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お惣菜屋ポミエ
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「店をお前さんひとりで任せるようになってもう半年か。うん、上手く経営しているね、惣菜の評判もなかなかだ」
自身が営んできた惣菜屋をぐるりと見渡し、満足そうにメラが言った。
メラはポム小母さんのひと回り年の離れた姉だ。
一年前、ポム小母さんの紹介で働き始めたアユリカの雇い主であり、この街で親代わりも務めてくれている。
アユリカはエプロンの紐を結び直しながらメラに言った。
「ありがとうございますメラさん。最近腰の調子はどうですか?」
「もうすっかり良いよ。天気が悪い日は痛むこともあるけれど、息子と嫁が過保護で何もさせてくれないから暇でしょうがない」
「ふふ。優しい息子さんとお嫁さん。素敵ですね」
アユリカが生まれ育った王都を出てこの地方都市に移り住んで、早や一年が過ぎていた。
その間アユリカはこの、“惣菜屋ポミエ”をひとりで任されるようになっていた。
メインストリートから路地を渡ったところにある惣菜屋ポミエ。
近くには副司教が駐在する大陸国教会の支部や王立第二図書館や二等地に立つ住宅街があり、安くて美味しく栄養価も高いポミエの惣菜は重宝され、それなりに繁盛していた。
メラから教わったポミエの定番の惣菜から、アユリカが昔からよく作る惣菜、そして新しく考えた惣菜などが店の魔法保存ショーケースに所狭しと並べられている。
さすがはポム小母さんの姉、古の魔女の孫。
メラが考案したこの魔法保存ショーケースは、冷たい惣菜は冷たいまま、温かい惣菜は温かいままと、同じショーケースの中に有りながらそれぞれベストな状態で陳列できるのだ。
誠に便利なショーケースである。
店内の窓際に一卓だけの小さなテーブル席と、店を出てすぐにベンチを設けてあるのでその場でお惣菜を食べることもできるのだ。
店の常連客はよくその席で、アユリカとお喋りを楽しみながら購入した惣菜をその場でつまんで帰ることも多いことから、近頃はお茶やコーヒーなどのドリンク系や数品のスイーツも販売するようになった。
これがまたなかなか好評で、意外と商才のあるアユリカなのだった。
店の出入り口であるドアにつけているチァイムがリンと鳴り、客の訪いを告げる。
「いらっしゃいませ」
「こんにちはアユリカちゃん。今日のオススメはなに?」
と言って入ってきたのは常連客のひとり、図書館司書のセィラ・コルト(二十三)だ。
「こんにちはセィラさん。今日のオススメはですね、林檎と晒し玉ねぎがアクセントのカボチャサラダとほうれん草のキッシュ、スイーツは林檎のアップサイドダウンケーキですよ~」
アユリカがそう答えると、セィラはショーケースの前に来て目を輝かせながら言った。
「え~!どれも美味しそう!全部食べたいけどまた太っちゃう~……このお店はホント罪作りだわ……」
「ふふ。いつもご利用ありがとうございます」
セィラは店の近くにある王立第二図書館に勤めている。
一年前、アユリカがこの街に来た頃に、長年交際を続けていた聖騎士と結婚した。
共働きなため、リーズナブルな惣菜屋ポミエをよく利用しているのだ。
旦那さんが聖騎士ということもあり、セィラに会うとどうしてもハイゼルのことを思い出してしまう。
この一年、ポム小母さんとは頻繁に手紙のやり取りはしているものの、ハイゼルとは一切合切の関わりを絶っている。
アユリカへの配慮かそれとも何か意図があるのか、ポム小母さんもハイゼルについては時々簡単に触れるだけであった。
「アユリカの居場所をしつこく聞いてきてウザくて仕方ない。だけど教えるつもりはない」
とか
「聖騎士資格を得るためにガムシャラにやってるみたいだ」
とか、時々手紙の端についでのように書かれる程度だ。
その配慮のおかげかアユリカはこの一年でハイゼルへの想いを、甘酸っぱくも苦い初恋の思い出として冷静に捉えることができるようになっていた。
あともう少ししたら、きっと完全に忘れることができるだろう。
きっともうすぐ、ハイゼルとはただの幼馴染として、接することができるようになるはず。
そんな日が一日でも早くくればいい。
アユリカはそう思っていた。
「それでね、図書館側のミスで、魔導書の閲覧希望日がダブルブッキングしてしまった利用者さん同士がね、それがご縁となって結ばれたんだって。その報告をわざわざしに来てくたのよ」
と、セィラが店内のテーブル席でカフェオレを飲みながら、そのきっかけとなったエピソードを聞かせてくれた。
アユリカは早くも売り切れて空になった、惣菜が入っていた容器を洗いながら返事をする。
「素敵なお話ですね~!人のご縁というのは、どういう形で繋がるかわからないものですね」
「アユリカちゃんだっていつかはそんな人と出会えるわよ」
セィラのその言葉に、アユリカは肩を竦める。
「ホントにそんな人が私にもいるのかしら?」
「いるわよ~!アユリカちゃんは若くて可愛いんだから~。私でも結婚できたんだから絶対に大丈夫よ」
「私でもだなんて。セィラさんはお綺麗だし、旦那さまとラブラブじゃないですか」
アユリカがそう言うと、セィラははにかみながら微笑む。
「ありがとうアユリカちゃん。でも私は自分の容姿をちゃんとわかってるつもりよ。私は十人並だから、夫が私を選んでくれた奇跡に本当に感謝しているの」
聖騎士でもある夫のラペルは、セィラと共に時々ポミエに買い物に来てくれるのでアユリカも顔なじみである。
「セィラさんとラペルさんはお似合いの夫婦ですよ」
アユリカがそう言うと、セィラはまた、花が綻ぶように嬉しそうに微笑んだ。
だがその数日後のことだった。
「あれって……、え?ラペルさん……?」
セィラの夫ラペルが、セィラではない若い女性を腕に絡ませて路地裏を歩く姿を、アユリカは見かけたのであった。
自身が営んできた惣菜屋をぐるりと見渡し、満足そうにメラが言った。
メラはポム小母さんのひと回り年の離れた姉だ。
一年前、ポム小母さんの紹介で働き始めたアユリカの雇い主であり、この街で親代わりも務めてくれている。
アユリカはエプロンの紐を結び直しながらメラに言った。
「ありがとうございますメラさん。最近腰の調子はどうですか?」
「もうすっかり良いよ。天気が悪い日は痛むこともあるけれど、息子と嫁が過保護で何もさせてくれないから暇でしょうがない」
「ふふ。優しい息子さんとお嫁さん。素敵ですね」
アユリカが生まれ育った王都を出てこの地方都市に移り住んで、早や一年が過ぎていた。
その間アユリカはこの、“惣菜屋ポミエ”をひとりで任されるようになっていた。
メインストリートから路地を渡ったところにある惣菜屋ポミエ。
近くには副司教が駐在する大陸国教会の支部や王立第二図書館や二等地に立つ住宅街があり、安くて美味しく栄養価も高いポミエの惣菜は重宝され、それなりに繁盛していた。
メラから教わったポミエの定番の惣菜から、アユリカが昔からよく作る惣菜、そして新しく考えた惣菜などが店の魔法保存ショーケースに所狭しと並べられている。
さすがはポム小母さんの姉、古の魔女の孫。
メラが考案したこの魔法保存ショーケースは、冷たい惣菜は冷たいまま、温かい惣菜は温かいままと、同じショーケースの中に有りながらそれぞれベストな状態で陳列できるのだ。
誠に便利なショーケースである。
店内の窓際に一卓だけの小さなテーブル席と、店を出てすぐにベンチを設けてあるのでその場でお惣菜を食べることもできるのだ。
店の常連客はよくその席で、アユリカとお喋りを楽しみながら購入した惣菜をその場でつまんで帰ることも多いことから、近頃はお茶やコーヒーなどのドリンク系や数品のスイーツも販売するようになった。
これがまたなかなか好評で、意外と商才のあるアユリカなのだった。
店の出入り口であるドアにつけているチァイムがリンと鳴り、客の訪いを告げる。
「いらっしゃいませ」
「こんにちはアユリカちゃん。今日のオススメはなに?」
と言って入ってきたのは常連客のひとり、図書館司書のセィラ・コルト(二十三)だ。
「こんにちはセィラさん。今日のオススメはですね、林檎と晒し玉ねぎがアクセントのカボチャサラダとほうれん草のキッシュ、スイーツは林檎のアップサイドダウンケーキですよ~」
アユリカがそう答えると、セィラはショーケースの前に来て目を輝かせながら言った。
「え~!どれも美味しそう!全部食べたいけどまた太っちゃう~……このお店はホント罪作りだわ……」
「ふふ。いつもご利用ありがとうございます」
セィラは店の近くにある王立第二図書館に勤めている。
一年前、アユリカがこの街に来た頃に、長年交際を続けていた聖騎士と結婚した。
共働きなため、リーズナブルな惣菜屋ポミエをよく利用しているのだ。
旦那さんが聖騎士ということもあり、セィラに会うとどうしてもハイゼルのことを思い出してしまう。
この一年、ポム小母さんとは頻繁に手紙のやり取りはしているものの、ハイゼルとは一切合切の関わりを絶っている。
アユリカへの配慮かそれとも何か意図があるのか、ポム小母さんもハイゼルについては時々簡単に触れるだけであった。
「アユリカの居場所をしつこく聞いてきてウザくて仕方ない。だけど教えるつもりはない」
とか
「聖騎士資格を得るためにガムシャラにやってるみたいだ」
とか、時々手紙の端についでのように書かれる程度だ。
その配慮のおかげかアユリカはこの一年でハイゼルへの想いを、甘酸っぱくも苦い初恋の思い出として冷静に捉えることができるようになっていた。
あともう少ししたら、きっと完全に忘れることができるだろう。
きっともうすぐ、ハイゼルとはただの幼馴染として、接することができるようになるはず。
そんな日が一日でも早くくればいい。
アユリカはそう思っていた。
「それでね、図書館側のミスで、魔導書の閲覧希望日がダブルブッキングしてしまった利用者さん同士がね、それがご縁となって結ばれたんだって。その報告をわざわざしに来てくたのよ」
と、セィラが店内のテーブル席でカフェオレを飲みながら、そのきっかけとなったエピソードを聞かせてくれた。
アユリカは早くも売り切れて空になった、惣菜が入っていた容器を洗いながら返事をする。
「素敵なお話ですね~!人のご縁というのは、どういう形で繋がるかわからないものですね」
「アユリカちゃんだっていつかはそんな人と出会えるわよ」
セィラのその言葉に、アユリカは肩を竦める。
「ホントにそんな人が私にもいるのかしら?」
「いるわよ~!アユリカちゃんは若くて可愛いんだから~。私でも結婚できたんだから絶対に大丈夫よ」
「私でもだなんて。セィラさんはお綺麗だし、旦那さまとラブラブじゃないですか」
アユリカがそう言うと、セィラははにかみながら微笑む。
「ありがとうアユリカちゃん。でも私は自分の容姿をちゃんとわかってるつもりよ。私は十人並だから、夫が私を選んでくれた奇跡に本当に感謝しているの」
聖騎士でもある夫のラペルは、セィラと共に時々ポミエに買い物に来てくれるのでアユリカも顔なじみである。
「セィラさんとラペルさんはお似合いの夫婦ですよ」
アユリカがそう言うと、セィラはまた、花が綻ぶように嬉しそうに微笑んだ。
だがその数日後のことだった。
「あれって……、え?ラペルさん……?」
セィラの夫ラペルが、セィラではない若い女性を腕に絡ませて路地裏を歩く姿を、アユリカは見かけたのであった。
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