に駆けていくバテアさん。
私も、お店の片付けをしないと……
そう思いながら、厨房を出ようとした、まさにその時でした。
「ん? 何かあったのかさわこ」
そう言いながらお店に入ってきたのは、ゾフィナさんでした。
「あ、ゾフィナさん……今日はお店を早く閉めることにしたところでして……なんでも厄災の魔獣があの山の次元の狭間を通ってやってくるとかで……」
「ん、そうなのか?」
そう言いながら、山の方へ視線を向けていくゾフィナさん。
「……うん……確かに、次元の狭間が発生しているな。そこを通過しようとしている魔獣の存在も確認出来る。あいつのせいで、店を早めに閉めるのか?」
「は、はい、そうなんです」
「では、あいつがいなくなれば、店は続けるノだな?」
「え?……えぇ、それは……そういうことになります、けど……」
「うむ、わかった」
そう言うと、ゾフィナさんは右手を上に向かって延ばしていきました。
すると、その背中に大きな羽根が出現して、体全体が光りに包まれはじめたではありませんか。
身につけていた衣類も、まるでギリシア神話に出てくる人々のような白い布に変わっています。
なんでしょう……まるで、天使のような、とでもいいますか。
「天界の使徒ゾフィナが命じる、この世界から去れ厄災の者よ!」
大きな声を発するゾフィナさん。
その声は、不思議な感じで反響しながら、広がっていきました。
「な、何が起きたってのよ!?」
その様子に気がついたバテアさんが、すごい勢いで戻ってこられました。
そんなバテアさんの前で、山を睨み付けているゾフィナさん。
……すると
ギャオォ……
なんでしょう……巨大な魔獣の物と思われる鳴き声が聞こえたかと思うと……先ほどまでどんよりと曇っていた空が、綺麗な夕焼けに変わっていくではありませんか。
「……ふむ、これでよし。厄災の魔獣もこれに懲りてしばらくこっちの世界にやってこようとは思わぬであろう。そのうちに次元の狭間も閉じるであろうしな」
そう言うと、右手を卸していくゾフィナさん。
すると、その姿はいつもの冒険者風の出で立ちに戻っていったのです。
「……と、言うわけでさわこ、ぜんざいだ、いつものぜんざいを頼む!」
「あ……は、はい!」
ゾフィナさんの言葉で、ようやく我に返った私は、慌てて厨房に戻っていきました。
その様子を見ていたバテアさんが呆れたような表情をなさっています。
「やれやれ……ゾフィナのぜんざい愛の前には、厄災の魔獣も勝てない……ってわけなのね」
バテアさんの言葉を聞いたミリーネアさんが、ハープをつま弾きはじめました。
♪天の使い~
♪ぜんざいのために厄災を取り除き~
その歌を聴きながら、唖然としているリンシンさん。
ベルやロッサさんも、
「……厄災……追い払ったニャ?」
「……妾も長年生きておるが……こんな経験はじめてなのじゃ」
目を丸くして、信じられないといった様子です。
そんなみんなの視線の先のゾフィナさんはというと……
「ぜんざい、ぜんざい~、久しぶりのぜんざいだ」
ご機嫌な様子のゾフィナさんの姿がありました。
どこをどう見ても、いつものゾフィナさんにしか見えません。
そうですね……とにもかくにも、厄災の魔獣を追い払ってくれたゾフィナさんのために、今日はいつもより気合いをいれてぜんざいを作らせていただこうと思います。
お店の外では、
「なんだ……何が起きたんだ?」
「急に厄災の魔獣の気配がなくなったらしいぞ……」
都市の人々のそんな声が聞こえてきます。
みなさんも、その原因がぜんざいだとは、夢にも思わないでしょうね。
ーつづく
「……なんだか、雲行きが怪しいですね」
空を見上げながら首をひねっておりました。
なんでしょう……山の方がどんより黒くて重たい雲で覆われているように見えます。
「これは……久々に厄災の魔獣が出てくるかもねぇ」
「厄災の魔獣?」
私の後ろから空を見つめていたバテアさん。
その言葉に、私はきょとんとしてしまいました。
「厄災の魔獣……って、何なのですか?」
「あぁ、そうね。さわこは知らないわね。去年は出現しなかったし」
「はぁ……そうですね、確かに去年はそんな名前を聞いた覚えがございませんので」
「厄災の魔獣っていうのはね、この世界とは別の世界に棲息している魔獣なんだけど、あの山のあたりに生じる次元の裂け目を通ってこっちの世界にやってきては災いをもたらす……まぁ、たちの悪い害獣ね」
「災いといいますと……都市を破壊したりするのですか」
「そうねぇ……次元の裂け目を通ってくる厄災の魔獣によって、もたらされる被害はまちまちなのよね。龍なら大雨に雷、鯰なら地震、怪鳥なら大嵐……」
そんな説明をしてくださっているバテアさんなのですが、
「ややや厄災の魔獣怖いニャ~……」
「……厄災……やだ……」
「わわわ妾も根っこごと吹き飛ばされたことがあるだけに……」
その話を聞きながら、ベル・シロ・ロッサさんの3人が、私にしがみついてガタガタ震えはじめたんです。
どうやら……3人は厄災の魔獣がもたらす被害を経験したことがあるみたいですね。
一方、私と一緒にこちらの世界にやってきたエンジェさんと、産まれて間もないミュウは、当然厄災の魔獣など知りませんので、
「厄災の魔獣ってそんなに怖いの? よくわからないわ」
「ミュウ~……」
お互いに顔を見合わせながら首をひねっていました。
そうですね、どちらかと言うと、私もこちらの組のような感じです。
とはいえ……
「バテア、さわこさん、今夜はお店を早めにしめて戸締まりをしっかりしておいてください」
役場のヒーロさんが慌てた様子でお店に顔をだされると、やはり大変なんだなと思ってしまうわけでして……
「厄災の魔獣が出てきそうなの?」
「山の中腹で、次元の裂け目が確認されたからね、そう思っておいた方がよさそうだ」
「まったく……あそこの門(ゲート)にも困りものよねぇ……こう、頻繁に暴走されたらかなわないってのよ」
そんな会話を交わしているバテアさんとヒーロさん。
厄災の魔獣にしろ、門にしろ、今まで知らない言葉を聞く度に、ここが異世界なんだということを改めて実感してしまいます。
「とにかくさわこ、今日はお店は閉めましょう。リンシン、提灯を片付けて」
「……ん、わかった」
バテアさんの言葉を受けて、リンシンさんがお店の入り口に歩いていきました。
その足元には、シロがしっかりと抱きついています。
お店の外からは、都市の人達があれこれ忙しく動き回っておられる声も聞こえてきます。
どうやら、都市全体が大騒ぎになっているみたいですね。
「そういえば、白銀狐の皆さんも非難させた方がいいのでは?」
「そうね……とりあえずさわこの森に移動させましょうか」
私の言葉を受けて、市場の方に駆けていくバテアさん。
私も、お店の片付けをしないと……
そう思いながら、厨房を出ようとした、まさにその時でした。
「ん? 何かあったのかさわこ」
そう言いながらお店に入ってきたのは、ゾフィナさんでした。
「あ、ゾフィナさん……今日はお店を早く閉めることにしたところでして……なんでも厄災の魔獣があの山の次元の狭間を通ってやってくるとかで……」
「ん、そうなのか?」
そう言いながら、山の方へ視線を向けていくゾフィナさん。
「……うん……確かに、次元の狭間が発生しているな。そこを通過しようとしている魔獣の存在も確認出来る。あいつのせいで、店を早めに閉めるのか?」
「は、はい、そうなんです」
「では、あいつがいなくなれば、店は続けるノだな?」
「え?……えぇ、それは……そういうことになります、けど……」
「うむ、わかった」
そう言うと、ゾフィナさんは右手を上に向かって延ばしていきました。
すると、その背中に大きな羽根が出現して、体全体が光りに包まれはじめたではありませんか。
身につけていた衣類も、まるでギリシア神話に出てくる人々のような白い布に変わっています。
なんでしょう……まるで、天使のような、とでもいいますか。
「天界の使徒ゾフィナが命じる、この世界から去れ厄災の者よ!」
大きな声を発するゾフィナさん。
その声は、不思議な感じで反響しながら、広がっていきました。
「な、何が起きたってのよ!?」
その様子に気がついたバテアさんが、すごい勢いで戻ってこられました。
そんなバテアさんの前で、山を睨み付けているゾフィナさん。
……すると
ギャオォ……
なんでしょう……巨大な魔獣の物と思われる鳴き声が聞こえたかと思うと……先ほどまでどんよりと曇っていた空が、綺麗な夕焼けに変わっていくではありませんか。
「……ふむ、これでよし。厄災の魔獣もこれに懲りてしばらくこっちの世界にやってこようとは思わぬであろう。そのうちに次元の狭間も閉じるであろうしな」
そう言うと、右手を卸していくゾフィナさん。
すると、その姿はいつもの冒険者風の出で立ちに戻っていったのです。
「……と、言うわけでさわこ、ぜんざいだ、いつものぜんざいを頼む!」
「あ……は、はい!」
ゾフィナさんの言葉で、ようやく我に返った私は、慌てて厨房に戻っていきました。
その様子を見ていたバテアさんが呆れたような表情をなさっています。
「やれやれ……ゾフィナのぜんざい愛の前には、厄災の魔獣も勝てない……ってわけなのね」
バテアさんの言葉を聞いたミリーネアさんが、ハープをつま弾きはじめました。
♪天の使い~
♪ぜんざいのために厄災を取り除き~
その歌を聴きながら、唖然としているリンシンさん。
ベルやロッサさんも、
「……厄災……追い払ったニャ?」
「……妾も長年生きておるが……こんな経験はじめてなのじゃ」
目を丸くして、信じられないといった様子です。
そんなみんなの視線の先のゾフィナさんはというと……
「ぜんざい、ぜんざい~、久しぶりのぜんざいだ」
ご機嫌な様子のゾフィナさんの姿がありました。
どこをどう見ても、いつものゾフィナさんにしか見えません。
そうですね……とにもかくにも、厄災の魔獣を追い払ってくれたゾフィナさんのために、今日はいつもより気合いをいれてぜんざいを作らせていただこうと思います。
お店の外では、
「なんだ……何が起きたんだ?」
「急に厄災の魔獣の気配がなくなったらしいぞ……」
都市の人々のそんな声が聞こえてきます。
みなさんも、その原因がぜんざいだとは、夢にも思わないでしょうね。
ーつづく
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