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妻としてぷんぷんするべきなのかしら
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「ドスケベでどうしようもない、騎士というイキモノ……ですか?」
私は突然声を掛けてきた、我が家のメイドのヤスミンと同郷で友人であるという壮年女性から告げられた言葉を復唱するように訊ねた。
するとその下働きの女性は呆れたように首を振りながら答える。
「まぁ戦闘の後は異常な興奮状態が続くっていうもんねぇ。バケモノ相手に戦って気持ちが昂るのはわかるけど……。騎士たちは討伐の後はみんな町に数件しかない娼館に交代で押し寄せては娼婦を抱いて昂りを鎮めてるらしいですよ。これじゃどっちがスタンピードかわからないってなものよ!」
「まぁ……そうなんですか?」
最後の言葉はギャグなのかしら?
ギャグとして受け止めて笑った方がいいのかしら?
どうするべきか押し悩む私にお構い無しにその下働きの女性は急に申し訳なさそうに言う。
「あぁでもクライブさんのお相手は娼婦じゃないって聞いたわね……誰だったかしら?……あ、ごめんよ、辛いよね……こんな事聞きたくないよね。けど現実を知っておいた方がいいと思ってね。だってそうだろ?地方で散々遊んで、病気とか貰って帰ってくるかもしれないじゃないか」
「まぁ……病気ですか?」
「あぁ。騎士って結構性病持ってるヤツが多いって聞くからさ」
「まぁ~……」
「アンタまるっきり他人事みたいに言うけどわかってる?アンタの旦那もその一人なんだよ?」
「まぁ~……」
「……」
結局、ヤスミンの友人だという壮年の下働きの女性とは少しだけ話をして別れた。
私が適当に相槌を打つので話が続かなかったから。
だってその女性の話にどう返事をしていいのかわからなかったんだもの。
妻としてぷんぷんと怒るべきだったのかしら?
「う~ん……?」
フォルカーの相手が娼婦ではない普通の女性?
現地で運命的な出会いをして、恋仲になったというのかしら……。
確かにそういう事もあるのかもしれない。
遠征で訪れた最果ての町で魔獣討伐に疲れた心を抱えた時に、それを癒してくれる女性と出会ったのなら…… 心惹かれても仕方ないのかもしれない。
でもあのフォルカーが、
真面目で誠実なフォルカーがたとえ心惹かれる女性と出会ったとしても、結婚したばかりの私を裏切って関係を持ったりするかしら?
噂で聞くフォルカーと、私が知るフォルカーがどうも結びつかないのよね。
「ああ、だけど……」
私はとある考えが頭を過ぎり、立ち止まってひとりつぶやいた。
「だけど、浮気じゃなくて、本気でその女性を好きになったのなら……」
そういう事もあるのかもしれない。
私はなんだか鉛を飲み込んだように胸が重苦しくなって、その場から逃げ出すように足を早めた。
もうどこにも寄り道する気にはなれなかった。
フォルカーの不在が、音信不通のこの状況がはじめて辛いと思った。
手紙を書いてみようか。
届くかどうかわからないけど、迷惑かもしれないけど、とにかく今の私の気持ちを正直に伝えてみようか。
「彼の性格はきっと何も変わっていないはず」
一生懸命書いた手紙を、フォルカーは迷惑だなんて思う人じゃない。
まぁ書くか書かないか、そして何を書くかは慌てずゆっくり考えよう。
私はひとり、そう決めた。
その夜、私は嬉しい夢を見た。
夢の中でフォルカーに会えたのだ。
その夢は温かくて優しくて、
私はとても幸せな気持ちになれた。
私は突然声を掛けてきた、我が家のメイドのヤスミンと同郷で友人であるという壮年女性から告げられた言葉を復唱するように訊ねた。
するとその下働きの女性は呆れたように首を振りながら答える。
「まぁ戦闘の後は異常な興奮状態が続くっていうもんねぇ。バケモノ相手に戦って気持ちが昂るのはわかるけど……。騎士たちは討伐の後はみんな町に数件しかない娼館に交代で押し寄せては娼婦を抱いて昂りを鎮めてるらしいですよ。これじゃどっちがスタンピードかわからないってなものよ!」
「まぁ……そうなんですか?」
最後の言葉はギャグなのかしら?
ギャグとして受け止めて笑った方がいいのかしら?
どうするべきか押し悩む私にお構い無しにその下働きの女性は急に申し訳なさそうに言う。
「あぁでもクライブさんのお相手は娼婦じゃないって聞いたわね……誰だったかしら?……あ、ごめんよ、辛いよね……こんな事聞きたくないよね。けど現実を知っておいた方がいいと思ってね。だってそうだろ?地方で散々遊んで、病気とか貰って帰ってくるかもしれないじゃないか」
「まぁ……病気ですか?」
「あぁ。騎士って結構性病持ってるヤツが多いって聞くからさ」
「まぁ~……」
「アンタまるっきり他人事みたいに言うけどわかってる?アンタの旦那もその一人なんだよ?」
「まぁ~……」
「……」
結局、ヤスミンの友人だという壮年の下働きの女性とは少しだけ話をして別れた。
私が適当に相槌を打つので話が続かなかったから。
だってその女性の話にどう返事をしていいのかわからなかったんだもの。
妻としてぷんぷんと怒るべきだったのかしら?
「う~ん……?」
フォルカーの相手が娼婦ではない普通の女性?
現地で運命的な出会いをして、恋仲になったというのかしら……。
確かにそういう事もあるのかもしれない。
遠征で訪れた最果ての町で魔獣討伐に疲れた心を抱えた時に、それを癒してくれる女性と出会ったのなら…… 心惹かれても仕方ないのかもしれない。
でもあのフォルカーが、
真面目で誠実なフォルカーがたとえ心惹かれる女性と出会ったとしても、結婚したばかりの私を裏切って関係を持ったりするかしら?
噂で聞くフォルカーと、私が知るフォルカーがどうも結びつかないのよね。
「ああ、だけど……」
私はとある考えが頭を過ぎり、立ち止まってひとりつぶやいた。
「だけど、浮気じゃなくて、本気でその女性を好きになったのなら……」
そういう事もあるのかもしれない。
私はなんだか鉛を飲み込んだように胸が重苦しくなって、その場から逃げ出すように足を早めた。
もうどこにも寄り道する気にはなれなかった。
フォルカーの不在が、音信不通のこの状況がはじめて辛いと思った。
手紙を書いてみようか。
届くかどうかわからないけど、迷惑かもしれないけど、とにかく今の私の気持ちを正直に伝えてみようか。
「彼の性格はきっと何も変わっていないはず」
一生懸命書いた手紙を、フォルカーは迷惑だなんて思う人じゃない。
まぁ書くか書かないか、そして何を書くかは慌てずゆっくり考えよう。
私はひとり、そう決めた。
その夜、私は嬉しい夢を見た。
夢の中でフォルカーに会えたのだ。
その夢は温かくて優しくて、
私はとても幸せな気持ちになれた。
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