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さわこさんと、花祭り その2
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夜になりました。
バテアさんの転移魔法で辺境都市トツノコンベへ戻ってきた私達は、いつものように居酒屋さわこさんを開店しておりました。
「へぇ、昼間はガタコンベで屋台をやってるんだ」
カウンター席に座っている冒険者のクニャスさんが、厨房の私に話かけてこられました。
ちなみに、クニャスさんが食べておられるのはタルケノコご飯と、山菜の卵とじです。
どちらも、白銀狐の皆さんが収穫してきてくださっている山菜をふんだんに使用しております。
山の幸は、雪解けの春から初夏の物へと移行しつつありますけれども、そういった旬をお客様にお届け出来るのって、なんだか嬉しくなってしまいますね。
私が元いた世界では、季節の物と言われましてもハウス栽培だったり海外からの輸入品だったりと、少々味気ない品物だったりすることが少なくありませんでしたので。
「はい、おかげさまでいい経験をさせていただいております」
他のお客様から注文頂いたクッカドウゥドルの焼き鳥を焼きながら、私は笑顔でお返事いたしました。
「あのあたりはあんまり行ったことがないんだけど、結構ド辺境だよね? あのあたりって」
「そうでもありませんよ、近くにはララコンベっていう温泉もあるそうですし、近くの都市を定期魔道船という空を飛ぶバスみたいな物も運行しているそうなので、交通の便もよくてとてもたくさんのお客様が連日お見えになられているんです」
「ほえぇ!? 定期魔道船が就航してんの!? あれって、王都近辺だけじゃなかったんだぁ」
私の言葉に、目を丸くなさっているクニャスさん。
クニャスさんはまだお若いのですが、冒険者としてこの大陸をあちこち旅をなさっているんです。
そんなクニャスさんでも、辺境都市ガタコンベのことはあまりご存じなかったみたいですね。
……やっぱり、この世界も広いのですねぇ……私の知らないことがもっともっとあるんだろうなぁ
クニャスさんとお話しながら、私はそんなことを考えておりました。
「結構美味しい物も売ってたみたいだしね、タテガミライオンの串焼きや弁当まで販売しているなんて、ちょっとびっくりだったわねぇ」
一升瓶を片手に、クニャスさんの横へやってきたバテアさんが少しびっくりした口調でお話しなさっています。
「へぇ、そうなんだ……まぁ、でも私的にはさわこの料理が食べられればそれで幸せなんだけどねぇ」
「あは♪ よくわかってるじゃない、あんた。この一杯はおごりにしておいてあげるわ」
「わは! ありがと~バテアぁ、持つべきものはやっぱり友よねぇ」
「そのかわり、泥酔して眠りこけたら容赦なく店の外にほっぽり出すから、そのつもりでね」
「うぐ……以前やらかしているだけに、耳が痛いわ……き、気をつけますぅ」
バテアさんにお酒を注いでもらいながら、バツが悪そうに頭をかきながら苦笑なさっているクニャスさん。
そんなお2人のやり取りを拝見しながら、私も思わず笑顔を浮かべておりました。
そんな中……
私は、注文の品の調理を行いながら、明日の屋台の準備も平行して行っておりました。
私の後方では、魔石コンロが所狭しと並べられておりまして、その上で土鍋が煙を噴き上げております。
……そろそろ炊き上がったかな?
クッカドウゥドルの焼き鳥をリンシンさんにお渡しした私は、土鍋の方へと歩み寄っていきました。
◇◇
翌朝……
私・バテアさん・エミリア・ミリーネアさんの4人は、今日も朝早くから辺境都市ガタコンベへとやって来ておりました。
リンシンさんは、今日は狩りのため不在です。シロもリンシンさんに同行しています。
ベル・エンジェさん・ロッサさんの3人は、まだお眠の様子だったので、もう少ししてから、バテアさんに転移魔法で迎えに行ってもらうことにしています。
ちなみに、バテアさんの魔法道具のお店の向かいで喫茶店を開店しているマリーさんも一緒です。
「カシワモチとかいう、餡子のお菓子を売っている屋台があったんですよ。なんだか不思議な味で美味しかったんです」
「まぁ……カシワモチ……」
昨日、屋台を散策して回っていたマリーさんの言葉に、私は思わず首をひねってしまいました。
……カシワモチ……柏餅?……いえいえ、あれは私の世界の食べ物ですし……
とはいう物の、偶然の一致にしては少々出来すぎな気がしないでもありません。
そうですね、手が空いたら一度、そのカシワモチを販売している屋台に行ってみたいと思います。
それよりも、今は居酒屋さわこさんの屋台の準備をいたしませんとね。
ここ数日、焼き鳥や串焼き、それに一品料理を提供してなかなか好評なのですが……今日は、少々趣向を変えた品を準備しております。
屋台の前には、ずらっと笹風の葉でくるんである握り飯弁当が並んでいます。
タルケノコご飯の握り飯弁当
豆ご飯の握り飯弁当
焼きジャッケの握り飯弁当
居酒屋さわこさんでもお馴染みになっている、各種握り飯をお弁当にしたものを大量に準備してき次第です。
この世界にやってきて、最初に販売したのが握り飯弁当でした。
初心に返る、というと少々大げさですが、得意な物を中心にして提供してみようと思った次第なんです。
もちろん、昨日まで販売していたおかず系の一品料理も準備してあります。
ですが、今日は1品1品の量を少々少なめにいたしまして、その分値段も控えめにしております。
品数多く楽しんで頂けたら、と思った次第です。
その分、手間暇も倍以上かかってしまっているのですが、全てはお客様に喜んでいただくためですからね、あまり苦にはなりませんでした。
「さて、こっちもはじめますか」
私は、網焼きの上におにぎりを並べていきました。
はい、焼きおにぎりにしていきます。
しょうゆ
味噌
ネギ味噌
それぞれに味付けをしながらこんがり焼いていきます。
時折、うちわで扇いで、香ばしい匂いを街道に流していくことも忘れません。
「わぁ……なんだか美味しそうな匂い……」
「ほんとですわね……いい匂いですわ」
「ムツキもそう思うにゃしぃ」
「アルカもそう思うアル」
なんでしょう……学校へ行く途中の子供達でしょうか……背中にランドセルによく似た鞄を背負っている4人の子供達が、屋台の前で足を止めています。
こちらの世界にも学校があるのですね……ベルやシロも行かせてあげたほうがいいのかな?
そんな事を考えながら、私はその子供達に手招きいたしました。
「よかったら少し食べて行ってくださいな。サービスしておきますよ」
笑顔でそう言った私は、網焼きの上に並べている握り飯のうち、小さめの握り飯を串に刺していきました。
しょうゆ・味噌・ネギ味噌の焼きおにぎりを、お団子の要領で串に刺した、握り飯串でございます。
握り飯は、3個で普通の握り飯1個分になるように調整しています。
「わぁ……なんだか変わったおにぎりですね」
「不思議な感じですわ」
4人の中で最年長らしい男の子と、着物に似た衣装を着ている女の子がそんな会話を交わしながら握り飯串を口に含んでいったのですが……
「うん! これすごく美味しいです!」
「香ばしくて、たまりませんわ! お米が、表面はカリッと、中はもちもちでたまりません!」
2人は笑顔で声をあげると、すごい勢いで握り飯串を食べていきました。
残りの2人も、嬉しそうに握り飯串を頬張っています。
そんな4人の姿に、私は思わず笑顔になっておりました。
すると……
「お、あの子達が食べているやつ、上手そうだな」
「お姉さん、あれを俺にもくれるかい?」
「私にもお願い」
その子供達が食べている様子を見た、お客様達がどんどん屋台に押し寄せてきたのでございます。
私は、そんな皆様に笑顔を向けていきました。
「はい、喜んで!」
私は、新しい握り飯を網焼きの上に並べながら、元気な声を返していきました。
今日も、幸先良しですね。
-つづく
バテアさんの転移魔法で辺境都市トツノコンベへ戻ってきた私達は、いつものように居酒屋さわこさんを開店しておりました。
「へぇ、昼間はガタコンベで屋台をやってるんだ」
カウンター席に座っている冒険者のクニャスさんが、厨房の私に話かけてこられました。
ちなみに、クニャスさんが食べておられるのはタルケノコご飯と、山菜の卵とじです。
どちらも、白銀狐の皆さんが収穫してきてくださっている山菜をふんだんに使用しております。
山の幸は、雪解けの春から初夏の物へと移行しつつありますけれども、そういった旬をお客様にお届け出来るのって、なんだか嬉しくなってしまいますね。
私が元いた世界では、季節の物と言われましてもハウス栽培だったり海外からの輸入品だったりと、少々味気ない品物だったりすることが少なくありませんでしたので。
「はい、おかげさまでいい経験をさせていただいております」
他のお客様から注文頂いたクッカドウゥドルの焼き鳥を焼きながら、私は笑顔でお返事いたしました。
「あのあたりはあんまり行ったことがないんだけど、結構ド辺境だよね? あのあたりって」
「そうでもありませんよ、近くにはララコンベっていう温泉もあるそうですし、近くの都市を定期魔道船という空を飛ぶバスみたいな物も運行しているそうなので、交通の便もよくてとてもたくさんのお客様が連日お見えになられているんです」
「ほえぇ!? 定期魔道船が就航してんの!? あれって、王都近辺だけじゃなかったんだぁ」
私の言葉に、目を丸くなさっているクニャスさん。
クニャスさんはまだお若いのですが、冒険者としてこの大陸をあちこち旅をなさっているんです。
そんなクニャスさんでも、辺境都市ガタコンベのことはあまりご存じなかったみたいですね。
……やっぱり、この世界も広いのですねぇ……私の知らないことがもっともっとあるんだろうなぁ
クニャスさんとお話しながら、私はそんなことを考えておりました。
「結構美味しい物も売ってたみたいだしね、タテガミライオンの串焼きや弁当まで販売しているなんて、ちょっとびっくりだったわねぇ」
一升瓶を片手に、クニャスさんの横へやってきたバテアさんが少しびっくりした口調でお話しなさっています。
「へぇ、そうなんだ……まぁ、でも私的にはさわこの料理が食べられればそれで幸せなんだけどねぇ」
「あは♪ よくわかってるじゃない、あんた。この一杯はおごりにしておいてあげるわ」
「わは! ありがと~バテアぁ、持つべきものはやっぱり友よねぇ」
「そのかわり、泥酔して眠りこけたら容赦なく店の外にほっぽり出すから、そのつもりでね」
「うぐ……以前やらかしているだけに、耳が痛いわ……き、気をつけますぅ」
バテアさんにお酒を注いでもらいながら、バツが悪そうに頭をかきながら苦笑なさっているクニャスさん。
そんなお2人のやり取りを拝見しながら、私も思わず笑顔を浮かべておりました。
そんな中……
私は、注文の品の調理を行いながら、明日の屋台の準備も平行して行っておりました。
私の後方では、魔石コンロが所狭しと並べられておりまして、その上で土鍋が煙を噴き上げております。
……そろそろ炊き上がったかな?
クッカドウゥドルの焼き鳥をリンシンさんにお渡しした私は、土鍋の方へと歩み寄っていきました。
◇◇
翌朝……
私・バテアさん・エミリア・ミリーネアさんの4人は、今日も朝早くから辺境都市ガタコンベへとやって来ておりました。
リンシンさんは、今日は狩りのため不在です。シロもリンシンさんに同行しています。
ベル・エンジェさん・ロッサさんの3人は、まだお眠の様子だったので、もう少ししてから、バテアさんに転移魔法で迎えに行ってもらうことにしています。
ちなみに、バテアさんの魔法道具のお店の向かいで喫茶店を開店しているマリーさんも一緒です。
「カシワモチとかいう、餡子のお菓子を売っている屋台があったんですよ。なんだか不思議な味で美味しかったんです」
「まぁ……カシワモチ……」
昨日、屋台を散策して回っていたマリーさんの言葉に、私は思わず首をひねってしまいました。
……カシワモチ……柏餅?……いえいえ、あれは私の世界の食べ物ですし……
とはいう物の、偶然の一致にしては少々出来すぎな気がしないでもありません。
そうですね、手が空いたら一度、そのカシワモチを販売している屋台に行ってみたいと思います。
それよりも、今は居酒屋さわこさんの屋台の準備をいたしませんとね。
ここ数日、焼き鳥や串焼き、それに一品料理を提供してなかなか好評なのですが……今日は、少々趣向を変えた品を準備しております。
屋台の前には、ずらっと笹風の葉でくるんである握り飯弁当が並んでいます。
タルケノコご飯の握り飯弁当
豆ご飯の握り飯弁当
焼きジャッケの握り飯弁当
居酒屋さわこさんでもお馴染みになっている、各種握り飯をお弁当にしたものを大量に準備してき次第です。
この世界にやってきて、最初に販売したのが握り飯弁当でした。
初心に返る、というと少々大げさですが、得意な物を中心にして提供してみようと思った次第なんです。
もちろん、昨日まで販売していたおかず系の一品料理も準備してあります。
ですが、今日は1品1品の量を少々少なめにいたしまして、その分値段も控えめにしております。
品数多く楽しんで頂けたら、と思った次第です。
その分、手間暇も倍以上かかってしまっているのですが、全てはお客様に喜んでいただくためですからね、あまり苦にはなりませんでした。
「さて、こっちもはじめますか」
私は、網焼きの上におにぎりを並べていきました。
はい、焼きおにぎりにしていきます。
しょうゆ
味噌
ネギ味噌
それぞれに味付けをしながらこんがり焼いていきます。
時折、うちわで扇いで、香ばしい匂いを街道に流していくことも忘れません。
「わぁ……なんだか美味しそうな匂い……」
「ほんとですわね……いい匂いですわ」
「ムツキもそう思うにゃしぃ」
「アルカもそう思うアル」
なんでしょう……学校へ行く途中の子供達でしょうか……背中にランドセルによく似た鞄を背負っている4人の子供達が、屋台の前で足を止めています。
こちらの世界にも学校があるのですね……ベルやシロも行かせてあげたほうがいいのかな?
そんな事を考えながら、私はその子供達に手招きいたしました。
「よかったら少し食べて行ってくださいな。サービスしておきますよ」
笑顔でそう言った私は、網焼きの上に並べている握り飯のうち、小さめの握り飯を串に刺していきました。
しょうゆ・味噌・ネギ味噌の焼きおにぎりを、お団子の要領で串に刺した、握り飯串でございます。
握り飯は、3個で普通の握り飯1個分になるように調整しています。
「わぁ……なんだか変わったおにぎりですね」
「不思議な感じですわ」
4人の中で最年長らしい男の子と、着物に似た衣装を着ている女の子がそんな会話を交わしながら握り飯串を口に含んでいったのですが……
「うん! これすごく美味しいです!」
「香ばしくて、たまりませんわ! お米が、表面はカリッと、中はもちもちでたまりません!」
2人は笑顔で声をあげると、すごい勢いで握り飯串を食べていきました。
残りの2人も、嬉しそうに握り飯串を頬張っています。
そんな4人の姿に、私は思わず笑顔になっておりました。
すると……
「お、あの子達が食べているやつ、上手そうだな」
「お姉さん、あれを俺にもくれるかい?」
「私にもお願い」
その子供達が食べている様子を見た、お客様達がどんどん屋台に押し寄せてきたのでございます。
私は、そんな皆様に笑顔を向けていきました。
「はい、喜んで!」
私は、新しい握り飯を網焼きの上に並べながら、元気な声を返していきました。
今日も、幸先良しですね。
-つづく
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