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もうそろそろわたしの話をしてもいいじゃないですか ①
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婚約者の王子が実母に往復ビンタを食っていたとは知る由もないわたしは、
王都から遠く離れた
とある小さな街の
小さな魔道具ギルドにいた。
魔道具を買い取って貰うためには
魔道具ギルドに籍を置かねばならない。
小さな街なので登録出来るギルドは一件しかなかった。
そのギルドは、
堅実をモットーとしているらしく、質の良い魔道具しか買い取ってくれない。
でもその分、
ギルドマスターに認められれば相場より高値で買い取って貰えるのだ。
わたしの作る魔道具はマスターのお眼鏡に適ったらしく「え?こんなに?」と思うくらいの金額で買い取って貰えた。
この日もわたしは完成した
「水系魔法式トイレブラシ」と
「炎系魔法式携帯コンロ」を売りにギルドに来ていたのだ。
ちなみに平民の暮らしに根付いた生活用品魔道具を作るように勧めてくれたのはサリィである。
「え?深刻な魔力不足?」
ギルドのカウンターで雑談中のわたしは驚いた声を上げた。
「そうなんだよ。この国だけに始まった事じゃないが、年々、高魔力保持者の数が減ってるだろ?みんな、とくに平民は大した魔力量もなく生まれてくる。いやそれどころか魔力無しで生まれてくるヤツも結構いるんだ」
そうなのだ。
わたしは魔力量が平凡と言っているが、
それは貴族を基準として比較するからだ。
貴族は高魔力保持のために
魔力の高い家と婚姻を結ぶ。
それにより、貴族の者は平民よりも高い水準の魔力を保有して生まれてくる。
なのでわたしは
自分の魔道具に込める魔力は自分で賄っているが、
大概の魔道具師は魔力を買って魔道具の動力源としているのだ。
「……確かこのギルドでは、まだ魔力が込められていない段階の魔道具をマスターが買い取って、魔力提供者に魔力を注入して貰ってから販売するんでしたよね?」
「あぁ。一個一個でわざわざ魔力提供者に足を運んで貰うのも悪いし効率も悪い。それならある程度集めてから魔力を入れて貰う方が色々と都合いいんだ」
「でもその魔力提供者が激減している……」
「魔力提供はしんどいからな。食って寝りゃあ回復するが、それまで寝たきりみたいになるヤツもいる。魔力を売ってまで金を稼ぎたいヤツが、そんな何日も寝たきりになっても生活できるような料金じゃないからな。辞めていくヤツが後をたたないのさ」
「……なるほど……………」
急に黙り込んだわたしを
マスターが訝しげに見た。
「嬢ちゃん?」
このギルドに籍を置く時に
一応貴族の娘であるとは伝えてあるが、詳しい事は教えていない。
わたしは魔道具を売って生計を立てる没落貴族の娘、と思われているらしい。
「……要するに、高魔力保持者がいれば、魔力提供者は何人も要らないんですよね?…でもそれなら、抽出した魔力を大量に保管できる容器があれば尚、良いと……」
思考に嵌り、
独り言に聞こえない独り言をぶつくさ言っているわたしにマスターは言う。
「でも道具を使っての魔力抽出は言葉で言えば簡単だが容易じゃないぞ。魔力を外に排出するわけにはいかないからな。何か容器に入れねばならん。
でも閉じ込めた魔力は、一瞬で暴走しちまうから、今まで何人もの魔道具師が着手してきたが誰も成功していない。だから魔力吸収タイプの癒し系魔術師が必要とされるんだ。高貴なヤツらは癒しの乙女って呼ぶんだっけ?」
「ええ、知ってます。……嫌になるくらいに。わたしも永年、魔力を吸収して蓄えておける魔道具の開発を進めてきましたがどうしても上手くいかずに頓挫しています。魔道具に入れる程度なら暴走はしないから、体から出した魔力は小さな魔道具に入れるのが一番いいんです。でも大量の魔力をちまちま入れていられない……どうしても大量の魔力を安定して貯めておける入れ物が必要なんですよね……」
そしてわたしはまた
思考の沼に沈んでいく……
道具で魔力を吸収する仕組みは出来ている……
でもその吸収した魔力の入れ物が上手くいかない……
それでも、なんとか入れ物に入れたとしても、早く消費しないと体外に出された魔力は暴走してしまう……
ん?
でも魔法に変換された魔力は暴走しないのよね?
それは魔法という形を与えられたからだと教わった事がある。
……………………じゃあ、
魔力をただ保管するのではなく、
動力源に変換可能な魔法にしてから吸収して保管すれば?
例えば炎系の魔法なら、
炎系の魔力に変換してから炎系の魔道具に注入する……
それなら魔法という形になった魔力を
安定したまま保管できるのでは?
「っ!!マスター!ちょっと思いついた事があるので帰りますね!!」
「ちょっ……!?お嬢ちゃん?」
引き止めるマスターの声を背に、
わたしは自分のアパートへ向かって走り出し出した。
王都から遠く離れた
とある小さな街の
小さな魔道具ギルドにいた。
魔道具を買い取って貰うためには
魔道具ギルドに籍を置かねばならない。
小さな街なので登録出来るギルドは一件しかなかった。
そのギルドは、
堅実をモットーとしているらしく、質の良い魔道具しか買い取ってくれない。
でもその分、
ギルドマスターに認められれば相場より高値で買い取って貰えるのだ。
わたしの作る魔道具はマスターのお眼鏡に適ったらしく「え?こんなに?」と思うくらいの金額で買い取って貰えた。
この日もわたしは完成した
「水系魔法式トイレブラシ」と
「炎系魔法式携帯コンロ」を売りにギルドに来ていたのだ。
ちなみに平民の暮らしに根付いた生活用品魔道具を作るように勧めてくれたのはサリィである。
「え?深刻な魔力不足?」
ギルドのカウンターで雑談中のわたしは驚いた声を上げた。
「そうなんだよ。この国だけに始まった事じゃないが、年々、高魔力保持者の数が減ってるだろ?みんな、とくに平民は大した魔力量もなく生まれてくる。いやそれどころか魔力無しで生まれてくるヤツも結構いるんだ」
そうなのだ。
わたしは魔力量が平凡と言っているが、
それは貴族を基準として比較するからだ。
貴族は高魔力保持のために
魔力の高い家と婚姻を結ぶ。
それにより、貴族の者は平民よりも高い水準の魔力を保有して生まれてくる。
なのでわたしは
自分の魔道具に込める魔力は自分で賄っているが、
大概の魔道具師は魔力を買って魔道具の動力源としているのだ。
「……確かこのギルドでは、まだ魔力が込められていない段階の魔道具をマスターが買い取って、魔力提供者に魔力を注入して貰ってから販売するんでしたよね?」
「あぁ。一個一個でわざわざ魔力提供者に足を運んで貰うのも悪いし効率も悪い。それならある程度集めてから魔力を入れて貰う方が色々と都合いいんだ」
「でもその魔力提供者が激減している……」
「魔力提供はしんどいからな。食って寝りゃあ回復するが、それまで寝たきりみたいになるヤツもいる。魔力を売ってまで金を稼ぎたいヤツが、そんな何日も寝たきりになっても生活できるような料金じゃないからな。辞めていくヤツが後をたたないのさ」
「……なるほど……………」
急に黙り込んだわたしを
マスターが訝しげに見た。
「嬢ちゃん?」
このギルドに籍を置く時に
一応貴族の娘であるとは伝えてあるが、詳しい事は教えていない。
わたしは魔道具を売って生計を立てる没落貴族の娘、と思われているらしい。
「……要するに、高魔力保持者がいれば、魔力提供者は何人も要らないんですよね?…でもそれなら、抽出した魔力を大量に保管できる容器があれば尚、良いと……」
思考に嵌り、
独り言に聞こえない独り言をぶつくさ言っているわたしにマスターは言う。
「でも道具を使っての魔力抽出は言葉で言えば簡単だが容易じゃないぞ。魔力を外に排出するわけにはいかないからな。何か容器に入れねばならん。
でも閉じ込めた魔力は、一瞬で暴走しちまうから、今まで何人もの魔道具師が着手してきたが誰も成功していない。だから魔力吸収タイプの癒し系魔術師が必要とされるんだ。高貴なヤツらは癒しの乙女って呼ぶんだっけ?」
「ええ、知ってます。……嫌になるくらいに。わたしも永年、魔力を吸収して蓄えておける魔道具の開発を進めてきましたがどうしても上手くいかずに頓挫しています。魔道具に入れる程度なら暴走はしないから、体から出した魔力は小さな魔道具に入れるのが一番いいんです。でも大量の魔力をちまちま入れていられない……どうしても大量の魔力を安定して貯めておける入れ物が必要なんですよね……」
そしてわたしはまた
思考の沼に沈んでいく……
道具で魔力を吸収する仕組みは出来ている……
でもその吸収した魔力の入れ物が上手くいかない……
それでも、なんとか入れ物に入れたとしても、早く消費しないと体外に出された魔力は暴走してしまう……
ん?
でも魔法に変換された魔力は暴走しないのよね?
それは魔法という形を与えられたからだと教わった事がある。
……………………じゃあ、
魔力をただ保管するのではなく、
動力源に変換可能な魔法にしてから吸収して保管すれば?
例えば炎系の魔法なら、
炎系の魔力に変換してから炎系の魔道具に注入する……
それなら魔法という形になった魔力を
安定したまま保管できるのでは?
「っ!!マスター!ちょっと思いついた事があるので帰りますね!!」
「ちょっ……!?お嬢ちゃん?」
引き止めるマスターの声を背に、
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