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デニスの頼み
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アパートがある地域に入ってから心無しかデニスの口数が減っているような気がする。
周辺を見回し、眉間にシワを寄せている時もあった。
そしてアパートに着き、建物や部屋の周りなどを見て何やら考え事をしている様子だ。
「……?」
不思議に思いつつもウェンディは鍵を開けて部屋に入る。
玄関入ってすぐに置いてある椅子にシュシュを座らせ、外履き用の靴から柔らかなルームシューズへと履き替えさせた。
靴を履き替えるとシュシュは嬉しそうにソファーの所まで行き、デニスに声を掛けた。
「おじたんちて!ワンワン!」
そう言ってお気に入りの犬のぬいぐるみをデニスに見せる。
「どうぞ?」
ウェンディもデニスに入室を促すと彼は「おじゃまします」と丁寧に言って入ってきた。
こういうところに育ちの良さを感じる。
デニスはこれまた育ちの良さか、あまり室内を不躾に見てはいけないと思っているようだが何かをしきりに気にしているのがわかった。
それでもシュシュが次々に見せる宝物の数々を興味深そうに見ていたので、ウェンディはそのまま気にせず夕食の支度を始めた。
デニスがリクエストしたチキンのクリーム煮。
玉ねぎとマッシュルームを炒め、そこにクリームを投入する。
そこにシーズニングスパイスと塩、隠し味にお砂糖を入れて混ぜ合わせる。
軽く小麦粉を振ってバターで軽く焼き目をつけたチキンをそのクリームソースに入れてしばらく煮込む。
決してぐつぐつさせず弱目の中火で煮るのがコツ。
クリームを煮立てさせ過ぎると分離して滑らかなソースにはならないから。
チキンにしっかり火が通ったら出来上がりだ。
サラダとパンを添えてテーブルに配膳する。
二人は何をしているのかとキッチンから見ると、デニスの膝に座り絵本を読んで貰っているシュシュの姿が目に飛び込んで来た。
母親の膝の上とは違う、父親の大きな体に包まれた安定した様子で寛ぎ、熱心に絵本を読むデニスの声に耳を傾けている。
三年前、別れなければこの光景は日常的なものとして見る事が出来ていたのだろう。
ウェンディはなんだか堪らない気持ちになった。
それを隠すように明るい声を出し二人に呼びかける。
「食事の支度が出来たわよー」
「わーい!」
シュシュは嬉しそうにデニスの膝から降りてテーブルへとやって来た。
でもふと何かを思ったのかシュシュはデニスの元に戻り、
「おじたん、こっち」と言ってデニスの手を引いた。
デニスはシュシュに手を引かれるままそれに従いテーブルへと導かれる。
「旨そうだ……」
テーブルの上の食事を見てデニスが小さく感嘆した。
「ちちんよ?」
シュシュはじっと食事を見つめるデニスに教えてあげた。
チキンを知らないと思ったのだろう。
「そうだな、チキンだ。シュシュちゃんのママのチキンのクリーム煮は絶品だからな」
「もう、いいから座って」
ウェンディはシュシュを椅子に座らせながらデニスに言った。
こんな料理くらいで大袈裟に喜ぶのはやめてほしい。
付き合っていた頃にデニスの好物の食事を作る度に喜んでくれた、そんな事を思い出してしまう。
「いたちましゅ!」
「いただきます」
「どうぞ召し上がれ」
お礼の料理だというのに、こんな簡単な食事をデニスは「旨い、相変わらず本当に旨い」と喜んで食べてくれた。
もう、ホントにやめてほしい……。
食後のお茶を出すと、デニスが意を決したようにウェンディに言った。
「……ウェンディ、俺がこんな事を言う資格がないのも余計なお世話なのも何様のつもりだという事も分かってるんだ、だけど言わせてくれ……すぐにでも別のアパートに引っ越して欲しい」
「突然なに?何を言ってるの?」
「分かってる、分かってるんだ、でもこのエリアは治安が万全ではない。自警団の巡回が後回しにされている地域だ。それにこのアパート自体のセキュリティと荒み方が不安要素しかない、ここは若い母親と娘が住むべき家ではないよ……」
「まぁ、そうよね」
ウェンディもそれは充分に理解していた。
しかし王都に来た時分、ヤコブの賠償の一件で住む場所に贅沢は言えなかった。
アパートがボロくても治安が少しばかり不安な場所でも、王宮と託児所との距離を優先してこのアパートを選んだのだ。
実際、上の階の住人の中年男性に不躾に厭らしい視線をこのところ向けられるようになっていた。
「分かった。私もシュシュを育てるのには向いてないエリアだとは理解しているの。もう少し資金が貯まったら新しく住む場所を探すわ」
「金なら俺が出す。いや出させて欲しい。こんな事でキミがこれまで一人で負ってきた苦労に報いれるなんて思っていないが、せめてこのくらいはさせてくれ。キミとシュシュが安心して暮らせる場所を探して全て手配するから。引っ越し業者も何もかもだ。キミとシュシュはそのまま移って来るだけでいいから」
「ちょっと待って、そこまでして貰う謂れがないわ」
「謂れならある。謂れというか……遺伝子上はシュシュの父親というキミの古い友人として、力になりたいという理由がある。だから頼む、ウェンディ。可及的速やかに安全なアパートに移ってほしい」
「………」
これは……どうするべきか思いあぐねてしまう。
正直有り難い話ではある。
ヤコブに支払っていたお金が帰ってきたとはいえ、それを引っ越し費用に当ててしまうとまた貯金がほとんどない心許ない生活が続いてしまう。
加えて今のアパートよりよい条件の部屋となると確実に家賃も上がるのだ。
月々の家賃まで払うなんて言われたら断固拒否するが、引っ越し費用を援助して貰えるのは正直有り難いと思ってしまった。
それに幼児を連れての転居の大変さは数ヶ月前に身に染みて体験した……。
だけど、やっぱり子どもの存在が分かったからと急にそこまで頼るのはなんだか抵抗がある。
考え込むウェンディを見て、デニスが言った。
「ウェンディ……シュシュの為という事に重きを置いて考えてみないか?あの子の為に何が最良の選択か、一緒に考えさせて欲しい」
「シュシュの……」
ウェンディは娘の方を見た。
シュシュは同じテーブルで画用紙を広げてお絵描きをしている。
「ワンワンねー」
と言いながら犬の絵を楽しそうに描いているシュシュを見て、ウェンディは様々な事を考える。
だけど結局、その日に結論を出す事は出来なかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
またここでのお知らせでごぺんなしゃい゜。
明日の菫ちゃんのお話はお休みです。
申し訳ないです(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)スマヌ…
皆さま、良きGWをお過ごし下さいませ♡
周辺を見回し、眉間にシワを寄せている時もあった。
そしてアパートに着き、建物や部屋の周りなどを見て何やら考え事をしている様子だ。
「……?」
不思議に思いつつもウェンディは鍵を開けて部屋に入る。
玄関入ってすぐに置いてある椅子にシュシュを座らせ、外履き用の靴から柔らかなルームシューズへと履き替えさせた。
靴を履き替えるとシュシュは嬉しそうにソファーの所まで行き、デニスに声を掛けた。
「おじたんちて!ワンワン!」
そう言ってお気に入りの犬のぬいぐるみをデニスに見せる。
「どうぞ?」
ウェンディもデニスに入室を促すと彼は「おじゃまします」と丁寧に言って入ってきた。
こういうところに育ちの良さを感じる。
デニスはこれまた育ちの良さか、あまり室内を不躾に見てはいけないと思っているようだが何かをしきりに気にしているのがわかった。
それでもシュシュが次々に見せる宝物の数々を興味深そうに見ていたので、ウェンディはそのまま気にせず夕食の支度を始めた。
デニスがリクエストしたチキンのクリーム煮。
玉ねぎとマッシュルームを炒め、そこにクリームを投入する。
そこにシーズニングスパイスと塩、隠し味にお砂糖を入れて混ぜ合わせる。
軽く小麦粉を振ってバターで軽く焼き目をつけたチキンをそのクリームソースに入れてしばらく煮込む。
決してぐつぐつさせず弱目の中火で煮るのがコツ。
クリームを煮立てさせ過ぎると分離して滑らかなソースにはならないから。
チキンにしっかり火が通ったら出来上がりだ。
サラダとパンを添えてテーブルに配膳する。
二人は何をしているのかとキッチンから見ると、デニスの膝に座り絵本を読んで貰っているシュシュの姿が目に飛び込んで来た。
母親の膝の上とは違う、父親の大きな体に包まれた安定した様子で寛ぎ、熱心に絵本を読むデニスの声に耳を傾けている。
三年前、別れなければこの光景は日常的なものとして見る事が出来ていたのだろう。
ウェンディはなんだか堪らない気持ちになった。
それを隠すように明るい声を出し二人に呼びかける。
「食事の支度が出来たわよー」
「わーい!」
シュシュは嬉しそうにデニスの膝から降りてテーブルへとやって来た。
でもふと何かを思ったのかシュシュはデニスの元に戻り、
「おじたん、こっち」と言ってデニスの手を引いた。
デニスはシュシュに手を引かれるままそれに従いテーブルへと導かれる。
「旨そうだ……」
テーブルの上の食事を見てデニスが小さく感嘆した。
「ちちんよ?」
シュシュはじっと食事を見つめるデニスに教えてあげた。
チキンを知らないと思ったのだろう。
「そうだな、チキンだ。シュシュちゃんのママのチキンのクリーム煮は絶品だからな」
「もう、いいから座って」
ウェンディはシュシュを椅子に座らせながらデニスに言った。
こんな料理くらいで大袈裟に喜ぶのはやめてほしい。
付き合っていた頃にデニスの好物の食事を作る度に喜んでくれた、そんな事を思い出してしまう。
「いたちましゅ!」
「いただきます」
「どうぞ召し上がれ」
お礼の料理だというのに、こんな簡単な食事をデニスは「旨い、相変わらず本当に旨い」と喜んで食べてくれた。
もう、ホントにやめてほしい……。
食後のお茶を出すと、デニスが意を決したようにウェンディに言った。
「……ウェンディ、俺がこんな事を言う資格がないのも余計なお世話なのも何様のつもりだという事も分かってるんだ、だけど言わせてくれ……すぐにでも別のアパートに引っ越して欲しい」
「突然なに?何を言ってるの?」
「分かってる、分かってるんだ、でもこのエリアは治安が万全ではない。自警団の巡回が後回しにされている地域だ。それにこのアパート自体のセキュリティと荒み方が不安要素しかない、ここは若い母親と娘が住むべき家ではないよ……」
「まぁ、そうよね」
ウェンディもそれは充分に理解していた。
しかし王都に来た時分、ヤコブの賠償の一件で住む場所に贅沢は言えなかった。
アパートがボロくても治安が少しばかり不安な場所でも、王宮と託児所との距離を優先してこのアパートを選んだのだ。
実際、上の階の住人の中年男性に不躾に厭らしい視線をこのところ向けられるようになっていた。
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正直有り難い話ではある。
ヤコブに支払っていたお金が帰ってきたとはいえ、それを引っ越し費用に当ててしまうとまた貯金がほとんどない心許ない生活が続いてしまう。
加えて今のアパートよりよい条件の部屋となると確実に家賃も上がるのだ。
月々の家賃まで払うなんて言われたら断固拒否するが、引っ越し費用を援助して貰えるのは正直有り難いと思ってしまった。
それに幼児を連れての転居の大変さは数ヶ月前に身に染みて体験した……。
だけど、やっぱり子どもの存在が分かったからと急にそこまで頼るのはなんだか抵抗がある。
考え込むウェンディを見て、デニスが言った。
「ウェンディ……シュシュの為という事に重きを置いて考えてみないか?あの子の為に何が最良の選択か、一緒に考えさせて欲しい」
「シュシュの……」
ウェンディは娘の方を見た。
シュシュは同じテーブルで画用紙を広げてお絵描きをしている。
「ワンワンねー」
と言いながら犬の絵を楽しそうに描いているシュシュを見て、ウェンディは様々な事を考える。
だけど結局、その日に結論を出す事は出来なかった。
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またここでのお知らせでごぺんなしゃい゜。
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申し訳ないです(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)スマヌ…
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