もう彼女でいいじゃないですか

キムラましゅろう

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もう婚約者チェンジでいいじゃないですかぁぁ ①

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侍女長からの報せを受けたのは
母上から叱責された日から二日後の事だった。

結局僕はあの日
フェリシアと話し合わなくてはならないと思いつつも、とても居た堪れなくなって逃げてしまった。


明日は、次の日こそはと思っているうちに丸二日が経ってしまっていた。

どうしようかと思案していたその時に届いた報せだった。


フェリシアが部屋にいない、
慌てて城中捜したがどこにも見当たらないと。


報せを受け
急いでフェリシアの部屋に行くと
そこには何も変わらない、いつもの光景があった。
ただそこにフェリシアの姿がないだけで。

部屋中を見渡すと、
ある物がない事に気付く。

フェリシアが侯爵家から持参した愛用の文具と工具、それから数々の魔道具の図案が描かれたノート。
そして彼女のお気に入りだった小さなガラスの猫の置き物だ。

それらの物だけを持って、フェリシアはこの部屋を去ったのだと理解した。

僕が贈ったドレスや宝飾品や本は全てそのまま残されていた。

それらと僕はまるで一緒だな、と思ってしまった。


取り残された僕ら。

もう彼女には必要ないと判断された僕ら。


城内でフェリシアの捜索を行なった近衛騎士の一人が、
クローゼットの一画を指し示した。

そこには転移魔法用の市販の魔法陣と、その魔法陣の側に
おそらくフェリシアが発明したであろう魔道具が置かれていた。

「……魔法が使われたなら、残滓ざんしを辿って追跡出来るのでは?」

僕がそういうと騎士は首を横に振った。

「この魔道具はどうやら魔法の残滓を取り込む物のようです。残念ながら残滓は残っておらず、追跡は無理でしょう」

「そうか……」

フェリシアが転移魔法を用いて移動したのなら
それはもう本当にお手上げだ。

これがまだ乗り合い馬車や船などの公共の乗り物を使ってくれていたのなら、目撃情報や全ての切符の半券を精査して行き先地を絞り出す事も出来たはずだ。

でも魔法による転移なら
決して人目に触れずに目的地まで行けてしまう。

それこそ目的地である部屋に、
対の魔法陣を置いておけば城から直接部屋へと転移出来る。

転移魔法陣は二枚一組で市販で売られている。

高価だが、出発陣と到達陣をそれぞれ置いて、二つの陣の間を一瞬で移動出来るのだ。

更に用意周到なフェリシアの事だ、
魔法残滓を残さない魔道具を用いたのなら、万が一の事を考えて認識阻害の魔道具も使用しているかもしれない。

本当に、はっきり言ってお手上げだった。

だけど時間と人手さえかければ、
いつかは見つけられるはず。

国内の、最近契約された家や部屋をしらみ潰しに調べれば辿り着けるのではないだろうか。

……でもフェリシアにとって、それは迷惑な話なんだろうな。

僕との未来が嫌になって、
彼女はここを出て行ったんだから。

僕はフェリシアを傷つけている事を
母上に言われるまで気付けなかった。

いや、気付いていたけど
仕方ない事じゃないかと言い訳して、目を逸らしていただけなのかもしれない。

フェリシアに我慢を強いて、
彼女のその優しさの上に胡座を掻いていただけなんだろうな…きっと。

でもやっとそれに気付けて、リリナ…というか自分の体調面よりフェリシアを選んだというのに。


もう全てが手遅れだったのか……
どうしてもっと早く気付けなかったのか……。


でも、それでも、僕はフェリシアを諦める事が出来ない。

一体どうすれば……


僕はフェリシアの部屋でただ立ち竦み、愚かな自分から目を逸らすように残された魔法陣を見つめていた。


「あらま、フェリシア様、出て行っちゃったんですかぁ。えーウィリアム様ってばフラレちゃったの?あんなに好き好き攻撃してたのに?かわいそー!」


僕の隣で何故か嬉しそうに言うリリナ。

彼女の言葉に心を抉られる。


リリナよりフェリシアを取ると決めたものの、後任の癒しの乙女が来るまではリリナに余剰魔力を吸収してもらわなければならないわけで……

代用作として魔力注入タイプの魔道具なども試してみたけど、
僕の魔力のせいで一瞬で満タンになって壊れてしまう。
その際、辺りに甚大な被害が出そうなので諦める事にした。

だから、ホントにしょうがなく
今日もリリナに余剰魔力を処理して貰っている……。


母上は
「後任が来るまでたった数日、ベッドで大人しくしていれば良いでしょう!」
って言うけどさすがにやっぱり寝込むのは困る。
片付けなければならない案件もあるし。

でもせめて、今までみたいに腕に密着するのではなく、繋いだ手から余剰魔力を吸収して貰っている。

それで体内の魔力量も体調も変わらないのだから、
今までの密着はなんだったんだ……とは思えないのは何故だろう。

昨日はリリナと離れた途端に様々な物事をしっかり理解する事が出来たのに。



僕が自分の思考に浸っていると、

リリナがいきなり僕の体に抱きついてきた。

「うわっ」
「じゃあ、リリナが傷心のウィリアム様を慰めてあげますぅ!」

そう言ってキラキラとした目で僕を見つめてくるリリナ。

僕の心拍数が一気に跳ね上がる。

フェリシアを選んだ身でリリナとこんな事をするべきではないと頭ではわかっていても、心の奥深くの僕が嬉しく感じてしまう。
リリナと密着するといつもそうだ。

でもその時、ふとフェリシアの顔が浮かんだ。

やっぱりこんな事はダメだ。

僕は意を決して、

昨日の話し合いで決まった事をリリナに告げる。


「リリナごめん。じつは先日
母上と父上、両陛下と話し合って、癒しの乙女を交代して貰う事になったんだ」


「………え」

「突然の話で驚くよね、わかるよ。
でもリリナは若くてカワイイから、
どうしても周りに要らない誤解を生んでしまうんだ。
僕たちはあくまでも癒しの乙女と魔力障害の患者という関係なのに、いつのまにか僕がリリナに甘え過ぎてしまっていたようだ。でもそれでフェリシアを傷つけてしまった以上、もうキミを側には置けないんだ」


「…………。」


「勝手な言い分だとわかっている。
後任が到着次第、交代となるけど、何か希望があるならどこにでも紹介状や身分補償の書類を用意するよ。
今までプレゼントしたドレスや宝石はそのまま持っていってくれて構わない」



何も言わず俯くリリナに

ウィリアムは不安を感じる。


「リリナ?こんな事になって、本当に済まないと思っているんだ……えと…リリナ?」


ウィリアムが何か様子が変だと感じたその時、

リリナがぽつりと呟いた。



「いいじゃないですかぁ」

「え?」

「もうべっつにいいじゃないですかぁ」

「リリナ?…」

「せっかくフェリシア様が消えてくれたんですぅ、だからもう、
婚約者チェンジでいいじゃないですかぁぁ」


「っ……!?」
そう言ってニヤリと笑ったリリナの足元に僕は急に崩れ落ちた。

体に力が入らず、

変な汗が止まらない。

これは一体どういうことだ…!?

そうしてリリナは、

リリナとは思えない薄気味悪い笑顔を浮かべて言った。



「もう既成事実作っちゃいましょか、ウィリアム様♡」

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