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ウェンディはとことん開き直る事にした。
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ベランダでタオル等で見えないように干してあったにも関わらず下着を盗まれた事で転居を決めたウェンディ。
費用も手続きも、貴重品や触られたくない物の荷造り以外は全て行うという業者の手配も、全~部デニスがやってくれるというので、ウェンディは開き直って任せる事にした。
しかしその間もデニスは足繁くアパートに通って来る。
下着泥棒はデニスによりとっ捕まえられて自警団に連行されたから心配いらないけど、
この地域、このアパートに住む限り何があるか分からないと言ってしょっちゅうやって来るのだ。
「……デニス、あなた暇なの?」
「暇なもんか、王宮の仕事諸々転居の件もあるのに」
「それならこんな頻繁にアパートに来なくていいのよ?あなたちゃんと寝てる?」
「心配してくれるなら物件が決まるまで俺の家に来て欲しい。大きくはないが部屋数はあるから」
「え?」
凝視するウェンディに対しデニスは慌てて言う。
「いや分かってる!シュシュにパパと呼ばれる事を許して貰えただけでも感謝してる。これ以上何も望んではいけない事は重々承知しているんだ。だけどキミの事が心配でしょうがないんだよ」
「だからって……」
「ウチに来るのが嫌ならせめてここを訪れるのは認めて欲しい。男の影があるのとないのとでは防犯の上で格段に変わってくるから。ちなみに男性の下着を洗濯物として一緒に干すのも効果的らしい」
「うーん……」
「だがしかしウチに来てくれたら、今ここに払っている家賃は浮くんじゃないか?」
「え?」
「俺の都合で来て貰うんだから滞在費なんて取らないし。食費と光熱費も浮くな?」
「……………」
「狭いが庭もあるからシュシュを思いっきり遊ばせてやれるし今の季節は庭のオラリアの花が見頃だぞ」
「くっ……あなた、文官よりも物を売り込む商売人の方が向いてるんじゃないのっ……?」
「どうだろう、キミさえ良ければもう今日にでも移って貰えるようにするが……?」
「新しい物件はどのくらいで見つかりそうなの?」
「うーん、王宮と託児所や市場へのアクセスの良さを考えた立地条件に家賃の上限という制約があるからなぁ……業者も頑張って探してくれているようだがもう少し時間が掛かりそうだ。もちろんその間ずっとこうやって俺がここに通ってくるのは仕方ないと諦めて欲しい」
「あなたの家に移っても移らなくてもその顔を見るのなら一緒じゃない」
「そうだろ?それならウチに滞在する方が色々と得じゃないだろうか」
「っ……………」
悔しいがこの辺りの治安の悪さは身に染みて分かった。
正直デニスが来てくれるのは安心出来る。
それに金銭面の魅力は……大きい。
ウェンディは部屋の中をぐるぐる歩き回って考え、やがて「お世話に、なり、ますっ……」と悔しそうに告げた。
もう開き直ると決めたのだ。
こうなったらもうとことん開き直り倒してやるとウェンディは思った。
そしてデニスのプレゼンテーションに負けたウェンディはシュシュを連れて必要最低限の荷物を持って、デニスの小さな家へと移った。
王宮からほど近く、託児所からも丁度よい距離。
市場は反対方向になるが、乳母のドゥーサが食事の世話をしてくれるというので問題ない。
家に着くとデニスから事前に知らされていたドゥーサが出迎えてくれた。
「ようこそおいでくださいました!ベイカー家にお仕えてしておりますドゥーサと申します。まあまあまぁ!昔から坊ちゃんからお話はお聞きしておりましたから、なんだかウェンディさんとは初対面な気がしませんわねぇ!ようやくお会いできて大変嬉しゅうございますよ。どうかワタクシの事はドゥーサと気楽に呼んでくださいましね!」
「坊ちゃんはやめてくれと言ってるだろう」
デニスが気恥ずかしそうにドゥーサに言う。
「坊ちゃんじゃなきゃなんとお呼びするですか?デニス坊ちゃんはデニス坊ちゃんでクルト坊ちゃんはクルト坊ちゃんですよ」
「そもそも同列なのがおかしいだろ」
「ぷっ……デニス坊ちゃん……」
幼くして母を亡くし、この乳母のドゥーサに育てて貰ったと言っていた事もあり、どうやらデニスは今だに子ども扱いなのだろう。
そしてデニスもドゥーサに頭が上がらないらしい。
その様子がおかしくて思わず吹き出すも、ウェンディはドゥーサに言った。
「はじめましてドゥーサさん。ウェンディ=オウルです。今日からしばらくお世話になります。基本自分達の事は自分達でしますが、それ以外でもなるべくお手を煩わせないように気を付けますね」
そのウェンディの言葉を聞き、ドゥーサは寂しそうに言った。
「何を仰ってるんですか、お勤めもされているのですから何から何までこのドゥーサにお任せくださいませ。でもまぁお食事の支度は一緒に出来たら楽しゅうございましょうね」
「なんならメイドを一人雇い入れてもいいと思っている。だからキミは何も気にしなくていいよ」
ドゥーサとデニス、どうやらこの二人はウェンディを甘やかすつもりらしい。
それにしてもドゥーサは昔からウェンディの話をデニスから聞いていたと言った。
という事はデニスと別れた経緯も知っている訳だろう。そして……
「あら?シュシュ」
シュシュの方を見たウェンディがシュシュの姿がない事に驚いた。
今し方まで自分のスカートを掴んでいたはずなのに。
「シュシュならほら、クルトと……」
デニスが視線を向けた方へとウェンディも目を向ける。
するとそこに階段を降りて来るクルトをぴょんぴょん跳ねて待つ娘の姿があった。
「くゆと!くゆと!」
「シュシュ、きたんだね!」
幼い従兄同士、仲良く再会を喜び合っている。
それを見てドゥーサが破顔する。
「まぁまぁすっかり仲良しさんですねぇ。シュシュお嬢様、笑っちゃうくらい幼い頃のデニス坊ちゃんにそっくりだこと!」
「笑っちゃうとはなんだ。それにデニス坊ちゃんは勘弁してくれ」
「ふふふ……」
なんやかんやと連れて来られ、本当にこれでいいのかと迷う気持ちは正直まだあるがこうなったからには仕方ない。
安全な暮らしを手に入れられたと受け入れて、ウェンディはとことん開き直る事にした。
費用も手続きも、貴重品や触られたくない物の荷造り以外は全て行うという業者の手配も、全~部デニスがやってくれるというので、ウェンディは開き直って任せる事にした。
しかしその間もデニスは足繁くアパートに通って来る。
下着泥棒はデニスによりとっ捕まえられて自警団に連行されたから心配いらないけど、
この地域、このアパートに住む限り何があるか分からないと言ってしょっちゅうやって来るのだ。
「……デニス、あなた暇なの?」
「暇なもんか、王宮の仕事諸々転居の件もあるのに」
「それならこんな頻繁にアパートに来なくていいのよ?あなたちゃんと寝てる?」
「心配してくれるなら物件が決まるまで俺の家に来て欲しい。大きくはないが部屋数はあるから」
「え?」
凝視するウェンディに対しデニスは慌てて言う。
「いや分かってる!シュシュにパパと呼ばれる事を許して貰えただけでも感謝してる。これ以上何も望んではいけない事は重々承知しているんだ。だけどキミの事が心配でしょうがないんだよ」
「だからって……」
「ウチに来るのが嫌ならせめてここを訪れるのは認めて欲しい。男の影があるのとないのとでは防犯の上で格段に変わってくるから。ちなみに男性の下着を洗濯物として一緒に干すのも効果的らしい」
「うーん……」
「だがしかしウチに来てくれたら、今ここに払っている家賃は浮くんじゃないか?」
「え?」
「俺の都合で来て貰うんだから滞在費なんて取らないし。食費と光熱費も浮くな?」
「……………」
「狭いが庭もあるからシュシュを思いっきり遊ばせてやれるし今の季節は庭のオラリアの花が見頃だぞ」
「くっ……あなた、文官よりも物を売り込む商売人の方が向いてるんじゃないのっ……?」
「どうだろう、キミさえ良ければもう今日にでも移って貰えるようにするが……?」
「新しい物件はどのくらいで見つかりそうなの?」
「うーん、王宮と託児所や市場へのアクセスの良さを考えた立地条件に家賃の上限という制約があるからなぁ……業者も頑張って探してくれているようだがもう少し時間が掛かりそうだ。もちろんその間ずっとこうやって俺がここに通ってくるのは仕方ないと諦めて欲しい」
「あなたの家に移っても移らなくてもその顔を見るのなら一緒じゃない」
「そうだろ?それならウチに滞在する方が色々と得じゃないだろうか」
「っ……………」
悔しいがこの辺りの治安の悪さは身に染みて分かった。
正直デニスが来てくれるのは安心出来る。
それに金銭面の魅力は……大きい。
ウェンディは部屋の中をぐるぐる歩き回って考え、やがて「お世話に、なり、ますっ……」と悔しそうに告げた。
もう開き直ると決めたのだ。
こうなったらもうとことん開き直り倒してやるとウェンディは思った。
そしてデニスのプレゼンテーションに負けたウェンディはシュシュを連れて必要最低限の荷物を持って、デニスの小さな家へと移った。
王宮からほど近く、託児所からも丁度よい距離。
市場は反対方向になるが、乳母のドゥーサが食事の世話をしてくれるというので問題ない。
家に着くとデニスから事前に知らされていたドゥーサが出迎えてくれた。
「ようこそおいでくださいました!ベイカー家にお仕えてしておりますドゥーサと申します。まあまあまぁ!昔から坊ちゃんからお話はお聞きしておりましたから、なんだかウェンディさんとは初対面な気がしませんわねぇ!ようやくお会いできて大変嬉しゅうございますよ。どうかワタクシの事はドゥーサと気楽に呼んでくださいましね!」
「坊ちゃんはやめてくれと言ってるだろう」
デニスが気恥ずかしそうにドゥーサに言う。
「坊ちゃんじゃなきゃなんとお呼びするですか?デニス坊ちゃんはデニス坊ちゃんでクルト坊ちゃんはクルト坊ちゃんですよ」
「そもそも同列なのがおかしいだろ」
「ぷっ……デニス坊ちゃん……」
幼くして母を亡くし、この乳母のドゥーサに育てて貰ったと言っていた事もあり、どうやらデニスは今だに子ども扱いなのだろう。
そしてデニスもドゥーサに頭が上がらないらしい。
その様子がおかしくて思わず吹き出すも、ウェンディはドゥーサに言った。
「はじめましてドゥーサさん。ウェンディ=オウルです。今日からしばらくお世話になります。基本自分達の事は自分達でしますが、それ以外でもなるべくお手を煩わせないように気を付けますね」
そのウェンディの言葉を聞き、ドゥーサは寂しそうに言った。
「何を仰ってるんですか、お勤めもされているのですから何から何までこのドゥーサにお任せくださいませ。でもまぁお食事の支度は一緒に出来たら楽しゅうございましょうね」
「なんならメイドを一人雇い入れてもいいと思っている。だからキミは何も気にしなくていいよ」
ドゥーサとデニス、どうやらこの二人はウェンディを甘やかすつもりらしい。
それにしてもドゥーサは昔からウェンディの話をデニスから聞いていたと言った。
という事はデニスと別れた経緯も知っている訳だろう。そして……
「あら?シュシュ」
シュシュの方を見たウェンディがシュシュの姿がない事に驚いた。
今し方まで自分のスカートを掴んでいたはずなのに。
「シュシュならほら、クルトと……」
デニスが視線を向けた方へとウェンディも目を向ける。
するとそこに階段を降りて来るクルトをぴょんぴょん跳ねて待つ娘の姿があった。
「くゆと!くゆと!」
「シュシュ、きたんだね!」
幼い従兄同士、仲良く再会を喜び合っている。
それを見てドゥーサが破顔する。
「まぁまぁすっかり仲良しさんですねぇ。シュシュお嬢様、笑っちゃうくらい幼い頃のデニス坊ちゃんにそっくりだこと!」
「笑っちゃうとはなんだ。それにデニス坊ちゃんは勘弁してくれ」
「ふふふ……」
なんやかんやと連れて来られ、本当にこれでいいのかと迷う気持ちは正直まだあるがこうなったからには仕方ない。
安全な暮らしを手に入れられたと受け入れて、ウェンディはとことん開き直る事にした。
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