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入学式での邂逅

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またまた夜更けの男子寮のテラス。
今夜は月もなく、テラスの床に落とす影もない。
互いの顔すら認識しづらい暗闇の中で二人の男子生徒の声だけが聞こえる。


「…………………………………シルヴェスト殿下」

「なんだそのたっぷりの間は、怖いなっ!しかも本名で呼ぶなよっ」

「証拠の品は揃えました。必要とあれば証言もします。これで互いに大切な人を守る手立ては出来たはずです、だから……もうよろしいですよね?」

「よろしいですよね、ってお前……その有無を言わせない圧はお伺いを立ててる感じではないだろ、もうやめる気満々だろ」

「もうこれ以上は耐えられません。俺の大切なものを守らせて頂きます」

「あぁわかったよ。もう好きにしてくれて構わない。ご苦労だった、今まですまなかったな」

「はぁ……これでようやく……」

「でも急に手の平を返すようなあからさまな態度は取らない方がいいと思うぞ?逆上したら何をし出かすからわからんぞあの王女は」

「そうですね……そこは慎重にいきたいとは思っています」

「ああ。その方がいいな」

「はぁ~……」

「これ見よがしにため息吐くなよ……。お前だって目を付けられたのが運の尽きなんだから。まぁその後お前にだけ負担をかけたとは思うが……」

「はぁ~~………」

「オイ」


男子生徒のため息が落ちて、夜の闇の中に溶けて消えた。



ため息を吐いた男子生徒……ルーター=ヒギンズには、幼馴染から昇格させてもらったキャスリン=メイトという彼女がいる。


親同士が仲良しで、そのためキャスリンとは自然と一緒に遊ぶことが多かった。
それがいつしかキャスリンに対し初恋を自覚し、
いつしかその恋心が身長が高くなるのと共に伸びていって……。

ハイラント魔法学校に入学する前にキャスリンの方から告白された時は本当に驚いた。
ルーターもキャスリンに想いを告げようと決心したその矢先だったからだ。
先を越された、女の子の方から言わせてしまった、そんな考えが過ぎらなかったわけではないが、それよりもキャスリンも同じ想いでいてくれた事が何よりも嬉しかったのだ。

そうして晴れて彼氏彼女となって入学した魔法学校。
入学試験の首席と次席の成績を取った関係で、ルーターは入学式でとある男子生徒に声をかけられた。

「この俺よりも魔力量が高く頭のいい奴なんてはじめて見たぞ」

「……は?」

なんだこの高飛車な奴は。
それがルーターにとっての、シヴァル=アデールの第一印象であった。

その男は入学試験でルーターにぐ次席の成績を収めたというのに、特進クラスではなく普通クラスを希望したというのだ。

「なぜだ?特進クラスなら卒業後の身の振り方の選択肢が格段に増えるのだぞ?平民ならなおさら……」

どうしても腑に落ちないルーターがシヴァルに訊ねる。

「卒業後のはもう決まっているしな。それに俺の可愛い婚約者が社会勉強のために普通クラスを希望したんだよ。だから俺も彼女と同じクラスになって彼女を守らないとな」

「……それが出来るのは恵まれた環境にいる証拠だな」

ルーターとて本当はキャスリンと同じ普通クラスにしたかった。
だが卒業後の就職先を考えて、特進クラスを選んだのだ。
何よりもキャスリンとの将来を見据えて。

そんなルーターの言葉にシヴァルは肩を竦める。

「まぁな。恵まれているのは確かだ。国は豊かで平穏。愛情深い両親のもと家族仲は良好だ。いずれは父上の跡を継ぎ、国と民を守ってゆく」

「それは何よりだな。…………国と民?」

「そこでだ、ルーター=ヒギンズ」

シヴァルが発した言葉に反応したルーターにシヴァルは被せるように告げた。

「お前、俺のものになれ」

「は?」

「あ、言い方を間違えた、俺の手と足、目と耳、そしていずれは頭脳ブレーンに、右腕になれ」

「それはどういう……」

「俺は学校ここに将来俺を支え、共に国を守る優秀な人材を探しにきたんだ。世襲制で親がそうだからとそのまま高位官吏になったような無能な側近は要らん。まぁ古くから仕えてくれている臣下たちを無下にする気はないから徴用ちょうようはするが重用ちょうようはしない。近くに置いて重要な仕事を任せる者は、平民だろうが下級貴族だろうが関係なく俺が見込んだ優秀な者だけだ」

そこまでの話を聞き、ルーターはこの目の前にいるのがただの平民の男子生徒ではないと理解した。

「………貴方は、もしや……」

「察しがいい人間も好きだぞ。俺の本当の名はシヴァル=アデールではない。これは学校長すら知らない。身分を偽って入学しているからな」

「……それが出来る立場にある者が、なぜわざわざ素性を伏して?将来の腹心を自ら探すため、ですか?」

「そうだ。本来の身分で入学しても側に寄ってくるのは間違いなく取り立てて貰おうと媚びを売るだけの高位貴族の令息か令嬢だけになるだろ?」

「まぁ、そうなるでしょうね」

「将来の側妃や愛妾狙いの女が寄ってくるのもウザい」

「まぁ、そうでしょうね」

「だから身元を偽って入学したんだ。だけど俺が見込んだ者には打ち明けるつもりだぞ。喜べ、お前はその第一号だ」

「面倒事しか感じないのはなぜだろう……では、本来のご身分と本当のご尊名をお聞きしても?」

「いいだろう。その前にルーター=ヒギンズ、お前には俺の代わりに東和学園に行って貰いたい。というか首席合格という時点でお前に決定なんだけどな」

「………は?」

「まぁ将来俺に仕えないとしても、東和学園で東方魔術を学ぶのはお前にとってプラスになると思うぞ?そして俺はキモイ執着女から逃れられる。互いに得する話だろ?」

「………は?」

「ちなみに俺の本当の名は、」


入学式直前、ルーターにとってそれは忘れられない邂逅となった。


「アデリオール=オ=ロイ=シルヴェスト。アデリオール王国、王太子だ」







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