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もう泣いてもいいじゃないですか
しおりを挟む「王妃様、突然のお願いにもかかわらず面会を許可していただきありがとうございます」
わたしが面会を希望して
急遽、南の庭園のガゼボにて王妃様とお茶会をする運びとなった。
わたしは王妃様仕込みの
長年磨き抜いたカーテシーを披露する。
「他人行儀な挨拶は抜きよ。
フェリシアちゃんならいつでも大歓迎なのだから」
ウィリアム殿下の実母であらせられる王妃様は、殿下と同じプラチナブロンドに殿下より淡いグリーンアイズをお持ちの絶世の美女だ。
だけど儚げな雰囲気とは裏腹に
性格はさっぱりとされていて快活な方だ。
頭の回転も早く、人の機微にも聡い。
懐深く情に篤い方なのだ。
わたしは幼い頃から王妃様が大好きだった。
この方の娘になれる事を心の底から喜んでいた……のに。
「話をしたい事はだいたい想像がついてるわ。ウィリアムとの婚約を解消したいのね」
「やはり見抜いておいででしたか……。
申し訳ございません。今まで施して下さった妃教育が無駄になってしまうのはとても心苦しくはありますが、わたしにはもう、これ以上殿下の側にいる事は無理なのです」
「……学んだ事は決して無駄にはならないわ。例え妃にならなくてもね」
「王妃様…」
無駄ではないと言って貰えて
わたしの心は温かさで満たされた。
「でも私は悲しいわ……。フェリシアちゃんを本当の娘だと思ってきたもの。でも、同じ女としてフェリシアちゃんの気持ちが痛いほど良くわかるわ……」
「全てはわたしの我儘です。わかっているのです、わたしが我慢すれば様々な事が何も変わらず平穏でいられると。でもわたしにはそれがどうしても出来ません。どうか王妃様、新しい王子妃候補者をお探し下さい」
わたしは膝の上で両手をきつく握り締めた。
爪が食い込み赤くなっている。
その手を王妃様は優しく掬い取り、包んでくれた。
俯いていた顔を上げると、
そこには涙を浮かべながら優しく微笑んでくれる王妃様がいた。
「貴女は悪くない。悪くないのよフェリシアちゃん。本当にごめんなさい、ごめんなさいね」
わたしは悪くない
ずっと自分を責め続けていたわたしにとって、
その言葉は何よりも嬉しくて温かいものだった。
わたしの瞳から初めて涙が溢れる。
殿下を失おうとしている日々が辛く、
でも自分が決めた事だからと
涙を流す事をわたしはわたしに許さなかった。
(夢見で涙が出たのはノーカウントで)
だけど今、どうしようもなく涙が溢れる。
王妃様の優しさが、温かさが、
乾いた大地に水が沁み込むように
わたしの心へと沁み渡った。
どれくらい泣いたのだろう。
それでも王妃様は何も言わず、
ただ側に寄り添い続けてくれた。
わたしは落ち着きを取り戻し、
王妃様に感謝の気持ちを伝える。
「取り乱してしまってごめんなさい。
王妃様、ありがとうございました。気持ちがとても楽になりました。なんだか力が漲ってきましたよ」
「ふふふ。それでこそフェリシアちゃんよ。それで?わたしは貴女に何をしてあげられる?何をすればいい?」
王妃様が優しげだが
真剣な眼差しでわたしを見た。
わたしもしっかりと王妃様の目を見て答えた。
「何もしていただく必要はありません。
王妃様にはこれからわたしがする事を、ただ黙って見守っていて欲しいのです。
陛下がお許しにならなかった婚約解消を勝手に行うのです。どんなお咎めがあるかわかりません。ですから王妃様、決してお手を出さずにいてください」
わたしの要望に王妃様は困ったように微笑む。
「陛下が認めない所為ね。そんな分からずやなんて怖くもなんともないのに。でもわたしが出しゃばらない方が良いのね?」
さすが王妃様は聡明な方だ。
全てを語らなくてもわたしの意を汲んでくださる。
わたしは静かに頷いて王妃様を見つめた。
「ありがとうございます王妃様。わたしがする事を許してくださって…大好きです王妃様」
「あぁ……フェリシアちゃん……!」
王妃様はわたしを抱きしめた。
そして今度は王妃様の涙が溢れ出す。
わたしは母とは違う、
でも心から安心できるその温もりを忘れないように胸に刻んだ。
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