20 / 25
アユリカ、もの申す
しおりを挟む
「アユリカちゃんお願い。一晩泊めてくれない?」
妹の言いなりである夫との夫婦生活に希望が見い出せなくなったセィラ。
彼女は家を飛び出してすぐに運良く目の前の停車場に停まった辻馬車に飛び乗り、そのまま惣菜屋ポミエに駆け込んだ。
すぐに馬車で移動したので、夫が追いかけて来たのかはわからない。
追って来たのかもしれないし、可愛い妹に引き止められて追わなかったのかもしれない。
でももうどうでもいい、セィラはそう思った。
あのまま、あの家に居たのでは胎教によくない。
夫が当てにならないのなら、お腹の子は自分で守らねばならない。
そしてとりあえずの避難場所として、セィラはポミエを頼ったのであった。
「セィラさん?ど、どうしたんですっ?」
疲弊した表情で店を訪れたセィラに驚いたアユリカがそう尋ねた。
着の身着のまま。いや産院から戻ってすぐに家を飛び出したのだがら、財布と母子手帳の入った鞄は手にしているが、顔を見れば何かがあってここに来たのは一目瞭然だろう。
「無神経な夫と義妹にもう我慢出来なくて、家を出て来たの……」
静かに怒りを滾らせるも、それとは裏腹に力ない声しか出ないセィラの側にアユリカが駆け寄る。
「と、とにかく座ってください。大丈夫ですか?顔色が悪いですよ……?」
労りながら椅子に座らせるアユリカに、セィラは話し続ける。
「わかっているの……あそこまで助長させた責任は私にもあるという事は……第三者に言われるまで、違和感を感じながらも義妹の行動がおかしいなんてわからなかったんですもの……コルト家のみんながそうだったし、長く病気だったサーニャさんを気遣うべきだと思い込んでいたから……」
「セィラさんは何も悪くありませんよ。あぁ……こんなに体を冷やしてっ……お腹が張ったりしてませんか?待っててくださいね、今温かい飲み物を持って来ますからっ」
アユリカはそう言って自分が着ていたカーディガンをセィラの膝に掛けた。
そして慌てて店のキッチンに行き、ホットジンジャーレモネード(レモン果汁に蜂蜜と生姜の絞り汁を入れ、お湯で割ったもの)を作ってセィラに渡す。
そのカップを受け取りながらもセィラは話し続けた。
「ごめんね、迷惑をかけて……無意識に飛び乗った辻馬車が図書館とポミエの方面行きだったの……でも職場の同僚には何となく頼れないし、そうしたらアユリカちゃんの顔が浮かんで……」
セィラの言葉にアユリカはふるふると頭を振る。
「迷惑だなんてそんな。私を頼ってくれて嬉しいです。一晩と言わず、落ち着くまでウチに居てください」
「ありがとう……でもいつ落ち着けるのかわからないから、とりあえず実家に戻るわ。今日はもう実家方面への長距離移動馬車の便は出てしまっているから、明日まで居させてくれたらいいの」
「身重の体で長距離移動だなんてっ……一体何があったんですか?」
アユリカはセィラにそう尋ねた。
普段は穏やかで我慢強いセィラがこんなになるなんてよほどの事だ。
セィラはジンジャーレモネードを飲みながら家を飛び出すことになった経緯を話してくれた。
全てを聞き終わりアユリカは唖然とし、そして憤慨する。
「そ、そんなバカな話がありますか!ラペルさんもサーニャさんも何を考えてるんですか!」
「私のために怒ってくれてありがとう……。もう私もどうしていいのかわからなくなっちゃって……」
「当然ですよ!肝心な旦那さまがそんな調子じゃお先真っ暗ですもん!」
「ふふ……お先真っ暗だなんて、若いのに古風な言い回しをするのね」
力なく笑うセィラにアユリカは答える。
「古風なんですか?育ての親の小母さんがよく言っていたから何とも思っていませんでした」
多分ハイゼルもそうとは知らずに使っているんだろうなとアユリカは思った。
その時、慌ただしく店のドアが開く音がする。
何事かとアユリカが視線を向けると、そこには息を切らしたラペル立っていた。
「ラペルさん……」
ラペルは一瞬アユリカに視線を向けたものの、すぐに店内を見渡した。
そして椅子に座るセィラを見つけ、必死な形相で駆け寄った。
「セィラッ……やっぱりここに居たのか……!こっちのエリアに行く辻馬車に乗ったのを見たから職場である図書館に行ったのかと思って探しに行ったんだ。そしたら来ていないというしっ……ならば最近仲良くしているという惣菜屋かと思って来てみたら……良かった、正解だった……!」
セィラを見つけ、安堵の表情を浮かべながらラペルは袖口で汗を拭う。
なんと辻馬車を追って走ったそうだ。
対するセィラはラペルを見るなり表情を堅くして目を合わさず顔を背けた。
ラペルは妻の前に見を屈め、その顔を覗き込む。
「どうしていきなり怒って家を飛び出したんだっ……俺がどれほど心配したか……」
「その理由がわからない貴方とはもう一緒に居られないと思ったのよ。それよりいいの?大切な妹を放り出して来て」
「そう思うなら早く帰ろう」
「私が帰るのは実家よ。もうあの家には戻らないわ」
「何を拗ねてるんだ?本当に意味がわからないんだけど……俺が悪かったのなら謝るから、一緒に帰ろう」
「何が悪いのかわかっていない人に謝られても余計に腹が立つだけよ」
「ならどうしろというんだよ。お願いだから機嫌を直してくれ……」
「……」
セィラの心情を理解しようとせず、ラペルはただセィラを宥めようとだけする。
それでは何を言ってもセィラの心は堅く閉ざされたまま、堂々巡りだろう。
そう思ったアユリカが、ラペルに言う。
「ラペルさん……部外者の私がご家族の事に口を挟むのはどうかとは思うんですが……この際だから言わせてもらいますね。妹さん、サーニャさんの行動は行き過ぎだと思います」
そう言ったアユリカに、ラペルは怪訝そうな表情を向ける。
「サーニャの?……行動が……?」
「はい。いくら兄の家だからって、新婚家庭に頻繁に押し掛けて居座るなんて非常識ですよ」
「非常識だなんてそんな……あの子は長患いからようやく解放されて自由に動けることを素直に喜んでだな……」
「素直に喜ぶのは勝手ですが、相手に迷惑をかけていいという事ではないと思います」
「兄が妹のする事を迷惑だなんて思うわけがないだろう」
「あなたはそうでしょう。でもセィラさんはどうなんです?」
「セィラはサーニャを実の妹のように可愛がってくれている。サーニャが迷惑に思うはずがない」
「そこですよ。それを当然と思い込み、セィラさんの本当の気持ちを理解しようとしない。それなんですよ」
「へ?は?」
店内にラペルの素っ頓狂な声が響いた。
ランチタイムの駆け込み時から時間がズレていて本当に良かったと思いながらアユリカは話し続ける。
「そりゃ旦那さんの妹ですもの、優しいセィラさんなら小姑だとか思わずに分け隔てなく大切にするでしょう。彼女は多少の我儘も許容できる大人の女性ですしね」
「そうだ」
「そうだ、じゃないですよ。許容するにも限度があるんです」
「へ?」
アユリカの言葉を肯定したラペルを、アユリカが即座に否定すると、再び彼の素っ頓狂な声が店内に響く。
セィラは頑なにラペルから顔を背け、黙ってアユリカとラペルの話を聞いていた。
「一週間以上の滞在を月に二度も。月の半分をサーニャさんはお宅に居座ってるんですよ?いくら実兄の家とはいえ有り得えません。あの家はご夫婦の家であって、ラペルさんとサーニャさんだけの家ではないのです。そして挙げ句の果てにセィラさんを夫婦の寝室から追い出し、まだ結婚して一年足らずの他人だと言ったそうですね。……失礼ですがサーニャさんて成人されていて確か私より二歳年上だと聞いておりますが……大丈夫ですか?彼女、精神はまだ初等学校止まりですよね」
「ひ、人の妹を初等学校に通う学童扱いをするなんてっ」
「人の気持ちを慮ることなく言いたい事だけを口にしてやりたいように行動するのは、まだ分別のつかない幼い子どもと一緒でしょう。いえ、初等学校の学童の方がまだ余程しっかりしています」
「キミ!し、失礼だぞっ……!」
「妹に対して言われた言葉は失礼だと思うのに、その妹がセィラさんに向けて発した言葉には失礼だとは思わなかったんですかっ?だいたい寝室を分けてくれって、セィラさんがあなたに言ったんですか?そう頼んだんですか?」
「それを言い出し憎いだろうからってサーニャがっ……」
「どうしてサーニャさんの言葉を鵜呑みする前にセィラさんに確認くらいしないんです?夫婦でしょう?」
「うっ……そ、それはっ……」
「つまりはそういうことです。あなたはセィラさんの言葉よりもサーニャさんの言葉の方に重きを置いてるんですよ」
今までラペルに対して思うところがあった分、一度口にすれば次から次へと言葉が出てくる。
だけどアユリカは遠慮する気にはなれなかった。
こうなったらとことん言ってやる。
「ラペルさん、あなたが大切に思うのはどちらなんです?セィラさんですか?それともサーニャさん?」
「つ、妻と妹に優劣を付けられるわけがないたろう!」
ラペルが声を荒らげるも、アユリカは怯むことなく尚も告げる。
「でもラペルさん、あなたは無意識に優劣を付けていると思います。優はサーニャさんで劣はセィラさんだと、傍から見てもわかるくらいには」
「そんなはずはない!出鱈目を言うなっ!!部外者のくせにっ!!」
とうとうラペルの怒声が店内に響いた。
成人男性の、しかも鍛え抜かれた体の聖騎士の怒声だ。
「っ……」
その大きな声に肩がびくっ跳ね上がり一瞬怯みそうになるが、それでもアユリカはセィラのためだと足を踏ん張った。
しかしその時、店のドアが開く音と同時に声が聞こえた。
「なんだ今の怒声はっ!?アユっ大丈夫かっ!?」
アユリカは店の出入り口に視線を向ける。
「ハイゼル……!」
ラペルの荒らげた声が店の外にまで響いていたらしく、それを聞いたハイゼルが血相を変えて店に入って来たのであった。
妹の言いなりである夫との夫婦生活に希望が見い出せなくなったセィラ。
彼女は家を飛び出してすぐに運良く目の前の停車場に停まった辻馬車に飛び乗り、そのまま惣菜屋ポミエに駆け込んだ。
すぐに馬車で移動したので、夫が追いかけて来たのかはわからない。
追って来たのかもしれないし、可愛い妹に引き止められて追わなかったのかもしれない。
でももうどうでもいい、セィラはそう思った。
あのまま、あの家に居たのでは胎教によくない。
夫が当てにならないのなら、お腹の子は自分で守らねばならない。
そしてとりあえずの避難場所として、セィラはポミエを頼ったのであった。
「セィラさん?ど、どうしたんですっ?」
疲弊した表情で店を訪れたセィラに驚いたアユリカがそう尋ねた。
着の身着のまま。いや産院から戻ってすぐに家を飛び出したのだがら、財布と母子手帳の入った鞄は手にしているが、顔を見れば何かがあってここに来たのは一目瞭然だろう。
「無神経な夫と義妹にもう我慢出来なくて、家を出て来たの……」
静かに怒りを滾らせるも、それとは裏腹に力ない声しか出ないセィラの側にアユリカが駆け寄る。
「と、とにかく座ってください。大丈夫ですか?顔色が悪いですよ……?」
労りながら椅子に座らせるアユリカに、セィラは話し続ける。
「わかっているの……あそこまで助長させた責任は私にもあるという事は……第三者に言われるまで、違和感を感じながらも義妹の行動がおかしいなんてわからなかったんですもの……コルト家のみんながそうだったし、長く病気だったサーニャさんを気遣うべきだと思い込んでいたから……」
「セィラさんは何も悪くありませんよ。あぁ……こんなに体を冷やしてっ……お腹が張ったりしてませんか?待っててくださいね、今温かい飲み物を持って来ますからっ」
アユリカはそう言って自分が着ていたカーディガンをセィラの膝に掛けた。
そして慌てて店のキッチンに行き、ホットジンジャーレモネード(レモン果汁に蜂蜜と生姜の絞り汁を入れ、お湯で割ったもの)を作ってセィラに渡す。
そのカップを受け取りながらもセィラは話し続けた。
「ごめんね、迷惑をかけて……無意識に飛び乗った辻馬車が図書館とポミエの方面行きだったの……でも職場の同僚には何となく頼れないし、そうしたらアユリカちゃんの顔が浮かんで……」
セィラの言葉にアユリカはふるふると頭を振る。
「迷惑だなんてそんな。私を頼ってくれて嬉しいです。一晩と言わず、落ち着くまでウチに居てください」
「ありがとう……でもいつ落ち着けるのかわからないから、とりあえず実家に戻るわ。今日はもう実家方面への長距離移動馬車の便は出てしまっているから、明日まで居させてくれたらいいの」
「身重の体で長距離移動だなんてっ……一体何があったんですか?」
アユリカはセィラにそう尋ねた。
普段は穏やかで我慢強いセィラがこんなになるなんてよほどの事だ。
セィラはジンジャーレモネードを飲みながら家を飛び出すことになった経緯を話してくれた。
全てを聞き終わりアユリカは唖然とし、そして憤慨する。
「そ、そんなバカな話がありますか!ラペルさんもサーニャさんも何を考えてるんですか!」
「私のために怒ってくれてありがとう……。もう私もどうしていいのかわからなくなっちゃって……」
「当然ですよ!肝心な旦那さまがそんな調子じゃお先真っ暗ですもん!」
「ふふ……お先真っ暗だなんて、若いのに古風な言い回しをするのね」
力なく笑うセィラにアユリカは答える。
「古風なんですか?育ての親の小母さんがよく言っていたから何とも思っていませんでした」
多分ハイゼルもそうとは知らずに使っているんだろうなとアユリカは思った。
その時、慌ただしく店のドアが開く音がする。
何事かとアユリカが視線を向けると、そこには息を切らしたラペル立っていた。
「ラペルさん……」
ラペルは一瞬アユリカに視線を向けたものの、すぐに店内を見渡した。
そして椅子に座るセィラを見つけ、必死な形相で駆け寄った。
「セィラッ……やっぱりここに居たのか……!こっちのエリアに行く辻馬車に乗ったのを見たから職場である図書館に行ったのかと思って探しに行ったんだ。そしたら来ていないというしっ……ならば最近仲良くしているという惣菜屋かと思って来てみたら……良かった、正解だった……!」
セィラを見つけ、安堵の表情を浮かべながらラペルは袖口で汗を拭う。
なんと辻馬車を追って走ったそうだ。
対するセィラはラペルを見るなり表情を堅くして目を合わさず顔を背けた。
ラペルは妻の前に見を屈め、その顔を覗き込む。
「どうしていきなり怒って家を飛び出したんだっ……俺がどれほど心配したか……」
「その理由がわからない貴方とはもう一緒に居られないと思ったのよ。それよりいいの?大切な妹を放り出して来て」
「そう思うなら早く帰ろう」
「私が帰るのは実家よ。もうあの家には戻らないわ」
「何を拗ねてるんだ?本当に意味がわからないんだけど……俺が悪かったのなら謝るから、一緒に帰ろう」
「何が悪いのかわかっていない人に謝られても余計に腹が立つだけよ」
「ならどうしろというんだよ。お願いだから機嫌を直してくれ……」
「……」
セィラの心情を理解しようとせず、ラペルはただセィラを宥めようとだけする。
それでは何を言ってもセィラの心は堅く閉ざされたまま、堂々巡りだろう。
そう思ったアユリカが、ラペルに言う。
「ラペルさん……部外者の私がご家族の事に口を挟むのはどうかとは思うんですが……この際だから言わせてもらいますね。妹さん、サーニャさんの行動は行き過ぎだと思います」
そう言ったアユリカに、ラペルは怪訝そうな表情を向ける。
「サーニャの?……行動が……?」
「はい。いくら兄の家だからって、新婚家庭に頻繁に押し掛けて居座るなんて非常識ですよ」
「非常識だなんてそんな……あの子は長患いからようやく解放されて自由に動けることを素直に喜んでだな……」
「素直に喜ぶのは勝手ですが、相手に迷惑をかけていいという事ではないと思います」
「兄が妹のする事を迷惑だなんて思うわけがないだろう」
「あなたはそうでしょう。でもセィラさんはどうなんです?」
「セィラはサーニャを実の妹のように可愛がってくれている。サーニャが迷惑に思うはずがない」
「そこですよ。それを当然と思い込み、セィラさんの本当の気持ちを理解しようとしない。それなんですよ」
「へ?は?」
店内にラペルの素っ頓狂な声が響いた。
ランチタイムの駆け込み時から時間がズレていて本当に良かったと思いながらアユリカは話し続ける。
「そりゃ旦那さんの妹ですもの、優しいセィラさんなら小姑だとか思わずに分け隔てなく大切にするでしょう。彼女は多少の我儘も許容できる大人の女性ですしね」
「そうだ」
「そうだ、じゃないですよ。許容するにも限度があるんです」
「へ?」
アユリカの言葉を肯定したラペルを、アユリカが即座に否定すると、再び彼の素っ頓狂な声が店内に響く。
セィラは頑なにラペルから顔を背け、黙ってアユリカとラペルの話を聞いていた。
「一週間以上の滞在を月に二度も。月の半分をサーニャさんはお宅に居座ってるんですよ?いくら実兄の家とはいえ有り得えません。あの家はご夫婦の家であって、ラペルさんとサーニャさんだけの家ではないのです。そして挙げ句の果てにセィラさんを夫婦の寝室から追い出し、まだ結婚して一年足らずの他人だと言ったそうですね。……失礼ですがサーニャさんて成人されていて確か私より二歳年上だと聞いておりますが……大丈夫ですか?彼女、精神はまだ初等学校止まりですよね」
「ひ、人の妹を初等学校に通う学童扱いをするなんてっ」
「人の気持ちを慮ることなく言いたい事だけを口にしてやりたいように行動するのは、まだ分別のつかない幼い子どもと一緒でしょう。いえ、初等学校の学童の方がまだ余程しっかりしています」
「キミ!し、失礼だぞっ……!」
「妹に対して言われた言葉は失礼だと思うのに、その妹がセィラさんに向けて発した言葉には失礼だとは思わなかったんですかっ?だいたい寝室を分けてくれって、セィラさんがあなたに言ったんですか?そう頼んだんですか?」
「それを言い出し憎いだろうからってサーニャがっ……」
「どうしてサーニャさんの言葉を鵜呑みする前にセィラさんに確認くらいしないんです?夫婦でしょう?」
「うっ……そ、それはっ……」
「つまりはそういうことです。あなたはセィラさんの言葉よりもサーニャさんの言葉の方に重きを置いてるんですよ」
今までラペルに対して思うところがあった分、一度口にすれば次から次へと言葉が出てくる。
だけどアユリカは遠慮する気にはなれなかった。
こうなったらとことん言ってやる。
「ラペルさん、あなたが大切に思うのはどちらなんです?セィラさんですか?それともサーニャさん?」
「つ、妻と妹に優劣を付けられるわけがないたろう!」
ラペルが声を荒らげるも、アユリカは怯むことなく尚も告げる。
「でもラペルさん、あなたは無意識に優劣を付けていると思います。優はサーニャさんで劣はセィラさんだと、傍から見てもわかるくらいには」
「そんなはずはない!出鱈目を言うなっ!!部外者のくせにっ!!」
とうとうラペルの怒声が店内に響いた。
成人男性の、しかも鍛え抜かれた体の聖騎士の怒声だ。
「っ……」
その大きな声に肩がびくっ跳ね上がり一瞬怯みそうになるが、それでもアユリカはセィラのためだと足を踏ん張った。
しかしその時、店のドアが開く音と同時に声が聞こえた。
「なんだ今の怒声はっ!?アユっ大丈夫かっ!?」
アユリカは店の出入り口に視線を向ける。
「ハイゼル……!」
ラペルの荒らげた声が店の外にまで響いていたらしく、それを聞いたハイゼルが血相を変えて店に入って来たのであった。
1,367
お気に入りに追加
3,305
あなたにおすすめの小説
もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
婚約を破棄したら
豆狸
恋愛
「ロセッティ伯爵令嬢アリーチェ、僕は君との婚約を破棄する」
婚約者のエルネスト様、モレッティ公爵令息に言われた途端、前世の記憶が蘇りました。
両目から涙が溢れて止まりません。
なろう様でも公開中です。
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる