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もう婚約解消でいいじゃないですか
しおりを挟む「シア、フェリシア……
大好きだよ。ずっと一緒にいようね」
いつだったか貴方が言った。
「わたしも大好き。
ウィル、ずっと一緒にいてね」
いつだったかわたしも言った。
あの頃は生涯を共にしてゆくのだと
純粋に信じていたのに。
懐かしい夢を見た。
頬を伝う温かい涙を感じ、
わたしは目を覚ました。
結論から言うと
わたしは昨晩、陛下に会う事は叶わなかった。
ウィリアム殿下が予言(?)した
腹痛を起こしたわけではなく、
隣国の大使との食事会という公務が入った為だった。
まぁそれも
わたしを陛下に会わせまいとする殿下の策謀臭がぷんぷんするけれども。
でもわたしも伊達に長く城暮らしはしていない。
陛下の一日の流れなど、
手に取るようにわかるのだ。
それを利用して
わたしは陛下の比較的余裕のある時間、
朝の散歩タイムに待ち伏せをした。
予想通り、陛下は城の西側にある庭園へと現れた。
既に庭園に居たわたしに驚いていたが、
一緒に散歩をしようと誘ってくれた。
殿下の妨害が入らないように、
朝んぽの間に話をしてしまわなければならない。
わたしは前置きを置かず端的に話した。
「陛下、どうかわたしとウィリアム殿下の婚約を解消させてくださいませ」
「な、な、なっ……何をいきなり!?
えっ何?何?どうしたというのだフェリシア!」
なんともデジャブな反応、
さすがは親子。
「どうしたもこうしたも、そしていきなりでもありません。やっと心を決めたのです」
わたしも昨日と同じ返しをしてやろうかと思ったけど、言いながら面倒くさくなったのでやめた。
「ウ、ウィリアムと喧嘩でもしたのか!?それならどうせアイツが100%悪い!私からよーく言い聞かせておくから、早まってはいけないよっ…!」
陛下はかなり狼狽えているらしく、
庭園の木の葉をむりし出した。
やめさせようと思ったけど、
枯れた葉だけを器用に選んでむしっていたので放っといた。
「喧嘩以前の問題です。
殿下と癒しの乙女との関係に疲れました。もうわたしを解放してください」
「でもあの二人はそういう関係ではないだろう!?ウィリアムのフェリシアへの溺愛ぶりは他国にまで知れ渡っている程だぞ!」
他国にまで知れ渡っているの?
嘘でしょやめて。
「今はそうでもあれだけ一緒に居るのです。時間の問題かもしれませんよ。それに、リリナ様は殿下の妃になる気満々です」
わたしがそう言うと、陛下は苦笑した。
「それでは本末転倒だ。乙女は「処女」であるから癒しの力があり、必要とされている。それに彼女は平民だ。自国の民を貴賤で差別するつもりはないが、王族の妃として足りないものが多すぎるのは否めない。ウィリアムの妃になるのはフェリシア、キミだけだよ」
陛下のその言葉に
わたしは首を振った。
「わたしでは殿下の妃になれません。
彼を愛し過ぎているからです。癒しの乙女付きの殿下を受け入れられるのは、妃を役目として捉える事の出来る人です。リリナ様がダメならば、どうか他の相応しい方をお探しください」
わたしの本気度が初めて伝わったのか
陛下は今まで以上に狼狽えた。
「駄目だ!絶対に駄目!!フェリシアが私の娘にならないなんて死んだ方がマシだ!婚約解消なんて絶対に認めないぞ!」
これまたデジャブな否定…
いや殿下のより重い否定を聞きながら、
そうなればと
わたしはとっておきの切り札を出した。
「……母にチクりますよ」
「ひっ!?」
「この婚約解消への折衝役を
母に代わって貰ってもいいんですよ」
「ひぃっ!?」
陛下は実の妹であるわたしの母の事をこよなく愛しているが、
最も恐れてもいるのだ。
実妹への恐怖心を姪に見透かされていると気付いた陛下は
襟元を正し、虚勢を張る。
「べ、べべべ別に構わないぞっ…!
こちらは王の権限で騎士団を派遣して
フェリシティ(フェリシアの母)と話を付けても良いのだからな!」
王の権限、そんな事に使っていいのか。
というか他力本願……。
「その場合、
一個師団では足りないでしょうね」
「ひぃぃっ!!」
国王の精一杯の虚勢を
わたしは一蹴した。
わたしの母は
現国王の王妹で、
侯爵夫人で、
大陸最強の魔術騎士なのだ。
「と、と、とにかく!私は婚約解消は認めない!あと数年もすればウィリアムの魔力量が落ち着いて、問題が解決するかもしれないからなっ!」
そう言いながら、
陛下は脱兎の如くこの場を走り去った。
とても国王のする事とは思えない。
あと数年で魔力量が落ちるって…?
何年先の話なのよ。
下手すれば何十年先?
年寄りになってるわ!
ダメだこりゃ。
わたしは殿下のもう一人の親、
王妃様に相談する事にした。
でもその前に朝食だ……。
イヤだなぁ。
一人で自室で食べたらダメかな……。
だってリリナ様をべったりくっつけてる殿下と一緒に食事なんて、
砂を噛んでるような味しかしない。
無視して食事を楽しめるほど
人間が出来ていないし……。
うんよし、そうしよう。
今日からは食事は自室で取ろう。
婚約解消希望を言い渡しているのだ、
婚約者の義務など放棄していいじゃないか。
そうと決まれば早速、
わたしの侍女のサリィに伝えなくては。
急げ急げ。
わたしは足早に庭園を後にした。
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