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もうそろそろわたしの話をしてもいいじゃないですか②

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「魔法に変換した魔力を吸収して保管するための魔道具」

の開発を進めて早3日。

わたしは小さなアパートの小さな部屋でその開発に明け暮れていた。

そしてとうとう完成した。

ウィリアム殿下のために昔から開発を進めては失敗して頓挫していた、
わたしにとっては因縁の魔道具……。

いつも取り込んだ魔力の保管が最大の難点だったのよね。

でもまさかこんなあっさりと解決の糸口が見つかるとは……。

これはやっぱり
環境が変わって、関わる人間も変わったからかもしれない。

市井に出たからこそ
今まで知る由もなかった事を知れた。

サリィと共に暮らすこの部屋にも慣れて、魔道具の開発も上手くいった。

何もかも順風満帆、万々歳だ。

まぁ魔道具が完成しても、
今となっては殿下の魔力を吸収することに意味はないけど。

殿下を取り戻したくて魔道具の開発を頑張っていた。

もうリリナ様がいるから必要ないけど。

殿下は今もきっと、
城でリリナ様を腕に絡ませているんだろう。

それでもギルドのために
魔力を保管するこの魔道具を作れたのは僥倖だ。

誰か他に高位魔力保持者を探さなきゃ……って、生家に行けばゴロゴロしてるけどね。

まだ帰れないわよね。

きっと城からはもう、
わたしが出奔した事は伝わっているはず。

生家に居場所を隠すつもりはないし、心配はかけたくないから一応連絡はするつもり。

じつは先程やっとお母さまに手紙を書いたところなのよね。

まだポストに投函してないけど。

……投函しに行こう。

「アラ、私に手紙?直接受け取るわよ?」

……幻かしら?

母によく似た人がいる。

わたしの部屋に。

………え?

「お、お母さま!?」

「久しぶりねフェリシア、元気そうで良かったわ。それに素敵な部屋じゃない。さすがはサリィが付いてただけの事はあるわ」

「な、な、何故ここに!?どうしてここがわかったの!?」

「だってサリィに報告させてたもの。サリィの叔父の騎士団長はわたしの同期なの。その流れでフェリシア付きの侍女になって貰ったのよ」

「なんだ、そうだったの」

慌てるのも驚くのも面倒くさくなったわたしは、もうすんなりと受け入れる事にした。

でも娘といえども
人の部屋に勝手に転移魔法でやって来るのはどうかと思う。

「それで?平民ごっこ暮らしはどう?」

「すっごく楽しいの!」

わたしはお母さまに
上手く淹れられるようになったお茶を披露した。

お母さまは美味しい!と感心しながらお茶を飲み、
そして先日城で起こった事の全てを話してくれた。



殿下とわたしの婚約は解消となった。

本来なら殿下はわたしとの婚姻の後に臣籍に降りて公爵位を賜り、拝領された領地を二人で治めていくはずだった。

だけど今回の事で、

まだまだ未熟で分不相応という事になり、

急遽王位を継ぐことになられた
王太子アルバート殿下のもとで王弟として働いてゆくのだそう。

お母さまは、
「甘いわね、王家あの家族は。昔からウィリアム王子を甘やかして。王妃クリスティーヌだって、フェリシアが大切だと、フェリシアの好きにしていいと言っておきながら、結局は息子可愛さで復縁させようとしてたんだから」
と、辛口評価を添えていた。

わたしは王妃様っ子だから
別にそうは思わないのだけれど。
実際本当に好きにさせて貰ったし。
王妃様が本気で殿下のためにわたしを手放すつもりがなかったのなら、今頃軟禁されていてもおかしくない。



殿下はわたしとの婚約解消を言い渡された時、気を失われたそうだ。


婚約解消の理由が
既に沢山の人の前でリリナ様との仲睦まじい姿を晒し、まさか王子が魅了を掛けられていたと公表するわけにもいかない為、ウィリアム殿下の心変わり、という殿下一人の有責で解消したと発表されたらしい。

おかげでわたしは可哀想な侯爵令嬢というレッテルを貼られただけで社会的には無傷だけど、殿下はどうなるのな……。

リリナ様が「魅了」ではなく、
「他の魔法」を殿下にかけた……という事にしてリリナ様には退場して貰う……みたいな筋書きになったらしいけど。
それてっどうなのかしら?

ま、同情なんてしないけど。


教会を正すために魅了を放置されて、
それにより婚約者を失った事を、アルバート殿下はウィリアム殿下に謝罪されたという。
(わたしにも謝って。まぁ要らないけど)

殿下は
王子たるもの、どんな隙も与えてはならないというのに魅了にかかった自分が悪い、と言われ謝罪を受け入れられたそうだ。

「魅了魔法……殿下が…まさかそんな」

わたしは信じられない気持ちでいっぱいだった。

だって王族やその近しい者には魔術返しがかけられている。

もちろんわたしにもだ。

だから魅了の可能性なんて
一欠片も考えていなかった。

「お母さま」

わたしは母の顔をじっと見つめた。

「お母さまは最初から全部ご存知だったのでしょう?わたしを後回しにした事を責めているわけじゃないの、わたしも貴族の娘ですから、優先すべきは国益と理解しているつもりです。でも、お母さまの性格ならさっさと殿下に見切りをつけて、わたしを無理矢理にでも侯爵領に連れ帰ったと思うの。どうしてそうなさらなかったの?」

「……あんまり早い段階で、王子と別れて帰りましょうと言っても、あなたは首を縦に振らなかったでしょう?無理矢理連れて帰ったら遺恨が残るだけだと思ったの。これはあなたが自分で答えを出して見切りをつけなければ先に進めないと思ったのよ」

「そう、ですね……確かに」

悲しい思いをいっぱいしたけど、自分で殿下に対する想いに答えを出して城を去った。
だから後悔も未練もない。

まだ胸はちょっと痛むけれど。

「そ、そういえばリリナ様はどうなったの!?王族に魔法をかけるなんて極刑と決まっているけどまさかもう…?」

わたしの鼓動がうるさいくらいに激しくなる。

するとお母さまは不適な笑いを浮かべ、答えてくれた。

「ふふふ…あの小娘の身柄は今、私が握っているのよ……」

「ええぇ!?」

なんと、
お母さまの城の改築工事で吹き飛ばされたリリナ様は、そのままお母さま預かりとなったらしい。

もちろんリリナ様は正当に裁判にかけられ、刑に処される。

でもその間、
タダめしを食べさせてるだけじゃ勿体ないと、お母さまは考えたらしい……。

一体何をさせるつもりなの……怖いわ。

素直に刑を受けるだけの方が楽かもしれないわね、リリナ様……。


「じゃあ殿下は!?新しい癒しの乙女が着任したの?魔力障害は大丈夫なの?」

と、わたしが言うと、
お母さまは先程よりも更に不適な笑みを浮かべた。

「王子には毎日、私がつきっきりで余剰魔力を排出させてるわ。簡単な事よ、攻撃魔法でも使わせて消費させればいいの。王子が出した攻撃魔法は全部、私が相殺してるから周りに被害なんて出ないしね、でも何故かしら?日に日に自信を失くしてるようなのよねぇ」


うわぁ……殿下、ご愁傷様です……。

でも、お母さまに鍛えられるのはいい事よね。
殿下、物凄く強くなりそう。
肉体的にも精神的にも。


ふふふ…と微笑みを湛えられていたお母さまは、不意に思い出したらしく話題を変えた。


「そうそう。王太子殿下の婚約が正式に決まったわよ。お相手は隣国の王女様。
弟は婚約解消になって、最悪のタイミングなのに隣国向こうから打診されて、断れなかったみたいね。
ホント、隣国も間の悪い……」


お母さまは呆れたようにため息を吐かれる。

「でも、アルバートアレが王となるためには隣国との縁続きは必要なのよ。どうしようもなく頭でっかちで生真面目で融通が利かなくて小狡い男だけれども、民に悪政を敷いる王よりはマシなのよね。上位貴族には苦労や犠牲を容赦なく強要するけど。私たちは民から税を取り得て生活が成り立っている。だからその分、有事の際には身を犠牲にして国の為に働くのよ。まつりごとは綺麗事だけでは済まされない。
アルバートを愚王にするか賢王にするかは臣下である我々次第よ。
まぁどうしようもないクズ王になったら、私が瞬殺して、うちの息子の一人に首をすげ替えるわ。うふふ、沢山産んだもの。誰にしようか迷うわね」

お母さまったら楽しそう。

わたしは冷めたお茶を淹れ直した。


「それで?フェリシア、あなたは本当はどうしたいと思っているの?今回の事はあなたが一番の被害者だから、あなたの望むように取り計らうと王太子殿下は仰っているわ。表向きには王子と婚約解消となったけれど、やっぱりウィリアム王子と結ばれたいと思うなら、王子共々身分は剥奪はするけれど、好きに生きていいらしい。それが嫌なら他の要望でもなんでもいいと」

「うーん……ウィリアム殿下との婚姻はもう……嫌かなぁ。リリナ様と触れ合っておられた姿が瞼に焼き付いて……多分、殿下に触れられる度に思い出してしまうと思うの。リリナ様の手垢の付いた殿下は……無理。少なくとも、今は絶っ対に」


「あなたも言うわね。今は、という事は将来的に復縁もやぶさかではない、という事?」

「うぅーん……先の事はわからない。でも少なくとも今は、絶対に、殿下とはあり得ない。だってもう殿下を信用する気持ちが失くなってしまったから……」

「そう。ね?あの側近は?ほらライアンとか言ったかしら?知っているのよ、時々ここに来てるんでしょう?」


「ライアン様?何故ライアン様がここで出てくるの?第一ライアン様は必要な物資を持って来て下さってるだけよ?重い物を運んで貰ったり。サリィと二人、助かっているの」

そう、ライアン様は時々
わたしの部屋にやって来る。
季節の美味しい果物をくれたり、王妃様のお使いでとっておきの茶葉を持参したりとか。
その際に、困った事はないかとか
必要な物はないかとか、
ある意味お母さまよりもお母さましてくれている不思議な存在なのだ。


「アラあの側近、なかなかやるわね。じわじわ距離を詰めていくつもりね。フェリシアには響いてないけど」

なかなかやる?
何をやるというの?お母さま。

「じゃあ王太子殿下から金銭でも巻き上げる?べつに慰謝料と思えばおかしな事じゃないわ」


「………。」 

それを聞き、
わたしはある事を閃いてしまった。

「王太子殿下ではなく、ウィリアム殿下に慰謝料を請求してもいいのかしら?」


「王子に?まぁいいんじゃない?大金をせしめておあげなさい」

「お金じゃないのよね~。それに殿下にとっても悪い話ではないと思うし……でも出来れば半永久的に貰いたいなぁ……なんて」


「え?一生払わせ続けるつもり?」

「どちらかというと分割払い的な?」

「フェリシア、あなた何を要求するつもりなの?」

「ふふふ……」

今、わたしはとても悪い顔をしてると思う。

微笑む姿はまさに悪役令嬢のようだったりして。











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