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さわこさんと、ある日の仕込み その2
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今日の私は、辺境都市ナカンコンベにきています。
商業都市としてこの世界でも有名なこのナカンコンベですが、私の世界で例えるなら……そうですね、大阪の商店街とでもいいましょうか。
「いつ来ても、ナカンコンベは賑わっていますねぇ」
街道を歩きながら、私は感嘆の声を漏らしていました。
「まぁねぇ、辺境にある都市の中じゃあ、多分一番規模が大きいからね、ここは」
バテアさんも周囲を見回しながら、私に説明してくださっています。
月に2回の仕入れの日。
今日は、私とバテアさんの他にミュウとシロ、それにリンシンさんが同行しています。
「ミリーネアが冒険者組合に行ってくれて助かったわねぇ」
「そうですね、ミリーネアさんが一緒だと、いきなりどこに行ってしまわれるかわかりませんし」
そうなんです。
吟遊詩人のミリーネアさんは、ちょっとでも興味を持つことがあると瞬時に移動してしまうものですから、私とバテアさんはドキドキしっぱなしなんですよね……
とはいえ、トツノコンベと同じ世界にあるナカンコンベでしたらまだ安心出来るのですが、これが私の世界である日本に仕入れに行っている際にでしたら……ちょっと笑いは梨では済みませんからね……
バテアさんの転移魔法も、異世界に転移ドアを出現させるとなると週に1回程度しか無理なご様子ですので、もしミリーネアさんがあちらで迷子になってしまったら、1週間は探しにこれなくなってしまうわけです。
「一番たちが悪いのは、ミリーネア本人は自分が迷子になったなんて思っていないことなのよねぇ」
「本当に……」
バテアさんの言葉に、私も思わず苦笑してしまいました。
とはいえ、いつもとっても楽しそうになさっているミリーネアさんだけに、
『一緒に行く』
そう言われると、断りづらいのもまた事実といいますか……
◇◇
「……じゃあ、あとで」
そう言うと、リンシンさんは私達と別行動をとられました。
シロも、リンシンさんについて行っています。
「リンシンさんは、この辺境都市にある武具のお店に行かれるんでしたよね」
「えぇ、腕のいい工房が店を出しているそうなのよ……確か、ルア工房とか言ったかしら」
「そこで、今使われている武具のメンテナンスをしてもらうんでしたっけ?」
「えぇ、腕のいい工房でやってもらった方が、後々いいしね」
冒険者であるリンシンさんにとって、武具はとっても大切です。
狩りに行かれる前と、戻ってこられた後のリンシンさんは武具の手入れを欠かしません。
時に、こうして腕のいい工房まで出向いて、プロの腕でメンテナンスもされているんです。
私も、厨房で使用している包丁やお鍋なんかの手入れを毎日欠かさず行っておりますが、こういった行為はどのような職業においても大切ってことですね。
「さ、リンシンが戻ってくる前に、こっちの仕入れも終わらせましょうか」
「はい、お任せください」
バテアさんの言葉に、私は笑顔で力こぶをつくっていきました……非力なことこの上ない私ですので、あくまでも気持ち程度ですが……
大きな建物と建物の間の脇道に入り、『診療所』の看板を通過していくと、いきなり視界が開けます。
その先には、荷馬車の発着場がありまして、多数の荷馬車が多くの荷物を積み込んでいます。
「さ、とっとと代金を支払ってもらうわよ。いつもニコニコ現金払いってね」
「うぐぐ……今日も値切れなかったのね……このドンタコスゥコがこんなに連敗続きだなんて……」
発着場の真ん中あたり。
茶色いポンチョにトンガリ帽子姿の女性を相手に、勝ち誇っておられる長身の女性。
私は、その女性を確認すると、早足で駆け寄っていきました。
「ファラさんおはようございます。今日もよろしくお願いいたします」
「げ、小娘……来たわね。今日こそ、思い通りにはさせないんだからね!」
眉をひそめているファラさん。
龍人さんだそうでして、頭に大きな角が生えています。
最初は怖そうな人だなぁ、って思ったこともあったのですが、
「何してんのよ、ほら、お肉でしょ? そこの倉庫よ」
こうして、いつも優しく私を案内してくださる、とっても優しくて素敵な女性なんですよ。
「……アタシには、敵意むき出しにしか見えないんだけどねぇ」
「そんなことないですよ。きっと子供に優しい素敵な肩だと思います」
首をひねっている私に、笑顔で応える私。
その言葉が聞こえたのか、近くで忙しそうに働いている若い店員さん達が大きく頷いておられました。
「ファラお姉ちゃんはとっても優しいぴょん!」
「いつも一緒にお風呂に入って体と髪を洗ってくれるもぅ!」
「寝るときご本を読んでくれるめぇ」
笑顔で声をあげる若い店員さん達。
その言葉を聞いているだけで、ファラさんの優しさが……
「ほほほ、ほら、早く商談をはじめるよ! アンタ達も余計なことは言わないでいいから!」
ファラさん、顔を真っ赤にしながら若い店員さん達の言葉を遮りました。
どう見ても、照れ隠しなさっているようにしか見えません。
「……なるほど……さわこの言ってる言葉の意味がわかったわ」
「でしょう?」
得心した様子で頷くバテアさん。
私も笑顔で頷き返しました。
そんなやり取りを行いながら、私はファラさんに案内されて倉庫の1つへと移動していきました。
ー30分後
「いつもありがとうございます。いつもこちらの希望額で販売してくださって」
笑顔で頭を下げる私。
腰の魔法袋の中には、大量のお肉が入っています。
「……なんなのよこの小娘ってば……このアタシが商談の主導権をまったく握れないなんて……」
ファラさんは悔しそうな表情をその顔にうかべておられますけど……いえいえ、きっと手加減してくださったに違いありません。
「では、またよろしくお願いいたします」
私が頭を下げると、ミュウが駆け寄ってきました。
人の姿に変化していたミュウなのですが、私がファラさんと商談している間、おもてなし商会の若い店員さん達数人に遊んでもらっていたんです。
「ミュウの相手をしてくれてありがとう、みんな」
「ううん、ミュウちゃん可愛いしニャ」
「僕達も楽しかったボウ!」
私の言葉に笑顔を返してくれる店員さん達。
私は、魔法袋の中から握り飯弁当を取り出すと、みんなに配っていきました。
もともと、ここで働いている若い店員さん達の差し入れにと思って、朝の仕込みの際に一緒につくっておいた物なんです。
「よかったらこれ、みんなでお昼の足しにでもしてくださいな」
「わぁ、なんか美味しそうな匂いぴょん!」
「ミュウママありがとワウ!」
み、ミュウママ……ですか……
なんか、バテアさんが必死に笑いを堪えておいでに見えるのですが……こ、子供達に悪意はありませんものね……
「ウチの子達も気に入ったみたいだし、またそのミュウって子、連れてきなよ」
ファラさんも、優しい笑顔でそう言ってくださったのですが、
「でも、次回こそは、こうはいかないからね」
「はい、よろしくお願いいたします」
そんな会話を交わしながら、私・バテアさん・ミュウの3人はおもてなし商会を後にしていきました。
「いやぁ……ファラさんが手も足も出ない光景っていうのは、いつ見ても新鮮といいますか……」
「おだまりドンタコスゥコ。次の卸売り価格を2割増しにするわよ」
「ひえぇ、お代官様、それだけはご勘弁をぉ」
なんでしょう……そんなやり取りが後方から聞こえている気がしないでもないのですが……その会話に思わず笑顔になってしまう私。
「じゃあ、リンシン達と合流して、どこかでお昼でも食べましょうか」
「はい、そうしましょう」
私とバテアさんがそんな会話を交わしていると、トルキの姿に変化したミュウが私の頭の上にのっかってきました。
最近、お出かけした際のミュウは、ここがベストポジションみたいなんですよね。
「……さわこってば、よくミュウを落とさないわねぇ」
「あ、はい、姿勢だけはいつもいいね、ってみんなにも言われていますので」
私達は、街道を進みながら言葉を交わしていました。
ミュウはといいますと……おもてなし商会で遊び疲れたのでしょう、あっという間に寝息を立てはじめていたんです。
ーつづく
商業都市としてこの世界でも有名なこのナカンコンベですが、私の世界で例えるなら……そうですね、大阪の商店街とでもいいましょうか。
「いつ来ても、ナカンコンベは賑わっていますねぇ」
街道を歩きながら、私は感嘆の声を漏らしていました。
「まぁねぇ、辺境にある都市の中じゃあ、多分一番規模が大きいからね、ここは」
バテアさんも周囲を見回しながら、私に説明してくださっています。
月に2回の仕入れの日。
今日は、私とバテアさんの他にミュウとシロ、それにリンシンさんが同行しています。
「ミリーネアが冒険者組合に行ってくれて助かったわねぇ」
「そうですね、ミリーネアさんが一緒だと、いきなりどこに行ってしまわれるかわかりませんし」
そうなんです。
吟遊詩人のミリーネアさんは、ちょっとでも興味を持つことがあると瞬時に移動してしまうものですから、私とバテアさんはドキドキしっぱなしなんですよね……
とはいえ、トツノコンベと同じ世界にあるナカンコンベでしたらまだ安心出来るのですが、これが私の世界である日本に仕入れに行っている際にでしたら……ちょっと笑いは梨では済みませんからね……
バテアさんの転移魔法も、異世界に転移ドアを出現させるとなると週に1回程度しか無理なご様子ですので、もしミリーネアさんがあちらで迷子になってしまったら、1週間は探しにこれなくなってしまうわけです。
「一番たちが悪いのは、ミリーネア本人は自分が迷子になったなんて思っていないことなのよねぇ」
「本当に……」
バテアさんの言葉に、私も思わず苦笑してしまいました。
とはいえ、いつもとっても楽しそうになさっているミリーネアさんだけに、
『一緒に行く』
そう言われると、断りづらいのもまた事実といいますか……
◇◇
「……じゃあ、あとで」
そう言うと、リンシンさんは私達と別行動をとられました。
シロも、リンシンさんについて行っています。
「リンシンさんは、この辺境都市にある武具のお店に行かれるんでしたよね」
「えぇ、腕のいい工房が店を出しているそうなのよ……確か、ルア工房とか言ったかしら」
「そこで、今使われている武具のメンテナンスをしてもらうんでしたっけ?」
「えぇ、腕のいい工房でやってもらった方が、後々いいしね」
冒険者であるリンシンさんにとって、武具はとっても大切です。
狩りに行かれる前と、戻ってこられた後のリンシンさんは武具の手入れを欠かしません。
時に、こうして腕のいい工房まで出向いて、プロの腕でメンテナンスもされているんです。
私も、厨房で使用している包丁やお鍋なんかの手入れを毎日欠かさず行っておりますが、こういった行為はどのような職業においても大切ってことですね。
「さ、リンシンが戻ってくる前に、こっちの仕入れも終わらせましょうか」
「はい、お任せください」
バテアさんの言葉に、私は笑顔で力こぶをつくっていきました……非力なことこの上ない私ですので、あくまでも気持ち程度ですが……
大きな建物と建物の間の脇道に入り、『診療所』の看板を通過していくと、いきなり視界が開けます。
その先には、荷馬車の発着場がありまして、多数の荷馬車が多くの荷物を積み込んでいます。
「さ、とっとと代金を支払ってもらうわよ。いつもニコニコ現金払いってね」
「うぐぐ……今日も値切れなかったのね……このドンタコスゥコがこんなに連敗続きだなんて……」
発着場の真ん中あたり。
茶色いポンチョにトンガリ帽子姿の女性を相手に、勝ち誇っておられる長身の女性。
私は、その女性を確認すると、早足で駆け寄っていきました。
「ファラさんおはようございます。今日もよろしくお願いいたします」
「げ、小娘……来たわね。今日こそ、思い通りにはさせないんだからね!」
眉をひそめているファラさん。
龍人さんだそうでして、頭に大きな角が生えています。
最初は怖そうな人だなぁ、って思ったこともあったのですが、
「何してんのよ、ほら、お肉でしょ? そこの倉庫よ」
こうして、いつも優しく私を案内してくださる、とっても優しくて素敵な女性なんですよ。
「……アタシには、敵意むき出しにしか見えないんだけどねぇ」
「そんなことないですよ。きっと子供に優しい素敵な肩だと思います」
首をひねっている私に、笑顔で応える私。
その言葉が聞こえたのか、近くで忙しそうに働いている若い店員さん達が大きく頷いておられました。
「ファラお姉ちゃんはとっても優しいぴょん!」
「いつも一緒にお風呂に入って体と髪を洗ってくれるもぅ!」
「寝るときご本を読んでくれるめぇ」
笑顔で声をあげる若い店員さん達。
その言葉を聞いているだけで、ファラさんの優しさが……
「ほほほ、ほら、早く商談をはじめるよ! アンタ達も余計なことは言わないでいいから!」
ファラさん、顔を真っ赤にしながら若い店員さん達の言葉を遮りました。
どう見ても、照れ隠しなさっているようにしか見えません。
「……なるほど……さわこの言ってる言葉の意味がわかったわ」
「でしょう?」
得心した様子で頷くバテアさん。
私も笑顔で頷き返しました。
そんなやり取りを行いながら、私はファラさんに案内されて倉庫の1つへと移動していきました。
ー30分後
「いつもありがとうございます。いつもこちらの希望額で販売してくださって」
笑顔で頭を下げる私。
腰の魔法袋の中には、大量のお肉が入っています。
「……なんなのよこの小娘ってば……このアタシが商談の主導権をまったく握れないなんて……」
ファラさんは悔しそうな表情をその顔にうかべておられますけど……いえいえ、きっと手加減してくださったに違いありません。
「では、またよろしくお願いいたします」
私が頭を下げると、ミュウが駆け寄ってきました。
人の姿に変化していたミュウなのですが、私がファラさんと商談している間、おもてなし商会の若い店員さん達数人に遊んでもらっていたんです。
「ミュウの相手をしてくれてありがとう、みんな」
「ううん、ミュウちゃん可愛いしニャ」
「僕達も楽しかったボウ!」
私の言葉に笑顔を返してくれる店員さん達。
私は、魔法袋の中から握り飯弁当を取り出すと、みんなに配っていきました。
もともと、ここで働いている若い店員さん達の差し入れにと思って、朝の仕込みの際に一緒につくっておいた物なんです。
「よかったらこれ、みんなでお昼の足しにでもしてくださいな」
「わぁ、なんか美味しそうな匂いぴょん!」
「ミュウママありがとワウ!」
み、ミュウママ……ですか……
なんか、バテアさんが必死に笑いを堪えておいでに見えるのですが……こ、子供達に悪意はありませんものね……
「ウチの子達も気に入ったみたいだし、またそのミュウって子、連れてきなよ」
ファラさんも、優しい笑顔でそう言ってくださったのですが、
「でも、次回こそは、こうはいかないからね」
「はい、よろしくお願いいたします」
そんな会話を交わしながら、私・バテアさん・ミュウの3人はおもてなし商会を後にしていきました。
「いやぁ……ファラさんが手も足も出ない光景っていうのは、いつ見ても新鮮といいますか……」
「おだまりドンタコスゥコ。次の卸売り価格を2割増しにするわよ」
「ひえぇ、お代官様、それだけはご勘弁をぉ」
なんでしょう……そんなやり取りが後方から聞こえている気がしないでもないのですが……その会話に思わず笑顔になってしまう私。
「じゃあ、リンシン達と合流して、どこかでお昼でも食べましょうか」
「はい、そうしましょう」
私とバテアさんがそんな会話を交わしていると、トルキの姿に変化したミュウが私の頭の上にのっかってきました。
最近、お出かけした際のミュウは、ここがベストポジションみたいなんですよね。
「……さわこってば、よくミュウを落とさないわねぇ」
「あ、はい、姿勢だけはいつもいいね、ってみんなにも言われていますので」
私達は、街道を進みながら言葉を交わしていました。
ミュウはといいますと……おもてなし商会で遊び疲れたのでしょう、あっという間に寝息を立てはじめていたんです。
ーつづく
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