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さわこさんと、迷子の達人 その1
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夜。
今夜も居酒屋さわこさんの玄関前に提灯がぶら下がっております。
日が長くなってきたせいで、開店時間になってもまだ明るいことが多くなっているのですが、それもまたこの時期の風情があっていいものですね。
ラララ~♪ 扉が一つ~ それは道への扉~♪
いつものように、お店の隅に座っているミリーネアさんが歌っています。
いつものようにハープをつま弾きながら歌っているミリーネアさん……ですが……
気のせいでしょうか、いつもよりなんだか楽しそうです。
「歌の内容からして、明日さわこの世界に行けるのが楽しみで仕方ないみたいね」
日本酒の瓶を取りに来たバテアさんの一言で、私も思わず頷きました。
言われてみますと、今夜のバテアさんは転移ドアをくぐって私の世界へ向かうことばかり歌っておられます。
なんでしょう……まるで、遠足の前日の子供みたいですね。
「おっさけ~おっさけ~、明日はどんなお酒に出会えるかしら~」
カウンター席でも一人、ミリーネアさん並に浮かれているお客様が1人。
はい、私の親友の和音です。
明日は、和音も一緒に私の世界に転移するものですから、今夜はバテアさんの家に一緒に宿泊することになっています。
「でもあれよね~いつものお馴染みのお酒も捨てがたいのよ~、この上善なんていつ飲んでも最高というかぁ、あははぁ」
まだ開店して間がないのですが、和音はすでに顔を真っ赤にしています。
もともと顔が赤くなりやすい和音ですけど、それにしても今夜の和音はペースが早いといいますか、赤くなり具合がちょっとすごいといいますか……
「ワー子、さぁ、これも食べて。お酒だけ飲んでたら危ないわよ」
そう言って、和音の前に一皿置いた私。
茄子の焼きびたしです。
焼いた茄子を薄めの出汁につけただけの一品ですけど、茄子が旬のこの時期に茄子そのものの味を楽しむにはもってこいの料理なんですよ。
「あ~、いいなぁ、これ。さわこってこの時期いっつもこれをみんなに勧めてたよね~」
和音は笑顔で茄子を口に運んでいきました。
その姿を見ていると……不思議ですね、なんだかここが居酒屋酒話のように思えてきてしまいます。
忙しい中、お店によく通ってくれていた和音とみはる。
そんな二人と、話をしながらのんびりした時間を、よく、すごしたものです。
でも
今の居酒屋さわこさんには、ありがたいことに多くのお客様がご来店くださっています。
「さわこさん、こっちに焼き鳥を3人前お願い出来ますか?」
「こっちは和風すぅぷかれぇをお願い」
お店のあちこちから、注文の声が聞こえてきます。
「はい、よろこんで」
その声に笑顔で声を返していく私。
そんな私を見つめながら、和音がにっこり微笑んでいます。
「なんかいいねぇ、こうして賑わっているのって」
「そうね。私もとっても張り合いがあるの」
そんな会話を交わしながら、私と和音はにっこり笑顔を交わしていきました。
◇◇
翌朝になりました。
「あ~……あたた……」
バテアさんが頭を抑えながらご自分に治癒魔法をかけていらっしゃいます。
昨夜、お店が終わった後、いつものように晩酌をした私達。
その中に、和音が加わっていたのですが……
『へぇ、あんたいけるじゃない。もっと飲みなさいよ』
『えへへ~では遠慮なく~』
といった具合に、すっかり意気投合したバテアさんと和音は、すごい勢いでお酒を飲み干していったんです。
その結果……見事に二日酔いになってしまったバテアさん。
……しかし、二日酔いになったバテアさんって、あまり見た記憶がないんですけど……
二日酔いの頭痛を魔法で癒やしているバテアさんの隣では、
「お酒だね~、どんなお酒が新発売されてるのかなぁ」
ワクワク感がこの上ない和音の姿がありました。
バテアさんと一緒に痛飲していた和音……なのですが、こちらはまったく二日酔いの様子はありません。
むしろ、昨夜しっかりお酒を飲んだことで絶好調になっている……そんな感じだけが伝わってきています。
「私ってきっと血液が日本酒で来ているんだよね~」
和音ってば、どこかで聞いたことがあるような言葉を口にしています。
……しかし、あれですね……
私もお洒落には無頓着な方なのですが……今日の和音の姿って、なんといいますか……
白地のシャツに、墨と筆で『酒待機中』って書いてあるんです。
「あ、あの……和音……そ、そのシャツって」
「あぁ、大丈夫だよさわこ、これ、ワノンさんの魔法で墨を固定してあるから洗っても文字がにじんだりしないの」
「あ、あの……それはそれですごいと思うけど、そうじゃなくて……」
……はい、それとなく着替えさせようと試みた私だったのですが、終始こんな感じで話がすれ違ってしまいまして……結局どうにもならなかったんです。
「は~い、じゃあ行くわよ~」
頭を振りながら転移ドアを召喚しているバテアさん。
その後方に、私、ミリーネアさん、和音が控えています。
……あら?
そんな私の足元に、ミュウが歩み寄ってきました。
鳥の姿のまま私の体をよじ登ってきたミュウは、あっという間に私の頭の上にのっかってきたんです。
「ミュウ~ふみゅう~」
どうやら、私の登頂に成功したことでご満悦のようですね。
そして、このまま一緒について行く気満々のようです、はい。
「まぁ、隠蔽魔法をかけておけば大丈夫なんじゃない?」
「すいません、お手数おかけして」
バテアさんに一礼する私。
ミュウは、私の髪の毛を掴んで落ちないように踏ん張っています。
ベル達は、今日もお友達と猫集会に参加しに参加しに行っています。
しっかり、お土産を買ってくるように頼まれていますので、何か見繕わないといけませんね。
「さ、通じたわ。行きましょう」
出来上がった転移ドアを開くバテアさん。
その後ろに続いて、私達も転移ドアをくぐっていきました。
◇◇
転移ドアをくぐって……そうですね、一時間くらい経過したでしょうか……
「はぁ……はぁ……」
私は真っ青になって歩道を走っていました。
その視線の先には、
「ミュウ!ミュミュウ!」
楽しそうに鳴き声をあげながら飛んでいるミュウの姿が……
どうやらミュウってば、こちらの世界の光景が気になったみたいでして……いきなり飛び上がってしまったんです。
「ミュウ、戻って!」
声をあげる私なのですが……飛ぶことに夢中になっているミュウは全然気がついていないようです。
飛べるようになったのも最近で、そんなに高く飛べないミュウ。
ですので、もう少しで捕まえることが出来そうなのですが……もう少しというところで逃げられているんです。
『さわこ、そっちはどう?』
「は、はい、もう少しといいますか……」
脳内に、バテアさんの思念波が聞こえてきました。
「それよりも、そちらはどうですか?」
『それがさぁ……一人捕獲したら一人いなくなっての繰り返しで……まったく、こっちの世界で捕縛魔法を使うわけにもいかないし、困ったもんだわ』
思念波で聞こえてくるバテアさんの声は少し苛立っている感じです。
えぇ……そうなんです。
こちらの世界にやってくるなり、
「珍しい……すごい……」
そう言いながら駆けだしたミリーネアさん。
「お酒が私を呼んでいるの~」
そういいながら駆けだした和音。
さらにミュウが飛び出したものですから……一度に3人が迷子になっている状態でして、それを私とバテアさんが2人で追いかけているわけなんです。
おかしいですよね、追いかける側が1人少ないですよね。
ーつづく
今夜も居酒屋さわこさんの玄関前に提灯がぶら下がっております。
日が長くなってきたせいで、開店時間になってもまだ明るいことが多くなっているのですが、それもまたこの時期の風情があっていいものですね。
ラララ~♪ 扉が一つ~ それは道への扉~♪
いつものように、お店の隅に座っているミリーネアさんが歌っています。
いつものようにハープをつま弾きながら歌っているミリーネアさん……ですが……
気のせいでしょうか、いつもよりなんだか楽しそうです。
「歌の内容からして、明日さわこの世界に行けるのが楽しみで仕方ないみたいね」
日本酒の瓶を取りに来たバテアさんの一言で、私も思わず頷きました。
言われてみますと、今夜のバテアさんは転移ドアをくぐって私の世界へ向かうことばかり歌っておられます。
なんでしょう……まるで、遠足の前日の子供みたいですね。
「おっさけ~おっさけ~、明日はどんなお酒に出会えるかしら~」
カウンター席でも一人、ミリーネアさん並に浮かれているお客様が1人。
はい、私の親友の和音です。
明日は、和音も一緒に私の世界に転移するものですから、今夜はバテアさんの家に一緒に宿泊することになっています。
「でもあれよね~いつものお馴染みのお酒も捨てがたいのよ~、この上善なんていつ飲んでも最高というかぁ、あははぁ」
まだ開店して間がないのですが、和音はすでに顔を真っ赤にしています。
もともと顔が赤くなりやすい和音ですけど、それにしても今夜の和音はペースが早いといいますか、赤くなり具合がちょっとすごいといいますか……
「ワー子、さぁ、これも食べて。お酒だけ飲んでたら危ないわよ」
そう言って、和音の前に一皿置いた私。
茄子の焼きびたしです。
焼いた茄子を薄めの出汁につけただけの一品ですけど、茄子が旬のこの時期に茄子そのものの味を楽しむにはもってこいの料理なんですよ。
「あ~、いいなぁ、これ。さわこってこの時期いっつもこれをみんなに勧めてたよね~」
和音は笑顔で茄子を口に運んでいきました。
その姿を見ていると……不思議ですね、なんだかここが居酒屋酒話のように思えてきてしまいます。
忙しい中、お店によく通ってくれていた和音とみはる。
そんな二人と、話をしながらのんびりした時間を、よく、すごしたものです。
でも
今の居酒屋さわこさんには、ありがたいことに多くのお客様がご来店くださっています。
「さわこさん、こっちに焼き鳥を3人前お願い出来ますか?」
「こっちは和風すぅぷかれぇをお願い」
お店のあちこちから、注文の声が聞こえてきます。
「はい、よろこんで」
その声に笑顔で声を返していく私。
そんな私を見つめながら、和音がにっこり微笑んでいます。
「なんかいいねぇ、こうして賑わっているのって」
「そうね。私もとっても張り合いがあるの」
そんな会話を交わしながら、私と和音はにっこり笑顔を交わしていきました。
◇◇
翌朝になりました。
「あ~……あたた……」
バテアさんが頭を抑えながらご自分に治癒魔法をかけていらっしゃいます。
昨夜、お店が終わった後、いつものように晩酌をした私達。
その中に、和音が加わっていたのですが……
『へぇ、あんたいけるじゃない。もっと飲みなさいよ』
『えへへ~では遠慮なく~』
といった具合に、すっかり意気投合したバテアさんと和音は、すごい勢いでお酒を飲み干していったんです。
その結果……見事に二日酔いになってしまったバテアさん。
……しかし、二日酔いになったバテアさんって、あまり見た記憶がないんですけど……
二日酔いの頭痛を魔法で癒やしているバテアさんの隣では、
「お酒だね~、どんなお酒が新発売されてるのかなぁ」
ワクワク感がこの上ない和音の姿がありました。
バテアさんと一緒に痛飲していた和音……なのですが、こちらはまったく二日酔いの様子はありません。
むしろ、昨夜しっかりお酒を飲んだことで絶好調になっている……そんな感じだけが伝わってきています。
「私ってきっと血液が日本酒で来ているんだよね~」
和音ってば、どこかで聞いたことがあるような言葉を口にしています。
……しかし、あれですね……
私もお洒落には無頓着な方なのですが……今日の和音の姿って、なんといいますか……
白地のシャツに、墨と筆で『酒待機中』って書いてあるんです。
「あ、あの……和音……そ、そのシャツって」
「あぁ、大丈夫だよさわこ、これ、ワノンさんの魔法で墨を固定してあるから洗っても文字がにじんだりしないの」
「あ、あの……それはそれですごいと思うけど、そうじゃなくて……」
……はい、それとなく着替えさせようと試みた私だったのですが、終始こんな感じで話がすれ違ってしまいまして……結局どうにもならなかったんです。
「は~い、じゃあ行くわよ~」
頭を振りながら転移ドアを召喚しているバテアさん。
その後方に、私、ミリーネアさん、和音が控えています。
……あら?
そんな私の足元に、ミュウが歩み寄ってきました。
鳥の姿のまま私の体をよじ登ってきたミュウは、あっという間に私の頭の上にのっかってきたんです。
「ミュウ~ふみゅう~」
どうやら、私の登頂に成功したことでご満悦のようですね。
そして、このまま一緒について行く気満々のようです、はい。
「まぁ、隠蔽魔法をかけておけば大丈夫なんじゃない?」
「すいません、お手数おかけして」
バテアさんに一礼する私。
ミュウは、私の髪の毛を掴んで落ちないように踏ん張っています。
ベル達は、今日もお友達と猫集会に参加しに参加しに行っています。
しっかり、お土産を買ってくるように頼まれていますので、何か見繕わないといけませんね。
「さ、通じたわ。行きましょう」
出来上がった転移ドアを開くバテアさん。
その後ろに続いて、私達も転移ドアをくぐっていきました。
◇◇
転移ドアをくぐって……そうですね、一時間くらい経過したでしょうか……
「はぁ……はぁ……」
私は真っ青になって歩道を走っていました。
その視線の先には、
「ミュウ!ミュミュウ!」
楽しそうに鳴き声をあげながら飛んでいるミュウの姿が……
どうやらミュウってば、こちらの世界の光景が気になったみたいでして……いきなり飛び上がってしまったんです。
「ミュウ、戻って!」
声をあげる私なのですが……飛ぶことに夢中になっているミュウは全然気がついていないようです。
飛べるようになったのも最近で、そんなに高く飛べないミュウ。
ですので、もう少しで捕まえることが出来そうなのですが……もう少しというところで逃げられているんです。
『さわこ、そっちはどう?』
「は、はい、もう少しといいますか……」
脳内に、バテアさんの思念波が聞こえてきました。
「それよりも、そちらはどうですか?」
『それがさぁ……一人捕獲したら一人いなくなっての繰り返しで……まったく、こっちの世界で捕縛魔法を使うわけにもいかないし、困ったもんだわ』
思念波で聞こえてくるバテアさんの声は少し苛立っている感じです。
えぇ……そうなんです。
こちらの世界にやってくるなり、
「珍しい……すごい……」
そう言いながら駆けだしたミリーネアさん。
「お酒が私を呼んでいるの~」
そういいながら駆けだした和音。
さらにミュウが飛び出したものですから……一度に3人が迷子になっている状態でして、それを私とバテアさんが2人で追いかけているわけなんです。
おかしいですよね、追いかける側が1人少ないですよね。
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