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ポム小母さんの提案 (アユリカ視点)
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大切に初恋を抱き続けてきた相手ハイゼルに、
最後にもう一度だけ想いを伝え、見事玉砕した。
その日泣きながら作った夕食のシェパーズパイは、涙が料理に入ったわけではないのになぜかいつもより塩っぱく感じた。
それなのにポム小母さんは美味しいと言って食べてくれる。
そして食後に私の大好きなスパイシーココアを作ってくれた。
ポム小母さんのスパイシーココア。
シナモンとナツメグが入った香り高いココアは、飲むとなんだか大人になったような気分になる。
私とハイゼルは、そんな特別感のあるスパイシーココアが大のお気に入りだったのだ。
そしてポム小母さんに、目を腫らすほど泣いた理由をゆっくりと尋ねられた。
私はハイゼルに対するこれまでの想いや、恋を諦めるに至った経緯をすべて、ポム小母さんに話した。
すべて話し終わると、なんだか不思議とスッキリした。
ずっと胸の奥にあったずずんと重たい何かを、言葉と一緒に吐き出せたのかもしれない。
そして幾分か心が軽くなったような気がする。
きっと今の私の心は、ココアを飲み干したこのカップのように空っぽなんだろうな。
両手で包み込んでいた空のカップをテーブルに置くと、それまで黙って私の話を聞いてくれていたポム小母さんのため息が聞こえた。
「はぁ~……あの臆病者が。ハイゼルは昔から、大切な物を大切に仕舞い込みすぎて、それがどこに仕舞ったのわからなくなって大騒ぎしていたからねぇ……」
ポム小母さんはそう言ってから、テーブルに肘をついて何やら思案し始めた。
そして私の方へと視線を戻し、徐に尋ねてきた。
「アユリカは、これからどうするつもりだい?」
「どうする……どうするって?」
「これまで通り、ハイゼル坊やと接していけるのかい?」
「……正直、しばらくは無理だと思うの。私は切り替えが下手な方だから……気持ちが落ち着くまでハイゼルとは顔を合わせないようにするわ……」
私がそう答えると、ポム小母さんは小さく頷いた。
「ならちょうどいい。アユリカ、しばらくこの街を離れて私の姉の店で働かないかい?」
ポム小母さんからの思いがけない提案に私は目を丸くする。
「え、ポム小母さんのお姉さんのお店で?というか、ポム小母さんにお姉さんがいるなんて知らなかったわ」
「姉とは十二も歳が離れているし、遠い地方都市に住んでいるからね」
「そうなのね」
ポム小母さんよりも十二歳も年上なら、もう老齢といえるお年の方だろう。
ポム小母さんは今年五十五歳になる。
案の定、ポム小母さんはそのことについて触れた。
「姉は早くに夫を亡くし、惣菜屋を営んで一人息子を育てあげた人なんだけど、最近腰を痛めてね。惣菜屋をひとりで切り盛りするのが無理になってきたんだよ」
「あ、それで私にそのお惣菜屋さんで働かないかということね」
私の言葉にポム小母さんはまた、こくりと頷く。
「そうさ。良い機会だと思ってね。アユリカは料理が上手だから直ぐにでも店を任せられるだろうから姉も助かる。それに、あんた達は一度すっぱり離れた方がいいと思うんだ」
ポム小母さんが言う“あんた達”とはハイゼルと私のことであるとすぐにわかった。
「ハイゼルが寮暮らしを始めた時からもう離れているわ」
「そうじゃなくて。物理的距離のことを言ってるんじゃなくて精神的距離のことを言ってるのさ」
「精神的な……距離?」
「そうさ。あんた達は互いに心が近すぎるんだ。だから盲目的になり、偏った考えに固執してしまうんだよ」
「そうなのかしら?そんな難しいものなのかしら?単にハイゼルが私のことを異性として見られない、それだけのことだと思うんだけれど……」
言ってて悲しくなる。
そしてつきつきと痛む私の心の傷。
心の傷にも瘡蓋ができてたらいいのに。
「まぁどちらにせよ、しばらくハイゼルと顔を合わせたくないんだろ?ならちょうどいいじゃないか。どうだい?行くかい?姉のところへ」
ポム小母さんは私の顔を覗き込むように尋ねてきた。
私は少し考え、そして躊躇いを口にする。
「この街を出て働くのはいいの。ポム小母さんのお姉さんの助けになるなら尚更ね。でも、私が居なくなったらポム小母さんの食事は誰が作るの?」
「なんだいそんなこと。見くびって貰っちゃ困るね、私はまだまだ若いし健康だし、何よりアユリカに料理を教えたのはこの私だよ?あんたが居なくてもひとり分の食事なんてチャチャっと手早く作ってしまうさ。……この際、私のことはいいんだよ。アユリカがどうしたいのか、それが大切だ」
「ポム小母さん……」
私はポム小母さんの目を真っ直ぐに見据えて答える。
「行くわ。私、この街を出てポム小母さんのお姉さんのお店で働く」
「よし、よく言った。それでこそ私が育てたアユリカだ」
「ポム小母さん……」
そうだ。
この街を出るということはポム小母さんのこの家を出ることなんだ。
これまでのように「おはよう」も「おやすみ」も、容易に言い合えないということなんだ。
わかっていたつもりだけどわかっていなかった。
そんな私の心に、途端に寂しさが去来する。
「でもやっぱり……ポム小母さんと離れたくない……」
私が弱々しくつぶやくようにそう言うと、ポム小母さんは笑った。
「ははは、何を子どもみたいなことを言ってるんだい。まぁ来年十八になるまではまだ未成年だけどね。でももう奉公に出ている子はいっぱい居るんだよ。将来のことも見据えて、アユリカも独り立ちする頃合いなのさ」
「だって……やっぱり寂しいわ」
「バカだねぇ、これが今生の別れになるわけでもあるまいし。たま~に私から会いに行くし、アユリカも気持ちが落ち着いたら里帰りしたらいいじゃないか」
里帰り。血の繋がらない私に、当たり前のようにそう言ってくれるポム小母さん。
散々泣いた私の瞳から再び涙が溢れ出す。
「ポム小母さぁぁん……」
「なんだいこの子は。昔っから泣き虫だねぇ」
「だって……やっぱり寂しいものは寂しいものっ……」
「人間、いつかは独り立ちをするもんなんだ。だけど、私たちが家族であることに変わりはないんだからね」
「うん……ありがとう、ポム小母さん、今まで……育ててくれてっ……本当にありがとう……!」
「べつに感謝なんかしてくれなくていいよ。私が勝手にお節介を焼いただけなんだし、それに、私も幸せだったよ。ハイゼルとあんた、二人の可愛い子どもと一緒に暮らせてね」
「ヤダもうっ泣かせないでぇっ~……!」
「あははは!ざまぁみろだね」
「ポム小母さぁんっ……!」
私はとうとう耐えきれず、ポム小母さんの胸に飛び込んだ。
そして昔よくそうしたように、ポム小母さんの胸の中でわんわん泣いた。
ポム小母さんも昔と変わらず、泣いている私の頭を優しく撫でてくれる。
「ハイゼルのことは、私に任せておきな。あのヘタレあんぽんたんはちょっと色々と解らせないといけないようだから」
「グスッ……わからせる?……なにを?」
「ふふふ……」
ポム小母さんは不敵な笑みを零しただけで、何も教えてはくれなかった。
そしてポム小母さんは私に、
あの“魔女の林檎の木”を譲ってくれたのだった。
いずれは私に、あの林檎の木を形見として渡そうと思っていたらしい。
「まぁ時期なんていつでもいいのさ。あんたになら、安心して託せるよ」と言って、林檎が好きな私のために、生前贈与という形をとってくれたのだった。
トランクから生えている、魔女の林檎の木は本当に不思議。
トランクの蓋を閉めればその中にきちんと収まり持ち運びが出来るのだ。
ポム小母さんがひとり暮らしをする時もこうやって、林檎の木のトランクを携えて王都に来たという。
そうして私は、魔女のポミエのトランクと僅かな手荷物を持って、住み慣れたポム小母さんの家を出たのだった。
もちろん、ハイゼルには会わずに何も告げずに。
まぁハイゼルは私が王都から居なくなっても困らないだろうし、いっそのこと清々するんじゃないだろうか。
だってもう、気持ちを押し付けられて困ることがなくなるんだから……。
──♪ ピーンポーンパーンポーン⤴︎ ⤴︎ 📢(ᐖ )────
お知らせです。
他作品のお知らせで申し訳ないのですが、
明日の『無関係だった…』更新はお休みです。
申し訳ないです( ´>ω<)人ゴメンナサイ
最後にもう一度だけ想いを伝え、見事玉砕した。
その日泣きながら作った夕食のシェパーズパイは、涙が料理に入ったわけではないのになぜかいつもより塩っぱく感じた。
それなのにポム小母さんは美味しいと言って食べてくれる。
そして食後に私の大好きなスパイシーココアを作ってくれた。
ポム小母さんのスパイシーココア。
シナモンとナツメグが入った香り高いココアは、飲むとなんだか大人になったような気分になる。
私とハイゼルは、そんな特別感のあるスパイシーココアが大のお気に入りだったのだ。
そしてポム小母さんに、目を腫らすほど泣いた理由をゆっくりと尋ねられた。
私はハイゼルに対するこれまでの想いや、恋を諦めるに至った経緯をすべて、ポム小母さんに話した。
すべて話し終わると、なんだか不思議とスッキリした。
ずっと胸の奥にあったずずんと重たい何かを、言葉と一緒に吐き出せたのかもしれない。
そして幾分か心が軽くなったような気がする。
きっと今の私の心は、ココアを飲み干したこのカップのように空っぽなんだろうな。
両手で包み込んでいた空のカップをテーブルに置くと、それまで黙って私の話を聞いてくれていたポム小母さんのため息が聞こえた。
「はぁ~……あの臆病者が。ハイゼルは昔から、大切な物を大切に仕舞い込みすぎて、それがどこに仕舞ったのわからなくなって大騒ぎしていたからねぇ……」
ポム小母さんはそう言ってから、テーブルに肘をついて何やら思案し始めた。
そして私の方へと視線を戻し、徐に尋ねてきた。
「アユリカは、これからどうするつもりだい?」
「どうする……どうするって?」
「これまで通り、ハイゼル坊やと接していけるのかい?」
「……正直、しばらくは無理だと思うの。私は切り替えが下手な方だから……気持ちが落ち着くまでハイゼルとは顔を合わせないようにするわ……」
私がそう答えると、ポム小母さんは小さく頷いた。
「ならちょうどいい。アユリカ、しばらくこの街を離れて私の姉の店で働かないかい?」
ポム小母さんからの思いがけない提案に私は目を丸くする。
「え、ポム小母さんのお姉さんのお店で?というか、ポム小母さんにお姉さんがいるなんて知らなかったわ」
「姉とは十二も歳が離れているし、遠い地方都市に住んでいるからね」
「そうなのね」
ポム小母さんよりも十二歳も年上なら、もう老齢といえるお年の方だろう。
ポム小母さんは今年五十五歳になる。
案の定、ポム小母さんはそのことについて触れた。
「姉は早くに夫を亡くし、惣菜屋を営んで一人息子を育てあげた人なんだけど、最近腰を痛めてね。惣菜屋をひとりで切り盛りするのが無理になってきたんだよ」
「あ、それで私にそのお惣菜屋さんで働かないかということね」
私の言葉にポム小母さんはまた、こくりと頷く。
「そうさ。良い機会だと思ってね。アユリカは料理が上手だから直ぐにでも店を任せられるだろうから姉も助かる。それに、あんた達は一度すっぱり離れた方がいいと思うんだ」
ポム小母さんが言う“あんた達”とはハイゼルと私のことであるとすぐにわかった。
「ハイゼルが寮暮らしを始めた時からもう離れているわ」
「そうじゃなくて。物理的距離のことを言ってるんじゃなくて精神的距離のことを言ってるのさ」
「精神的な……距離?」
「そうさ。あんた達は互いに心が近すぎるんだ。だから盲目的になり、偏った考えに固執してしまうんだよ」
「そうなのかしら?そんな難しいものなのかしら?単にハイゼルが私のことを異性として見られない、それだけのことだと思うんだけれど……」
言ってて悲しくなる。
そしてつきつきと痛む私の心の傷。
心の傷にも瘡蓋ができてたらいいのに。
「まぁどちらにせよ、しばらくハイゼルと顔を合わせたくないんだろ?ならちょうどいいじゃないか。どうだい?行くかい?姉のところへ」
ポム小母さんは私の顔を覗き込むように尋ねてきた。
私は少し考え、そして躊躇いを口にする。
「この街を出て働くのはいいの。ポム小母さんのお姉さんの助けになるなら尚更ね。でも、私が居なくなったらポム小母さんの食事は誰が作るの?」
「なんだいそんなこと。見くびって貰っちゃ困るね、私はまだまだ若いし健康だし、何よりアユリカに料理を教えたのはこの私だよ?あんたが居なくてもひとり分の食事なんてチャチャっと手早く作ってしまうさ。……この際、私のことはいいんだよ。アユリカがどうしたいのか、それが大切だ」
「ポム小母さん……」
私はポム小母さんの目を真っ直ぐに見据えて答える。
「行くわ。私、この街を出てポム小母さんのお姉さんのお店で働く」
「よし、よく言った。それでこそ私が育てたアユリカだ」
「ポム小母さん……」
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この街を出るということはポム小母さんのこの家を出ることなんだ。
これまでのように「おはよう」も「おやすみ」も、容易に言い合えないということなんだ。
わかっていたつもりだけどわかっていなかった。
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「でもやっぱり……ポム小母さんと離れたくない……」
私が弱々しくつぶやくようにそう言うと、ポム小母さんは笑った。
「ははは、何を子どもみたいなことを言ってるんだい。まぁ来年十八になるまではまだ未成年だけどね。でももう奉公に出ている子はいっぱい居るんだよ。将来のことも見据えて、アユリカも独り立ちする頃合いなのさ」
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里帰り。血の繋がらない私に、当たり前のようにそう言ってくれるポム小母さん。
散々泣いた私の瞳から再び涙が溢れ出す。
「ポム小母さぁぁん……」
「なんだいこの子は。昔っから泣き虫だねぇ」
「だって……やっぱり寂しいものは寂しいものっ……」
「人間、いつかは独り立ちをするもんなんだ。だけど、私たちが家族であることに変わりはないんだからね」
「うん……ありがとう、ポム小母さん、今まで……育ててくれてっ……本当にありがとう……!」
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「ポム小母さぁんっ……!」
私はとうとう耐えきれず、ポム小母さんの胸に飛び込んだ。
そして昔よくそうしたように、ポム小母さんの胸の中でわんわん泣いた。
ポム小母さんも昔と変わらず、泣いている私の頭を優しく撫でてくれる。
「ハイゼルのことは、私に任せておきな。あのヘタレあんぽんたんはちょっと色々と解らせないといけないようだから」
「グスッ……わからせる?……なにを?」
「ふふふ……」
ポム小母さんは不敵な笑みを零しただけで、何も教えてはくれなかった。
そしてポム小母さんは私に、
あの“魔女の林檎の木”を譲ってくれたのだった。
いずれは私に、あの林檎の木を形見として渡そうと思っていたらしい。
「まぁ時期なんていつでもいいのさ。あんたになら、安心して託せるよ」と言って、林檎が好きな私のために、生前贈与という形をとってくれたのだった。
トランクから生えている、魔女の林檎の木は本当に不思議。
トランクの蓋を閉めればその中にきちんと収まり持ち運びが出来るのだ。
ポム小母さんがひとり暮らしをする時もこうやって、林檎の木のトランクを携えて王都に来たという。
そうして私は、魔女のポミエのトランクと僅かな手荷物を持って、住み慣れたポム小母さんの家を出たのだった。
もちろん、ハイゼルには会わずに何も告げずに。
まぁハイゼルは私が王都から居なくなっても困らないだろうし、いっそのこと清々するんじゃないだろうか。
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