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もう好きにやってればいいじゃないですか
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えーーっと…この状況はなんだろう……。
何故こんな事になっているのかな?
何故わたしは
自分の部屋で
殿下の膝に乗りながら夕食を食べているのかな?
隣で睨みつけてくるリリナ様の視線に滅多刺しにされながら殿下に「ハイ、あーん」で食べさせられているのかな?
………って混沌かっ!!
わたしは
食事中でお行儀が悪いと思いつつも殿下の膝から飛び降りた。
テーブルマナーもあったものじゃない。
「あ、こらシア!ちゃんと食べなきゃダメだよ」
「ちょっ、ちょっと待ってください殿下!コレは一体どういう事ですか!?何故わざわざわたしの部屋で食事を!?何故わざわざ膝乗せ!?そして何故わざわざお口あーん!?なんの罰ゲーム!?」
「まぁ落ち着いてよシア。
順番に説明していくから」
「……じゃあ何故この部屋で?」
「ここじゃないとシアと食事が出来ないから」
「じゃあ何故膝乗せ?」
「シアが逃げちゃうから」
「……じゃあ何故お口あーん?」
「シアが可愛いから」
「ワケがわかりません!!」
本当にわけがわからない。
何故いきなりこんな事をし出したのか。
いや、昔はこんな感じだったな。
朝から晩まで鬱陶しいくらい構い倒されて愛を囁かれていた。
でも殿下が癒しの乙女を常備するようになってからは、わたしが避けていた所為でもあるが出来ない状態になっていた。
懐かし過ぎて思わず思考が停止してたけどとんでもない。
殿リリ(殿下とリリナの略)と一緒に食事をしたくないから自室で食べているのにこれじゃあ意味がない。
夕食前に寝室に篭って転移魔法の練習をしている隙に部屋に押し入られ、夕餉をセッティングされた。
まったく、油断も隙もない。
これからはちゃんと部屋に鍵をかけなくては。
今日のところはさっさと食べて早々にお引き取り願おう。
わたしはテーブルに戻り、
自分の席で自分の手で食事を再開した。
それを何故かうっとりと見つめてくる殿下……。
殿下の向こう側から
殿下の気を引こうと必死に世話を焼くリリナ様……。
まったく食事の味がしない!!
ホントなんなの?
「そうだ、フェリシアに報告があるんだ」
「ふぁい?」
徐に話を振られ、
咀嚼中だったわたしは思わず変な声を出してしまった。
本来なら食べ物がお口に入っている時は絶対に口を利かないのに。
なんだか調子が狂ってる。
テーブルマナーの先生に怒られる失態だ。
まぁそれは置いといて……
「前々から計画してたんだけど、明日から魔力排出のコントロールの訓練を始めるんだ」
「魔力の排出をコントロール?それはどういうものですか?」
知識欲としてなんでも知りたがりのわたしにとって、とても興味を唆られる話だ。
「普通は魔力もカロリーと同じように体内で代謝されるでしょ?でも僕は魔力量が多すぎてそれが出来ない体質なのは知ってるよね?だからリリナに常に吸収して貰ってるわけだけど……」
「それは、まぁ、はい、そうですね」
わたしにしては煮え切らない返事をしてしまった。
殿下の向こう側のリリナ様の視線の所為だけど。
「要は余分な魔力を上手く外に排出すればいいわけだ。でもただ闇雲に魔力を外に出せばいいというものでもない。周りになんらかの被害が出るかもしれないからね。だから魔力コントロールに長けた医療魔術師に指導してもらう事にしたんだ。前々から打診してて、ようやく明日から始められそうだよ」
「えっ……」
それってどういう事?
それって、もしそれが上手くいけば癒しの乙女を装着しなくても良くなるという事?
わたしは思いがけない報告に
少し頭が混乱しそうになった。
でもその時、リリナ様が
泣きの入った声で抗議した。
「どうしてわざわざそんな大変な事をするんですか!?だってアタシが居るじゃないですか!ウィリアム様がそんな苦労しなくても、アタシがいつもお側で癒しますから!」
リリナ様の言葉に、
殿下は優しく微笑みながら答えた。
「ありがとうリリナ。でもコレは僕がそうしたいからなんだ。癒しの乙女に頼るばかりじゃなく、自分で自分の魔力をコントロールしたいんだ」
「えぇ~…そんな…ウィリアム様ぁぁ」
大変不服そうなリリナ様。
そりゃそうか。
殿下はわたしの手を取り、真剣な眼差しでわたしを見つめる。
「だからシア、応援してくれる?」
「……もちろん応援はしますけど……でもそれは体への負担は大丈夫なのですか?殿下のお体が一番大切なのです。決して無理はなさらないでください」
わたしが不安になって言うと、殿下は破顔した。
「シア…!なんて優しいんだ……!キミがまた僕に優しい言葉をかけてくれるなんて夢のようだよ……!」
「そんな大袈裟な。それで、その訓練によって魔力コントロール出来るのはどれくらいかかるものなんですか?大凡でいいのです、わかりますか?」
わたしが問うと
殿下は大した事ではないという風に答えた。
「魔術師の予測だとだいたい10年くらいかな?でも僕は頑張るよ、必ず魔力排出を上手くやってみせる!!」
「…………………………。」
わたしはとっておきのアルカイックスマイルを披露した。
すると途端に元気を取り戻したのがリリナ様だ。
「10年!!じゃあアタシもその時までずっとウィリアム様の側で支えますね!」
「あぁ。頼んだよリリナ」
「…………………………。」
もはや何も言うまい。
少しでも期待した自分がバカだった。
いやでもね、努力するのはいい事だ。
魔力排出のコントロールは切実な問題だし。
まぁそれは
わたしと関係ない人生の中で頑張ってください。
「あ!ウィリアム様!大変です!」
唐突にリリナ様が声を上げた。
「ん?どうしたのリリナ」
「ウィリアム様の余剰魔力が体内でトグロを巻いてますぅ!今すぐ吸収しないと!」
「え!?それは困る、リリナ、頼むよ!」
「ハイお任せください!」
そう言って、二人は徐にハグし出した。
ハグ?
いいや違うな、これはもうガッツリ抱きしめて合ってるな。
腕の中にすっぽりと埋まったリリナ様が恋人にしか見えないな。
わたしは努めて冷静に二人に質問した。
「あの……それは今、何をされているんです?」
すると悪びれもなくリリナ様が言った。
「今、ウィリアム様の癒しの治療中なんですぅ、邪魔しないでくださいフェリシア様」
………邪魔するなと言われてもここはわたしの部屋。
そしてわたしはとりあえずはまだ殿下の婚約者。
「………………他所でやれーーっ!!今すぐ出て行けーーーっ!!」
わたしは淑女のマナーも王族への礼節もへったくれもなく殿リリを文字通り足蹴にして部屋から追い出した。
その際、侍女のサリィも一緒になって蹴り飛ばしていたけど、それはもうご愛嬌という事で。
壊れるのではないかと思うほど乱暴に扉を閉める瞬間、
青い顔をしながら体勢を持ち直してわたしに縋ろうとした殿下の姿が視界に入ったが、お構いなしに扉を閉めてやった。
もう二度と部屋には入れない。
いやもうわたしがさっさとここを出て行こう。
転移魔法は会得した。
明日からは転移魔法と開発した魔道具を使って秘密裏に外へ出て、住む所や魔道具ギルドを探そう。
ほんっとにもうやってられない。
呆れたわ。
殿下にとって本当にアレは医療行為なのね。
下心がないから(せめてないと思いたい)どこでも簡単にあんな事が出来るわけだ。
二人のあの様子じゃ
しょっ中行っているんだろうな。
もういいわ、
もう好きにやってればいいじゃない。
でもわたしの前では絶対に許さない。
二人とも
一日に一度は足の小指を机の角にぶつける呪いにかかればいい。
もう、殿下なんか大っ嫌い!!!
何故こんな事になっているのかな?
何故わたしは
自分の部屋で
殿下の膝に乗りながら夕食を食べているのかな?
隣で睨みつけてくるリリナ様の視線に滅多刺しにされながら殿下に「ハイ、あーん」で食べさせられているのかな?
………って混沌かっ!!
わたしは
食事中でお行儀が悪いと思いつつも殿下の膝から飛び降りた。
テーブルマナーもあったものじゃない。
「あ、こらシア!ちゃんと食べなきゃダメだよ」
「ちょっ、ちょっと待ってください殿下!コレは一体どういう事ですか!?何故わざわざわたしの部屋で食事を!?何故わざわざ膝乗せ!?そして何故わざわざお口あーん!?なんの罰ゲーム!?」
「まぁ落ち着いてよシア。
順番に説明していくから」
「……じゃあ何故この部屋で?」
「ここじゃないとシアと食事が出来ないから」
「じゃあ何故膝乗せ?」
「シアが逃げちゃうから」
「……じゃあ何故お口あーん?」
「シアが可愛いから」
「ワケがわかりません!!」
本当にわけがわからない。
何故いきなりこんな事をし出したのか。
いや、昔はこんな感じだったな。
朝から晩まで鬱陶しいくらい構い倒されて愛を囁かれていた。
でも殿下が癒しの乙女を常備するようになってからは、わたしが避けていた所為でもあるが出来ない状態になっていた。
懐かし過ぎて思わず思考が停止してたけどとんでもない。
殿リリ(殿下とリリナの略)と一緒に食事をしたくないから自室で食べているのにこれじゃあ意味がない。
夕食前に寝室に篭って転移魔法の練習をしている隙に部屋に押し入られ、夕餉をセッティングされた。
まったく、油断も隙もない。
これからはちゃんと部屋に鍵をかけなくては。
今日のところはさっさと食べて早々にお引き取り願おう。
わたしはテーブルに戻り、
自分の席で自分の手で食事を再開した。
それを何故かうっとりと見つめてくる殿下……。
殿下の向こう側から
殿下の気を引こうと必死に世話を焼くリリナ様……。
まったく食事の味がしない!!
ホントなんなの?
「そうだ、フェリシアに報告があるんだ」
「ふぁい?」
徐に話を振られ、
咀嚼中だったわたしは思わず変な声を出してしまった。
本来なら食べ物がお口に入っている時は絶対に口を利かないのに。
なんだか調子が狂ってる。
テーブルマナーの先生に怒られる失態だ。
まぁそれは置いといて……
「前々から計画してたんだけど、明日から魔力排出のコントロールの訓練を始めるんだ」
「魔力の排出をコントロール?それはどういうものですか?」
知識欲としてなんでも知りたがりのわたしにとって、とても興味を唆られる話だ。
「普通は魔力もカロリーと同じように体内で代謝されるでしょ?でも僕は魔力量が多すぎてそれが出来ない体質なのは知ってるよね?だからリリナに常に吸収して貰ってるわけだけど……」
「それは、まぁ、はい、そうですね」
わたしにしては煮え切らない返事をしてしまった。
殿下の向こう側のリリナ様の視線の所為だけど。
「要は余分な魔力を上手く外に排出すればいいわけだ。でもただ闇雲に魔力を外に出せばいいというものでもない。周りになんらかの被害が出るかもしれないからね。だから魔力コントロールに長けた医療魔術師に指導してもらう事にしたんだ。前々から打診してて、ようやく明日から始められそうだよ」
「えっ……」
それってどういう事?
それって、もしそれが上手くいけば癒しの乙女を装着しなくても良くなるという事?
わたしは思いがけない報告に
少し頭が混乱しそうになった。
でもその時、リリナ様が
泣きの入った声で抗議した。
「どうしてわざわざそんな大変な事をするんですか!?だってアタシが居るじゃないですか!ウィリアム様がそんな苦労しなくても、アタシがいつもお側で癒しますから!」
リリナ様の言葉に、
殿下は優しく微笑みながら答えた。
「ありがとうリリナ。でもコレは僕がそうしたいからなんだ。癒しの乙女に頼るばかりじゃなく、自分で自分の魔力をコントロールしたいんだ」
「えぇ~…そんな…ウィリアム様ぁぁ」
大変不服そうなリリナ様。
そりゃそうか。
殿下はわたしの手を取り、真剣な眼差しでわたしを見つめる。
「だからシア、応援してくれる?」
「……もちろん応援はしますけど……でもそれは体への負担は大丈夫なのですか?殿下のお体が一番大切なのです。決して無理はなさらないでください」
わたしが不安になって言うと、殿下は破顔した。
「シア…!なんて優しいんだ……!キミがまた僕に優しい言葉をかけてくれるなんて夢のようだよ……!」
「そんな大袈裟な。それで、その訓練によって魔力コントロール出来るのはどれくらいかかるものなんですか?大凡でいいのです、わかりますか?」
わたしが問うと
殿下は大した事ではないという風に答えた。
「魔術師の予測だとだいたい10年くらいかな?でも僕は頑張るよ、必ず魔力排出を上手くやってみせる!!」
「…………………………。」
わたしはとっておきのアルカイックスマイルを披露した。
すると途端に元気を取り戻したのがリリナ様だ。
「10年!!じゃあアタシもその時までずっとウィリアム様の側で支えますね!」
「あぁ。頼んだよリリナ」
「…………………………。」
もはや何も言うまい。
少しでも期待した自分がバカだった。
いやでもね、努力するのはいい事だ。
魔力排出のコントロールは切実な問題だし。
まぁそれは
わたしと関係ない人生の中で頑張ってください。
「あ!ウィリアム様!大変です!」
唐突にリリナ様が声を上げた。
「ん?どうしたのリリナ」
「ウィリアム様の余剰魔力が体内でトグロを巻いてますぅ!今すぐ吸収しないと!」
「え!?それは困る、リリナ、頼むよ!」
「ハイお任せください!」
そう言って、二人は徐にハグし出した。
ハグ?
いいや違うな、これはもうガッツリ抱きしめて合ってるな。
腕の中にすっぽりと埋まったリリナ様が恋人にしか見えないな。
わたしは努めて冷静に二人に質問した。
「あの……それは今、何をされているんです?」
すると悪びれもなくリリナ様が言った。
「今、ウィリアム様の癒しの治療中なんですぅ、邪魔しないでくださいフェリシア様」
………邪魔するなと言われてもここはわたしの部屋。
そしてわたしはとりあえずはまだ殿下の婚約者。
「………………他所でやれーーっ!!今すぐ出て行けーーーっ!!」
わたしは淑女のマナーも王族への礼節もへったくれもなく殿リリを文字通り足蹴にして部屋から追い出した。
その際、侍女のサリィも一緒になって蹴り飛ばしていたけど、それはもうご愛嬌という事で。
壊れるのではないかと思うほど乱暴に扉を閉める瞬間、
青い顔をしながら体勢を持ち直してわたしに縋ろうとした殿下の姿が視界に入ったが、お構いなしに扉を閉めてやった。
もう二度と部屋には入れない。
いやもうわたしがさっさとここを出て行こう。
転移魔法は会得した。
明日からは転移魔法と開発した魔道具を使って秘密裏に外へ出て、住む所や魔道具ギルドを探そう。
ほんっとにもうやってられない。
呆れたわ。
殿下にとって本当にアレは医療行為なのね。
下心がないから(せめてないと思いたい)どこでも簡単にあんな事が出来るわけだ。
二人のあの様子じゃ
しょっ中行っているんだろうな。
もういいわ、
もう好きにやってればいいじゃない。
でもわたしの前では絶対に許さない。
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